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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
出会い
9/49

2-6 目撃ノ妖怪……?

三話目です、いよいよ色々と忙しくなってきました。しかし今後から思いもよらない流れになっていきます……なぜでしょうね。

 山を下り、ようやくコンビニを発見した。普通に歩いて下りたら多分3時間くらい掛かるが、俺はあくまで直線で下りたため1時間程度だ。

 コンビニの冷房が俺の汗に当たり余分な体温を奪っていく。で、涼しくなって冷静になって考えたんだが――――俺、今は金の持ち合わせがないんだよな……。


 うーん、どうしようかな。俺は黎と違って魔法とか使えないしな……。かといって、今帰ると俺の移動が徒労に終わってしまう。

 ……こうなれば仕方ないな。とりあえず、429円の蕎麦を二つ手に取る。


「いらっしゃいませー。こちらお箸はお付け致しますか?」

「お願いします」

「……はい、こちら千円からお預かり致します。142円のお返しです。ありがとうございましたー」


 ビニール袋を持ってコンビニを出る。自動ドアが開くと、一気にむわっと体感気温が上がった。俺は夏のこういう所が嫌いだね。


『……あれ? ウソッ、オレの千円ねぇ! やっば、どっかで落としたか!?』

『何やってんだよ~』


 店内からそんな声が聞こえてきた。まったく、白昼堂々スリなんて治安が悪いな。こんな治安の悪いところは早々に立ち去り、とっとと黎の所に帰還するとしよう。





 ★☆★☆★☆





「しーくん!」

 バーベキューを終え、薪割りもあらかた終えた頃

 ようやく暑い暑い労働から解放され、休憩している俺の背後から葉城、鎌月の二人が現れた

 鎌月はいつもと同じ無表情だが、葉城はどこか興奮した面持ちだ

「どうした?」

「さっきね! 天狗を見たんだよ!」

「は……?」

 て、天狗……?

 天狗といえば日本の山に出没すると言われている妖怪か

 赤い顔に伸びた鼻でよく描かれているが、実際そんなことはないとか色々言われている

 空を自由に飛べるとか、風を操れるとか、能力はその地方の伝承ごとに違う

 が、それは当然フィクションだ

 妖怪なんてものがこの世に存在するはずがない

「本当です。わたしも見ました」

「WHAT!?」

 バ、バカな

 葉城は見た目及び内面がほぼ小学生、そういう事で騒ぎもするだろう

 だが鎌月は違うはずだ

 確かに百合だったり思考回路に問題はあるが、あくまで常識人

 鎌月までそんなことを言い出すなんて、二人とも暑さでやられてしまったのか?

「なんかね、黒い半袖のTシャツに、若草色のハーフパンツ姿だったよ」

「随分ラフだな天狗!」

「ヒノキの幹を蹴って飛んでいました」

「……ほ、他に特徴は?」

「さぁ……見えたのは一瞬だったので」

「こんなとき鷹宮先輩がいたらな……」

 鷹宮先輩はイーグル・アイの持ち主だ

 もしこの現場に居合わせていたら、その天狗とやらの正体も解っただろう

 ……いや、ちょっと待て

 何で俺は「いる」前提で話してるんだ!?

「ちょ、ちょっとその話詳しく聞かせてもらえないかな」

 割って入ってきたのは四ツ谷少年

 こういう話が好きなんだろうか……という割には、あまり楽しそうな表情ではない

「わたし達がお散歩してたら、ヒノキの幹を蹴って飛んでる天狗がいたんだよ!」

「…………」

「大丈夫ですか?あまり顔色がよくありませんが」

「……いや、大丈夫です」

「でね!多分この近くにいるから、皆で探そーよ!」

 …………

 言うまいと思っていたが、言わねばなるまい

「あのな、葉城――――」

「それは止めた方が良いと思うよ~」

 !?

 い、いつの間に背後に……!

