汚い私を汚さないで
風俗嬢を辞めた。理由は大学にいくお金が溜まったから、叔母が支援してくれることになったから。1浪でそこらの馬鹿校で、それでも保育園の先生になってピアノを弾いて、毎日笑えるような仕事をするのに必要なものが手に入る学校に行く。
恋をはじめた。大学に入学してから、2ヵ月したくらいだ。爽やかな人だった、保育士になりたい先輩だった。恋をするために大学に入学したわけじゃない。わけじゃないけど、したかった。
先輩と付き合うことになった、恋をしてからはじめての夏の、その終わりだった。張り紙を見てふと気になって、バーベキューに参加したのがきっかけだった。叔母が支援してくれるとはいえ、バイトも必要だったからそれまでそういったイベントには参加していなかった。声をかけたかった、と彼は言った。風俗嬢になった時に、整形して作った二重のラインをもっと濃く書くようになった。
先輩と初めてセックスをした。恋人とするのは初めてだったから「初めてです」と答えた。純情な私でいたかった。純情な私が居た。乳輪が人よりも大きいことが、コンプレックスになった。
大学一年生を、一回も欠席せず終えた。成績も悪くなかった。人並みに勉強した。人並みになりたかった。
叔母が亡くなった。突然、もらえる分のお金が減った。バイトのシフトを増やした。掛け持ちを始めた。給料のいい、あの仕事を思い出したけど先輩の顔が浮かんで、忘れることにした。
先輩とデートをする時間が減った。仕方ないことだった、先輩は笑って受け止めてくれた。
先輩が去年の10月から浮気していたことを人伝てに聞いた。止め処ない怒りがこみ上げた。私を本気で愛してくれたのはたった1ヵ月ほどのことだったのかと、声を荒げた。みっともなく、無礼すぎる客をつかみあげたあの日のように、先輩の胸倉を掴み上げた。情けなくなく泣いた。本気の恋だった。愛が生まれる行為でお金を稼いでいた癖をして、それでも、許せなかった。先輩との唯一の思い出のおそろいのピアスを無理やりちぎり取った。変な声が出るほど痛かった。その痛みより胸の痛みが酷かった。あまりに酷かった。好きだった。本当に好きだった。先輩は、別れるから殴ってこないでと言った。あまりに弱く見えた。弱っていたのは私のほうだった。先輩は面倒そうな顔をしていた。先輩の表情は、何だか見覚えがあって悔しかった。
後から、先輩は私が風俗嬢であったことを私が浮気を知るその1週間前に知ったらしい。どこからか、知られてしまったらしい。いつかは打ち明けることができたらと思っていたのに、騙されたと言っていたらしい。
それでも私は先輩に、心だけは汚さないで欲しかった。
オリジナルサイトにUPしたものをこちらにもと思ってUPしました。
刺さったらちょっと嬉しいです。できれば、こんなしんどい恋は私はしたくないです。
(もしよければ下のほうのもお願いします!)