第十一話
村に到着した一行は、村長の話を聞きに家まで向かうことになった。
本当に小さな村で、百人……いや、五十人もいないのではないか、と思わせるようなみすぼらしい物だった。一軒一軒の家も小さく、よく言えば風通しがよさそうだった。
ただ、村人は生き生きとした表情をしていた。自給自足の生活をしているため、お互いに協力し合い、都会の人間に比べて人を信じるということに対して抵抗がないようだ。
ノルは、この仕事の報酬が格安であるにもかかわらず受けていた。
「リシータは宿を取ってから来て。ロイは荷物番兼休憩。ここまでの運転、ご苦労様」
木陰に荷物を下ろし、ノルはカルラとアシドをつれて村長の家に向かった。
村長の家も他の家々と同じく地味で小さく、威厳は感じられない。
ノルは扉をノックし、返事があるとすぐに入った。
「依頼を受けたソルジャースクールの者です」
「おお、これはわざわざ。どうぞどうぞ」
村長らしい老人は、狭い客間に三人を通した。椅子がないため、三人は勧められた座布団の上に座り、村長がお茶を持ってくるのを見ていた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
三人は各々礼を述べ、お茶をすする。一息つくと、ノルはふっと微笑み、村長に向けて口を開いた。
「早速ですが、依頼の件で……」
「その件ですが、実はここ最近現れないのです」
「え?」
「ゴブリンが現れないんです。いつもはほぼ毎日畑を荒らしたりしていたのですが、急にいなくなったんです」
ノルは口元に指をあて、考えるような仕草をした。
それに気づくことなく、村長は笑い声を上げると、
「だから、内容を変更しても良いでしょうか? ゴブリンが周辺にいるかどうか探っていただき、もしいれば討伐という形で」
「……構いません」
いなければカルラが参加できない。ノルはどうすればいいかを考えたが、ここまできてしまって何もしないで帰るのは、悪い印象を与えるだろう。
三人は立ち上がり、家から出ることにした。
だが話が終わった瞬間、リシータがやってきた。
「およ? 話、終わっちゃった?」
「……ゴブリンが消えたんですって。だから、実戦はないかも」
リシータとノルが並んで歩く。後ろでは、カルラとアシドが笑いあっていた。
リシータの案内で宿に向かう。リシータとノルの表情は暗い。標的であるゴブリンがいないということは、本来なら喜ばしいことだが、痛い事件だった。
カルラが、実戦に参加できない。
「カルラさんの活躍、見たかったなあ」
「そうかなぁ?」
そのカルラは、自分に一番良くしてくれるアシドと談笑し、楽な仕事を喜んで受け入れていた。ノルが自分のために用意してくれた舞台だとは、考えてもいないだろう。