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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
出会い
4/49

2-1 薪割り作戦開始

こんにちは

今回の執筆を担当しました永久院悠軌です

前書きなので、あまり長くは話しません

 時は遡る。

 俺たちSVTはキャンプ場に到着し、俺が管理人さんに挨拶をしにいった。


 すでに連絡をしておいたため、すぐに会話は進んだ。

 俺が管理用の建物から出ると、各面々が荷物を運んでいる。

赤木(あかぎ)ぃぃいいいいいいいい!!」

 五十嵐(いがらし)が俺の荷物を運んでいる。

「悪いな、五十嵐。サンクス」

「サンクスじゃねえよ!」

 そんなこんなで俺たちは全ての荷物を下ろして、テントを張れるスペースに運んだ。

 さて、ここからはもう仕事が入る。

 SVTだけでなく、仕事の基本として、『時間通りに動くこと』がある。

 会社に就職して出勤時間や納期を守るのと同じように、俺たちも時間を無駄にすることはできないから、効率よく働く。

 一応、今回のメンバーの中では俺がリーダーという事になっているから、俺が指示を出す。

「よし、これよりオペレーションを開始する! 水爪(みつま)裏寡(うらか)は管理人さんの所有物の重機(油圧ショベル)を稼働可能かどうか確かめてきてくれ。動かなかったら直せ。水爪は近くに一般人が近づいて危険になら無いように警戒だ」

「裏寡。了解」

「水爪。了解です」

葉城(はしろ)鎌月(かまつき)はそれぞれ木を伐る準備をしてきてくれ。管理人さんから伐って良い木を聞いてこいよ?」

「葉城。りょーかい!」

「鎌月 了解しました。」

冴崎(さえざき)、五十嵐、俺の三人でテントをたてる。テントをたて終えたら、冴崎は荷物番。俺と五十嵐は薪割りだ」

「冴崎。了解」

「五十嵐。了解ー」

 今回、薪割りをするための丸太すら無いらしく、そちらの調達もSVTが代行する。

 このキャンプ場の管理人さんは重機を知人から譲ってもらったらしく、免許が必要なことも知らないらしい。

 重機に関しては裏寡に任せておけばたぶん平気だし、木を伐る時はうちの天才メカニック姫の二人に頼めばなんとかしてくれるはずだ。

「さて、オペレーションを始めるぞ!」

 SVTには活動を始める際に合言葉がある。

「全員が、全員のために!」

「「All For All!!」」

 仲間たちが復唱して駆け出す。

 これは、普段のボランティアでも行うもので、自己暗示の一種だ。

「赤木!テントやるぞ!」

「ああ、始めるか!」

 俺たちは夏休みである程度お客さんが入るであろうと言うことでロッジは借りず、自前のテントを持ってきて寝床を用意する。

 手慣れているため、素早く動き……。

 数分後。

「一つ、完成だな」

 大きめのテントだが、3人居れば簡単にできる。

 それから再び数分。

 完成。

「よし、荷物を入れるか」

 男女別々のテントなので、それぞれの方に荷物を分けていれないとな……。

「おい、赤木」

 なんか五十嵐に声をかけられた。

「なんだ?」

「あれを見ろ」

 五十嵐は視線を動かして方向を示す。

 言われた通り示された方向を見る。

「あれは……お客さんか」

 1、2……何人居るんだ?

 7〜8人か、もっと居そうな団体様だ。

「どうやら向こうも高校生っぽいな」

 っぽいっていうか、高校生だろ。

 なんかチビっ娘っぽい子もいるけど、多分誰かの妹か誰かだな。他は高校生に見える。

「俺たちのボランティアの目的は、薪割りを手伝う事じゃない。薪割りをする事で、このキャンプ場へちゃんとお客さんが戻って来る事を手伝うのが目的だ」

「キャンプ場を活性化させる事……な」

「さて、五十嵐。特にお前に言っておくが、お客さんがいるんだから、度の過ぎる行為はよせよ?」

「てめぇ暗に俺の事を馬鹿にしやがったな……?」

「とにかく、お客さんに悪い印象を持たれないように気をつけるんだ。管理人さんにクレームが行っても困るからな」

「あいよ」






 さて、回想は終わる。

 現在、テントもたて終わって、俺と五十嵐は葉城たちに呼ばれたので山の方に来ている。

 湖沿いはやや拓けた土地になっていたのに、少し山に入ると、途端に湿度の上昇を感じる。

 だけどそれは空気中の水分量が増えたというよりは、木陰の地面からの放射熱が無いために湖の周辺よりも気温が低い事で、飽和水蒸気量が少なくなっている感じで、先ほどの直射日光の熱よりは肌の表面は涼しく感じる。

