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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
最終戦 百鬼の王
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9-3 想いの剣

目覚める戒都。

彼に迫る選択。

彼の答えは――。

 頭に靄がかかったようにぼうっとする。

 どうやら僕は背中を斬られ気を失っていたようだ。だけどもう痛みはない。気を失っていても、玉藻が傍らでずっと僕の傷を治してくれていた事、みんなの声、全てが聞こえていたし分かっていた。


「くっ……」

 まだふらつく体に鞭打ち、僕は上体をなんとか起こす。

「戒都……!」

「ありがとう玉藻……。もう大丈夫だよ」

 玉藻の頭に手を置き軽く撫でる。僕はもう平気だと言う事をそうして伝えた。

「目を覚ましたか小僧。()い良い、まだ辛かろう。立ち上がらずにそのままの姿勢でいろ」

 僕達に向かい合う形で立ち、不気味な笑みを見せる老人。僕を斬った人物であり、不動明王を殺した張本人。背後に数多の妖怪を従えるこの妖怪こそ、百鬼夜行の主として名を知らしめるぬらりひょん。


「今一度、話を繰り返した方が良いかな?」

「……いや、その必要はないよ。全部聞こえていた」

 事件の真相。今僕達が置かれている状況。その全てを僕は理解していた。

「ならば早速返事を聞こうではないか。答えは決まっているだろうがな」

 あぁ、答えは決まっている。答えなんてこの一つ以外存在していない。


「お断りだクソ野郎ッ!!」


「……何だと」

 不動明王の心を裏切り、彼の仲間達に消えない傷を負わせたこいつを。

 妖怪達を力で押さえつけ、仲間を物以下にしか思わないこの妖怪を!

 僕は絶対に許せない!!

「お前の百鬼夜行になんて死んでも加わってやるもんかッ!!」

「貴様……!」

「あっはは! 珍しく熱くなってるじゃない!」

 重たい体をなんとか起こし立ち上がる。そんな僕の隣に、楽しそうに笑いながら零奈さんが近付いて来た。その腕の中には気絶したままの黎ちゃんの姿がある。

「なにぃっ!? 女、貴様いつの間に!」

 黎ちゃんは気絶した状態のまま、ぬらりひょんのすぐ近くに転がっていて手が出せない状態だった。彼女はその黎ちゃんを気付かれる事なく救いだしていた。

「ちょーとばかり注意が散漫なんじゃないの。大将?」

「黄泉さん……。あんた、まさか最初からそのつもりで」

「それはキミの想像に任せておくよ」


「揃いも揃って、儂をコケにしおって……! 穏便に済ませてやろうと思っていたが、そういう事なら良かろう。徹底的に叩き潰し、嫌でも百鬼夜行に加わってもらおうではないか!!」

 ぬらりひょんから強烈な妖気が放たれる。それが合図となり、後ろの妖怪達が一斉に襲いかかって来た。

「カカッ!!」

 背後から青白い巨大な炎が放たれた。それは襲ってきた妖怪達に直撃し、いとも簡単に撃退してしまう。

「チッ、使えん奴らめ!」

 ぬらりひょんが斬りかかってくる。だがその刃を玉藻の尻尾が弾き返した。

「玉藻……! お前は攻撃が出来ないんじゃ」

「儂はただ防衛しただけじゃ。こちらからは攻撃しておらん」

「本来ならばそれすら出来ぬ筈なのだがな……。流石は九尾の妖狐、玉藻前と言う事か」

 これなら、玉藻が居る限り僕達に攻撃は届かないだろう。だがそれも限界がある。いつまで持つかは分からない。そして僕達はぬらりひょんを初めとする妖怪達にダメージを加えられる手段を持ち合わせていない。このままではジリ貧だ。

(結界さえ壊れていなければ、まだ何か手はあったかもしれないけど……!)

 ない物ねだりをしても仕方がない。今、僕達が取れる行動を探せ。この状況を脱する一手を!


 すると、不思議な事が起きた。

 ぬらりひょんが左手に握っていた倶利伽羅剣が、ガタガタと震えだしたのだ。

「なんじゃ……!?」

「これは……」

 振動が激しくなる。

 その激しさにいよいよぬらりひょんが耐えきれなくなった時、倶利伽羅剣が僕に向けて飛んできた!

