2-4 友食〜ゆうしょく〜
こんにちわ、永久院です 今回は作中でも特に力を入れたシーンのトップスリーに入りますでは、どうぞ
「しーくん。お腹減ったー」
「そうだな……そろそろ飯にするか」
現在時刻を腕時計で確認、昼を若干過ぎたところだ。
薪割りをしていたら隊員の一人である葉城から空腹を訴えられた。
うむ……。
実は、先程、俺は五十嵐と薪割り勝負(?)をやっていたのだが、その途中に流れ弾(薪)を近づいていた民間人の少年に誤射してしまった。
SVTは社会奉仕を目的とする団体だ。
人の迷惑になることは禁止。傷つけるなど言語道断だ。
結構きれいにヒットしてしまったらしく、気絶をした。
急いで回復体位にしたため、すぐに回復したのだが、SVT云々以前に常識として、俺たちは謝った。
そしたら……。
「赤木さん、こんな感じですか?」
隣で切った丸太の上に木を置いて、薪割りをやってる少年が俺に声をかけてきた。
そう、これだ。
なんだか知らないけど、この少年、薪割りを手伝ってくるといった。
気絶させたのに……まさか、その時に頭が逝ったか……?
あ、そうそう。
この少年の名は、四ツ谷 戒都とか言うらしい
先程、俺がテントを作り終えてから見た集団の一人だ。
集団は俺の見た通り八人組だったのだが、どうやら一人は席をはずしているらしい。
滞在目的はキャンプとか言ってるし、たぶん一人は管理人さんと話に行っているのか、あるいは周辺の散策でもしているのだろう。
「赤木さん?」
「あ、すまないね。少し、考え事をしていた。段々馴れてきて力加減もよくなったね」
少年の連れ添いの人たちも薪割りをやっているのだが、彼らもなかなかうまかった。
普通の高校生では生の木に触れて、ナタを振って薪割りをするなんて事はほとんどないからな。楽しそうにやっている。
高校一年生か……去年の俺はなにやってたっけな……。
ブルロロロロロロン!!
「……!?」
そんなことを考えていると、背後から突如エンジン音が聞こえて、咄嗟に手に持ってたヒノキを構えながら振り返る――。
ギュイイイイイイン!
「何が起きているううううううううう!?」
「赤木さん。ナナちゃんが空腹だと言っているのです」
俺の背後にはキレている鎌月がチェーンソーを降り下ろして攻撃してきている!
正直ヤバい!
「食事にしないのであればあなたを切り刻んでバーベキューのお肉にします」
「やめろ!は、話せばわかる!」
今はリミッターがかかっているようで、ヒノキは耐えているが、先程より細い上に上からの攻撃、長くはもたない。
ジェイソンと化した鎌月に手加減はない。
俺に求められる最善の答えは――。
「よし!飯にしよう!」
ジュウウウウウ。
はい。
昼御飯にしました。
バーベキューです。
あと少しで肉料理の量が増やされてしまうところだったので、空腹の狼に食いちぎられるまえに腹をふくれさせてやることになった。
今思ったら、俺や五十嵐は今まで訓練を積み重ねてきていて、疲れにくいんだよな。
四ツ谷君とかはもう空腹だったかも知れないな。
……もしかして、鎌月のやつそれも悟って俺を急かしてきた……?
