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花嫁クエスト  作者: 玉兎
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第四章 ハイランダー(五)

 白精樹の最上層、枝葉の天蓋に覆われた王座の間で、魔人ユーベルは苛立ちをあらわにしていた。

 忌々しげに顔を歪める魔人のかたわらには朽ちたトネリコの木でつくられた王座があり、そこにはエルフ王が座っている。いや、座らされている、というべきだろう。王の身体には幾重にも鎖が巻きつき、立ち上がることはもちろん姿勢をかえることも許さない。

 のみならず、肘掛に置かれた両手と、床に置かれた両足には、それぞれ長針が深々と突き立てられている。その姿は標本にされた虫に似ていた。



 もともと、今代のエルフ王は針葉樹の葉を思わせる長身痩躯、威風あたりを払う人品の持ち主だった。

 地位ではなく、人物に付随する品格が自然と対峙する者の膝を折らせる――そういった王であったのだが、枯れ木のように憔悴した今の姿からは威風はおろか精気さえ感じられない。

 王になる以前は防人の長を務めたこともある歴戦のエルフは、口からよだれをたらし、うつろな目をぼんやりと虚空に向けていた。




「ち! もたもたしやがってッ」

 そんなエルフ王の様子を微塵も気にかけることなく、ユーベルが音高く舌打ちする。

 現在、白精樹にいるのはユーベルとエルフ王の二人のみ。他には妖精も魔物も存在しない。むろん、これはユーベルが命じた結果である。


 

 テオたちが推測したとおり、ユーベルはエルフ族が樹上に張り巡らせた移動手段に気づいており、王女たちがそれを使って父王の奪還に来ることも予測していた。

 そんな一行に対し、ユーベルが配下の魔物を差し向けなかった理由は二つ。

 一つは、侵入してきた者たちが『鍵』の現物を保持しているか分からず、へたに殺してしまうと、また『鍵』の行方がわからなくなってしまう恐れがあったこと。

 もう一つの理由は『鍵』の奪取という手柄を配下に横取りされることを嫌ったからである。



 ゴブリン、オーク、オウガ――額に角をはやす鬼族は智恵を持つゆえに、暴れることしか知らない他の魔物よりも役に立つ。同時に、智恵を持つゆえの扱いづらさというものも存在する。

 ユーベルは力で彼らを従えているだけであって、そこに忠誠や献身といった概念は含まれていない。中には虎視眈々と上位者にとってかわることを目論む者もいるだろう。それこそ、かつてのユーベルのように。

 そんな者の手に『鍵』が渡れば、ユーベルではなくユーベルの主のもとに駆け込むに決まっている。その恐れが「配下を使う」という選択肢をユーベルから遠ざけた。



 移動経路をつぶさなかった理由もこれに重なる。

 『鍵』を握る王女も、右腕を切り落とした勇者も必ず殺す。不覚を強いた魔法使いもだ。だが、それでも自分の前に現れるまでは無事でいてもらわねば困る。

 単純な戦力として脅威となるのは聖剣を持つ勇者のみ。その勇者にしたところで、エルフ王の命を盾にすれば身動きはとれまい。『鍵』を奪った後は、王を助けるという条件で王女を勇者にけしかけても面白い――ともすれば噴出しそうになる報復の念をそんな空想でなだめながら、ユーベルは一行の到着を待っていた。

