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実質十八、九歳だったけど、幼少時のトラウマというのでしょうか?

 言葉がわからないというのは、ちょっとした恐怖だった。


 自分が生まれ変わったのだと気付いたときには、ここがどこだかもわからず、前世と明らかに人種の違う両親からは、一度も聞いたことのないような言語で話しかけられ、この世界がファンタジーだと理解してからは、ますます混乱して、いつも不安で押しつぶされそうだった。


 だから、必死になって新しい言葉を覚えた。


 父と母のちょっとした仕草や視線に目を見張り、繰り返し会話に出てくる地名や人名は復唱して、一つでも多くの単語や文法を学ぼうとした。


 その甲斐あって、立って歩けるまでにはおおよその会話ができるようになった。


 両親は、うちの息子は天才だと喜び、俺もちょっとした天狗になっていた。


 これって、天才フラグが立ったんじゃね?

 次こそ、女の子にモテモテじゃね?


 しかし、今にして思えば、そこが人生の絶頂期ピークだったと思う。




 四歳になった、ある日のこと。


 居間で父の蔵書を読んでいると、隣の寝室から母の深刻そうな声が聞こえてきた。


 何事かと思い、聞き耳を立てると俺について両親が話し合っていた。


「ねえ、あなた。あの子、やっぱりおかしくない? 滑舌が悪いというか、妙に訛ってるというか……。まだ小さいから仕方ないと思ってたけど、来年は神殿学校に入学するっていうのに治る気配がないし。一度、神殿医院で診てもらったほうがいいんじゃないかしら」


 父は「考えすぎだよ、そのうち良くなるさ」と母を宥めていたが、やがて根負けしたらしく、二人はショックで放心状態にあった俺を引っ張り、神殿医院を訪れた。


 宗教施設ということで「この子には悪魔が取り付いています」とか言われて、お祓いのために鞭で打たれたり、水を浴びせられたりするんじゃないかと不安になったが、杞憂に終わった。


 応対した神官が筒から呼び出したケンタウロスに体を触られたときは怯えたものの、それ以外はいくつかの質問に答えたり、読み書きや計算、積み木を使った検査等、現代日本と変わらない診察行為だったと思う。




 それらを全て終えると、神官はしばらくこの部屋で待つように言い、両親を別室へと案内した。


 そう言われて、おとなしく待っているような子ではなかったので、俺はこっそりと後を付けて神官と両親の会話を盗み聞きした。


「読み書きや、計算等の能力は同年代の子どもより進んでいます。ただ、発音やアクセントに独特の訛があります。全く話せなかったり、遠くの国から来たのならわかりますが、この地で生まれ育ったのにここまで正しい発音が身に付かないというのは、聞いたことのない症例です。何かのきっかけで治ることもあるかもしれませんし、しばらく様子をみてはどうでしょうか」



 まあ、つまりは、よくわからないから当たり障りのないことを言って追い返したのだと思う。


 その後、俺は両親に隠れて発音の練習をしてみたものの、自分では違いがよくわからないまま神殿学校の入学式を迎えた。

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