ところで。
俺は現在、炭火で焼きトウモロコシを作らされている。
「……」
トウモロコシは火が通りにくく、かといって置きっぱなしにしていると糖分が多いためすぐに焦げてしまう。
炭火の遠赤外線でじっくりと火を通し、仕上げに醤油を塗る必要がある。
つまり、とても時間がかかる面倒な役回りだ。
これを命令してきたのは鎌月。
もはや俺には抵抗の余地は無く、今は灼熱の火に向かい、直射日光を受けながら加熱している。
「…………暑い」
動いていれば多少の暑さは誤魔化せる。それは暑いものだと受け入れられる。
だが、この炎天下。
石が吸収した熱を放出し、前からは遠赤外線が容赦なく俺を襲う。
暑いんだが、逃げられない。
……ポタッ。
ジュッ。
「……!」
俺の頬を伝った汗が焼け石に落下し、一瞬で蒸発した。
焼け石に汗。
これを見たら冷や汗が増加するんだが。
「赤木さん。焼きそばもって来ましたよ」
俺の背筋が凍りついていると、後ろから声をかけられた。
「あぁ、君は……」
「杉原夏織ですよ」
「そうだったね」
清楚系美少女。杉原さんだ。
「ありがとう。もらうよ」
「どうぞ」
紙皿にのせられた焼きそばと割り箸を受け取り、トウモロコシを見つつ頬張る――。
もぐ。
「……!」
ま、待てよ……!?
これはまさか……。
俺は自らの味蕾が感知した味に困惑し、もう一口食べる――。
もぐ。
「こ、これ……!」
間違いない。
この焼きそばは焼きそばソースの味付けではない。
いや、普通の人間なら焼きそばソースの味にしか気づかないかもしれないが、俺は気づける。
この焼きそばは、信州味噌で炒めた野菜を混ぜている。
信州味噌はその甘味が特徴で、キュウリなどを切って塗って食べたりするのも乙だ。
味噌そのものの甘味のほか、塩味も含んでいて、野菜そのものの味を引き立てる――。
「うまい!杉原さん、これを作ったのは誰!?」
聞かずにはいられない。
ここまで素材の味と調味料のバランスを考えられる人間がいたなんて――。
「それ、私がつくったんですよ」
「杉原さんが!?」
完璧系だとは思っていたが……まさかここまで美味しい料理を作るとは。
「これ、美味しいよ。野菜を炒めるときに信州味噌を入れたね?」
「よく気づきましたね。他の人は気づかなかったのですが……」
俺をなめてもらっては困る。
SVTは記憶力を必要とするのだ。杉原さんの名前をすぐには思い出せなかったが、辛うじて忘れてはいなかった。
俺の場合、他の隊員よりも食事にこだわっているため、調味料等の味も記憶している。
「赤木さん。料理得意なんですか?」
「ん?ああ、好きなんだよ。得意かどうかと言われると微妙だけど」
俺が感動しながら頬張っていると、杉原さんがこちらを試すような目で見ながら質問をしてきた。
「では、わたしと勝負しませんか?」
「……」
ん?
「勝負!?」
「はい。料理が好きな方なら料理に愛を込めれますし、愛情は最高のスパイスと言いますし。赤木さんの料理はさぞ美味しいでしょう」
「ちょ、ちょっと待って!」
なんの威圧だ?
この勝負、乗るような義理は一切無いが、乗らないといけない空気だ。
「赤木さん」
これ……逃げれそうにないな。
では、仕方ない。
「そうだね。勝負しようか」
さて、時は若干進む。
「制限時間は15分。あるものはなんでも使っていい美味しい焼きそばを作った方が勝ちだ。なお、審査員は四ツ谷戒都と、わたし、冴崎美咲だ」
灼熱のフィールドに、俺と杉原さんは対峙する。
料理は、焼きそば。
制限時間は15分。
審査員は身内びいき等、ないとは思うが一応それぞれの親密な人間を選んだ。
「赤木ぃい!てめぇ、俺に仕事おしつけてんだから負けんじゃねえぞ!」
後ろで叫んでいる五十嵐には俺がいない間に完成するであろう焼きトウモロコシの調理を頼んでいる。
料理対決は杉原さんからのオーダーと言うことで鎌月も俺が調理から外れることを許可してくれたし。
さて、五十嵐の犠牲を無駄にしないためにも俺は心して戦わなければならない。
「料理上手かったんだな……いや、確かになんでもできるとは思ってたけど」
四ツ谷君も杉原さんの料理の上手さには驚いているようだが、ここからは勝負の域。さらなる美味しさを極めあうことになるだろう。
「両者、相手の妨害はせず正々堂々と戦うこと」
冴崎が締め括り、腕時計を見つつ右手をあげて息を吸う――。
来るッ!
