05 ナルシスト貴族と出会い
あと数話くらいで主人公は魔法陣使いになります。
あの問題だけが特殊だったようで他の問題は、90分程で解き終えることができた。
国語は言葉の読み、数学は簡単な計算問題が出て、どれも前世の小学生レベルのものだった。
ここは異世界なので、もしかしたらという気持ちがあっだが、そんなことはないらしい。
さて、次は魔力検査なのだが色々と準備が必要なものらしく、整ったら連絡するのでそれまでは自由行動ということだった。
といっても、学園外に出ることは禁止されているので、出来ても校内見学ぐらいだろう。
「アリアと昼飯でも食うか」
学園に行く前、ルアンから昼に食べなと弁当を渡されている。
これがまた大きな弁当箱で、中身は様々な具材が入った爆弾おにぎりだ。
ルアンらしい大胆な料理だが、味は最高に美味しく家族に大好評らしい。
アリアもお母様のおにぎりはクーラシア国一! と言っていたし、ちょっと楽しみだ。
そんな事を考えていたら、お腹が空いてきたので保護者席に向かう。
すると、アリアのいた所に人混みが出来ていた。
中には試験官もいて、何やら怪訝そうな顔でその状況を見ている。
どうしたのかと、人混みを掻き分けながら進んでいくと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「おぉ! 美しき人よ。ぜひ私と結婚を!」
「え? え?」
アリアがプロポーズされていた。
@
いまいち状況が掴めないので、俺の僅かしないコミュ力を駆使し、隣にいた茶髪の女性に聞いてみると、女性は笑顔で答えてくれた。
今から30分ほど前。
俺がまだテストを受けている時に、その男はズカズカと後ろの扉から入ってきた。
そして、女性の後ろのにいたアリアに突然、聞いていて恥ずかしくなりそうな台詞をはきながら、プロポーズをし始めたという。
「最初は試験官達が止めようとしたのよ? でも相手が悪かったわねぇ」
非常識だ! と保護者席にいた試験管たち数人が止めに入ろうとしたが、その男の正体を知って足を止めた。
実はこの男、この町を治める貴族、パス家当主の息子ペプチドだっだのだ。
この学園の運営費はもちろん国が出しているが、それだけでは足りずその不足分の金をパス家に融資して貰っているらしい。
だから、手出ししようにも気分を損ねたら援助して貰えなくなると試験官たちは思ったようだ。
「そういう事か……」
「あなた助けに行かなくていいの? 確かあの子の友達でしょう?」
「まぁな」
俺が女性と話している間にも、その男は恥ずかしくなるよな言葉で、アリアに愛を囁き続けている。
容姿としては、俺とは比べ物にならないくらい良いもので、キリッとした目とさらりと流れるような金髪が印象的だ。
身につけている衣服も、全て高そうなもので所々に宝石が散りばめられている。
普通だったらモテモテなのだろうが、周りの女性はドン引きしている。
それはアリアを見るペプチドの顔が恐ろしい程に崩れているからだ。
目は血走り、口からはヨダレが垂れて、変質者のような顔になっている。
出来れば近づきたくないが、さっきから俺に気づいたアリアがこちらにウィンクし助けて! サインのようなものを出している。
あんな変態に言い寄られて、迷惑なのだろう。
アリアは俺がこの世界に転生して、最初に出来た友達だし、あんな男にアリアのような美少女は釣り合わない。
たとえイケメンだとしても、あんな変態は許てぃません。
「うーむ」
しかし、助けるといっても策がない。
あのペプチドは貴族らしいし、下手すると怒りをかって、変な事をされるかもしれない。
閻魔が貴族には気をつけろと言っていたぐらいだから、相当ヤバい生き物だろう。
金と欲にまみれてる。
それが俺が貴族に持つイメージだ。
そんな貴族相手にどうするか。
俺では対応しきれないし、ここは脳内知識に頼ることにする。
試験では役に立たなかったが、こういう時の秘密道具だ。
そんな事を考えていると、チャリンと鈴の音がし、都合よくこの状況を打破する知識が頭の中に浮かんだ。
これはイケる!
