第四章 ハイランダー(六)
「はッ! 神の名前を持ち出せば俺がビビるとでも思ってんのかッ!?」
ユーベルが声高に吐きすて、射るような視線でテオを睨む。
怖じた風もなく、テオは淡々と応じた。
「さっきの煙玉は魔人出現を知らせるハイランダーの合図だよ」
それを聞くや、ユーベルの眉が急角度で跳ね上がる。
「なんだと?」
「赤黒は巨人、赤白は竜、三色同時は魔人。霧や雨だと役立たずな上、三色では伝えられる情報にもかぎりがあるが、危急の際にはずいぶんと役に立つ」
「……オレをだましやがったわけか、ふざけやがって」
魔人の憎々しげな物言いに、はじめてテオの顔に嘲弄が閃いた。
「俺は合図を送ると言っただけ。勝手に勘違いしたのはそちらだろう」
先刻までとは異なり、鋒鋩ではなく舌鋒を叩き込んでいくテオ。
アスティア・ウルムの参戦を警戒するユーベルは、その変化が意味するところを掴みそこねた。そのまま感情にまかせて言い返す。
「こんな森で烽火をあげたところで、ウィンディアの連中に見えるわけがねえ。無駄なあがきだったな」
「ああ。人間には見えないだろうよ。人間には、な」
テオは意味ありげに繰り返し、じっとユーベルを見据える。
「エルフの結界を力ずくで打ち壊し、妖精郷の守りを食い破る。ただの魔物にそんなことができるはずがない。アスティア様は間違いなく魔人の存在に気づき、こちらを注視している。お前がアスティア様を蹴散らせるほどの力の持ち主だというなら、俺の行動はたしかに無駄なあがきに終わるが――」
テオは鼻先でせせら笑った。人間相手に腕を切り落とされるお前にそこまでの力があるはずはない、と言外に告げる。
ユーベルの顔が険悪に歪むが、テオはなおも言葉を止めなかった。その視線はユーベルの額から突き出た角に向けられている。
「オウガとは魔法に精通した思慮深い種族。魔法の十や二十使えて当然なのに、さっきからお前が使うのは一つ覚えの針だけだ。お前が本当にオウガなのか、疑問――」
「うるせえッ!!」
相手の言葉を遮るようにユーベルが放った針は、魔人の感情の揺れを示すように狙いが定まっておらず、テオの身体を捉えることなく床に突き刺さる。
今や魔人の両眼は溶鉱炉のごとく煮えたぎり、気の弱い者であれば睨まれるだけで気死しかねない迫力を帯びている。
だが、テオはなおも障壁に阻まれることのない舌という武器を振るい続けた。
「疑問といえば、こうして人間ごときに苦戦しているお前がエルフの結界を破ったというのも信じがたい。さっき俺のことをおとりだと言っていたが、察するにそれはお前のことだろう? 結界を破った直後にお前があらわれれば、誰しも結界を破ったのはお前だと考える」
そうすれば、実際に結界を破った黒幕の存在は闇に消える。魔人らしからぬ小細工だが、エルフの高位結界を力ずくで打ち破るほどの上位魔人が人界に侵入していることを戦神に悟られたくなかった、と考えれば納得できないことはない。
仮にユーベルが戦神に討たれたとしても、それは黒幕にいたる手がかりが失われるというだけのこと。背後にいる魔人にとっては大した痛手にはなるまい。
うがった見方をすれば、黒幕は戦神の手をかりてユーベルを処分したかったのかもしれない。敵としては恐れるに足らず、味方としては頼るに足らず。そんな配下はいっそ消してしまった方が風通しがいいだろう。
そう、結局のところ――
「さんざん大口を叩いておいて、やってることはおとりとパシリ。勇者にならって小心者とでも名乗っておけ、三下」
テオが言い放つや、周囲はしんと静まり返った。真夜中の墓地を思わせる、凍えるように重たい静寂。