 そして。




「――ふん、やっときやがったか」

 赤髪のオウガはそう言って入り口から入ってきた人間をにらみつける。

 その顔が怪訝そうにしかめられたのは、入ってきた人影が一つしかなかったからであった。



「見たことのねえ顔だな、てめえ。おとりにでもされたか?」

 ユーベルの視線の先にいるのは剣をたずさえた人間の戦士――テオただひとり。

 言葉どおり、顔をあわせるのは初めてであるが、この人間が勇者の仲間であることは監視者プルプルが送ってきた情景で確認している。

 では、肝心要の王女や勇者はどこにいったのか。



 ユーベルは素早く周囲の気配をさぐった。

 王座の間といっても、白精樹のうろに築かれたこの部屋は直接外と繋がっているため、枝を伝って頭上や側背に回り込むことは可能である。

 今のところ、ユーベルの感覚に触れてくるものはない。だが、おおかた、この人間が自分の注意を引いている隙に勇者たちがエルフ王を助けるという作戦なのだろう。

 ユーベルは即座に敵の作戦を看破した。そして、その浅はかな考えに嘲笑を禁じえなかった。



「オレたち魔人相手に、人間ごときが何かできると思ってんのか?」

 あざけりと威圧まじりの問いかけ。

 これに対し、テオは魔人と同種の表情を浮かべて応じる。

「思っているぞ。つい先日、人間相手に右腕を切り落とされた魔人がいると聞いたばかりだからな」

 言って、けらけらと軽薄そうに笑う。

 強大な魔人を前にしながら、萎縮などつゆ感じられないその返答、その姿。

 ユーベルのこめかみがピキリと音を立てた。



「あれは人間じゃなくて聖剣の力だろうが!」

「その聖剣を扱うのは人間の力なんだが、まあいい。つまるところ、神の武器を持たない人間なぞ恐れるに足らないということだろう? なら、さっさとかかってこい」

 手のひらを上に向け、指先をそろえてクイクイと差し招く。

 いっそあからさまなまでに露骨な挑発を受けた魔人は、相手の言動を鼻で笑い飛ばした。

「そうやって俺を挑発して、こいつから引き離そうって寸法か。見え見えなんだよ、バァカ」



 こいつ、といってユーベルが指し示したのは、むろんエルフ王である。

 ちらとそちらを見やったテオに向けて、魔人は居丈高に言い放つ。

「くだらねえ小細工に付き合っている暇はねえんだ。さっさと他の連中を呼びやがれ!」

「……わかった。合図を送るから少し待て」



 言うや、テオは懐から取り出した小石ほどの大きさの玉に火をつけ、床に放り投げた。少しの時間を置いて玉は赤色の煙を吐きはじめる。

 続けてテオが放り投げた玉は黒煙を、さらにもう一つの玉は白煙をうみだした。



 煙玉はもくもくと煙をうみ続け、赤、黒、白の三色の烽火のろしがまっすぐ頭上に伸びていく。

 それを見届けたテオはおもむろに腰間の剣を抜き放ち、そのまま王座に向かって歩き始めた。

 ユーベルが険しい声を発する。



「何のつもりだぁ?」

「つもりも何も、お前と戦う以外にすることなんてないだろうが」

「あほぅか、てめえは。魔人相手に、しかも人質がいる状況で何かできると思ってんのか?」

「『人間ごとき』を相手に、人質をとらないと安心できない臆病者がいきがるなよ。ランゴバルドでベアトリスという魔人と出くわしたが、あれに比べると数段格が落ちるぞ、お前」



 めきり、とユーベルの秀麗な顔が音を立てて歪んだ。

 直後、何もない空間から現出した長針を手に取った魔人は、それをためらいなくエルフ王の膝に突き立てる。制止する間もない、一瞬の暴虐。

 それまでテオにも魔人にも反応を示さなかった王の身体が大きく震え、鉄鎖が耳障りな音をたてた。



「……ぐ、ごぉ……が!」

 意味をなさない音の羅列が、苦悶と共に王の口から吐き出される。寛大さと英明さで多くのエルフから慕われていた王の目は、今、古井戸の水のように暗く濁っていた。

 長きにわたる虜囚生活にくわえ、先の戦いでウルクが苦しめられた魔針の影響もあるのだろう、エルフ王の心身が限界に近いことは火を見るより明らかであった。あるいは、とうに限界を越えている可能性もある。



