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2016年/短編まとめ

本当に怖い自称女神

作者: 文崎 美生

「貴女が落としたのは、金の斧ですか?それとも、銀の斧ですか?」


後光が差したその人を眺めながら、私は言いたい。

何も落としていないと。

目の前の突然現れた自称女神は、ニコニコと笑みを浮かべて重そうな斧を両手に一本ずつ持っていた。


子供の頃に誰しもが聞いたことある童話の中に、金の斧という童話がある。

タイトルで判断が付くとは思うが、冒頭の質問のように金の斧か銀の斧か聞かれる話だ。


要約し過ぎだと思う方は、是非ともインターネットの検索欄に打ち込んでググッて欲しい。

取り敢えず、イソップ寓話の一つだ。

単純に童話と考えてもらって結構。


「あの、寒くないですか」


「クソ寒いですけど」


私の問い掛けに、自称女神が女神らしからぬ言葉でハッキリと答える。

月桂樹の冠を頭に置いて、白い布を巻き付けただけのような格好で、川の中にいるのだから寒いだろう。


それにして何で川なんだろう。

散歩をしていてたまたま覗き込んだら、突然ブクブクと浮上してきた自称女神。

女神の割には男だし、童話では斧を落としたら出てくるはずなのに私何も落としてないし、そもそも女神が住んでるの泉だし、川違うし。


「寒いなら上がってきたらどうですか」


「それはいいです」


いいんですか。

どう見ても人間だけれど、あの後光はどうやって差していたんだろうか。

寒いならとっとと上がればいいのに。

斧を持つ手が小刻みに震えている。


気を取り直すように、嘘臭い咳払いをした自称女神は落としたのは綺麗な私か、汚い私か聞いてきた。

その際に私のフルネームを言った気がするが、教えた覚えないのだが。

勿論川に落ちた覚えもない。

更に言えば、斧はどうした。


「あの、私は川に落ちてませんが」


そう言えば、にっこりと笑った自称女神は満足そうに頷いて、持っていた斧をこちらに向ける。

正直者の貴女には、この斧をあげましょうとか何とか。

そんな斧を持ってどうしろと言うのか。


仕方なく手を伸ばして受け取ったそれは、思ったよりも軽くて良く出来たレプリカであることが分かった。

――そもそも、金の斧とか銀の斧が世の中に本当に存在するのかも怪しいのだが。

一体誰得だ、その商品。

そんなのを持っている人は成金臭がする、なんて思いながら斧を傍らに置く。


「それでですね」


「あぁ、はい。何ですか」


まだ何かあるのか、そう思い自称女神を見れば、先程と変わらない笑みを浮かべている。

そして斧を持っていた手をこちらに向けた。

え、やっぱり斧は返せってことだろうか。

引っ掴んだ二つの斧をその手にぶつけて乗せれば、違います、と吐き捨てられて、川の中に捨てられる。


えぇ、何で……何とも言えない感情を抱いて、斧が捨てられた方向を見つめた。

そんな私の心情を知ってか知らずか、自称女神は濡れた手で私の手首を掴む。

川に入っていたせいだろう、ヒンヤリとした温度にゾワゾワした。


「折角なので本当は怖い童話を一つ」


は、間抜けな声が漏れるのと同時に、私の手首を掴んだ手は、力を込めて私を引っ張る。

予想していなかった自称女神の行動に、抵抗する力はなくそのまま川にダイブ。

冷たい冷たい、寒い、水の温度が異常と感じるくらいに冷たいし寒い。


「斧を落とした正直者の女の子に恋をした女神様は、そのまま女の子を泉の奥底に連れ帰るなんてどうですかね」


手だけじゃなく腕、二の腕、顔、ゆっくりと川の中に引き込まれていく。

上半身がずぶ濡れになって、服が水を吸って重くなれば次は下半身。

言ってることも怖いし、何だこれ。


「私斧なんて落としてませんけど?!しかもここ、川!!」なんて抗議の声を聞いても、自称女神はあぁ、確かに、と頷くだけ。

手を離そうとはしない。

――それどころか、その手には更に力が込められているような気がする。


「それじゃあ、何も落としてない素直な女の子に一目惚れした女神様が、泉の奥底に連れ帰る。そんな本当は怖い童話で」


全身ずぶ濡れ、濡れネズミ。

冷たい水を吸って重くなった服で、ニコニコと笑い続けるサイコパスなヤンデレ気味自称女神に抱きすくめられる私。

マジで冷たい、寒い。


誰でもいい、警察呼んでくれ。

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