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06 師匠アルファード

「よう。ガキンチョ。久しぶりだな」


 霧の深い森の中。

 俺は未知との遭遇をしていた。

 さっきまでルアン達とベッドでスヤスヤと寝ていたはずなのに、目が覚めると目の前に知らない男が居て、馴れ馴れしく話しかけてきたのだ。


「誰だ?」

「愛想のねぇガキンチョだな。そこは嘘でも『よ! 久しぶり!』とか言えよ」

「めんどくさい」

「ひでぇ奴だな」


 俺はコミュ障なのに、そんな事は求めないでほしい。

 てか、ここは本当に夢の中なのか?

 それにしては肌に感じる温度や景色が妙にリアルな気がするが。


 それを男に聞くと、少し考えて答えてくれた。


「夢の中じゃねぇよ。ここは俺が魔法で作り出した空間だ」

「魔法でそんな事ができるのか?」

「まぁな」


 どうやらここは男の空間魔法の中らしい。

 空間魔法とは、その名前の通り魔法で空間を作り出すことで、簡単に言うと小さな別世界を作るものだ。


「何でそんな所に俺がいる?」

「そりゃあ、俺が呼び出したからに決まってるだろう?」


 男は当然だろう? という口調で言う。


 いや、当然でもないし迷惑だ。

 今日はペプチドの糞のせいで、身体が疲れきっている。

 やっとの思いで寝付けたと思ったら、目の前に変な男が現れるのだ。

 迷惑この上ない。


 そんな事を思っていると、男は近くにあったベンチへと座った。

 そして、俺の方にも座れと手招きしてきたので、素直に腰を下ろした。


 数分後。


「悪りぃとは思ってる。だから、無視しないでくれ」


 ベンチに座ってから男は色々と話しかけてくるが、俺はその全てを無視している。

 最初は気にせず喋っていた男だったが、俺が返事もしないでいると流石に限界が来たらしい。


 その気持ちはボッチだった俺には痛い程分かるが無視する。

 それ位怒っているのだ。


 あと、話の中で分かったが男はアルファードという名前らしい。

 怒っていても話は聞いてる俺って優しいね。


「分かった」

「本当か!」

「あぁ。でも一つだけ聞きたいことがある」

「なんだ?」

「俺をここに呼び出した理由だ」

「それは……」


 さっきも質問したが上手くかわされ、ちゃんと聞く事が出来なかった。

 アルファードは話したくなさそうだが、俺はには知る権利がある。


 普通に言っても、無理だと分かっているので追い討ちをかける事にする。


「話さないと一生無視するぞ」

「わ、分かった! 話すから無視しないで……」


 アルファードは肩をすくめる。

 さっきの事が相当効いたようだ。

 その気持ち、分かります。


 そして、暫くするとアルファードは深い深呼吸して語りだした。


「俺はな小せぇ時から天才魔法使いと言われていたんだ」


 アルファードの話によると、小さい頃から魔法の才があり、貧しい家の生まれながら一流魔法学校に特待入学できたらしい。

 それからと言うもの学園ではモテモテで成績はトップクラス。

 卒業する時には伝説の魔法使いの生まれ変わりとまで言われたという。


「自慢か?」

「ちげぇよ! ここからが本題だ」


 ここまで聞いていると自慢話にしか聞こえないが、アルファードには次からが大切らしい。


 卒業後、その魔法の才をかわれアルファードは偉い貴族の護衛となった。

 魔法使いとして貴族の護衛とはとても光栄な事で、アルファードも大喜びだったという。

 給料も高いし、福利厚生は充実している。

 これで家族にも楽をさせてやれるのだから当然だろう。


「でも、そんなのは最初だけだった」


 10年ほど勤めた後、アルファードに貴族の当主から命令が下った。

 それが……。


「実験の材料になれ……。今思い出しても、寒気がするぜ」


 当主は昔から実験が大好きで、今までもアルファードの近くにいた友人などが被害にあっていた。

 その時、アルファードは思ったという。

 あぁ……ついに順番がやってきたと。


「拒むことは出来なかったのか?」

「出来ねぇよ。金を貰えるんだ。拒否する理由がねぇ」


 もし失敗したら、それに見合った金を渡すと言われたらしい。

 そして、実験当日。

 当主の不注意でアルファードは……魔力を全て失った。

 当主は約束通り一生楽して暮らせる程の金をくれたが、アルファードは酷く落ち込んでしまったと言う。


 しかし、ここで諦めてしまったら終わりだとアルファードは思い、魔力を使わなくても魔法を使う方法を調べた。

 そして、20年という月日を使い見つける事に成功した。


「魔法陣だ」


 魔法陣。

 それは魔法使いがよく使うもので、自身の魔力で作り出し、魔法を強化するためだけに使うものだ。

 しかし、使われる場合は少なく今となってはその存在を知っているものはごく少数となっている。


 アルファードもそれを知っていたが、古い書物を読み新しい使い方を発見したという。


「まぁ、これは説明するより実際にやって見せた方が早いだろう」


 アルファードはむくっと立ち上がり、手を前に突き出すと、目を閉じた。

 すると、アルファードの手に小さい光の玉が集まり、そこにアルファードの体と同じサイズの円、魔法陣が出現した。


 凄い。

 脳内知識では魔法陣を出現させるのだけでも難しいといわれているのに、こんなサイズの魔法陣を作り出すなんて。


 そんな事を考えていると、アルファードが此方に顔を向け、ニカっと笑ってきた。

 フードで顔の半分くらいが見えないが、多分凄いだろ? という感じだろう。


 ちょっとイラついたので、話を戻す。


「ゴホン! で、それと俺を呼び出した理由と何か関係あるのか?」

「あぁ。あるぜ」


 ここまでアルファードの昔話を淡々と話されただけで、肝心の理由が見えてこない。

 すると、アルファードは驚くべき事を口にした。


「ガキンチョは俺と同じで魔力が無いだろう? だから俺が魔法陣を教えてやろうと思ったんだ」

「は?」


 こいつ今、なんて言った?