 木漏れ日が木の幹や葉に反射し、美しく映えている。

「……さて、どこだ?」

「迷ったのかよ!馬鹿か!?」

 横から五十嵐に糾弾される。

「うるさいな!多分この辺なんだよ!」

「多分って何だよ!?」

 ……ガガガ。

 なんか聞こえて来る……?

「おい、なんだこの音?」

「エンジン音みたいだな……オイ」

「いくか」

 エンジン音の方向に向かってみる。

 この馬鹿みたいな爆音。振動音は間違い無いな……。

 俺の視界に金属の塊が現れると同時、聞き慣れた声が聞こえる。

「しーくん、こっちこっちー!」

 葉城だ。

 声のした方向を見ると、作業着姿でヘルメットを被っている葉城と鎌月の姿がある。

 二人とも……あまり似合ってないぞ。

 俺が思うと同時に、エンジン音が静まり、ドライバーの声がする。

「赤木くん、来ましたか。こちらは準備できていますよ」

「おつかれさん。裏寡」

 裏寡は『安全第一』と書かれたヘルメットを被り、土木作業用の油圧ショベルに乗っている。

 ショベルの屋根の上には水爪が座っていたりして、なんか変な状況だ。

 高台から周辺を警戒しているのはわかるけど、木くらいは登れるようにしような……

「ショベルは鉄爪(グラップル)を使用します。これで伐った丸太を下まで運びます」

 グラップルとは、林業で使われる道具だ。

 道具と言ってもグラップル単体で使えるような代物ではなく、油圧ショベルの先端部に装着する事で使用が可能になる。

 わかりやすく言えばパソコンのマウスはマウスだけでは使い道が無いって言う……わかりにくいか。

 さておき、グラップルと言うものは簡単には鋼鉄でできた『爪』だ。

 これは前後合わせて4本の爪がある。

 これで丸太を鷲掴みにして、運ぶ事ができるのだ。

 あぁ、UFOキャッチャーのキャッチする奴の爪が多くてめちゃくちゃ強い奴って説明するのが良かったか。

「さて……」

「じゃ、しーくん、あっちの木の上の方にこのロープを引っ掛けてきて!」

「いきなりだなおい!」

 俺の台詞に被せてきやがったなこのロリ!

 一応示された木を見る……って。

「ヒノキ……!?」

 山とは言え、ここは人工林の部分だったらしく、間伐されてかなりの長さになっているヒノキがある

「お、おまえ!途中の枝も殆ど無いし真っすぐじゃねぇか!」

 確かに俺の特技は木登りや徒手登攣(ボルダリング)だが……。

 ボルダリングやフリークライムは、僅かな隙間や傾きなどを使って行なう。

「これ!マジでヤバい奴だろ!」

 高さは10m程はあるだろう。いや、もっとある。

「しーくんならできるでしょ?むしろ、しーくんができないなら他の人もできないし、ここから先のボランティアができないよ?」

 ……。

 …………。

 ボランティアができない……?

