偽りの自分
思いつきSSです。
良ければ、読んでください!
いつからだろうか。
自分が、自分でないように感じ始めたのは。
全ての行動、言動が、"誰か"に決められそれに従うかの様にこなしている、自分がそこにはいた。
思い当たるのはあの時の自分。
ーーそれは、中学に上がった頃の自分。
小学校を卒業し、中学校に上がった最初の年越し。
自分はいつもの様に自堕落な生活を送る中、一つの考えに至った。ーー自分には無い、自分を演じ一年を過ごすこと。
これまでも相手の顔色ばかり気にし、流され静かに生きてきた自分に嫌気がさし、変わりたいと願っていた。
休み明け。登校初日。
中二なった俺は始めて仮面を被り、自分に枷を付ける。優しさという枷を。
これが最初の偽り。
自分を偽り、新たな自分の誕生とした日でもある。
優しさなんてのは痛みを知っている、自分にとって非常に簡単だった。いつもの様に相手の顔色を伺い、空気を読む。気遣いも忘れてわならない。
そんな事を続けていると、自然に、違和感なく優しさを振りまく事が出来る様になっていった。ーーでも、まだ足りない。
「もっと、自分を変えなければ」
自部屋の片隅。ベッドの上で膝を抱え、体育座りをしながら呟く。
自分にはまだ足りない大事なものがある。
明るさだ。
只、優しいだけじゃダメなんだ。
「積極的にならなきゃ」
次第に俺は偽る事に取り憑かれ、毎年そんな生活をするうちに"本当の自分"を見失うはめになった。
相手との対話。
喋り掛けられ、笑顔を返す自分。
(あぁ。まただ……。)
何をしても気持ちが動かず、表面だけが全てを表現するだけ。
こんな事を誰かに打ち明けたとしても、誰も分かってはくれないのだろうと、それだけは自分の中でも分かっていた。
ーーそんな俺にも転機は訪れた。
夜風に当たろうと月光輝く薄暗い夜道を歩き、いつもの公園へと足を運んで行く。
目的地へと辿り着いた俺は一息つこうと、近場のベンチに向かった。ーーそれが、事の始まり。
何かにつまずいた俺は転げ、倒れてしまった。
地面についたはずの、両手は感触が何処か可笑しく、普通ならばザラザラとした硬い質感の筈だがぬめりとし、何処か生暖かい。
「え?」
余りの驚きだった。
重心を起こすとその場で両手についた、ぬめる生暖かいものを確認した。正体は赤黒い血液がついていたのだ。
もしやと、目線を上げ振り返る。
想像通りだった。自分が躓いたのは遺体。安らかに眠っているかの様に横たわり、目を瞑る。胸の前に添えられた薔薇の花を一本両手で掴んみ、心臓を一突きされた女性の遺体だったのだ。
初めは驚きはしたが、今では何故か視線を逸らす事が出来ず、釘付け状態。
「ーー何て美しい、女性なんだ」
雨でも無いのに、血が染み付き黒くなった透明なカッパを羽織り、きちんとボタンをしめる。一本のナイフを片手に握る、"彼"は今日も獲物を探す。
あの日から何年かの月日が流れ、今でもあの遺体の姿が鮮明に浮かぶ。
自分を知り、解放出来た俺は夜の町を彷徨う。
美しき女性を"作る"為に……。
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