だが、それも一瞬。
「………………殺す」
注意していなければ聞き落としてしまいそうな魔人の呟き。
それはすぐに割れ鐘のごとき咆哮に変じた。
「殺す殺すころすコロスぅうぅウゥオオオオオアアアアアアアッ!!」
変容する。王座の間が。魔人の姿が。
空気が殺意にまみれて粘性を帯び、目、鼻、口、耳、ありとあらゆる穴から体内にもぐりこもうとしてくる。手足の自由も利かない。全身を汚泥に叩き込まれたようなおぞましさ。
激怒した魔人が発した魔力は、物理的な圧迫感をともなって王座の間を席巻した。
魔人の身体を黒い炎が覆っていく。
頭上から舞い落ちてきた一枚の葉が黒炎に触れた瞬間、熔けるように宙に消えた。燃える、などという表現ではとうてい追いつかない一瞬の消滅現象。
テオの鉄剣なぞ触れるだけで融解しかねない超高温の黒甲冑は、技能や魔法の産物ではない。魔人が本気を出したことにより、魔力の一部があふれ出して身体を包み込んだのだ。
先刻までの障壁が敵刃を防ぐ防御結界だとすれば、この黒炎は敵刃を喰らう攻性結界。
第三層たる魔人の本当の力を、ユーベルは一寸も余さずに一人の人間に叩きつけようとしていた。
ただ、その行為は一つだけ魔人に代償を強いた。
テオの前に立つユーベルの姿が大きく縮んでいる。長身痩躯のオウガの姿はいずこかに消え去り、子供のごとき矮躯があらわになっていた。
敵に全力を叩きつけるべく力を振り絞った結果、それまで外面をつくろっていた魔力が剥がれ落ちてしまったのだ。
そこにいたのは一匹のゴブリンだった。
燃えるような赤髪と滾るような両眼はオウガの時と同じ。身に備わる能力も、おそらくほとんど変わるまい。むしろ「容姿」につぎ込んでいた魔力をそぎ落とした分、先刻より強くなっているかもしれない。
だが、ユーベルの目にあるのは余裕などではなく、尽きぬ憤懣と耐えがたい屈辱、そしてなによりも眼前の敵の必殺を誓う極濃の敵意だった
「殺ず殺ず殺ずぅ……!」
ゴブリン語とは異なる呪詛の声が王座の間に響き渡る。
耳障りな濁声はゴブリンの声帯で無理やり人間の言葉をしゃべっているためだ。ついこの間までのウルクは、これが嫌で人前ではほとんど口をきかなかった。
ウルクとは異なり、ユーベルはゴブリン語を操ることができるが、ゴブリンである自らを恥じる魔人にとっては、卑小な外見をさらすことはもちろん、自種族の言語を口にすることも大いなる恥辱であった。怒りに我を忘れてもなお、喋ることを忌避するくらいに。
「殺じでやるぅ!!!」
ひときわ大きく膨れ上がった魔力が、圧倒的な威圧感と共にテオの全身にのしかかってくる。テオの顔が苦しげに歪み、重圧に耐えかねたように床に片膝をついた。
それを見たユーベルは、一つ覚えと称された魔針を現出させる。
その数は二十本。これまでとなんら変わらない数である。
いかに百の魔力を持とうとも、一の出力しかなければ、生み出される魔法が一になるのは道理。その分、使用回数は無限に等しかったが、もとより魔人とは無尽の魔力を持つ存在であり、たとえ高位魔法であっても使用回数に制限などない。
ユーベルは明らかに魔人の力を御せていなかった。
未熟な魔人。だが、それでも人間ひとりを焼却するには十分すぎる。
ゴブリンの魔人は口に狂笑をたたえて、動きの鈍ったテオにすべての針を叩きつけようとする。
――その寸前。
ユーベルの頭上に伸びた白精樹の枝が小さく震えた。
とん、という軽い音は、小鳥が羽ばたく際に枝を蹴る音に似ている。
