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魔晶使いと囚われの少女  作者: 練-ren-
3/5

 

「見つけたぞ!!」

 

 部屋の隅に隠れてるあたしを見つけた信者は、全身全霊をかけて飛び掛って行った。

 

 ごん。

 

 盛大な音を立てて壁にぶつかると、その信者はずるずると崩れ落ちた。

 

「出番無かったね」

「楽でいい」

 

 廊下にいた信者を部屋におびき寄せて、あたしの姿をみせる【幻覚】の石をつかう。信者があたしの幻に気付き、動揺した所をレニが倒す。

 ……はずだった。自滅したけど。

 レニが近づく。完全に伸びているのを確認すると、縛ったりせずに先を急ぐ。

 もうすでに、あたしが逃げ出した事は気付かれていた。縛ってる時間が惜しい。

 一方、レニの話だともう少しで出口に行けるとの事だった。

 

「あと少しで出られるんだよね?」

 

 さすがに悠長に歩いてる気分では無かった。少し早歩きになりながらレニに話す。

 

「問題はこれからだがな」

 

 また、そういう事を……。

 

 プロに油断は禁物だと思うけど、少しぐらい明るい話題に乗ってきてもいいんじゃないかな。

 

「問題って何が……」

「分からないのか?」

「なによっ。どーせあたしは鶏ガラ、鳥頭ですよ」

「何の話だ……止まれ」

 

 レニは手を挙げて話を止めると壁際に寄る。

 

 あたしもなんていうか、その、寄り添うような格好になる。

 

 レニはお約束で【透明】と【幻覚】の石を取ると【幻覚】を通路の曲がり角に投げ、【透明】を足元に落とした。

 しばらくすると、通路の置くから信者が三人やって来た。

 

「!? いたぞ!!」

「待てっ、おとなしく贄になれっ」

 

 イヤです。

 

 心の中で舌を出すあたしの前を、三人の信者は鬼のような形相で走り抜ける。

 

「いないぞっ!?」

「消えたっ!?」

「ええいっ、向こうだっ!!」

 

 レニが【幻覚】の石を投げた通路の向こうから声がする。【幻覚】で曲がり角から逃げ出す私の姿を見せたのだ。

 

「行くぞ」

「あ、待ってよ。さっきの答えは?」

「簡単な事だ。レスティアを逃がしたくない連中は、出口を固めている」

「で?」

「これまでは今のように、向こうが動いてる事の方が多かった。だが、今度はこちらが動く側になる。今までほど、不意打ちや誤魔化しが効かない」

「そぉ? まとめてどっかーんってやっちゃえば……って。あれ? レニって攻撃系の魔法持ってたっけ?」

 

 自分で言ってて気が付いた。

 レニは軽くクビを振ると、きっぱりと言い切った。

 

「ない」

 

 潔いというか、なんと言うか……。

 

 あっさりここまで来たけれど、出口を固めていたとは思わなかった。いや、むしろ出口を固める方に人を裂いているから、あっさり来られたのかもしれない。

 

「出口はいくつかあるから、その中から警戒の薄い所を狙う。これまでに会った信者の数からすると、まだまだ結構いるかもしれないが」

「そっか、じゃあ最後は強行突破する感じになるかもなんだ……ちょうだい」

「何を?」

 

 あたしがいきなり催促したので、意味が分からなかったらしい。

 

 何よ、そっちだってニブイじゃない。

 

 困惑の表情を浮かべるレニに、説明する。

 

「魔晶石。強行突破するんなら、あたしも使えた方がいいじゃない」

 

 自分で言っておいてなんだけど、良いアイデアだと思った。むしろ何故これまでに思いつかなかったのか。

 だけどレニは首を横に振った。

 

「駄目だ」

「何で? あ、そっか、レニにしか使えないとか」

「そうじゃないが……とにかく駄目だ」

 

 レニ?