 俺に魔力が無い……。

 そんな事はあるはずがない。

 この世界の住人は、少なからず魔力を持って生まれてくるのだ。


 アルファードが嘘を付いてるのではないかと思ったが、そんな素振りは一切ない。

 ただ純粋に俺に魔法陣を教えたいだけのようだ。

 多分、自分が苦労したから同じく魔力が無い俺に楽をして欲しいのだろう。


 魔力に関しては、恐らく閻魔の野郎が俺を転生させる時に失敗したか、忘れていた可能性が高いか。


「どうした? イヤなのか?」


 黙ってある俺を心配になったのか、アルファードが顔を近づけてくる。


 折角、魔力が無い人間が魔法を使える方法があるのだ。

 教えて貰っておいて得する事があっても、損することはないだろう。


 魔力が無いのはショックだが、ここでこのチャンスを逃してはいけない。


「そうじゃない。是非教えてくれ」

「そうか! じゃあ、これから宜しく頼むぜ!」


 俺が了承したのが、嬉かったのかアルファードは飛び上がって、手を伸ばしてきた。


「あぁ」


 俺はその細い手のひらをぎゅっと握りしめた。


 この日を境に俺とアルファードは師匠と弟子の関係になった。


 @


 アルファードとは寝ている時にだけ会うことになり、疲れは回復の魔法陣で取ってくれるという。


 そして、朝。

 今俺は何処にいるかというと。


「うわぁ〜。凄いねレン! 服が一杯だよ!」

「そうだな」


 アリアと一緒にアルトア町の商店街に来ている。

 ルアンからのお使いと、俺の服が少ないからと買っておいでと言われたのだ。

 最初はアモンの古着を貰えればいいと言ったのだが、それは拒否された。


「あんたもいつも古着じゃ嫌だろう? それにレンは家族なんだ。遠慮はいらないよ」


 本当に良い人に巡り会えたと思う。

 あと、何故アリアが一緒にいるかと言うと町の案内兼服選びを手伝って貰うためだ。

 あのパンを作っているアリアのセンスはどうなのかと思ったが、ルアンによるとそれはパンに関する事だけで、他に関してはセンスがいいらしい。


 アリア……どんまい。


「これなんかどうかな?」

「いいと思う」


 商店街に入ってすぐの服屋に入り、アリアと一緒に服選びをしている。

 俺は服に関して前世でも着れればいいと考えていたので、必要な時以外はジャージだった。

 なので、服を選んでくれるアリアにはとても感謝している。


「レンなんか適当に返事をしてない?」

「い、いや。そんな事はない」

「本当かなぁ」


 すいません。

 適当に返事してます。


 これまでアリアは様々な服を持って来ては、俺を着せ替え人形みたいにしているが、どれがいいのか分からない。

 ちなみに、服は前世のものに似ているものが殆どだ。

 無頓着だった俺に分かる程度なので、詳しい事は分からないが。


 そんな事を考えていると、アリアが今までにない程の笑顔を浮かべ走ってきた。

 手には白いワイシャツと黒のTシャツ、チノパンが握られている。


「これが一番レンに似合うと思うの!」

「そうか?」


 確かに良いとは思うが、イマイチ分からない。

 それに今までアリアが持ってきた服はどれも派手だったので、選んだのが意外とシンプルなものだとは驚きだ。


「うん!」

「じゃあ、それにしよう」


 レジで会計を済ませ、次はお使いの品物を買いに行く。

 今日はグラタンのようで、その材料とその他にアリアが使う小麦粉などだ。


 行きつけの店があるという事で行ってみると、店主と交流があるらしくアリアは楽しく雑談をしていた。

 コミュ障の俺には出来ない芸当だ。


「まけてもらった!」

「おぉ」


 しかし、そこは流石ルアンの娘と言うべきか、するべき事はしっかりとしていた。


 後は、帰るだけだが何やら隣でアリアがソワソワしだした。

 気になったので、どうしたのかと聞くと。


「手、繋いでもいい?」


 アリアが恥ずかしそうに顔を赤らめながら、上目遣いで聞いてきた。

 多分、昨日の事がまだ頭の中に残っているのだろう。


 俺だってあの黒服ゴリマッチョ共に追いかけられたのを思い出すと悪寒がする。

 ペプチド許すまじ。


「あぁ」


 俺は少しでも其れが和らぐならと、アリアの手を握った。

 精神は20歳なので、犯罪の様な気がするが身体は同じ年齢だし大丈夫だろう。


 そうだよね?


 アリアの手は小さかったが、暖かく柔かった。

 今考えてみると、女性の手を握ったのは初めてかもしれない。


 こんな手をペプチドには渡したくない。

 俺は再度、アリアを守ろうと決意した。

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