「ヒャッハハハハ! 次に戯言を口にしたら、今度は膝じゃなくて手の指全部に極太の針を打ち込んでやるぞ! わかったらおとなしく――」

「勝手にしろ」

「…………あん?」



 短く、そっけないテオの返答には一片の動揺も混ざっておらず、冷静を通り越して酷薄の域に達していた。

 ユーベルにとっては予想外の反応であり、怪訝さが声と表情にあらわれる。

 重ねてテオは言った。



「やりたきゃ勝手にやれと言っている。指だろうが、目だろうが、好きなところに針をつきたてればいい」

 ユーベルの凶行を見てもテオは眉ひとつ動かしていない。足を止める気振りさえ見せず、一歩、また一歩と魔人との距離を詰めていく。

 それを見た魔人の眉間に深いしわが刻まれる。



「てめえ……」

「どうした、次に戯言を口にしたら針を打ち込むんじゃなかったのか? それとも、口では何と言おうとも勇者に対する盾を失うのは恐ろしいか。おおかた、このエルフを助けてほしければ聖剣を捨てろ、とでも言うつもりだったんだろう?」



 もしくは、父親を助けたければ仲間を殺せといってウルクを脅すか。

 あざけり混じりに的確に内心を言い当ててくるテオに対し、ユーベルは犬歯をむき出しにして唸り声をあげた。

 魔人の怒りに感応したように床がぐらぐらと揺れはじめ、頭上を覆う枝葉もおびえたように葉をすりあわせたが、テオの舌はなお回転を止めない。わずかに顔をかたむけて嘲弄を叩きつけた。




「自分より弱い相手をいたぶるしか能のない卑怯者。いたぶる相手にさえ人質をとらなければ対峙できない惰弱者。感謝するぞ、魔人ユーベル。魔人の中にもお前のような小物がいる。人間にとってこの上ない朗報だ」




 静から動へ。

 状況の変化は急激だった。

 王座の近くに立っていたユーベルの姿が溶けるように宙に消える。

 一瞬後、赤髪のオウガの姿はにじみ出るようにテオの真後ろに現れた。その両手にはエルフ王に突き刺したものと同種の魔針が握られており、ユーベルは狂笑を浮かべてそれらを振りおろす。



「死にやがれッ!!」

 ユーベルの得意技。魔人以外の誰にも不可能な空間跳躍を利用して相手の背後にあらわれ、無防備の頸部に攻撃をくわえる。

 単純ゆえに効果的な一撃であり、ユーベルにとっては必勝確殺の攻撃である。ろくに相手の姿も確認しないまま、無造作に攻撃を繰り出した。

 はや勝利を確信した表情が魔人の顔に刻まれる。

 ――だが。



 すぐにも伝わってくるはずの肉を抉る感触は、しかし、いつまで経っても伝わってこなかった。

 それも当然だろう。ユーベルの攻撃は何もない空間をうがっただけなのだから。

 驚愕に目を瞠るユーベルの視界の隅で、何かがきらめく。

 それはテオが繰り出した剣撃だった。

 この人間はユーベルが王座の近くから姿を消した瞬間、素早く斜め後方に飛んでいたのだ。その場所はユーベルがあらわれた場所の真横にあたる。



「な――!?」

「『見え見えなんだよ、バァカ』」

 ご丁寧に先刻のユーベルの嘲笑をなぞった後、テオは隙だらけの相手の顔に容赦なく鉄剣を叩きつけた。

 横薙ぎの一閃は正確に魔人の顔を捉える。相手の油断と隙に乗じた会心の一撃。

 今、テオが使っている剣はランゴバルド王国で買い求めたもので、先の魔人戦で失ったウィンディア製の剣ほどの切れ味はなかったが、それでも頭蓋を砕く一閃は、並の魔物が相手であれば確実に致命傷となっていたであろう。