「おい」
「……」
俺は人混みから抜け、アリアの方へ近づきながら、ペプチドに声をかけた。
しかし、ペプチドはそれを無視しアリアに愛を囁き続ける。
仕方がないので、被害者の方に声をかけた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ! さっきから助けてコールしてるのに、ずっと無視して!」
「……すまん」
やっぱりあれは助けてサインだったらしい。
無視したのではなく、作戦を考えてただけだ! と言おうと思ったが、アリアを助ける事が先決なので、作戦の内容をアリアに小声で伝えた。
「どうだ?」
「うーん」
それを聞いたアリアは何やら不満そうな表情を浮かべた。
気持ちは分かるが、ここは我慢してほしい。
「成功するかな?」
「するさ」
「分かった! レンを信用する!」
そこまで信用されると不安になってくるが、やるしかあるまい。
一応、ここら辺で作戦のおさらいをしておく。
まず、アリアを俺の方に引き寄せる。
ここでペプチドに30ダメージ。
次にもっと俺の方にアリアを引き寄せる。
ここでペプチドに40ダメージ。
そして、止めにこう言い放つのだ。
「アリアは俺の女だ!」
と。
ありきたりな作戦だが、一番効果的な作戦だ。
この国では略奪愛は認められていない。
だから、アリアを俺の女という事にして、ペプチドに諦めさせるのだ。
じゃあ、アリアを引き寄せるはしなくてもいいんじゃないかって?
チッチッチ。
これは俺の個人的な感情で、あのイケメン野郎にイラついたから、見せつけてやりたい!
……のだ。
まぁ、そんなことは置いといて作戦を実行する。
まずはアリアをぐいっと俺の方に引き寄せる。
ちょっとアリアが恥ずかしそうにしていたが、気にしない事にする。
「お前! 私のアリアに何をするのだ!」
俺の行動に夢中で愛を囁いていたペプチドも、流石に反応した。
てか、お前のものではないだろう。
「恋人同士なんだから当然だろう? なぁ、アリア?」
「う、うん」
「なにっ!?」
自分が先程まで愛を囁いていた相手に、男がいることが分かり、予想外だったのかペプチドの顔がさらに崩れた。
「分かったか? こいつは俺の女だ。勝手にちょっかいをかけないでほしい」
「……」
20年間彼女がいなかった俺には恥ずかしすぎる台詞だが、ペプチドに比べればマシだ。
これで諦めてくれると嬉しいのだが、現実はそんなに甘くはなかった。
「ん?」
俺の言葉を聞いたペプチドは顔を能面のようにすると、近くいた執事に何かを耳打ちした。
度々聞こえて来たのは、殺すとかナイフなど物騒な言葉だ。
ヤバいかもしれない。
そして、その予感は的中していた。
暫くすると試験場の中に数十人のゴツい黒服の男たちが入ってきたのだ。
「どうだい? 私自慢の執事達だ」
身長は2mはあるだろうか。
全員、スキンヘッドでサングラスをかけている。
その威圧感は半端なく、近くにいるというだけで、心臓の鼓動が早くなる。
でも、ここでへこたれてはいけない。
俺には脳内知識という、最強兵器があるのだ。
このくらい論破して、切り抜けてやる。
「それがどうした」
「これからこの男たちを使って、アリアを僕の屋敷に連れて行くのだよ」
「それは無理だ。法律で略奪愛は違法だと定められている」
「法律など愛の前では無意味!!」
「え?」
あれ? 俺が思っていた台詞と違う。
ここではペプチドが 「そうだった! すまなかった!」 という所のはずだ。
どうしよう。
想定外の事態に頭が混乱している。
いや、想定はしていたはずだ。
こんな愛の化身みたいな奴が法律に従うはずがないと。
それなのに……。
「レン?」
アリアが心配そうな顔をして、俺の手をギュっと握ってくる。
そうだ……俺はアリアを助ける為に来たのだ。
それを逆に心配されてどうする。
そんな事を思っていると、ペプチドが大きな声で黒服の男達に命令した。
「執事達よ! あの娘を捕まえるのだ! 見事捕まえられたものには、金を沢山やるぞ!」
「「「おーーー!!!」」」
黒服の男達は命令の中の、特に金という言葉に反応して雄叫びをあげた。
そして、ジリジリと此方の方に近づいてくる。