「スタート!」
「……!」
俺は先ずはまな板の上で野菜を切ることから始める。
焼きそばはまず最初に野菜を炒めて、その次に肉、最後に麺を入れるのがテンプレートだ。
人参を細く切ってさっそく鉄板に投下。
その次にピーマンの刻みを投下し、順調に炒める。
家とは違い、温度は一定なので調理の手順を間違えると大変なことになる。
「っしゃっ!」
俺は刻み終えたキャベツと、袋から出したモヤシを鉄板に置く。
ここで、俺は黒っぽい〝ある調味料〟を加える。
……ふっ。
はっきり言って、これが切り札になる。
これだけで普通の焼きそばよりもグッと美味しくなるのだが、相手はなにぶん信州味噌で味付けした野菜の美味しさを知っている人間。
油断はできない。
まだまだ改良する。
二丁のヘラで人参、モヤシ等の野菜を混ぜる。
黒い調味料が全体的に馴染んだところで、豚肉を投下。
いや、豚肉だけではない。
豚肉と同じタイミングで麺も投下する。
野菜の上に肉が置かれ、さらにその上に麺が敷かれる。
「少し放置だな」
俺は若干鉄板を放置し、その間に赤い缶に入った〝ある調味料〟を小皿にだし、水でとく。
指につけて味見をしたら、麺の上にまんべんなくかける。
すると、鶏ガラのようないい香りがして、俺の計算の裏付けとなる――。
さらに数十秒放置してから、今度は急いでヘラで混ぜる。
もわっ。
「うまくいってるな」
今でた水蒸気は俺の計算がうまくいってる証拠だ。
豚肉は、野菜から出る蒸気によって火を通した。
麺は後からかけ調味料で、蒸した状態になる。
つまり、蒸し焼き調理だ。
蓋があればもっとうまくできたのだが、なかったので数段の層にして調理をした。
混ぜることによって後からいれた調味料が全体に行き届く――。
「そこまで!」
冴崎の声が聞こえて、勝負は終了する。
俺は手を布巾で拭きつつ杉原さんの方向を見る。
「……」
無言だが、自信ありげな表情をしている。
一瞬こちらと目があった気がするが、言葉は交わさない。
何故なら、まだ勝負は終わったわけではないから。
「どうぞ」
杉原さんが紙皿にのせられた焼きそばを審査員の二人に提供する。
「ん?これは……」
「なんかすごいね……」
審査員の両者も見ただけでわかる『凄さ』。
麺が完全に固まっているのだ。
「では、こちらを」
杉原さんはさらに手に持った小さなフライパンの中身をその固まった麺にかけた。
片栗粉でとろみがつけられたあんかけをかけて食べる焼きそば。
「どうぞ、あんかけ焼きそばです」
「「おぉ……」」
審査員二人も困惑する。
ソース焼きそばを作って勝負するのかと思っていたのに、出されたのはあんかけ焼きそばだ。
俺も困惑するけどな。
いや……あの短時間でよくあの固まった麺を用意できたよな……。
熱した油でもかけたのか何なのかはわからないが、口出しは無用だ。
「「いただきます」」
審査員は箸であんかけ焼きそばを恐る恐る口にする——。
「「……!!」」
二人の目が輝いた。
「美味しいな!」
「なんだこの美味しさ……!?」
「あんは、味噌と塩麹で味付けをして落ち着きのある味にした他、野菜は信州味噌で炒める事でうまみを引き出しました」
和風か……。
これは美味しいんだろうな……。
だが、俺も負ける気は無い。
「そろそろ俺の料理もだしていいか?」
「あぁ、そうだな」
俺は冴崎に伺いをたてて、自分の焼きそばを提供する。
「ん?」
「これって……」
フッ、俺が普通のソース焼きそばなんかで挑むとでも思ったか……!
