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変な発音の外タレを笑えなくなりました

 月日は流れ、十三歳になり召還の儀式を明日に控えた俺は、朝から家の畑仕事をしていた。


 小麦畑から雑草を引き抜いていると、屋根の上からカスタネットを小刻みに叩くような音が聞こえてきた。


「おい、うるせーぞ! しずかにしろ!」


 そう怒鳴ってやるが、向こうはこちらを平然と無視してくちばし を鳴らし続けていた。


 多分、あれはシュバシコウだと思う。


 もちろん、こちらの世界では別の名前で呼ばれているが、前世の地球で両親に動物園へ連れて行ってもらったときに見たのと同じ姿をしていた。


 この村では幸運を呼び込む鳥だと信じられているので、追い払われることは滅多にない。


 その為、人を全く恐れずに村のなかを我が物顔で歩き回っている。


 俺はシュバシコウを黙らせるのを諦めて、草むしりに専念した。




 畑仕事を一通り終えると、家に帰って洗濯物を干していた母に報告する。


「かあさん、はたけしごと、おわったよ」

「ご苦労様、次は父さんにお弁当を届けてあげて、湖で今晩の夕食になる鱒を釣ってるから。

 あ、それと。父さんが明日の召還の呪文の練習に付き合ってくれるって」


 またかよ。


 一瞬、そう文句を言いそうになったが、母の悲しそうな顔を見て、思い留まった。


「わかった、いってくる」

「お願いね、今日のお昼はテオの好きなじゃがいものパンケーキを作ってあげるから」




 お弁当を手渡された俺は、川の上流に沿って湖へと向かった。


「あら、誰かと思ったらテオじゃない。気持ちの悪い喋り方は治ったのかしら?」


 湖が見えてきたところで、知り合いに声を掛けられた。


 うわー、嫌な奴に会っちゃったよ。


 そう思いながらも振り返り、作り笑いを浮かべて返事をした。


「やあ、ザーラ。しんでんがっこうの、そつぎょうしきいらいだね。げんきにしてた?」


 俺の態度が面白くなかったらしく、ザーラは端整な顔を少し歪ませ、赤い髪をかきあげながら答えた。


「ええ、おかげさまで。でも、相変わらず、あなたのその気持ち悪い喋り方は治っていないのね。そんなんで、明日の召還の儀式は上手くいくのかしら?」


 俺は、右手に持った弁当箱を頭上に掲げた。


「とうさんに、おべんとうをとどける、ついでに、じゅもんのれんしゅう、みてもらう、よていだよ」

「あら、そう。おかしな息子を持つと、親は苦労するのね」


 これには流石さすが にカチンときたが、すぐに気を取り直し、実際は俺の方がずっと年上、実際は俺の方がずっと年上と心のなかで念仏のように唱えながら気持ちを落ち着かせた。


「ザーラは、しょうかんのじゅもんは、おぼえたの?」

「当たり前じゃない。明日はハンザおじさんみたいにオーガか、それ以上の魔物を呼び出してみせるわ」


 ハンザおじさんとは、この村の英雄で、子どもたちの憧れの人だ。


 俺が、まだ六歳のとき、村が盗賊に襲われたことがあった。


 そのとき、ハンザおじさんは村の大人たちの先頭に立って戦い、ほぼ一人と一匹で盗賊たちを追い払ってしまった。


 その後、村長や村の人たちの薦めもあって、王都で冒険者となり、組合ギルド からの困難な依頼クエスト をいくつもこなしてみせた。


 それから、しばらくしてハンザおじさんの妹が結婚することになると、おじさんはすぐに王都から戻り、冒険で稼いだお金を使って盛大な結婚式を挙げた。


 式では、村の子どもたちは新郎新婦には目もくれずに、ハンザおじさんを取り囲んで、何度も王都での冒険の話をせがんだ。


 そのたびに、おじさんは嫌な顔ひとつせずに、賞金首の盗賊や魔物を倒したり、迷宮を探索して宝物を持ち帰った話を、威張るでもなく何でもないことのように淡々と語り、それを村の子どもたちは目を輝かせて聞き入った。


 それ以来、ほとんどの村の子どもたちは、強い魔物を呼び出して王都へ行き、冒険者になって活躍するのが夢となった。


「おや、こんなところで油を売っておられたのですか。ザーラお嬢様」


 声のした方を振り向くと、そこには背の高い金髪のくせ毛をした少年が立っていた。


 ザーラの取り巻きの一人であるジークだ。


 ジークは神経質そうな細い目でこちらを一瞥すると、ザーラの細い肩を抱き寄せ、彼女の耳元でささや くように、と言っても、俺にも聞こえる程度の声の大きさで、言った。


「さ、行きましょう。こんな男と話し込んで、大事な召喚の儀式を前に、変な訛りをうつされては大変です」


 俺は、病原菌か。


「それも、そうね。でも、なれなれしく触らないでくれる?」


 ザーラは肩に置かれた手を払い除けると、そのまま挨拶もせずに去っていき、ジークもその背中を追いかけて行ってしまった。


 二人の後ろ姿を見送った後、俺は再び湖に向かって歩きながらこの世界では俺だけにしかわからない言葉で呟いた。


「テレビで怪しい日本語を喋る外タレを観ながら、ゲラゲラ笑ってた頃が懐かしい……」



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