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決意

 仕事帰りの人々や買い物を終えた主婦らが夕焼けで赤く染まるなか、俺は広場のベンチに腰掛け、景色を眺めながら溜息をついていた。


 嫌なことがあると溜息をつくのは、前世からの変わらない癖だ。


 心配そうにこちらを見つめているマノンが、声を掛けてきた。


「大丈夫、テオくん? もう随分な時間、座ったままだけど」


「ん? ああ……」


 適当に返事をしながら、前世で仲のよかった従兄弟の中島を思い出していた。


 あいつは神童だった。


 学校のテストで百点以外を取っているのを見たことがなかった。


 中学では進路が別れ、しばらく顔を合わせない日が続いた。久し振りに会ったとき、なんだか元気がなさそうだった。


 どうしたのか尋ねると、


「いや、なに。僕って、自分で思っていた程、頭がよくなかったんだなって中学に入ってから気付いたんだ」


 と、自嘲気味に呟いていた。


 何、言ってんだこいつ、というのがそのときの感想だった。


 今なら、中島の気持ちがわかる。


 きっと公立の小学校で天狗になっていたのを、進学校で自信をへし折られたに違いない。


 帰ろう。


 村の皆にはがっかりされるだろうが、仕方ない。余計な見栄を張って、ハンザおじさんの様になるのは御免被る。


 女の子にモテたいとか、貴族に取り立てられて、沢山の妾を囲うとか、分不相応な夢を見ずに、真面目に畑でも耕していればお嫁さんの一人ぐらい貰えるかもしれない。


 そう決意して立ち上がり――


「えっ! じゃあ、あの娼館で働いている娘って皆、魔物なんですか?」


「しっ! 声が大きいって」


 ふと、どこからか聞こえてきた猥談に耳を澄ます。


「そうか、どうりで可愛い娘しかいないのに料金が安いわけだ」


「しかも、テクだって凄いもんな」


 そこのところを詳しく教えろと、会話している二人を探し出して問い詰めたかったものの、マノンがそばにいるので、はばかられた。


「いやあ、上手いこと考えたよな。魔物なら妊娠や性病の心配もいらないし、給料も払わなくてすむしで、いいことづくめだよな」


「でも、いいんですか? 魔物を娼館で働かせたりなんかして」


「だから、おおっぴらにはできないんだろ」


 うーん、そうか。母からはマノンに手を出してはならないと注意されたし、する気もないが、なかには自分のしもべに、そんなことをさせている奴もいるのか。


「いいなあ、僕も触媒を集めて、二体目のしもべを呼び出そうかな」


「無理じゃないか? よっぽど魔力が高くないと人型の魔物は呼び出せないだろうし、あの娼館のオーナーも怪我で引退するまでは凄腕の冒険者だったらしいぜ」


「残念だなあ。せめて成人の儀式でサキュバスを呼び出せるぐらいの魔力があれば、僕も大儲けできたかもしれないのに」


「俺だったら、娼館なんか開かないで女の子たちを独占しちゃうぜ」


「搾り取られて、骨と皮だけになるんじゃないですか?」


 むしろ本望じゃないか。


 二人の笑い声が遠ざかり、聞こえなくなってからも考えた。


 ここへ来る道すがら手に入れたサラマンダーの爪を、懐から取り出しじっくり眺める。


 どうやら俺の魔力なら、これさえ集めれば、また女の子の姿をしている魔物を呼び出せるかもしれないらしい。


 それなら、冒険者の仕事をこなしながら、いくらでも集めよう。


 そうすれば、ちゃんと子どもの作り方を知っているサキュバスだって呼び出せるかもしれない。


 他にも、ラミアやマーメイドを呼び出せれば、彼女たちの下半身は蛇や魚だけれども、例えばおっぱいとか、他にもおっぱいとか、或いはおっぱいとか、頼めばどうにか触らせてくれるかもしれない。


 ヴァンパイア、ハーピー、アラクネなど、可愛い女の子の姿をした魔物は、いくらでもいる。


 俺は、この世界で魔物ハーレムを作る!


 そう決意し、高笑いする俺を、マノンは不思議そうに見上げていた。

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