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3 犯人と疑われて

 しかしヒューゴは特にリアクションせずに、質問を続けた。

「あなたたちが放課後、教室でおしゃべりしたり図書室へ行ったりすることは、よくあることですか?」

 私はちょっと脱力した。ヒューゴは単純に、死体の第一発見者に話を聞いているだけか? どちらにせよ、気を抜いてはいけない。私は冷静さを保って、口を開いた。

「金曜日はよく残っています。金曜日以外は、あまり残っていません」

 今日は金曜日だ。金曜日は週末だからなのか、学校に残る生徒が多い。イネスも金曜日に残る組だろう。中庭や温室で、絵を描いているのをよく見る。彼は植物を描くのが好きだ。人物は、アイビーしか描いていなかった。

「教室にいたり中庭にいたり、そのときの気分次第です。あ、でも最近は寒いので、中庭には行きません」

 アリアは言った。今は一月中旬の寒い盛りだ。

「アイビーさんは今日、花園で授業を受けました。これは目撃者が多数いるので、確実なことです」

 ヒューゴは話す。私とアリアとエマはうなずいた。私たちも、アイビーが授業を受けているのを見ている。

「そして放課後、死体となってあなたたちに発見されました。つまり授業終了後に、何かがあったのです」

 彼は本当に楽しそうだ。私はげんなりする。私とアリアとエマは、場にふさわしい沈痛な顔をしているのに、彼だけは喫茶店でケーキを食べているときの顔だ。

 私は、放課後にアリバイのない天使が犯人と、頭にたたきこんだ。私とアリアとエマにもアリバイはないが、ほかにもアリバイのない天使がいるはずだ。そいつが犯人だろう。

「アイビーさんが放課後、何をしていたかご存じですか?」

 ヒューゴの質問に、私の顔はこわばった。アイビーはほぼ毎日、放課後、イーサンとデートしていた。イーサンルートに入る前は、イーサンを含め四人の男性と順番にデートしていた。アイビーは不誠実な女性として有名だった。

「知っています。アイビーが放課後、何をやっているか、花園の生徒はみんな分かっています」

 エマが怒って身を乗り出す。

「エマ、やめよう」

 アリアがエマをたしなめる。それから私の方に、心配そうなまなざしを向けた。私はいいよという意味をこめて、うなずく。アリアはヒューゴに話し始めた。

「アイビーは放課後、イーサン殿下と秘密の逢瀬を楽しんでいました。さきほどエマが言ったとおり、花園の生徒なら全員、知っています。うわさによると、アイビーたちは温室にいることが多いようです」

 なるほど、とヒューゴは首を縦に振った。温室は校舎から離れている。なので秘密の逢瀬にぴったりだ。さらに温室には……。

 私は、あれ? と首をかしげた。イーサンはアイビーと一緒にいなかったのか? イーサンはどこで何をしていた? アリアも同じ疑問にぶつかったのだろう。とまどったように、私を見る。

「どうしたのですか?」

 ヒューゴが、分かっているのかいないのか、しれっと聞いてきた。けれど多分、彼は分かっている。私はヒューゴをにらんだ。

「放課後、イーサン殿下はどこにいたのですか?」

 イーサンは、最高学年である第五学年に所属している。アイビーとは教室がちがう。第五学年の教室は二階にあるのだ。なのでふたりは待ち合わせして、校内でデートしていた。ヒューゴは楽しそうに、口の端を上げる。

「今日は授業終了後、すぐに城へ帰られたようです。アイビーさんの顔は、いっさい見ていません。帰城したばかりの殿下を、大勢の天使たちが見ています。イーサン殿下は、アイビーさんの死に関わっていないでしょう」

 私は無言で考える。ヒューゴの中では、イーサンも容疑者になっていたのだろう。だがアリバイがあるから、容疑者から外れた。でも……。いや、それ以前に、

「なぜイーサン殿下は、アイビーと会わなかったのですか?」

 私はたずねた。ヒューゴは簡単に答える。

「昨日、アイビーさんとケンカしたらしいです。彼女と別れるつもりだったと殿下はおっしゃっている。理由は、アイビーさんの男ぐせの悪さです」

 私はしぶい顔をした。イーサンは、それが彼の美点でもあるが、まじめで口うるさい。かっとなって、どなることもある。なので、いかにもアイビーとけんか別れしそうだ。よってイーサンにも、アイビーを殺す動機がある?

 しかしなぜ、アイビーは放課後に残っていたのか。イーサンが帰ったことに気づかず、彼を探していた? それとも別の男性とデートしていた? 私が考えこんでいると、ヒューゴがやはり愉快そうに笑う。

「アイビーさんの死体には、白い羽が数枚ついていました。それを見ましたか?」

 私はぎくりとした。エマが目を丸くする。

「そんなの、あった?」

 アリアは深刻な顔でうなずいた。

「あった。だから事故じゃないと思った」

 ヒューゴは満足げにうなずいた。

「アイビーさんに翼はありません。つまり彼女は、翼のある天使に殺されました。翼のある天使とは、貴族か王族です」

 ヒューゴはじわりじわりと私の首をしめていく。アリアはけげんな顔をした。それから驚いて、さけぶ。

「私たちを犯人と疑っているのですか?」

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