 しかし、剣閃がユーベルの側頭部にたたきつけられる寸前、水晶のように薄く半透明の障壁が浮かび上がり、テオの攻撃を阻んだ。

 ガギリッッという鈍い音があたりに響き渡る。

 同時に、分厚い鉄の塊に斬りつけたような異様な感触が、柄を通してテオの腕に伝わってきた。

 何らかの防壁が己の剣撃を阻んだことを悟ったテオは、小さな舌打ちを残してその場から飛びすさる。




 慎重に剣を構え直すテオを見て、余裕を取り戻したユーベルがせせら笑った。

「てめえごときの剣が魔人に通じると思ってたのか、あほぅが」

 その嘲笑に対する返答は再度の斬撃だった。

 袈裟懸けの一刀はユーベルの右腕によって弾かれる。しかし、おそらくテオはこれを予測していたのだろう、弾き返された剣先は鋭く弧を描き、そのまま魔人の横腹に襲いかかった。

 直撃すれば深々と腰を切り裂いたであろう重い一撃は、だが、またしても魔人の障壁によって弾かれてしまう。



 再び嘲笑を発しようとする魔人。

 その笑いを、裂帛の気合がさえぎった。



シャア!!」

 攻撃をはじかれた落胆など微塵も見せず、テオは魔人に更なる猛攻をしかけていく。

 次々と打ち込まれる鋒鋩は重く、鋭く、何よりうまい。

 膂力や敏捷といった単純な身体能力ではユーベルが上回るため、斬撃に反応することはできる。だが、剣先が霞むほどの高速の斬撃は、時にユーベルがまったく予期せぬ軌道を描いて魔人の意識と動きを翻弄する。

 決して力まかせに剣を振り回しているだけではない。明確な技の冴えを前にしてユーベルの反応が徐々に遅れ始めた。



 刀身がしばしば魔人の身体を捉え、そのつど障壁によって阻まれる。

 その数は五、六、七と見る間に増え続け、たちまち十を超えた。

「チィッ!?」

 激しい剣勢にさらされたユーベルが舌打ちする。

 テオの攻撃はすべて障壁で弾かれているため、魔人の身体には髪の毛一筋ほどの傷もついていない。それでも人間相手に後れをとっているという事実は面白いものではない。



 かわしきれないのであれば、いっそ斬られるに任せるという手もあった。人間ごときが何をしても無駄だと知らしめるには、その方が効果的だろう。

 だが、自身を包む防御結界が決して万能ではないことをユーベルは知っている。数日前に人間に右腕を切り飛ばされたばかりで、忘れられるはずもない。

 眼前の人間が聖剣か、あるいはそれに準じる武器を持っているとは思えなかったが、それでも万一ということがある。それに、一度ならず二度までも人間に手傷を負わされるなど、たとえそれがかすり傷であっても耐えられるものではなかった。




「死にやがれ、くそがッ!!」

 魔人が吠えると、たちまち二十本近い数の針が空中にあらわれ、すぐさまテオに向かって襲いかかる。

 テオはウルクたちから先の戦いの一部始終を聞いており、この攻撃方法を知っていた。とっさに床に身を投げ出して全ての針をかわしてのける。

 だが、魔人はすぐさま同種の攻撃を二度、三度と繰り出してテオをしとめにかかる。

 もとより魔人とは無限の魔力を持つ存在であり、いかなる魔法であれ使用回数に制限はない。その気になれば魔法の連続使用など苦でもなかった。



 これに対し、テオはいかなる魔法も使えない。襲い来る針をひたすら避けるしかなかったが、へたに相手との距離をあけてしまうと、それこそユーベルの思うつぼだということは分かっていた。

 攻撃と攻撃の隙を縫うように魔人と距離を詰めていくテオ。

 しかし、魔人と距離を詰めれば、必然的に飛んでくる針との距離も縮まってしまう。五度目の攻撃のとき、回避し損ねた一本の針がテオの左肩に突き刺さった。



 テオの顔が痛みで歪み、対するユーベルは勝利の確信で唇を歪めた。ユーベルの生み出す針は戦う相手の心を殺ぐ。戦士であれ、魔法使いであれ、戦いの最中に心を乱されれば実力の半分も発揮できない。

 しぶとい相手だったが、これで終わりだ。

 ユーベルはそう考えて魔法の使用を止める。なおも斬りかかってくるテオに憫笑を向ける余裕さえ生じていた。かわすまでもない、と相手の剣を身体で受け止める。



 もう何度目のことか、振るわれたテオの剣が魔人の障壁で弾かれる。

 懲りないやつだとあざ笑おうとしたユーベルの表情が、次の瞬間、激変した。

「があああああああッ!!?」

 叫ぶユーベル。

 その肩口には一本の針が深々と突き刺さっていた。肩に刺さった針を抜いたテオが、お返しとばかりにユーベルに突き刺したのである。

 魔人の魔力で生み出された武器は、魔人の障壁を易々と貫いていた。

 


 ――なんだ、コイツは!?