「中華風塩焼きそばだ」
ソース焼きそばは先ほども杉原さんが作っていたため、他の人は食べていると思う。
つまり、同じソース焼きそばで高得点を狙うのは難しい。
だから俺は、あえて路線を少し変えた塩焼きそばを作ったのだ。
「食べてみろ」
「そうだな……いただきます」
「いただきます」
冴崎と四ツ谷君が塩焼きそばを口に運び、咀嚼。
「……!」
「野菜がおいしい……!」
信州味噌で野菜を炒めるとかなり美味しくできる。
だが、あんかけにしたりソースと混ぜたりすると一般人にはその美味しさは伝わりにくくなる。
俺は、信州味噌よりもインパクトのある調味料で対抗した。
「野菜に、コクがあります。赤木さん、何か隠し味でも入っているの?」
「野菜を炒める段階で甜麺醤をいれたんだ」
そう、あの黒い調味料だ。
これは小麦粉などから作られていて、口の中で甘みに変わる。
つまり、野菜に甘みをくわえれるのだ。
炒める時に入れる事でコクを増して、風味を若干変える事ができる甜麺醤は、その漢字の並びからもわかると思うが、『麺』にも合う。
本場中国では『炸醤麺』と呼ばれる料理があり、その料理にも使われている。
いや、ジャージャー麺って言った方が実感がわくか。
「麺も味がしっかりついているし……野菜のうまみは甜麺醤だけじゃない。どうなっているんだ?」
冴崎に聞かれたので応えよう。
「麺の味付けは味覇を使ったんだ。水で溶いて、混ぜた」
「なるほどな……」
赤い缶に入った調味料。
あれは味覇と言い、その道の人からは『万能調味料』とも呼ばれている。
味覇は、中国四千年の歴史を詰め込んだ調味料。いわば、中華料理の頂点の味だ。
「鶏ガラやニラのコクなど多くの味をペーストで凝縮されている味覇は、中華料理のいろんな味付けに使われている。当然、甜麺醤との相性もいい」
甜麺醤は麺との相性がよく、野菜もあまくする。
味覇は麺に塩味を混ぜつつ、コクや風味を野菜に与えて美味しくする。
そして——―。
「豚肉を麺と野菜で挟んで蒸し焼きにした。肉汁が全体に馴染んで美味しいだろ?」
「そう言う事か!道理で野菜が凄くおいしい訳だ!」
「これは、かなり美味しい……」
二人とも、美味しそうに俺の塩焼きそばと杉原さんのあんかけ焼きそばを交互に食べている。
さて……。
「どっちが美味しい?」
「どちらでしょうか?」
俺と杉原さんは勝負の行方を伺う。
そう。これは勝負だ。
「う……」
「どっちも美味しいんだよな……」
二人は深く考え込む。
……どっちだ。
「なぁ、四ツ谷」
「なんです?」
「ちょっと耳を貸してくれ」
「はい……?」
二人は耳打ちして、会話をする。
これは良いのか……?
「よし!赤木!杉原さん!」
「結果は——」
「——引き分けです!」
「一歩も譲らぬ良い戦いだった。」
「二人とも極上の料理を作ろうと言う決意が味に現れていた為、決着はなしです」
……。
…………。
「反応しにくい」
舞い戻ってきました永久院です いかがだったでしょうか?
今回は、強襲ボランティアの赤木導VS今日からあなたが七不思議の杉原夏織の料理対決でした
コラボならではの作品を超えたキャラクターたちのイベントです
残念ながら久露埜さんはまだ絡んできてないのですが、すぐに交差します
今回を確認してみると、何が大変だったって……。 料理シーンです
知っている調味料で脳内で食材に味付けをして…… 大変ですね。料理の描写。
非モテ力高い僕は料理なんかほとんどできないのでなおさら大変でした
ですので、万が一にもこの作品の料理を再現して「まずっ!」って思われても僕は責任をとれませんので、ご了承ください
さーて今回はこんなところですかね ではでは編集長(部長)にバトンパスといきますか! 蒼峰さん、よろしくね! では、みなさんも、またお会いしましょう!