表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

プロローグ

中二病ピーク時に比べると、私の能力は明らかに落ちている…読み返して恥ずかしいと思ってしまうなんて…!

 木々が揺れ、太陽が雲に覆われると、両者の間で殺気がぶつかり合い、中央に飛んできた木の葉が砕け散った。スクールの敷地内で本気の決闘をすれば、処罰を受けるのは確実だ。並々ならぬ気配に気づいた教師は、彼らの姿を見て立ち尽くし、ギャラリーより一歩出る以上の行動は起こせなかった。

 誰もが止められないことを感じていた。

 誰もがその光景を眼にしようとしていた。

 驚異的な強さを誇る唯我独尊の新入生と、彼の入った特別選抜Dチームのサブリーダーが、お互いの意地をかけて戦うことを望んだ。

 新入生は、両腰のショートソードをゆっくりと抜いた。紐で括って背中に負った、身長以上の長さを持つトゥハンドソード(両手剣)にはまったく手を触れない。口元に浮かんだ笑みは、自信の表れだった。彼の中で負けるという可能性は、まったく頭にない。

 対して、サブリーダーの女子生徒は、色白で美しい能面のような顔をした少女だった。肩より少し長めに切られた髪が、追い風に煽られて顔の前に出る。彼女は背後にそれを流し、少年を見る。

 どちらが先に動くのか、まったく見当がつかなかった。両者ともしばらくそうしていたが、やがて少女が動き出した。駆け出すのかと思えば、普通に歩き出し、距離を詰めていく。

 少年は一瞬、彼女から視線をそらした。そして眼を閉じ、すぐに開いて両方の剣で地面を抉りながら急速に接近する。土埃が剣先から驚くほど迸り、少女との距離を詰めた。だが、彼女はまるで動じた素振りを見せず、両手を胸の前で構える。

 と、素手だったはずの少女の手に、突然刀が出現した。振り下ろされる刃は、二本の剣で簡単に受け止められた。しかし、彼女の攻撃は終わっていない。驚くことに、刃が直角に曲がり、少年のほう目掛けて伸びたのだ。

 横に身体を反らし、致命傷を避ける。左脇の肉が抉れたが、少年は痛みを感じなかったかのように無反応だった。さらに回避の行動だけで彼は終わらない。反らした動きを引継いで回転し、左の剣を少女に叩きつける。すると今度は、彼女の刀が一瞬にして盾に変化した。

 少年の瞳が揺れる。

 驚きの表情こそ浮かべたが、それに圧倒されるわけではなかった。少年は左腕と交差させるように右手の剣を突いた。その先には、感情の乏しい美しい顔がある。

 寸前で顔をそらし、同時に盾に力を加えて距離を離した少女は、剣先を掠めた頬の血を拭った。指を口に運び、唇の先で軽く舐める。相変わらず能面のような顔だが、少年を見る眼には戸惑いの感情が芽生えていた。自分が彼の力量を計り違えたことを、今やっと知ったのだ。

 それは、少年の方も同じである。

「……面白い能力だ」

 そういいつつ、脇の痛みが彼の考えを改めた。相手が思った以上に強いことがわかった。ここは戦闘のスペシャリスト、ソルジャーになるためのスクールなのに、彼はその気がなかった。ただ何となく、そういう場に自分を置いておきたかっただけだった。実力以上の自信を持つ人間を叩きのめし、自分の強さを知りたかった。だが今、彼の目の前の少女は、間違いなく自分が目標にするに値する存在だと感じ始めた。ソルジャーになる云々は問題ではなく、人生を歩んでいくための。

 だが、まだ足りない。両者とも本気を出していないのは、お互いにわかっていた。

 ダメージは少年のほうが上だった。だが、余力は上回っている。充分に勝算はある。少年は口元の笑みを強め、肉薄する。少女は盾を再び刀に変えた。衝突の瞬間、彼女の眼に少年の腕が四本に見えた。二本はショートソードを握り、両側面から同時に斬りつけてくる。もう二本は、いつの間に抜いたのか、背負っていたトゥハンドソードだ。これは上から振り下ろすようにして構えている。

 少女は迷った。刀を形成している魔力を盾に変換し、三方向からの攻撃を防ぐべきか、相打ちを狙って突き進むべきか。一瞬、防御する考えが浮かんだ。だがしかし、大きな盾を形成すればするほど一箇所の魔力の密度が薄くなり、脆くなる。振り下ろされるトゥハンドソードの一撃が完全に防げる自信がなかった。

 最悪でも相打ちになれる自信はある。彼女は突き進むことを選んだ。

 少女は思わず笑みを浮かべた。ここまで必死に頭を働かせ、誰かを殺そうとしたのは、久しぶりだった。不意に、相対する少年と目が合う。彼も笑みを浮かべ、この状況を少なからず楽しんでいるようだった。

 もう、どうしてこうなったのかさえ、どうでもいいことだった。

 恨みや憎しみといった感情はまったくなく、ただ自分が生きるために相手が死ぬのは仕方がない、という考えを持っていた。殺さなければ殺される。退いたら負けるということが、すでにわかっていた。

 刃が交差した瞬間、二人は獣のように吼える。

 追い風によって前に押し出された髪が、木の葉とともに舞った。

 少女の刀は、少年の左肩を貫いていた。本当は心臓を狙っていたのだが、なぜか狙いが逸れている。しかも、彼が持っていたはずのトゥハンドソードは消滅しているし、腕は二本のままだ。少女は自分の傷の痛みを感じながら、冷静にそんなことを考えている自分がおかしく、滅多にない楽しそうな笑みを浮かべた。

 そして少年の刃は、彼女の左肩から胸にかけて大きく切り裂いていた。幸い急所は逸れているが、傷は深く、少年よりも重傷だった。もう片方……左手の剣は地面に落ちている。おそらく、先に彼女の刃が肩を射抜いたからだろう。

 少女の刀が消滅する。すると体重を支えるものがなくなったからか、少年の身体が前に倒れる。刀が消滅した瞬間に意識を失ったようだ。それを抱きとめた少女は、自分の傷の痛みに一瞬表情を歪ませながら、膝をつき、体勢を楽にした。

 短かったのか、長かったのか。

 この戦いを見ていた人間は、それぞれ意見が違ったが、一つだけ誰もが認めることがあった。

 二人は、お互いを本気で殺そうとし、その結果、両者が生き残った。



以前投稿したものをちょこっと修正しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