 あわててテオから距離をとり、肩に突き刺さった針を抜いてから、ユーベルは内心でうめく。

 傷自体はたいしたものではない。混乱の効果も魔人の身体には及ばない。だから、今の攻撃でユーベルが受けた被害は微々たるものだ。

 だが、傷を負った事実は動かせない。聖剣を持っているわけでもない、魔法も使えない、そんな人間に魔人たる己が傷を負わされた。



 ――そもそも、なんでコイツはこんなに動ける!?



 生きとし生ける者の天敵と恐れられる魔人。人間であれ、エルフであれ、魔人を前にすれば本能的な恐怖で心身を縛られる。それはゴブリンやオークといった魔物でも例外ではない。

 それは魔法でも奇跡でもあらがえない不可視の枷。

 これに対抗できる者がいるとすれば、それは魔人と神、あるいはその眷属のみ。少なくともユーベルが知るかぎりではそうであり、ただの人間ごときが魔人の頚木を脱するなどありえないはず。



 だというのに、今のテオには明らかに枷がかかっていなかった。さらにいえば、魔針による混乱の効果も出ていない。

 振るわれる剣にも、挑みかかってくる顔にも恐怖などつゆ感じられず、むしろ――

 と、ユーベルがそこまで考えたところで、テオがまた斬りかかってきた。

 慌てて反応しようとした魔人の眼前から、テオの姿が忽然と消え失せる。



 直後、魔人の足に強烈な蹴りが襲いかかった。這うように身体を沈みこませたテオが足払いを仕掛けたのだ。

 武器ではなく生身の身体を使った攻撃ならばあるいは、とテオは考えたのだろう。

 しかし、鉄靴が魔人の足に触れる寸前、またしても半透明の障壁が現れて攻撃を弾き返してしまう。



 鉄靴による打撃も通じないと悟ったテオは、再び飛びすさってユーベルと距離をとった。

 ややあって、テオの口から呆れたような声が発された。

「十八回も斬り付けて、かすり傷一つなし。おまけに打撃の類も通じない、か。聞きしにまさる厄介さだな」



 攻撃が通じないということは、勝利につながる可能性がないということ。

 テオの言葉はその状況を認識したことを物語っていたが、それでもテオの顔に落胆はなかった。ましてや絶望もない。

 度重なる衝撃によって切れ味を失い、ただの鈍器と化した剣を片手に、舐めるようにユーベルを見据えている。



 ぞくり、と。

 魔人の背を何かが這いのぼっていく。

 その感触の正体をユーベルは知っていた。魔人となる以前、幾度となく感じたことがあったからだ。

 脳裏をよぎる過去の記憶を振り払うように激しくかぶりを振ったユーベルは、低い声で問いを放った。



「――てめえ、何モンだ?」



 ユーベルの頭に幾つもの可能性が浮かんでは消えていく。

 魔人でないことはわかる。神でもない。であれば眷属か。

 隣国で暗躍する銀髪の吸血種の姿がユーベルの胸をかすめたが、むろん、答えはそのどれでもなかった。



「戦神アスティア・ウルム直属、山岳騎士ハイランダーテオ・レーベ」



 力むことなく、てらいもなく、テオは己の素性を口にする。

 戦神の麾下にあって、ガルカムウ山脈を主戦場とするウィンディア王国の最精鋭。

 宿敵たる魔人を前にした山岳騎士の双眸は底知れぬ飢えに満ち、獲物を前にした肉食獣さながらに爛々と輝いていた。



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