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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
出会い
8/49

2-5 疑惑の合宿

こんにちは、蒼峰です。

今回は肩の力を抜いて書いた回になっています。

 夏織と赤木さんの料理対決が終わっても、まだまだバーベキューは続く。

 正直、夏織と赤木さんの料理の上手さには驚いた。夏織はともかく、赤木さんがあそこまで美味しい焼きそばを作る事が出来るだなんて、失礼だが微塵も予想していなかった。結果は引き分けに終わったが、二人共本当に甲骨つけがたい出来だった。


「ん? 鈴音何か食べるか?」

「うん」

 そして今、僕は肉やら野菜やらの食材を焼いている。さっきの料理対決で審査員をしていたせいで割とお腹が膨れてしまったので、少しの間こうして休憩を取っていると言う訳だ。

 少し離れたところでは五十嵐さんが文句を言いながらもひたすらトウモロコシを焼いている。先ほど最初に焼いていた分が出来上がったのだが、どうやら追加注文をされたらしい。やった事がある人なら分かると思うが、トウモロコシを焼くのはなかなか面倒な作業だ。それを料理対決の頃からずっとやってくれている五十嵐さんには、後でお礼を言っておかねば。


 僕の方に皿を持ってやってきた鈴音に適当に肉や野菜を取ってやると、鈴音はお礼を言って目の前でそれを食べ始めた。表情が変わらないため、美味しいと思ってくれているのかは分かりにくいが、何となく鈴音が何を考えているのかが分かり始めてきた。早くも合宿の成果が出てきているのだろうか。多分、ちょっと焦げ過ぎていると思っているんじゃないだろうか。


「ほら、これはそんなに焦げてないぞ」

「ん、ありがと」

 何だか餌付けをしている様な気分になってくる。改めて見ると、鈴音はやっぱり可愛いと思う。

「鈴音、この辺り焼き上がったから、皆に配って来てくれないか?」

「了解」

 鈴音は沢山の食料を持って皆の元へと戻っていった。


「……それにしても、零奈さんは一体どこに行ったんだか」

「戒都くん焼くの結構上手いねー! じゃんじゃん焼いてね!」

「………………いつの間に戻ってきてたんですか?」

 気が付くと僕の隣には、僕が焼いていた肉を美味しそうに食べている零奈さんが現れていた。

「ついさっきだよ。ちょーっとその辺を散歩してる間に、わたしを置いてバーベキュー始めるなんて酷いじゃないの」

「仕方ないじゃないですか。零奈さん戻ってくる気配も見せないし」

 僕と零奈さんが会話をしているのに気付いたのか、赤木さんがこちらにやってきた。そういえば彼にまだ零奈さんの事を紹介していない。この場を借りて紹介をさせてもらいたいところだ。


「そちらさんが、さっき言ってた三年生の先輩?」

「ええ、そうで――――」

「わたしがこの子達の先輩、黄泉零奈ですよー! よろしく少年!」

 僕の発言に、食い気味に自己紹介を被せてきた零奈さん。相変わらず自己主張が激しいと言うか、何と言うか……。赤木さんも彼女の勢いに若干押されている様子だ。

「は、はじめまして。俺は赤木導です。今日から暫くの間、SVTと言うボランティアチームでこのキャンプ場の手伝いをする事になりましたので、少しの間よろしくお願いします」

「ほほう、あの子達がメンバーなのかな? なかなか珍しい事をやってるんだねぇ」

 零奈さんはひとしきりSVTメンバーの顔を確認すると、赤木さんの顔を見つめてにやりと笑った。


「ふうん……。君達全員、唯の一般人とは言い難いね。……特別な力もない普通の人間だけど、なかなか面白いかも。使える、かな?」

 後半は零奈さんが急に小声でぼそぼそと喋り出したため、何を言っていたのかは分からなかったが、前半部分はしっかりと聞き取れた。唯の一般人とは言い難い、と言っていたみたいだがどういう事だろうか。まさか僕達のような怪奇絡み――なんて事はないだろう。その手の連中は、目の前に立たれれば何となく解るものだ。


 零奈さんの意味深な発言に、赤木さんは苦笑いで返している。彼等が普通の人間である事自体は間違いないと思うのだが、この反応から察するに何か隠しているのか?

 例えば、SVTというチームは唯のボランティアチームではない、とか。彼等の身体能力や技術力は、ボランティアをするだけなら必要がないのではと、僕も思ってはいた。

 でもまぁ、僕の深読みだろう。零奈さんの発言自体は気になるところだが、彼等が僕達にとって危険な存在だとは考えにくい。単に変わった人達というだけだろう。


「零奈さん。初対面の人相手にそんなこと言っちゃ失礼でしょうに」

「ふふ、ごめんね。ちょっと良い事があってテンション上がってたんだよね。気を悪くしたなら謝るよ、赤木くん」

「い、いえ。お気になさらず」

 零奈さんの発言でこの場に漂い始めた変な空気を絶ち切るため、僕が会話に割り込んだんだところ、零奈さんは赤木さんに一言謝った後にアニメの悪役のようにニヤニヤと笑い始めた。謝られた赤木さんも少し引いている。

