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ガラガラと音を立ててやって来る。

鬼畜な皇帝の元に嫁ぐヒロインが、鬼畜な皇帝を懐柔して国を立て直しちゃう話……を書きたかった。

 がらがらがらがらと音を立て、金や銀で派手に装飾された白色の馬車がムスクルス帝国とカナカ公国の国境付近にある村の横を通り過ぎようとしている。

 その馬車の周囲を数人の屈強な男たちが固めており、それらには劣るも立派な戦士風の男共が前後を守っている。予告もなく現れた戦士たちのパレードに村人たちはなんだなんだと顔を出す。

 赤褐色の肌に、鎧の上からでも分かる隆々 とした筋肉、そして頭の一本角はオーガ族の特徴であり、彼等がムスクルス帝国の軍に所属している者たちである事を立派な装備からも予想できた。

 彼等はある重要な人物を、人族が治めるカナカ公国から迎える為に皇帝自ら指名した歴戦の猛者達である。

 カナカの首都メトラトキオからムスクルスの首都フレイムタンまで三日かかる。この馬車は遠路はるばる国境を越えてムスクルスへとやってきたのだ。

 村人たちの視線に気付いた御者台のオーガがちらりと目をやった。

 彼は村人たちを見下すような一瞥をくれるとフンと鼻で嗤い、前に向き直った。それから何事も無かったかのように馬車の安全に気を配りながら手綱を握る。

 豪華絢爛な馬車、一体どんな貴族がのって居るのか? 村人たちはそんな興味でこの行進を見ているのではなかった。

 一体どれだけの金がかかっているのだろう? 血反吐を吐きながら毎月納めている税金がこんな馬車に使われているのかという疑惑の目だ。


 くたびれた麻の服を身に纏い、虚ろな目をしている村人たちは皆痩せ細っており満足な生活が出来ていないのではないかと思うほど。

 実際、彼らの奥に広がる村の風景はまた寂れていた。

 家屋や建物は老朽化が進み、修繕補修が間に合っていない所が多く見える。

 彼らは何度も支援を頼む文を送ったが、修繕の為に回ってくる資材はたった数枚の板切れ。

 季節は春に入った頃、今年こそ冬は越せないかもしれないと村人たちは皆揃って諦観した。まだ次の冬まで十月以上あるというのに。

 飢えで体力も無い彼らに充分に食っていける程の畑を耕せるはずもなく、人が飢えていとなれば牛や鶏などの家畜を飼う余裕もない。


 なぜ、支援が来ないのか?

 それはムスクルスの上流階級に属する者たちは下々に対する慈しみがないのである。

 貴族たちは皆、自分の懐具合を気にするばかり。だから彼らは自分が統治する土地に住む者たちへ重税を課す。自らを潤わせるために。

 貴族たちが圧政を強いるのは、国が絶対王政にて成り立っているから。つまり、全ては皇帝が原因……


 あの馬車を作る金があれば、自分たちの生活はどれほど豊かに変わるだろう。

 彼らが馬車に向ける視線はいつしか嫌悪の混じったものに変わった。


 がたがたがたがたと音を立て、馬車は進む。村の光景に目もくれず。

 だが、通り過ぎる村の風景を馬車の小窓から黒水晶のような瞳が見ていた。



 この時はまだ誰も知らないだろう。

 その瞳の持ち主が国の根幹を変える重要人物になることを。



 時は遡り、冬の終わりが近づく一ヶ月前のこと。

 カナカ公国より使者がやって来た。

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