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12 事件解決?

 ヒューゴの発言に、部屋は静まりかえった。

「アイビーさんが踊り場から階段へ落ちたのは、犯人が落とした凶器を拾うためと私は考えています。犯人から刺された後で、階段に落とされた可能性もありますが。どちらにせよ、アイビーさんは凶器を隠しました」

 ヒューゴは続けて言った。私は、アイビーの死体を思い出そうとする。あのとき、あの場に凶器が隠されていた? ヒューゴは私に、あきれた視線を送る。

「シエナ、君は遺体の第一発見者だよね?」

「うん」

 私はうなずいた。ヒューゴはため息をつく。

「あんなに分かりやすくアイビーさんが凶器を隠していたのに、何も気づかなかったのか。君はちょっと鈍いというか、頭が悪い」

「なっ」

 私は怒って、口をぱくぱくさせる。

「ヒューゴ、口が過ぎるぞ」

 イーサンがヒューゴをたしなめる。

「そうですよ。普通の天使は、死体に不慣れですから。でもそのうち先輩の恋人らしく、事件が大好きになりますよ」

 オスカーがフォローする。しかし私の口もとは引きつった。事件が大好きになってたまるか。

「ならば今後に期待するとして、――犯人が誰か、確定しました。犯人がわざと凶器を落とした理由も、それを凶器に選んだ理由も、アイビーさんが凶器を隠した理由も分かりました」

 ヒューゴが静かな調子で告げる。オスカーが目を丸くした。

「凶器は、どこにあるのですか? 花園のどこに隠されているのですか?」

「凶器の保管場所は、シエナに教えた。なんせ恋人だから」

 ヒューゴがしれっと答える。オスカーは、教えてほしいと私を見た。けれど私は首を振る。凶器の場所なんて教わっていない。

「オスカー、君は半年後には第三隊だ。自分で推理してくれ」

 ヒューゴがオスカーに言う。オスカーは不満そうだ。

「凶器はどうでもいい。誰がアイビーを殺した? 彼女は殺されるほどに、悪いことはしていなかった」

 イーサンは怒って、ヒューゴに詰め寄る。ヒューゴはまじめな表情で、イーサンを指さした。犯人はあなたです、と。場が凍りつく。私は息をのんで、イーサンから一歩離れた。オスカーも信じられないと、顔をこわばらせる。しかしヒューゴは楽しそうに笑った。

「冗談です。イーサン殿下を疑ったときもありましたが、あなたが犯人でなくてよかったです」

 瞬間、イーサンが顔を真っ赤にして怒り狂った。

「やっていい冗談といけない冗談があるだろう!?」

 イーサンがヒューゴの首をしめる。本気で殺す気らしく、イーサンの背中から翼が出現する。必死に抵抗するヒューゴの背中からも、翼が出る。白い羽が、うっとうしいぐらいに舞う。

「ヒューゴ先輩、一度くらい殺された方がいいです」

 オスカーはあきれている。私もイーサンを止める気がおきない。乙女ゲームの中では、ロマンチックなラブシーンで白い羽が舞っていたのに。私は前世を思い出して、遠い目をする。しばらくすると、イーサンの気はおさまったらしく、ヒューゴを解放した。

 ヒューゴは背中をまるめて、せきこんでいる。しかし顔がうれしそうだ。これが絞殺されるときの気持ちとつぶやき、にやにやと笑っている。彼は真正の変態だ。それから、私とオスカーに向かって、

「僕が殺されたら、君たちで事件の捜査をしてくれ」

「気が進まないです」

 と、オスカー。

「嫌よ。そもそも……」

 私は言ってから、言葉を切った。考えこんだ私を、オスカーがふしぎそうに見る。イーサンが犯人の場合、誰も彼に罰を与えることができない。なぜならイーサンは王子だからだ。

 この国では、小さな犯罪ならば、法律によって罰は決まっている。大きな犯罪ならば、裁判によって罰が決まる。裁判は、国王をはじめとした王族がしきっている。つまり、国王たちの私情が入る。

 だから王族は犯罪をおかしても、ほとんど処罰されない。権力者たちにとって、甘いシステムになっているのだ。私は不安になって、ヒューゴを見た。彼はただ笑っている。

「シエナ。僕は今から国王陛下のもとへ行き、事件の真相を話す。今回、判明した犯罪は、アイビーさんの殺害だけではない。当分、僕たち第三隊はいそがしいだろう」

 アイビー殺害以外の犯罪? 私には見当がつかなかった。オスカーも分からないらしく、けげんそうな顔をしている。ヒューゴはイーサンに問いかける。

「殿下も同席しますか?」

「もちろん」

 イーサンは、まだ不機嫌だったが答えた。オスカーは、顔に同席したいと書いていた。私も可能ならば、一緒に行きたい。けれどヒューゴは、私とオスカーに向かって笑った。

「花園は、一週間後くらいには再開するだろう。君たちの日常は戻る。――あぁ、シエナ。君と一緒にいるのは楽しかったよ」

 ヒューゴは私に背中を向けて、立ち去った。藍色のマントに、騎士団の紋章をほこらしげに背負っている。イーサンも続いて、部屋から出ていく。私の非日常、――ちょっとした冒険は終わったのだ。

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