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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
第三戦 雪
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5-1 穴ダラケノ真実

ここから暫く、再びのぼっちサイドが始まります

 さて、順調だ。馬鹿馬鹿しいほど順調だ。土蜘蛛に続いてがしゃどくろも倒れた……つまりはあと四体倒せば、或いはそれよりも早く現れるかもしれんな。

 黎を騙して拝借した猿の手も残り二回か。多少は考えて使わなくてはな。


「あ、そういえば空也さん」

「何でしょう四ツ谷さん」

「どうして――次の妖怪ががしゃどくろだって知ってたんですか?」


 おやおや、あまり聞かれたくないことを……。まぁ仕方ない。適当にそれらしい嘘でも吐くとしよう……。


「占いだよ」

「う、占い?」

「あ……そういえば昨日言ってましたね。陰陽師の仕事は占いって……」


 そうだ、杉原夏織には昨日言っておいたんだよな。見事な伏線の回収っぷり。陰陽師って便利だなぁ、ハハハハハ。


「じゃあ、今わかりますか? 次に何が出てくるのか!」

「ん――――!?」


 占いに興味を持ったからなのか、或いは俺を警戒してボロを出すのを待っているのか。四ツ谷くんやあの赤木くんは鋭いようだからな。既に俺の事を警戒している。

 とはいえ、こればかりはどうしようもない。俺は実際には魔法の類いは一切使用できないし、未来予知なんか黎にすらできない。ただ深夜に予めがしゃどくろと一戦交えたというだけの話だ――だがそれを言えば、何故その場で倒さなかったのかといういらん警戒を招くことになるだろう。


「……今は無理だ。道具はロッジにあるからな」

「え~、残念~」

「じゃあ道具があればできるのか?」


 そんなグイグイ来るなよ……赤木少年は、四ツ谷くんよりも強く俺を警戒している。ここで俺が占いが不可能だと解れば、一気に全員の警戒が俺に向く。そうなれば計画が崩れかねない。何でもかんでも記憶を消すわけにもいかないしな。


「……それだけではダメだ。精神やら体調、その他諸々万全じゃなきゃな」

「…………」


 フッ、問題はこの場にいる誰一人として陰陽師の詳細を知らないという事だ。狼狽えることなく煙に巻き続けることで逃げ切ることは可能だな。


「まぁ、明日の昼頃には教えられるさ。それまでまってくれ」

「は、はぁ……」





 ★☆★☆★☆





 さて、夜は更けた。そろそろ次の妖怪を解放しにいくとしようか。音を殺しロッジを抜ける――と、誰かいるな。この気配は赤木少年か? 忍者並みの気配の絶ち方だが、残念ながら質量がある限りは俺の間合いには入れないんだ。


「赤木くん、どうかしたのか?」

「!?」


 そこに肉体があり、空気を塞き止めている限りは俺に気付かれないことは不可能よ。諦めた様子で赤木くんは姿を現した。やはり俺を警戒しているようだな。


「空也さんこそ、こんな深夜にどうしたんだ?」

「ちょっと星を見にね!」

「ほ、星?」

「知らなかったかね? 今日はペルセウス座流星群が見えるんだ」


 空を指差し、上を向くように促す。自然豊かなこのキャンプ場では、黒く光る空の中に白い星がはっきりと見える。そして――赤木くんが上を向いた瞬間、走って寺に到着した。うん、描写省いたんじゃなくてマジでね。着いたよ。

 まぁ赤木くんから見ればいきなり消えたようにしか見えないだろうな。後々ややこしくなりそうだがミッションコンプリート! なんとか撒けたようだな!


 さて……お仕事の時間だ。鞘から倶利伽羅剣を抜き、その力で内に封じられた妖怪を外に出す……。だが、あの重低音が鳴ると赤木くんが妖怪が解放されたことに気付いてしまう。ので……予め、神域流闘術で辺り一帯の空気を固定化する。

 音とは空気の振動だ。つまり、空気を揺らさなければ音は鳴らない……刀が強く発光し、中からこれまでに比べ小さめのものが飛び出したのを確認したのと同時に、空気の固定化を解く。実はこれ呼吸できないしピクリとも動けなくなるから辛いんですよね。


 中から現れたのは、輝くような白い和服に身を包み、美しい黒髪を持つ女性――雪女か。美しいとは言ったが、黎の方がさらさらした綺麗な黒髪だけどね!

 肌は血が通っていないように白く、高い鼻に長い睫毛、日本人形のような顔だ。つまり美人ではあるが可愛くはない。その点黎は可愛い。総合してwinner、黎。


「あなたは……何……? 不動さまは……?」

「不動明王? 死んだよ?」

「あらあら……面白い冗談ね」


 が、次の瞬間に突然……雪女の背後から吹雪が沸き出したように吹いてきた。


「そういう事……冗談でも言わないで貰えるかしら?」


 優しげな笑みを浮かべたまま、空気中の水分すら凍るほどの冷風を出現させる雪女。凍りついた水滴はキラキラと光る……ダイヤモンドダスト、という奴だな。が、その冷風は俺を避けるように逸れ、俺自身は何ら寒く感じない。


「な……!?」


 吹雪・冷風とは風……空気の流れ。ならば俺には一切通じない。地上で辺りに空気がある限りは、魔法を使わん限り俺には決して勝てやしない。

 吹雪による攻撃が無駄だと判断した雪女は、自らの傍らで空気中の水を凍らせて塊を作り出した。氷の塊は鋭く尖り、勢いよくこちらに射出された。ふむ、氷柱の矢か。器用な真似をするものだ。まぁ当たるわけもないんだが……。

 しかしあれはなかなかに厄介だな。今のように単発であれば簡単に避けられる、だが弾幕を張られては彼らはきついだろう。遮蔽物を活用しながらの戦闘が望ましいな。


 よし、分析はこんなもので良いだろう。空気を操作しながら速やかに下山する。俺は暑いのも嫌いだが、寒いのも嫌いでね。明日の戦いでは遠くから観戦させて貰うとしよう。


「逃がさないわよ」

「!」


 異変に気付くと、足首から先が地面に氷漬けにされていた。ち、動けんか。忌々しい真似をしてくれるな……。狙ったポイントを凍らせる力? 確かに、氷の矢が撃てるなら応用技として警戒するべきところだったか。足首の氷は徐々に脚を伝って、体全体を凍らせようとしてくる。


「あなたはここで……氷像になってもらうわ」

「黎にだったらされても構わんが……」


 お前のコレクションになんざなってたまるかよ。確かにこの状況は割と危険だがな……! こんな氷、脚の地力だけで……!


「フッ!!」

「!!?」


 砕けるんだよ! まず右足の周りの氷を砕き、その右足で左足の氷を砕く。おー冷てぇ。だがもはや俺は自由だ。来たときのように走って退却し、結界外まで到着した。ふぅ……疲れた。なかなかの敵だな、これは。

 明日の昼にショベルを取りに帰ると言っていたな。あいつらは外に出たばかりで、まだ霊力の落ち着く夜にしか行動できない、が――念のため、俺も護衛するとしよう。


 さて……明日は、どんな素晴らしい彼らの策が見られるかな。楽しみだ……。


見ての通り、私は前書きと後書きのネタが尽きてきています。何故かというと、私は普段前書き後書きを書かないからです。ハハッ(裏声)


豆知識:ないんだなこれが

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