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父との会話

 溜息をつくと、幸せが逃げていく。


 この世界では、そんなこと一度も言われたことはなかったのだが、


「はあ……」


 どちらにしても同じことだと思い、前世と何も変わらない溜息をついた。


「生まれ変わっても、やっぱりモテない……」


 それどころか、むしろ状況は悪化している。


 前世では年齢と彼女いない歴がイコールではないことが唯一の誇りだったのに、それすら失われてしまった。


 そのことを嘆きながら、とぼとぼと俯き気味に湖の側を歩いて行く。


「おーい、テオ。どこへ行くんだ?」


 父の声に慌てて振り向く。危うく、そのまま釣り場を通り過ぎるところだった。


「はい、とうさん、おべんとう」

「ありがとう、テオ。じゃあ、お昼を食べる前に少し呪文の練習をしておこうか」


 仕方なく、父にお弁当を渡した後、もうすっかり内容は暗記してしまった召喚の呪文を繰り返した。




「このいのち、つきるまで、われに、つかえよ」

「うん、大分よくなってきたな」


 詠唱の五度目にして、ようやくその言葉をもらったのだが、そんな不安そうな顔で言われても説得力なんてないよと思う。だが、それを指摘すると藪蛇になるので黙っておいた。


 しかし、父はこちらの表情で不満を察したらしく、慌てた様子で強引に話題を変えてきた。


「ま、まあ実際には魔物を呼び出せても、大したことはできないんだけどね。ほら、父さんのサラマンダーも精々、火を付けるぐらいしかできないし、母さんのウンディーネだって井戸から水を汲まなくて済むぐらいだろ? 第一、魔力の乏しい平民には数日に一回ぐらいしか魔物を呼び出せないんだよ」


 でも魔物を呼び出せないと、この国では大人として認められないんだよね?


 ただでさえモテないのに、成人扱いされないから結婚もできないとか、たまったもんじゃない。


 それに、もし儀式に成功しても、魔物が僕の言うことを理解してくれるかどうか、わからない。


 密かに憧れていたんだけどな、両親や村の大人達が魔物を使役しているところ。


「ん?」


 ふと、疑問が浮かんだ。


「どうした、テオ?」


「とうさん、まものは、どうして、しゅじんのいうことが、わかるの?」


 例えば、犬が人の命令に従うのは、そういう訓練をされているからだ。


 しかし、両親や村の大人達が魔物を使役する姿を思い出すと、かなり細かい意図まで汲んだうえで行動していた気がする。


「ああ、それはこいつのおかげさ」


 父は左手にはめた指輪を、僕の目の前に突き出した。


「かつてソロモン王は指輪の力で魔神や魔物達はもちろん、動物とも会話を交わしていたそうだ。といっても、複製であるこの指輪には動物と話す力まではないがね」


 だとしたら、指輪の力で日本語で意思の疎通もできないだろうか?


 試しに、父に日本語で話しかけてみた。


「父さん、お酒臭いときは、僕と母さんの近くで口を開かない方がいいよ」


「え、何か言ったか?」

「いや、なんでもない」


 どうやら、そう上手くはいかないらしい。


 それから家に帰り、父が釣りから戻ってきて夕食を終えると、寝る寸前まで練習は続いたが、両親の心配そうな顔は晴れることなく、不安を拭いきれないまま朝を迎えた。




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