 ……仕方ないか。

「葉城。俺用の手袋って持ってるか?」

「やってくれると思って持ってきてるよぉ〜」

 葉城から投げ渡された手袋をキャッチして、手にはめ込む。

「ん……?これ、改良したか?」

 つけ心地が違う。というか、なんかまるまる違う気がする。

「しーくんのボルダリング用手袋を元にして作った新作だよ。高かったけど、TNKワイヤーを使って作ったんだよ」

「TNK!?」

 ツイスト・ナノ・ケブラー・ワイヤー。

 ケブラーと聞けばある程度の人はわかるだろう。

 そう、高価ではあるが軽量で、なんと言っても凄まじい強度で有名な素材だ。

 TNKワイヤーは防弾チョキにも使われていたりする。

「これは頑丈そうだな……」

 俺の手にも合っている。使いやすい。

「んじゃ……登って来るか」

 ロープを肩から腰にかけてたすき状に巻き、ヒノキの幹に抱きつく。

 やましい心は無い。

「おりゃっ」

 腕の力で下半身を持ち上げ、足で幹を固定したら上に向かって手を伸ばし力を込め、さらに下半身を持ち上げる。

 きっと、横から見たら芋虫か何かの様に見られているんだろうな……笑うなよ。

 間伐で木の間が調整されているため木の中盤には光が当たらず、葉を広げる為の幹も伸びていない。

 登りにくい……。

 だが、この程度で俺は負けたりなどしない。

 俺はこれでもボルダリング技術だけはSVTの中では最高レベルなんだよ!

 無我夢中に登っていると、登頂した。

「しーくん!そこで二重かた結び!」

「わかっている!」

 俺はこれでも中学時代に職場体験で林業、土木業者を選択したんだよ!

「……!」

 一瞬手を離し、脚力のみで体を支え、両手を駆使して一気に木にロープを縛る。

「……っし、できた!」

「よし、降下して良いよ!」

 ロープを手で掴み足を離す。

 滑り、降りる。

「あっち!」

 TNKの手袋には傷一つないが、摩擦熱で手がやられそうになった。

「……って、はぁ〜……疲れた」

 木の幹に背中を預けてもたれかかる。

 マジで、こんな木登りは始めてやった。

 訓練してなかったら間違い無くできなかったな……。

「ありがとうね!じゃあ……シュンくん!ロープをあっちの木を回ってカナちゃんの方に持ってって!」

「その呼び方どうにかなんないのか……?」

 五十嵐困惑。

 葉城は他人への呼び方は本人への意思完全無視だからな。

「……できたぞ」

「よし!じゃあマイちゃん!やろう!」

「うん、ナナちゃん」

 葉城と鎌月が足下に置いてあった『それ』を持ち上げてこちらに近づいてきた。

「チェーンソー……!」

 説明は不要だろうが一応しよう。

 刃のついたチェーンが回転し、それにぶつかったものを抉り、削り、切る道具だ。

「しーくん。離れていて。カナちゃんのところに居れば安全だから」

「あいよ〜」

 油圧ショベルの方に近づき、遠目で鎌月たちを見やる。

「「暖気運転!」」

 二人で声を合わせてチェーンソーの引っ張るつまみを引き、動かす。

 ブルロロロロロロロロロ……。

 一発でエンジンがかかり、音が聞こえてきた。

「受け口!」

 まず最初に鎌月がヒノキに対して上から下への斜めにチェーンソーの刃を入れる……が。

「……堅い」

 ヒノキは、堅いのである。

 神社等の木造建築にも使われる程だしな。

 チェーンソーも刃が滑っちゃってるんじゃ伐れな―——。

「第一リミッター解放。速度上昇」

 WHAT!?