 

 この時あたしは、レニの表情がとても硬く、苦いものになっている事に気付いた。

 

「そっか……分かった。じゃあ、あたしは頑張って走る事にする」

 

 あたしは駄々をこねずに返事を返した。

 事は命を左右する内容だけど、これ以上レニを困らせるのは辛かった。

 沈んだ空気を振り払う為に、あたしは少し元気な声で言った。

 

「さあっ! あと、ちょっと!」

「声が大きい」

 レニの突っ込みが入る。

 前の雰囲気に戻った気がする。

 あたしはちょっぴり嬉しかった。

 

 

   ◇

 

 

「ここが一番、楽じゃない?」

 

 最深部から歩き続け、いくつかの出口として使えそうな場所を見て回ったが、どうやら今いる場所が一番楽そうに見えた。

 食料を貯蔵する為の倉庫のようで、あたりはいくつも木箱が置いてある。あたし達が隠れている木箱は果物が入っているのだろう。中から果物の良い香りがした。

 今、あたし達の視線の先には、その食料などの搬入口と思われる扉があるけれど、そこには六人の信者の姿が見える。

 ぱっと見た感じだと、3人がどこから持ってきたのか、角材を構えていて、他は手ぶら。

 六人相手が楽かどうかは分からないけれど、他は必ず二桁の信者がいたので、まだマシなはず。

 一方レニは警戒している。

 

「何かがおかしい。ここだけ信者の数が少なすぎる」

「罠?」

「……かもしれない。だが、他の信者が隠れている気配はないし、罠を隠してあるようにも見えない」

 

 口元に手を当ててレニは少し悩んだが、すぐに決断を下す。

 

「行こう。あまり悩んでいると他を捜している連中まで、こっちにやって来るかもしれない……覚悟は良いか?」

 

 こちらの目をじっと見て、聞いてくるレニ。

 緊張感が伝わってくるけれど、あたしはわざと気楽に答えてるフリをした。

 

「おっけー。で、作戦は?」

 

 レニは袋から石を幾つか取り出すと、まとめて幾つか握った。

 

「今までとさほど変わらない。【幻聴】と【幻覚】を使って信者達を誘導する。全員が持ち場を離れるとは思えないが、何人かは釣られてくれるだろう」

 

 手に握られた色とりどりの石。あたしもすでにどの石がどういう効果を出すか覚えてしまっている。

 【白煙】の石が一つ。【睡眠】が5つ。

 

「それはどーすんの?」

「【白煙】は持ち場を離れた相手に使って時間稼ぎ。逆に【睡眠】は残った連中に使う」

 

 実にシンプルな作戦だ。全員幻覚に釣られてしまえば楽なんだけど。

 

 逆に全員残ったらどうしよう。

 

「【睡眠】ってそれで残り全部?」

「ああ。【白煙】も」

 

 むう。石を貸して欲しいとさっき言ったけど、それどころではなかったようだ。

 

「その後に残った連中は、剣で倒す」

「う、うん」

 

 でもそれは……本当に最後の手段にしたいんだろうな……。

 

 さすがに気付いていた。

 剣で倒すと言いながら、これまでにレニは一人も殺さずにここまで来た。

 

 最初はあたしに人が死ぬところを見せたくないのかと思っていたけれど、それだけが理由ならあたしの目を欺いて殺すことも出来ると思う。これまで共に行動をしてきて、レニならそれが簡単に出来る事くらい分かる。

 

 これまでレニが縛ってきた相手も何人かは解放されているはずで、それがあまりにも非効率で危険な行動なのは彼自身が一番理解しているはず。

 先ほどの石のやりとりもそうだけど、彼は何かを隠している。

 

 その何かが、彼を殺人から遠ざけていることは間違いない。

 でも、理由なんてどうだって良い。

 

 出来ることなら、このまま誰も殺さずに事を済ませたい。

 

 「行くぞ」

 

 レニが合図を出す。

 

 神に祈る時間は無い──

 

 あたしは無言で頷いた。

 

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