しかし、このとき枝から飛んだのは小鳥のように可愛らしいものではなかった。そもそも、その枝は小鳥が蹴ったくらいでは小揺るぎもしないくらいに太かった。具体的にいえば、人とエルフ、あわせて三人分の体重を支えられるくらい丈夫だった。
『見たことのねえ顔だな、てめえ。おとりにでもされたか?』
『そうやって俺を挑発して、こいつから引き離そうって寸法か。見え見えなんだよ、バァカ』
敵の作戦を看破したはずのユーベルは、しかし、結局まんまとのせられた。
それは剣撃と舌鋒をたくみに組み合わせたテオの珠功であり、だからこそ、この一撃は外せない――枝から飛び降りたイズ・シーディアは鋭い眼差しで眼下の魔人を見据える。
その気配に気づいたユーベルが頭上を見上げて驚愕の表情を浮かべるが、もう遅い。瞬間移動さえ間に合わない。朝日を思わせる黄金の輝きがユーベルの視界を染め上げ、一瞬の後、黒炎をまとう魔人の身体は、炎ごと深々と斬り裂かれた。
「がああああああああアアアアアアアッ!!?」
肩口から腰まで一気に斬り下げられたユーベルの口から絶叫がほとばしる。
骨はおろか臓器さえ断ち切る斬撃は、確実に魔人にダメージを与えていた。即死しても不思議はないほどの致命的一撃。
同時に、それをなしたイズの口からも苦痛の声がもれた。
「痛ッ!」
ドン、と重い音をたてて着地したイズが表情を歪める。装備は極力軽くしてあり、さらにウルクの魔法で身体能力を強化してもらったとはいえ、それでも高所から落下した衝撃がすべて消えさるわけではない。
そのイズをかばうように、テオは素早く魔人との距離を詰めた。
すでに敵の身体を包む黒炎は消滅しており、それにともなって王座の間を包んでいた粘つく空気も霧散している。
魔人をしとめるならば今しかない。聖剣とは比べるべくもない自分の剣でも、今ならば通じるはず――テオはそう考えた。
だが、いざ斬りかかってみれば、手に伝わるのは先刻までと変わらない固い衝撃。
おそらく、ユーベルにはテオの攻撃を防ごうという意識はなかったであろう。にもかかわらず、障壁はいまだに魔人を守り続けている。
「くそ! ここまで追い込んでも駄目かッ!?」
思わず、という感じでテオが罵声をあげた。これだけダメージを与えても障壁が消えないとなると、今のテオが魔人を討つことは事実上不可能となる。
「なら、ボクが!」
テオと入れ替わるように、落下の衝撃から立ち直ったイズが斬りかかった。
だが、イズの剣が届く寸前、魔人の姿がかき消える。遅まきながら魔人が転移を行ったのだ。
それを見た二人はとっさに身を翻して背後に向き直るが、そこに魔人の姿はない。
次に魔人が姿を現したのは、二人の背後ではなく、剣が届かない空中だった。
今や完全にゴブリンの姿をあらわしたユーベルは、荒い息を吐きながら眼下の二人を睨みつけている。
聖剣によって無残に裂かれた傷跡が塞がる気配はない。イズが断ち切った右腕が元通りになっていることから、魔人には何らかの回復手段があると推測されるが、今のユーベルには回復に費やす余力がないのだろう。
奇襲は効いている。なんとか魔人を空中から引きずりおろしてトドメを刺さねば、とテオが考えた直後、凛とした古代語が頭上から降ってきた。
『炎よ!』
樹上から人の頭ほどもある大火球が放たれ、宙に浮かんでいたユーベルの顔面近くで炸裂した。
先のテオの剣と同じく火球自体は障壁によって防がれたが、衝撃までは殺せない。
もはや姿勢を制御するだけでつらいのか、ユーベルは空中で身体をふらつかせる。それに乗じるように、さらに火球が連続で降り注ぐ。
次々に爆発する火球。詠唱破棄の連続行使という離れ業が可能なのは、一行の中にフレアしかいない。