まずい……このままでは捕まってしまう。
「チッ。逃げるぞ!」
「うん!」
そう思った俺は、アリアの手を再び強く握りしめ走り出した。
それと同時に黒服の男達も走り出す。
自慢じゃないが俺は小学校から高校までの体育で、1以外取ったことのないぐらいの運動音痴だ。
だから、直ぐに息切れすると思ったのだが。
「あれ? 疲れない」
驚く程に身体が軽かった。
後ろを振り返ると、黒服の男達が豆粒ほどの大きさに見える。
これが所謂、転生チートというやつだろうか。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
どうにかして、アルトアに戻らなければ。
そんな事を考えながら走っていると、前方のバス停にアルトア行きの魔バスが止まっていた。
これは運がいい。
魔バス内は暴力が禁止されていて、さらに怪しい見た目のものには乗車させないのがルールだったはずだ。
これなら逃げ切れる。
俺は勢いよく魔バスに飛び乗り、空いている席に座った。
暫くして黒服の男達も乗ろうとして来たが、明らかに怪しい姿に運転手に止められ苦い顔をしていた。
ざまあみろ。
その後、無事に魔バスはアルトアへと発進した。
@
帰宅後の夜。
アリアが寝たのを確認してから、俺は今日の出来事をルアンに説明した。
最初は試験問題の話から入って、次にアリアのプロポーズの話へと。
そして、全てを聴き終えたルアンは深いため息を吐いた。
「はぁ〜。またパス家かい」
「またって、どういう事だ?」
「丁度アリアがパーク学園に入った頃くらいからかねぇ。こんな事が度々あるんだよ」
ルアンの話によると、最初はアリアがパーク学園に入学した初日。
帰って来たアリアが泣きついてきたのだという。
「そりゃもう、凄い泣きっぷりでねぇ。私が怒った時でもあんなには泣かなかったよ」
それで気になったルアンは、理由をアリアに聞いたそうだが、答えてくれなかった。
そして、一週間後。
その理由は明らかになった。
朝。
ルアンが店の準備をしていると家のチャイムが鳴り、出るとそこにいたのはパス家当主のリフリート・パスだった。
金髪オールバックの眼鏡イケメンで、その浮世離れした姿にルアンは一瞬目を奪われたらしい。
「まぁ、父ちゃんの方が断然かっこ良かったけどね」
それからちょっとルアン夫婦のノロケ話に脱線してしまったので割愛。
そのクフリートが来た理由は、なんとアリアを息子の嫁に欲しいという事だった。
ルアンはそれを聞いて目をパチクリさせた。
そりゃそうだろう、街を収める大貴族の嫁になれるなんて、平民にはとても名誉な事なのだ。
でも、ルアンはその要求に顔を縦に振らなかった。
何故か?
それはルアン自体が恋愛結婚だという事もあるし、クフリートの言動が気に入らなかったのだ。
「私の家と親戚なれば金が手に入る。悪い話ではないのではないか?」
要約するすると、「金で娘を売れ!」という事。
これに対して、ルアンは激怒した。
「私の娘は売り物じゃない!」
その後は自分でも覚えていないらしく、気付いた時には店がグチャグチャになっていたという。
「それからというもの、アリアが学園にいると息子のペプチドがちょっかいをかけてくるようになってねぇ」
「迷惑な話だな」
「でも今回は助かったよ。ありがとうねレン」
「あぁ」
ルアンは感謝してくれたが、俺はそんな褒められた事はしていない。
脳内知識に頼ったあげく、それで立てた作戦を失敗させてアリアを危険にさらしてしまったのだ。
こんなに情けない事はない。
それからはルアンと今後についての話をし、パーク学園はやめて更に隣町の学園に行く事になった。
アリアも一緒だ。
試験は来月なので、それまでは勉強をしながらゆっくりしよう。
寝る前に紅茶を一杯飲んで、ベッドに入った。
@
目がさめると、霧が深い森の中にいた。
そのため、周りにある物は一切見えずただぽつんとその中に俺は立っている。
そして、暫くボーとしていると黒い人影がこちらの方に近づいてきた。
「よう。ガキンチョ。久しぶりだな」
話しかけて来たのは、細い体にローブ顔を隠すようにしてフードを被った野太い声の男だった。
てか、初対面でガキンチョとか言うなよ。