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契約

 俺は、しばし彼女の豊かな胸の谷間へ視線を釘付けにしながら、質問をされたことに気付き、答えた。


「えーと、ここは神殿学校にある召喚の間です」


「召喚……ということは、あなたが私を呼び出したのですか?」


「多分、そうだと思います。自分のしもべを呼び出す儀式を行っていましたから」


しもべ……ですか」


「あ、いや。別に無理強いはしませんよ。僕が気に入らなければ、帰って頂いてもかまいませんし」


「そうですか」


 彼女は可愛らしく首を傾げた後、再び尋ねた。


「でも、帰ってもいいって……どうやって、ですか?」


「えっ」

「えっ」


 互いに見つめ合うこと、数秒。


「えーと、帰り方はわからないんですか?」


「はい、わかりません。そちらの方はどうでしょうか?」


 彼女は、側で成り行きを見守っていた神官へと視線を移した。


「い、いや。普通、魔物は呼び出した時点で契約に同意したものと見なされる。このような例は聞いたことがない」


 神官の返答も、困惑気味だ。


「そうですか。では、家に帰る方法が見つかるまでの間は、私はあなたのしもべでいる。ということで、どうでしょうか?」


「ええと、いいんですか?」


「はい、他に行くところもなさそうですし」


 あっさりと了承され、逆にこちらが戸惑ってしまう。


 というか、これって日本でなら未成年者を誘拐した罪で捕まるんじゃないのか?


 いやいや、彼女は魔物なのだから、見た目通りの年齢とは限らない。声や仕草は幼いけれども、ひょっとしたら何百年も生きているロリババアかもしれないじゃないか。


 とはいえ、本当の年はいくつなのかは、恐ろしくてとても聞けはしない。


「ところで、ご主人様」


「は、はい! ご主人様って、俺のこと?」


 ますます犯罪臭がしてきた。


「はい、あるじしもべの関係ですから、ご主人様と呼ぶものだと思ったのですが、お嫌でしたか?」


「嫌ってわけじゃないけど……俺のことは、テオって呼んでくれればいいよ」


「そうですか、わかりました。では、私のことはマノンとお呼び下さい」


 あれ? マノンって、どこかで聞いたような……




「で、では、こちらへ回収を」


 神官が、おずおずと筒を差し出してきた。


「あ、すいません。彼女、これに封じ込めないで出したままでもいいですか?」


 この窮屈そうな筒に閉じ込めてしまうのが申し訳なく思えて、そんな提案をしてみたのだが、神官は不審そうな表情をこちらに向けるだけだった。


 それで、ようやく先程から自分が日本語で話をしていることに気が付いた。


 マノンの言葉も日本語に聞こえるのだけれども、さっきの神官とのやり取りを思い出すと、やはり魔物の言葉で話をしているのだろう。


 彼女を筒に封じ込めたくはないことを、改めてイスラニア語で神官に伝えた。


「あ、はい。別にかまいませんよ。魔物が人型だと、そういう人も多いですから。ただ、これは念の為、持っていて下さい」


 差し出された筒を受け取り、両親のところへ戻ろうと後ろを振り返る。


 すると、皆は唖然とした表情で僕とマノンを見ながら固まっていた。


 しまった! 日本語で長く話していたから怪しまれたか?


 何と言い訳しようか、考えていると。


「す……すげえっ!」


 一人が叫んだのをきっかけに、辺りは喚声に包まれた。


「まさか、この村からサキュバスを召喚する奴が現れるなんて!」


「ハンザおじさんのオーガよりも、凄いんじゃないのか?」


 え、オーガって、あれだろ? あんな大きくて、太くて、手足とか長くて、硬そうなのよりも、こっちの小さくて柔らかそうな女の子の方が強いっていうのか?


「ぐぬぬ……」


 呻き声のした方を向くと、ザーラが歯ぎしりをしながら、目尻に涙を浮かべて、こちらを睨んでいた。


「次、ザーラ。前に出て、儀式を行いなさい」


「ふんっ! みてなさい! そんな破廉恥なのより凄い魔物を呼び出してみせるんだから!」


 ザーラが、やたらはりきって魔法陣の前に立った、そのときだった。


 カーン、カーン、カーン……


 突如、甲高い鐘の音が鳴り響いた。


 この音は、いつか聞いたことがある。


 あれは確か七年前、まだハンザおじさんが村にいた頃……


「山賊だ!」


 誰かの叫び声がした。

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