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六話『人々の思い』

 ルークがビデオルームでもちみと出会ってから数時間がたった。部屋の時計は既に四時を指している。


 その間ルークはもちみとサッカーについての雑談を繰り広げながら、ブラウン管の中で再生されている試合を見続けていた。


「昔は代理戦争なんかにもなっていたみたいだけどね~」

「競技自体が戦争の変わりになることなど信じがたい……」

「昔は、だよ。それに日本のチームでやってる身からしたら、本当に遠い世界の話」


 ほんの数日前は本当の戦争に参加していただけに、ルークはもちみの発言に耳を疑った。力で勝る者こそが正義という考え方に影響されて、という訳ではないが競技というものは富国強兵

 の為に存在しており、結局は殺し合いこそがその行き着く先である、とルークは考えていた。

 だからこそ、代理戦争という概念は信じる事が出来なかった。


「なぜ、そんなやり方が通用していたんだ?」

「一々戦争していたら、兵隊さんとか物とかも減ってくばっかだし、損する事が多いからじゃないのかなぁ」

「そもそも、代理戦争など敗者は納得しないだろうが」

「うーん、そこらへんはわからんけど、サッカーは国や地域同士の戦いが多いから、自分の住んでる所のチームに自分の想いを託すって気持ちはわからなくもないんだよねぇ」


 もちみは気だるげな声音を変える事無く、ルークに自分の想った事をそのまま話す。目線がブラウン管の群から離れることは無い。


「民が軍に期待を寄せるのと結局は同じだな」

「平和な世界だとさ、お互い武器を取ってたたかうぞー、なんてこと滅多に起こらないからさ、直接的な優劣が着く事なんてないんだよ」


 もちみはそう言ったあと、クビを振った。

 唇を舌で潤して、言葉を続ける。


「ううん、ついちゃだめなんだよ~。平和が一番だもん。

 でも、人の気持ちはちがうみたいで、どっかしら自分達がすごいって証明してやりたい気持ちがあるんだろうね。

 だから自分たちの代表や肩入れするチームなんてものがある事は好都合で合理的なんだ。他人事じゃないんだよ。代理戦争っていわれているのはそういう意味で色んな所と戦えたからじゃないかな」


 もちみの口調が徐々に堅くなっていく。そんな自分を宥めようとしながらも、今、自分がブラウン管を通して見ているものへの情熱は抑えきれない。


「……俺が予想していたよりも、責任は重いらしいな」

「んーん、ここまで全部わたし独断の妄想だし。結局はスポーツだもん。仲良くするためにあるんだよ。秀一郎は気にしないで、だいじょぶだいじょぶ」


 ルークの強張った顔を見て、もちみは微笑を浮かべると、元の緩い口調でルークを慰めようとしたが。


「その妄想は、おまえの考えでもあるのか?」

「ん、まあね」


 もちみはルークの予想外の言葉に少し目を見開く。

 ブラウン管から目を逸したのは何時間ぶりだろうか。

 ルークの顔がいつもよりも勇ましく見える。


「ならば俺はおまえの情熱に勝利という形で応えよう。おまえは俺の采配にただ従うだけでいい。それだけで最上の快感を与えてやる。まぁ、おまえがこのチームに対して、自分の全てを捧げるのならばの話だがな」


「かっこよくなっちゃって……何のアニメの影響なのかな~?」


 もちみは、からかうようにそう言った。

 しかし、少しにやけた口元にはルークにかけられた言葉への期待も含まれていた。


「今日の練習で試してみるか?」

「自信、あるみたいだね~」

「まぁな、二試合ほど俯瞰で見て、このチームに用いるべき戦術がいくつか思いついた」

「ふ~ん、秀一郎がそんな事言うなんて面白そうじゃん。いいよ、従ってあげる」


 もちみはそう言ってブラウン管の電源を消す。


「お、おまえ、なにをッ」


 ルークの背後から布のこすれる音がした。

 もちみがパーカーを脱ぐ音だ。

 これからもちみが何をするのかルークは気になりながらも後ろを振り返る事が出来ない。

 そんなルークの心境を無視してもちみは言った。


「秀一郎も早く寝なきゃダメだよー。それじゃぁ、おやすみ~」

「…………」


 ビデオルームにもちみの寝息の音が加わったのは、そのすぐ後だった。その無防備さにルークは溜息を付くと、今日の練習について考えることにした。

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