「うわっ!?」

 まるで吸いつくかのように。倶利伽羅剣が僕の手中に収まった。

 事態を飲み込めない僕の頭に、突如として声が響く。

『傷ハ癒エテモ体力ハ回復シテオラヌダロウテ。儂ノ骨ヲ粉ニシタモノヲ飲メ。即座ニ回復デキヨウ』

 僕の周りに灰のような粉が舞った。それを吸い込むと、体の重さが嘘のように消え去った。

「この声……。まさか、がしゃどくろか!?」

「なんじゃと? 何を言っておる」

 この声、僕以外には聞こえていないのか……?

 分からない事だらけだったが、たった一つだけ確かな事がある。剣の中の妖怪が、僕のために力を貸してくれているんだ……。


『貴様ノ事ハ気ニイランガ、アノジジィノ事ハ更ニ気ニイラン。儂等ガ力ヲ貸シテヤルカラサッサト倒セ!』

 倶利伽羅剣から紫色をした瘴気が放たれた。体の自由を奪う、がしゃどくろの強力な瘴気。それがぬらりひょんを取り囲む妖怪達を包み、その動きを封じる。

「馬鹿な! 何故貴様がその力を使える!!」

『よォ、四ツ谷……』

「土蜘蛛……!」

『ぬらりひょんの野郎がフドウを殺しやがったのか。……ムカつくぜ、俺の喧嘩相手を殺しやがって。手ェ貸してやるからそのクソジジィをぶっ潰してこい』

 銃弾の如き速さで放たれた超高密度の蜘蛛の糸。土蜘蛛が放った一撃必殺の威力を持つ糸は、ぬらりひょんの肩を貫いた。

「ぐああッ!!」

『あなたが犯人だったのね……』

「雪女……」

『約束、守ってくれて本当にありがとう……。わたしの力を使って。――一緒にあいつを倒しましょう』

 ぬらりひょんの全身に氷が張り始める。凍てつく空気は百鬼夜行の一部も瞬時に氷漬けにした。

「ぬおおっ……! 舐めるなああああああああッッッ!!」

 氷を砕き、ぬらりひょんは尚も進撃を止めない。

ぬらりひょんは苛立った様子で、凍りつき身動きの取れない妖怪を斬り伏せた。

「また……! こ、の野郎っ……!!」

『ムカつく野郎だなこいつ! 酒が不味くなるぜ! オイ四ツ谷、やっちまえ!』

 倶利伽羅剣の刀身が輝き、そこから巨大な蛇の尻尾が現れぬらりひょんを弾き飛ばす。咄嗟に剣でガードをしたぬらりひょんだったが、それだけで守りきれるような衝撃ではない。

『ぬらりひょん……!! 私は貴様を決して許しはしない……。呪い潰してくれるううううううううううッッッ!!』

 膨大な憎悪の渦が、ぬらりひょんを包み完膚なきまでに飲み潰す。呪いの力はぬらりひょんを空中に釘づけにした。

 それに続き、土蜘蛛の糸がぬらりひょんを縛り。がしゃどくろの瘴気が逃げ場を塞ぎ。雪女の冷気が体を凍らせ。蟒蛇の尻尾が体を雁字搦めにする。

「馬鹿なッ!! この儂が、ぬらりひょんがあああッ! こんな小僧一人如きにいいいいいい!!」


「一人じゃない……」

 倶利伽羅剣が再度輝きだす。僕の頭の中には、また新たな声が響いていた。

『四ツ谷戒都。不本意ながら貴様に全てを委ねる勝手を許してほしい……』

 それは鴉天狗の声。

 声は一つだけではなかった。他の六体の妖怪全ての声が、今僕の頭には響いている。

『四ツ谷戒都……。貴様に翼を授けよう』

 僕の背中に黒い鴉の翼が現れる。それは紛れもなく鴉天狗の両翼。

「僕には、剣の中のみんながついているんだあああああああああああああッッッ!!!!」

 僕の体はぬらりひょんに向かい、一直線に飛んでいく。

 妖怪達の想いを乗せた倶利伽羅剣は、ぬらりひょんの体を斬り裂いた――――。


こんばんは、変態こと蒼峰です。


永久院さんの前書きで戒都が殺された事になっていますが、いや死んでませんからね?

とりあえず内容に触れますと……。

……なんだこれ。

これもう七不思議本編のテンション完全にどこか行っちゃいましたね。

戒都こんな動きできませんからね。

まぁ何度も言う通り、コラボ限定のお祭り騒ぎと言う事でご理解ください。


さて、それでは次の久露埜さんにバトンタッチ。

もうこのコラボも残りの話数が簡単に数えられるところまでやってまいりました。

よろしければこのままラストまでお付き合いください。

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