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第十二話

 リシータを荷物番に残し、四人は出発した。

 もっていくのは少量の食料と、自分たちの武器だけだ。木々の生い茂る森の中に入って行き、小高くなっていく道を歩く。

 人工的に切り分けられた道から逸れ、四人は草を分けながら進んだ。先頭はロイ。最後尾はノルで、その間にアシドとカルラがいる。カルラは一応短剣を持っていたが、まったく戦力として期待されてはいなかった。

 やがて先頭を歩くロイが立ち止まり、一行から少し離れた所で何かを拾った。周辺を気にして、安全だと確信すると、ノルのいる最後尾まで戻ってきた。

「これを」

 カルラとアシドはちらっとしか見えなかったが、ノルだけはそれを手に取り、じっくりと観察した。

 それは、血の着いた棍棒だった。ゴブリンは棍棒を使うことがよくある。

「それに、肉片も。乾いてましたけどね」

「そう……。少し嫌な展開ね」

 ノルは口元に手をあて、一人で何事か考え始めた。

 その間、ロイは草木の間から何か見えないかと周辺を見回したが、草木が多いためあまりにも視界が狭く、これといったものが見えなかった。

「他のソルジャーが来たんじゃ?」

 アシドの問いに、ノルは首を横に振った。

「同じ依頼地のものはなかったはずよ。もしかしたら、腕試しでゴブリンを退治した可能性もあるけど」

 ノルが答える。

 アシドも考え出した。可能性は多くあったが、決定的なものはない。

(あれ?)

 カルラがたまたま自分の背後を振り返った際、何かを見つけた。

 ロイからは自分が障害になって、それが見えていないことが窺える。彼女はゆっくりと草を掻き分け、そちらに向かった。草に隠れてよくは見えなかったが、それは横幅直径一メートルほどの、洞穴だった。

 太陽の光が入っていないため、中は見えなかった。斜めに下っているので、もしかしたら滑り落ちるかもしれない。一応、細い枝を掴み、中を覗き見ようとした瞬間、脚が何かに引っかかった。

 いや、これは糸だ。粘着性のある糸が、洞穴内の表面に、びっしりと張り付いているのだ。

「ひっ……!」

 息を呑む悲鳴。後戻りするにも脚が地面を離れない。糸の振動を察したのか、奥から赤い複数の瞳が近づいてきた。それは一瞬で少女の身体を洞穴の中へと引きずり込んだ。掴んでいた枝は何の役にも立たない。

「きゃああああああっ!」

 反響した悲鳴が木霊し、外にいる三人にまで聞こえた。

「カルラさん!」

 アシドが悲鳴の聞こえた場所まで走った。そして洞穴を見つけると、剣を抜いて一気に肉薄する。穴は暗かったがお構いなしだ。何よりもカルラが心配だった。

「アシド、止まりなさい!」

 冷静さを失ったアシドに対し、ノルの怒声が響き渡った。

 アシドはその声が聞こえたが、洞穴に片足を突っ込んだ。その瞬間、靴の裏に粘着性のある糸がこびり付く。

 彼は自分の失態を理解した。

「しまっ……!」

 冷静さを取り戻したがもう遅い。アシドは奥から突然現れた糸に首と右腕を巻き取られ、抵抗できなくなった。やがて彼も複数の赤い瞳に洞穴の奥に引きずりこまれ、辺りは静かになった。

 ノルがやって来る直前に、アシドの姿は消えた。

「……ノル先輩」

「まだ二人は無事よ。でも、時間の問題ね」

 追いついたロイに、彼女は淡々と告げる。

「あれは土蜘蛛。土気色した大きな蜘蛛で、洞窟や古い家屋に住み着いて罠を張り、入ってきた動物を捕食するの。時々外にも出るけど、それは食料がないときの話。……攻めるにしても、こっちは半分人質を取られているわけだから厄介ね。土蜘蛛は餌を確保しておく性質があるから、すぐには二人を殺さないわ」

「……どれくらいで殺されます?」

「さあ? 土蜘蛛に訊いてみて。……戻るわよ」

「戻る? 正気ですか!?」

 仲間を見捨てると言ってはいないが、それに近いことをしているとロイは感じた。今すぐ救出するべきだと、彼は言いたかった。

 だが、経験も実力も、ランクも判断力もノルが勝っているのは、短い付き合いだが彼にも理解できた。しかし納得できない。仲間が危険な目に遭っているのに、ノルは表情をほとんど変えていないのだ。

「熱くならないで。冷静にならないと、判断を誤るわ」

「先輩は冷静すぎです」

「そうね。でも、こう見えて焦っているのよ?」

 まったくそうは見えない。だが二人で言い争っても仕方がないのは確かだ。ロイは冷静さを取り戻し、ノルに尋ねる。

「もちろん助けるんですよね?」

「当然よ。ただ、このまま巣に踏み込んだら捕まるわね。やつを穴から出すか、二人を穴から出すかしないと……」

「手はあります?」

「釣りをするわ。村人に羊か牛か用意してもらって、巣穴に放り込む。土蜘蛛が現れたら、私が……」

「俺にやらせてください。さっきの盗賊じゃ、俺の腕を発揮するには不十分でしたから」

 自信に満ちた口調だった。

 ノルが自分で仕留めると告げそうになったのは、まだ腕を信用されていないからだと、ロイは思っていた。ここで土蜘蛛を倒せれば、前衛を任せられるだけの力があることを見せ付ければ、もっと使ってもらえるはずだ。

 ノルも彼の考えを察したのか、ほとんど思案する間もなく、

「いいわ。外に土蜘蛛を出したら、あなたが倒しなさい」


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