 ぶ、不気味だ……。

 別行動を取っていた間に、何か悪巧みをしてきたに違いない。今回は何が起こるのか。今の内から不安で僕の胸はいっぱいだ。それだけで胸やけしそうなほどに。


「赤木ぃぃぃいいい!! てめぇ、話してる暇があんならいい加減俺と変わりやがれ!」

 その時、この空気を吹き飛ばす五十嵐さんの声が響いた。未だにトウモロコシを焼いていたらしい五十嵐さんが、遂に痺れを切らした様子だ。今の話の流れを、偶然にしても見事に絶ち切ってくれた五十嵐さんには感謝をせねば。

「仕方ないな……。分かったよ! 二人共、悪いけど席外すよ」

「い、いえ! お気になさらず」

「焼き終わったら一本くださいな!」

 赤木さんを見送った僕達。僕はすぐに零奈さんを疑いの目で見つめた。


「零奈さん。何処か行ってた間に何を企んできたんですか?」

「んー? 何の事かな」

「とぼけないでくださいよ……。そもそも今回の合宿にここを選んだのにも、何か理由があるんでしょう?」

「……どうかなー?」

 明らかに怪しい反応。そもそも隠す気もないのだろう。間違いなくこの合宿の裏には何かがある。僕の直感は零奈さんのあからさまな反応で確信に変わった。

 ……まさか赤木さん達を巻き込もうなんて事は考えていないよな?

 流石にそれはないと信じたいところだが、彼女の事だ。全く読めない。合宿中は注意深く零奈さんの事を監視しておくべきだろうか。


「……あれ? 零奈さん昨日までそんなストラップ付けてましたっけ?」

 ふと目線を下に落とした時に見えた、零奈さんのスカートのポケットから覗く毛玉のストラップ。恐らく零奈さんのスマフォに付けられている物だと思うが、昨日零奈さんと合宿の打ち合わせをした時にはそんな物は付いていなかった筈。あの後帰ってから新しく取り付けたのだろうか。

 こんなどうでもいい事に何を反応しているのかと思われるかもしれないが、何だかそのストラップを何処かで見た事がある様な気がしたので気になってしまった。

「う、うん。昨日帰り道で売ってるのを見つけて、可愛かったから買っちゃった!」

 何故だか非常に動揺をした様子で答えた零奈さん。普段そういうところを見せないだけにそれが逆に怪しかったりもするのだが、彼女がわざと動揺した振りをした訳ではないのなら、あの毛玉ストラップには何か秘密があると言う事に……。


「……今それ動きませんでしたか?」

 一瞬、毛玉が跳ねた様に見えたのだが……。

「!? き、気のせいでだよ!」

 必死で誤魔化そうとしながら、零奈さんはストラップをポケットの中にねじ込んでしまった。

 …………確信した。

 あの毛玉には何かある。恐らく今回の合宿で零奈さんが行おうとしている事に大きく関係してくる何かが。

「そ、それじゃーわたしはトウモロコシ貰ってくるね! 戒都くんは引き続き頑張って!」

 そう言うと零奈さんは脱兎の如く走りだし、向こうでトウモロコシを焼く赤木さんの元へ逃げていった。


「……どうしたもんか」

 静かになった僕の周り。僕は相変わらず火の番を続けながら無意識の内に呟いた。

(今回の合宿。絶対に何かあるとは思っていたけど、こいつはもしかすると、かなりの大事があるんじゃないのか……?)

 それこそ、僕が七不思議の統括者になってから一番の大問題が――――。

 頭が痛くなる思いだったが、今更何を言っても仕方がない。この合宿が決まった時から――いや、七不思議の統括者に任命され、怪奇と共に生活をしていく事になったその時から、様々なトラブルに巻き込まれていくだろうと覚悟していた事だ。


 問題なのは、それをどう乗り越えていくか。何が起こるのかも不明な現状では、何か手を打つ事も不可能だが、そういった心構えをしておく事ぐらいは出来る。何時、何が起きようとも冷静に事を見据えていこう。僕は七不思議の統括者。彼等のリーダーなのだから。

 覚悟を決めた僕の鼻腔を、芳ばしい肉の香りがくすぐる。焼いていた肉がそろそろ良い頃合いの様だ。食欲をそそる匂いを長々と嗅いでいたせいか、先ほどまで少々満腹だった僕にも再び食欲が湧いてきた。

 僕は一切れ肉を摘まんで、それを口の中に放る。

「うん。やっぱり美味いな」

 この一切れで、今日は頑張っていけそうな気がした。

読了お疲れ様です。そして再びこんにちは、蒼峰です。


さて、今回の話はいかがでしたでしょうか?

前回の永久院さんに引き続き、バーベキューの場面でのんびりとした雰囲気の回だったのではないかと思います。

ですが、そんな空気を強引に捻じ曲げていくのが黄泉零奈と言うキャラであります。

何やら一騒動ありそうな予感がしてきたのではないでしょうか。

えぇ、そうです。全編通してこんなほのぼのとしたコラボ作品になんてならないのです。

書き進めている中で僕達も、完全に予想外の方向に進んでいったんですけどね。

アドリブにアドリブを重ねていく今回のコラボ。

まだまだ続いていくのでよろしくお願いします。


それでは次の久露埜さんにバトンタッチしましょう。

よろしくお願いします!

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