 後ろから話に入ってきたのは、先程の怪しげな彼らの先輩、黄泉という人だった

「え~、なんで?」

「天狗は人を惑わして連れ去って、場合によっては殺して食うこともあるから、皆で探したりしたら一人ずつ消えていって……全滅するだろうね」

「ひっ……」

「ちょっと零奈さん!」

「はっはっは、冗談だよ冗談。……でも、探すのは本当に止めた方が良いよ。キャンプ場の周りは入り組んでるから、迷子になっちゃうからね」

 そこまで言われて、葉城はようやく(不満そうだが)諦めたようだ

「……彼とは多分、まだ会わない方が良いしね……」

「……零奈さん? 天狗ってまさか、さっきの話と関係――」

「いや、見間違いだよ。妖怪じゃない」

 四ツ谷君と黄泉さんは何やら怪しげな会話をしている

 気にならない訳じゃないが、突っ込んで聞くのは野暮だろう……





 ★☆★☆★☆





 いや~、予想外に早く着いたな。ヒノキを利用して某忍者漫画風に移動したのが吉と出たようだ。

 さて、往復で約2時間、現在時刻は1409時、何とか8号ロッジに帰ってこれた。疲れたし暑い、とっとと扇風機で涼むとしよう。


「……空也さん」

「ん?」

「帰ってくるとき、どうやって移動してました?」

「え、ヒノキを蹴って……」

「それ、目撃されて騒ぎになってますよ……天狗だとかなんとか……。まったく、私達は今回はできる限り隠れて仕事をしなきゃならないんですよ」

「…………」


 マ、マジか……。ま、まぁ、過ぎたことをグダグダ言っても仕方ないな、うん。


「まぁ、とりあえず蕎麦を食おう」

「あ、はい……」


 黎は案外大人しく引き下がった。お腹が空いてたんだろうか……黎かわいい。

 このタイプのコンビニ蕎麦は、二つの皿が合わさってできている。片方に蕎麦、もう片方に蕎麦つゆを入れ、それに付けて食べる……まぁ俺は直でぶっかけるけど。

 黎は正座してお行儀よく食べている。可愛い。……可愛いけど、つゆにぶち込んだわさびの量はまったく可愛くないな……。

 何だあれ、つゆの色変わるくらいわさび入れてないか? ていうか付属のわさびそんなに無かっただろ、自前のわさびかよ。何で持ち歩いてんの。


「……どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


 …………。

 暫く無言で食い続け、俺は5分で食い終わった。……黎はまだ半分くらいしか食べていない。暇だな。PSPでも持ってくれば良かったか。

 さらに5分後に黎が食べ終わった。相変わらず無言のまま、つゆを水道に流し、ゴミを回収してビニール袋に入れていく。

 別に仲が悪い訳じゃない、むしろ一般より遥かに良いと自負している。だからこそ、沈黙が怖くないんだ。家族だしな。


「……足、疲れましたね」

「ああ……山道を歩いたからな。黎には若干キツかったか」

「は、はい……」

「よし、ちょっと足のマッサージをしてあげよう」

「ありがとうございます」


 黎は脚を伸ばす。……肌白いな~、かわいい。……足柔らかいな~、かわいい、舐めたい。っと、そんなことじゃなかった。マッサージマッサージ……。


「……痛だだだだだだだ! ちょ、空也さん、待、痛い痛い! 痛たた!」

「足柔らかいのにやたらと凝ってますねお客さん」

「い、痛い痛い、待って、ホントに、待ってって痛たたたたたたたた! は、離して!」


 仕方ないので手を離す。黎は涙目になっている……かわいい。もっとやりたい。


「も、ちょっと力加減、してください……」

「お客さん肺が弱いんですね。あと胃腸も」


 とても小学生とは思えない足の凝り方だ。……これは何としてでもほぐさなければなるまい。使命感と欲望に基づいて、再び黎の足を掴む。


「ちょ、ちょっと、空也さん……?


 ――――痛っ! ちょ、力加減してって、痛たた痛たたたたたた!」


 仕事の件も片付きそうだし、実に平和だなぁ。

うむ、大義であった。


豆知識:永久院さんは一発で変換できないので書くのが難儀です。

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