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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
第四戦 蛇
31/49

6-2 対蛇戦闘準備

戦いは半ばを過ぎて、交差する彼らの物語は後半を迎える その刃は友を護るか。 斬れぬなまくらの煌めきでは物足りない

 昨日は雪女と戦い、夜遅くまでその炎でキャンプファイヤーをしていた為に、寝るのが遅くすこし遅めに起床し、本日の仕事を始めた。



 シュンッ、シュンッ。

 静かな水辺に金属が擦れる音が一定の間隔でリズミカルに奏でられる。

 俺の腰についていた友護は外され、今は鎌月が研いでいる。

 その研磨の音が、今の音だ。

 湧き水を運び、テントの近くでみんなが働いている。

 本日の仕事は整備だ。

 敵の半分を倒したから、残りの半分に備えて総点検。

「しーくん。一応視ておいたけど、問題は無かったよー」

「ん? ありがとうな」

 葉城が眼帯のようにつけた片眼鏡を外して、俺に布を手渡してきた。

 ここに来た初日、俺がヒノキを登る時につけていた手袋。

 TNKワイヤーを使っていて、熱や衝撃にはかなり強い。

 アルカリ条件下や紫外線を受けると結合が崩壊してしまうが、この手袋は表面にUVカット加工を施されているため、問題は無い。

 アルカリ性の物質にぶれることもほぼ無いが、一応は表面をポリエチレンでカバーしてあるため、その辺も安心だ。

 もう一度手に嵌めて、手を握る。

 伸縮性の少ないケブラー素材が関節部を圧迫しないよう、穴をあけられている。

 指を覆う部分はあるが、間接部は穴が開いていて、珍しい機構。

 真に機能だけを考えている素晴らしい物だな。

 デザインばっか考えていたら身は守れない。

「うん。やっぱり良い出来だ。葉城たちにはいつも世話になっているな」

「自分に出来ることで他の人の出来ることを増やせるって、とっても嬉しいことなんだよ」

 葉城は何も考えていない様で、しかし凄く考えていたりする。

 今のは本心だろうか。

 技術者が技術者で居られ続けるのは、そこに由来することも在る。

 誰かの為に自分を発揮できる自分が好きで、ボランティアをする。

 単純で、尊い考えだ。

「赤木隊長。刀は研げました」

「鎌月か。ありがとう」

 その手に握られた友護を預かり、剣を僅かに引き抜く。

 綺麗に磨き上げられていて、ガラス細工かなにかの様に煌めく。

「レーザーとマイクロウェーブは昨日の戦闘でバッテリーが若干減っています。木刀やシールドは使ってないのでそのままです」

 敵があまりにも強大すぎて対人戦闘向きのシールドや木刀は使う場面がない。

 山中で犬に対して使えばある程度は役に立つだろうが、その程度だろう。

「シールドと木刀への改良は要らない。チェーンソーとかを整備してくれ」

「了解です。既にナナちゃんが開始しています」

 次から次へとありがたいものだ。

 さて……俺はやることが無くなってきたし素振りでも……。

 俺がそう考えて友護を抜き放ち、振り替える。

「……空也さんでしたか」

「はろー。昼まっから帯刀ご苦労だな」

 俺は背後の気配にとっさに反応して友護の切っ先を空也さんに向けていた。

 だが、会話がしにくいので刀を納めて、視線を交える。

「失礼。あなたが来たと言う事は、次の妖怪について占ったわけだ」

「今回の占いをやったのは俺じゃなくて黎なんだけどな」

「黎ちゃんが?」

 そう言えば彼女も陰陽師だったか。

 いや、恐らく空也さんも黎ちゃんも陰陽師ではない可能性が高いのか。

 だとすれば何者なのか。

 それはわからない。

 様々な可能性があり、それぞれの目的はあり得ないようなもの。

「……で、次の敵はなんです?」

「……うわばみ…………」

「蟒蛇みたいだ」

 黎ちゃんの人見知りは何だろうか。こちらを警戒しているようにも見えなくはない。

 ……友護のせいか?

