現状確認と突然の来訪者
「……おーい、原田さーん大丈夫?」
看護師から心配されながら俺は目が覚めた
…………またあの夢か
ケータイで時計を確認すると7時過ぎ
病院の起床時間を1時間以上寝過ごしていた
「…………はい、大丈夫です……なんとか」
ここは、県の総合病院、その個室で全ての壁紙、家具が白で統一されている。テレビもあったが外してもらった
「そう、なら点滴するから腕を出して下さい」
「……はい」
彼女は俺担当の看護師で、今年度から正式に入社したばかりで新人の華田 亜依さん
同い年の23歳で一人暮らしをしているらしい
外見的にはまだ高校生ぐらいでとにかく小さい
「食事は8時に持ってくるね」
「……いや、いらない」
「……大丈夫ですか?もう5日も食事をとってませんよ?いくら栄養の点滴をしても限界がありますから、いい加減に食べてください!」
(お前は俺の母ちゃんかよ)
こんな感じでちょっとした世話焼きで、よくお母さんみたいに諭してくる
……同い年なのに
「……また、あの夢を見たんですね」
「……えぇ、今回はハッキリ見えました」
女ってどうしてこう核心を突いてくるんだ?入院してまだ1週間も経ってないのに、華田さんは入院初日から俺の異変に気付いていた
「いい加減に松島担当医に診てもらいましょうよ。入院してから寝起きの汗が尋常じゃないんですから」
「……俺は寝汗が多いんだよ」
「それにしては多すぎです!毎日、上着まで汗で濡れる人なんて異常です!」
「……わかっ――」
「その必要は無いわ」
「……優雅さん」
扉を開けて入って来たのは、ここの外科を統括している松島 優雅さん
俺の担当医であり、母さんの妹で俺の叔母になる
因みにまだ未婚、30代で重役を担っている為、相手が見つからないらしい
年齢的にはかなり若々しく、体型はスレンダーだが、髪がかなり長く腰辺りまである
華田さんは横にずれてあたまを下げた。優雅さんは軽く手をあげて「おつかれ」と言うとあたまをあげ、その場に直立不動になった
「……その調子だと、暫くは入院が必要ね」
「……すいません、優雅さん」
「いいのよ、姉さん達が亡くなって気が重くなってるのは私も同じだから……」
先週あった飛行機事故で俺達を乗せた飛行機が墜落し、 死者263人、行方不明者11人、生存者は俺を含むとたったの2人……と優雅さんから聞いた
「あなたは奇跡的に外傷が少ない、緊急手術も上手くいった。でも、精神的には完治からほど遠いわ。少しは食べて元気をつけなさい」
「……重ね重ねすいません」
「いいのよ、赤の他人に任すより身内の方が治療しやすいものなのよ。それに――」
優雅さんが何かいいかけたとき、病室の扉が開いた
「失礼致します、こちらは原田 海谷さんの病室でよろしいですか?」
入って来たのは、スーツを着たダンディーな男性だった
「……どちら様ですか?取材なら病院を通してからとお願いしていますが」
「記者ではございません。私、BUM社代表取締役の三谷 尚輝と申します」
……父さんの会社の人だ。しかも社長ときたか
華田さんは口を手で覆い目を見開いて驚いた。優雅さんも意外な来客に驚いていた
「……原田 海谷なら俺です。何のご用ですか?」
「あなた宛の手紙が、わが社に届きましたのでそれをお渡しに来ました」
そう言って、彼は白い封筒を取りだし俺に渡した
「それでは私はこれで、くれぐれも無理をされないでください。私達もフォローしますので気軽に相談してください」
社長さんは手紙を届けるためだけに来られたみたいで、直ぐに退室された
……俺達は呆気にとられて暫く動けなかった