さらに、ウルクの魔法がこれに続いた。
『見えざる爪、見えざる牙。駆けよ、駆けよ、ただ駆けよ。この天地に汝を阻むものはなし!』
フレアによって十全の詠唱時間を得たウルクは、魔人に対して得手とする風の刃を叩きつける。
もともとエルフは魔法に秀でた種族であり、ウルクはそのエルフの精鋭たる防人に任じられた身。若しとはいえ、その実力は折り紙付きだ。
しかもこの時、イズの一撃の影響で魔人が発する重圧は大きく減じており、魔法使いたちは実力を完璧に発揮できる状態にあった。
ウルクの魔法とユーベルの障壁が激突し、絹を裂くような異音がその場にいる者たちの鼓膜を責め立てる。
女性の悲鳴にも似たその音は、二つの力がせめぎあっている証。
そう。一時的なものであれ、ウルクの魔法が魔人の障壁と拮抗しているのだ。
これを好機と見たのだろう、今度はフレアが詠唱をはじめる。
生み出されたのは先ほど同じ火球であるが、詠唱の有無はそのまま威力に直結する。火球の大きさは一抱えもある岩塊に匹敵し、それを見たユーベルの目が大きく見開かれた。
「ぐ、ぐ……ごの……ッ!」
ユーベルがうめく。
たとえどれだけ優れた使い手であれ、魔人にとって人間やエルフの魔法など問題にはならない。負傷がなければ、あるいは一対多でなければ。
だが、今この瞬間はどちらの条件も満たせない。傷は深く、敵は多い。
ユーベルは自分が追いつめられている事実を認めざるをえなかった。
そして、その認識は魔人にとって屈辱以外の何物でもなかった。
思考が灼熱し、視界が真っ赤に染まる。激情の極み、毛細血管が破裂したのだ。
エルフ王を人質にとろうとすれば聖剣に狙われる。一度この場を離れて仕切りなおすという選択肢もあったが、人間やエルフごときを相手に逃げられるかというプライドがユーベルの心身を縛り付けた。
そうして歯軋りをする間にもフレアの手から火球が放たれ、ユーベルはまともにそれを喰らってしまう。
爆発。衝撃。
◆◆
――火球の余波が去った後も魔人の姿はなお空中にあった。
それでも、まったく効かなかったわけではない。つ、と魔人の頬を伝う一筋の血は、二人の魔法がわずかであれ魔人の守りを凌駕したことの証。
頬の血をぬぐったユーベルの目が張り裂けんばかりに見開かれる。もはや脅威となるのは聖剣だけではない。ここから先は敵の魔法も魔人を傷つける武器になる。そうしてダメージが蓄積していけば遠からず障壁を維持することもできなくなるだろう。
それはユーベルにとって魔人以前の己に戻ることと同義であった。
「あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
狂ったような吠え声をあげて、魔人の姿がかき消える。
戦うためではなく、逃げるための空間跳躍。
いつかの夜と同じく、魔人は人間たちの手が届かないはるか上空へ難を避けた。
「ぐ……ぐぞ……畜生ッ!!」
真紅に染まった視界で眼下の白精樹を睨みながら、ユーベルは思った。
もういい、と。
もう『鍵』などどうでもいい。蓬莱にいる主の怒りも、ガルカムウの北にいる魔王の思惑も知ったことか。
セラに入り込んだすべての魔物を今すぐこの地に呼び集めてやる。
「肉も血も残らぬぐらい、ずり潰じでやる……!!」
この期に及んでなおゴブリン語を忌避するユーベルは、高らかに叫んだ。
「来い……!」
四方に配された目玉の監視者プルプルが主人の意を悟って動き出す。
「来い……!」
エルフの集落から略奪した野菜をかじっていたゴブリンが顔をあげる。