 まあ、そんなこと気にしている場合でもない。

「蟒蛇ですか……大変なものが来てしまいますね」

「四ツ谷君か……」

 近づいてくる足音は既に気づいていた。

 他のメンバーも居るみたいだ。

 彼らにも聞こえていたなら伝言の手間が省けた。

「俺はあまり妖怪に詳しくないからしらないんだが、蟒蛇ってのはなんなんだ?」

 俺は四ツ谷君に問う。

「蟒蛇と言うのは、今までの妖怪と同じように日本に伝わる想像上の生物です。蟒蛇と言う呼び名よりはむしろ『大蛇(おろち)』などの名前の方が有名でしょうか」

「さすが戒都君だ」

「キングコブラとかアナコンダとかのレベルじゃすまされない巨大な蛇、大蛇って事か」

 なるほどね……。

 アナコンダが毒を持たないように、生物は大きくなれば大きくなるほど毒と言うものに対して関わらなくなる。

 小さなガラガラヘビは猛毒だが、蟒蛇に毒があるかと言ったら、おそらくない。

 毒で相手を殺すよりも、丸のみにした方が早いもんな。

 だが、接近できるかどうかと言われれば、巨大生物への接近は危険だ。

「弱点はあるのか?」

 巨大な蛇、こっちは人数がいるが、一人だって捨て駒にするつもりはない。

 一人の犠牲者もなく、完全勝利をおさめる。

「うーん……有名な話だと、蟒蛇は酒を好む大酒飲みである話など聞きます」

 俺でも知ってる日本神話を思い出した。



 その昔、最高神である天照大御神(あまてらすおおのかみ)の弟、戦いの神、スサノオノミコトが高天原を追い出された。

 地上に降り立ったスサノオは一人の美しい女性と、その両親に会う。

 夫婦の間にはもともと八人の娘がいたが、その地に住まう邪神、ヤマタノオロチに毎年一人ずつ食われていた。

 そして残った最後の一人の美女に惹かれたスサノオは、その女性がヤマタノオロチに食われないよう、その女性、クシナダヒメを嫁に貰うことを条件に、ヤマタノオロチの討伐を約束した。

 スサノオはクシナダヒメを美しい(かんざし)に変え、それを身につける。

 夫婦は八つに分けた酒を置き、ヤマタノオロチがその酒を飲んだ。

 酒に酔ったヤマタノオロチはそのまま寝てしまい、寝たところをスサノオノミコトに十拳剣(とつかのつるぎ)で切られて死んだ。


 これが、日本神話、神道に伝わるヤマタノオロチ伝説だ。

 大蛇は酒に目が眩む。

「神話通り、酒で酔わせるか」

「そうなるでしょうね」

 神話通りなら、うまくいくはずだ。

 だが、他の蟒蛇に効果があるのか。

 それはわからない。

「空也さん。他に敵の弱点はありませんか?」

「だってよ? 黎」

「……わからない」

「とのことだ」

 うむ……。

 空也さんを中継して、他の弱点は不明。

「俺らのやれることは最大限武装を整えることかな。あとは、おいおいやるぞ」

 空を見つめて、手袋に包まれた拳を握る。

「いつまでも悩んでいたら話が進まない。悩む所まで悩んだら、あとは出来ることをやるだけだ」


 四ツ谷君たちは蟒蛇について結構知っているみたいだ。

 俺に取っては電車みたいなサイズになったアナコンダみたいなイメージしか湧かないが、もっと妖怪の要素で弱点をつけるはずだ。

 今回は四ツ谷君たちに任せることが多くなりそうだ。


こんちには。永久院です

文字数少な目でお送りしました

土蜘蛛、がしゃどくろ、雪女と現れて戦闘しました。残り三体の妖怪が剣に封じられていたらしく、まだ戦いは続きます。

しかし半分は戦ったので後半戦へ突入。武器を整え、思考を巡らせました 次の敵は蟒蛇どのように挑むのでしょうね。


僕の予想だと窮地に追い込まれたSVTの赤木たちが突如として 輝き出して、突如変身、山の七不思議になることによって戦闘力が向上して大きな蛇を――。

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