 ぶうぉぉぉおおおおおおおおおおおんんんんんん。

「なんか凄い音になってる!?」

「……これで伐れますね」

 刃が通る事を確認した鎌月はヘルメットに引っ掛けてあったゴーグルを装着して、木を伐り始める。

 斜めに、途中まで伐り、刃を回転させたまま抜く。

「もう一度」

 さらに次は地面と平行になるように斜めの切り口の一番下のところへめがけて真っすぐと伐る。

「……よし」

 三角形にできた木の切れ端を抜き取り、呟く鎌月。

 三角形の切り口はだいたい幹の直径の4分の1から3分の1にかけての長さだ。

「ナナちゃん。任せたよ」

「任されたよ!マイちゃん!」

 葉城がチェーンソーを回転させつつ応える。危ない。

「しーくんたちはそのロープを想いっきり引いちゃって!綱引きみたいにね!」

 葉城は言うなりチェーンソーを構えてヒノキに挑む。

「第一リミッター解放!いくよ!」

 今度は三角形の切り口の逆側から真っすぐに伐っていく。

「追い口!」

 先ほど鎌月がやっていた『受け口』と今、葉城がやっている『追い口』というのは、林業で使われる言葉だ。

『受け口』と呼ばれる切り込みをあらかじめ木の幹にいれて、木が倒れる方向を決める。

 そして『追い口』と呼ばれる切り込みで木を伐っていく。

 追い口を伐る時に、木本体の負荷でチェーンソーが傷まないように、倒れる方向に向かってロープで引き始める。

 ロープで引く時も、馬鹿正直に正面から引いていたのでは倒れてきた倒木の餌食になるので、近くの木を迂回して滑車のように引く方向を変え、安全な方向から引く。

「しーくん!引いて!」

「おう!」

 想いっきり引く。

 だが、追い口がまだ足りないのかびくともしない。

「五十嵐!手伝え!」

「わかっている!」

 五十嵐も加わり、さらに強さは増す。

 ……揺れ始めたか?

「っし、やるか!」

 俺は五十嵐にアイコンタクトを送り、一気に気合いを入れる。

「ファイトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「イッパァアアアアアアアアアアツッッッッッッ!!」

 森にこだまする絶叫。

「「うおりゃあああああああああああああ!!」」

 パキッ。

 ガンンッッ!!

 一気に木は倒れた。

 倒れた先に他の木は無いように調整してあったし、成功だ。

「これは半分に伐ろっか」

 葉城がさらに真っ二つに切る。

「され、カナちゃん!やって頂戴!」

「お任せあれ」

 裏寡が油圧ショベルのエンジンをかける。

 爆音。

 重厚な金属を通してまで聞こえるエンジン音。

「赤木くん。下がってて」

 俺が移動すると、油圧ショベルが凄い勢いで走行を始めた。

 やがて、丸太の前まで辿り着くとそのアームを素早く動かして、二本の丸太をまとめて掴む。

「背後、現在は問題無し」

「了解。これより下山を開始します」

 上に乗った水爪が後ろを観察し続けて、裏寡が運転することで素早い運搬をできるようにするらしい。

「4時の方向、木が二本。アームを横へ向けて走行を推奨」

「了解」

 息ぴったりだ……!




 神業的な運搬が終わり、今はテント近くまで丸太を持ってきていて、裏寡と鎌月が適当なサイズへカットを始めた。

 そして、俺と五十嵐(働き過ぎじゃね……?)は更なる仕事を始める。

 薪割りだ。

 適度に伐られた木を五十嵐が斧でさらに小さく、俺がナタで通常の薪のサイズまで小さくしていく。

「「カットー!!」」

「うおらぁーー!」

「……(パキッ」

 ベルトコンベア方式でとても効率はいいのだが、つまらない。

 次第にあそびたくなるのが人間の(さが)で……。

「おらっ!赤木!」

「……!てめぇ投げるんじゃねえよ!」

 五十嵐が木を投げてきたのを俺が咄嗟にナタを振って割りつつ軌道を逸らした。

「おらっ!おらっ!」

「おまえなあああああああ!!」

 ナタを振っても厳しいスピードになってきた……。

「舐めてんじゃねぇぞおおおおおおおお!!」

 腰元に予備のナタの入ったホルスターがあったのでもう一本ナタを抜き、二刀流だ。

「はぁああああああああああああああ!!」

 斧の事など忘れて割った木を片っ端から投げ始めた五十嵐と、双剣で戦い続ける俺との耐久戦がスタートした。

「水爪!落ちている薪は石のところに並べておいといて乾かしておいてくれ!」

 仕事に、抜かりは無い。


いかがだったでしょうか?

赤木たち『SVT』の活動内容が少し分かったことでしょう

全力でボランティアする奴らです

ボランティアの為ならチェーンソーを異常改造したり、無免許でパワーショベル動かしたり、TNKワイヤーを使った手袋を作ったりするのは当たり前なのです

高い技術力と、凄まじい行動力を持つバカな彼らの物語は、まだ始まったばかりです

ちなみに強襲ボランティア本編は、こんなテンションでいろんなボランティアをしていく話です

全力残念系社会奉仕コメディ

久露埜さんにも「新しい」と言われました

悪く言えば邪道ですけど

この一話でも楽しんで頂けたなら幸いです


えーと……次回は蒼峰先生ですね

よろしく頼みますよ!!


※月詠学園文芸部の部長(編集長)は間違い無く蒼峰先生

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