その傍らで、自らしとめた鹿を生きたままかじっていたオークが空を見上げた。鹿の血に濡れた口許をぬぐって、荒々しく立ち上がる。
「今ずぐ来いッ!!!」
ユーベルを源として吹き荒れる風ならぬ風が樹海の木々をしならせる。
傷ついたりとはいえ、魔人は魔人。その重圧に耐えかねたように、眼下の白精樹が悲鳴のような軋みをあげた。
樹海の各所で魔物たちの咆哮があがり、それは上空のユーベルのもとにも聞こえてきた。
血にぬれた魔人の唇が三日月の形に開かれる。
今頃、あの人間たちは事態を悟って青ざめていることだろう。その様を想像して、キシシと笑い声をあげる。
連中がどれだけの力を持っていようと、数千をかぞえる魔物に包囲されてしまえば勝ち目などない。『鍵』欲しさに小細工を弄したが、初めからこうしておけばよかった。そうすれば、愚かな人間や高慢なエルフに屈辱を味わわされることはなかったものを。
ゴブリンの魔人は高らかに哄笑し、これから始まる愉悦の宴を思って感情を高ぶらせる。
このとき、ユーベルの注意は眼下にのみ向けられていた。今、ユーベルがいるのは、剣はもちろん魔法さえ届かない空の高みであり、警戒すべき何物もない。そう考えていたのである。
だから気づかなかった。かわせなかった。
『さっきの煙玉は魔人出現を知らせるハイランダーの合図だよ』
蒼空の高みより投じられた戦神の一投を。
ウィンディア領上空から白精樹上空へ。流星のごとく宙をかけた神槍の軌跡は、遠くエンテルキア聖教国からも見ることができたという。
回避はおろか視認すら許さない神威の投擲。
凄まじい勢いで飛来した神槍は、その勢いを落とさぬままにユーベルの胸に突き刺さる。
飛来した勢いを考えれば、そのまま魔人の身体を貫いたところで何の不思議もなかったが、神槍に込められた威力は外に漏れることなく、すべて標的たる魔人の体内で炸裂した。
「ぎいいぃぃィャグルゥゴォオオオアアアアア!!?」
白精樹の上空に形容しがたい魔人の悲鳴が轟き渡る。
魔人になって以来、否、ゴブリンだったときでさえ感じることのなかった絶大な苦痛。
ゴブリンであれば死という終わりが訪れる分、苦痛は少なくて済んだかもしれない。しかし、魔人の力は持ち主の意に関わりなく宿主を生かす。結果、ユーベルの苦悶はいつまでも終わることがなかった。
たまりかねて胸に刺さった神槍を引き抜こうと試みるが、神の槍は魔人の手に握られることを拒んで激しい拒絶反応を示す。
雷撃にも似た衝撃がユーベルの両手を焼き、魔人はさらなる痛苦に顔を歪ませた。
「あずでぃあああああ!!!」
血涙を流しながら、ユーベルは北東の空を睨む。
魔人相手にこんな真似ができる存在は、大陸広しといえども一人しか存在しない。
そのユーベルの視線のはるか先で。
黒髪の戦神アスティア・ウルムは騎竜の背にまたがって空を飛んでいた。
ウィンディア領からセラの樹海へ、空中であれば地形の険阻も魔物の数も関係ない。アスティアの騎竜が巨大な翼をはためかせ、耳が潰れるような咆哮を発する。
すると、樹海の魔物たちはたちまち戦意を失って乱れ始めた。竜に乗った戦神に対して、ゴブリンやオークが戦意を保てるわけもない。
それは魔人であるユーベルも例外ではなかった。
「ブッギざまあああ、おだずげをおおおおッ!!」
今しがた、主の怒りなどどうでもよいと内心で吐き捨てた舌の根も乾かぬうちに、ユーベルは甲高い声で助力を乞うた。遠く離れた蓬莱の地で、この戦いを見ているはずの主に。
しかし、どれだけ呼べど叫べど救いの手が差し伸べられることはなく。
結局、ゴブリンの魔人はほうほうの体でセラから逃げ出すことしかできなかった。




