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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
第二戦 骨
25/49

4-2 スイカブレイク

朝を担当するのが永久院

さてさて、死んだように見えた赤木に関して

それから、赤木の思い

そして、スイカ割りです

 ん……。

 朝だ……。

「……」

 寝ていたのか……。

 体を起こして現状を確認。

 テントの中だな。

「って、痛!」

 手をついた瞬間に迸る。

 全身が酷い痛みだ。

 この痛みだけでも一般人なら意識が飛びかねない。

「起きたか、赤木(あかぎ)

 俺が動くか動かないか考えていたら、テント。の入り口から冴崎(さえざき)が現れた。

「二日連続で朝イチに冴崎が来るか。……あれからどうなった?」

 俺は結局動かないで、聞きたいことを聞くことにした。

 冴崎は俺の横に座り、話し始める。

「わたしはカメラから来る映像で全てを把握していた。負傷者はお前と四ツ谷だけ、四ツ谷が疲れはてて一度気を失った。それでも結果的には土蜘蛛は無事に撃退することができた」

「そうか……四ツ谷君の傷は?」

「腕のかすり傷だ。一応消毒と止血はしたから、大丈夫だろう」

「それならいいか……」

 全員、特に大問題はなく終了したか。

 俺が一番重傷だったのかね。

「お前が死ななかった事が、最高の結果だな。運がよかったな」

「運は八割。二割は自分でつかんだぞ」

 俺は吹っ飛ばされたあの瞬間に、いろいろとしていた。



「ああああああああああああああああああああああああ!!??」

 体が宙に浮き、無理矢理持ってかれる。

 くそっ……! このままじゃ全身強打、即死だぞ……!?

 手を動かしつつ考える。

 ほどけてくれよっ……!

 一瞬の間に思考を集中し、ベルトのワイヤーを弛めることに成功。

 次は空中姿勢の変更。

 背に腹は変えられない、ぶつかるなら背中から……!!

 空中で体を無理矢理ひねり、背中からぶつかるように調整。

 どんどん遠ざかる視界の奥を見つめ――。

 ガンッッ!

 俺と、巨木の運動が止まった。

「止まった……か……」

 最後に呟き、俺の意識は吸い込まれた。







「あの一瞬でワイヤーを外して、D3Oの入ってるジャケットの背中側から直撃するように調整。脳震盪で気は失ったが、骨折などは一切なし。さすがだったな」

 実は、俺が昨日着ていた制服は、五十嵐のだった。

 ほとんどガタイが一緒だから間違えて着てったのかもしれないが、今回はそれに救われたな。

 本来の俺のジャケットにはD3Oなんか入っちゃいないし。

「さて……赤木、ここからが重要だ」

 なんだ。

「実は、昨日倒した土蜘蛛は殺したわけじゃない。四ツ谷が封印した」

 封印ね……。

 もう驚かないよ。

 知り合った人間が半分怪奇で、怪奇を味方につけてあれだけの化け物と戦ったんだ。

 あの男、四ツ谷君が封印したのは不思議じゃない。

 彼の仲間を見ても、会話してもわかる。

 仲間を信用し、仲間に信用されていた。

 例えば自分だったらどんな人を信用するか。

 俺はSVT隊員の全員を信用している。

 彼らは努力を惜しまない。実力を他人のために使える。無力を襲わない。

 四ツ谷君も、必死に戦前に立って指揮を執り、封印を自ら行い、そして、土蜘蛛の命を奪わなかった。

 あれだけ信用されている人間だ。無駄な殺生はしないだろう。

「赤木。話を聞いてるか?実は大事なのはこのあとぞ。化け物は土蜘蛛だけじゃないらしい」

「なに……?」

「あと五体、いるらしい。あの陰陽師の小泉とか言うやつがいってたぞ」

 あの陰陽師か……。

 突然現れ、意味のわからない自己紹介してきた。

 妹は前日出会っていたが、それも含めて意味がわからない。

 妹は迷子だったと言ってたがそれは嘘。

 その時にはすでに四ツ谷君たちは戦っていた後で小泉空也さんと別れて下山していたんだ。

 では、空也さんはその時何をしていた。

 陰陽師一人が居残って、何をしてた。

 いや、居残ったかどうかすらわからない。その場にいなかった可能性もある。

 ……いやない。

 そんな可能性存在しやしない。

 四ツ谷君たちは空也さんに対して、少なくとも出会ったことがなければならない。

 四ツ谷君たちは空也さんたちと一緒に俺たちに会いに来て秘密ごとを話したんだ。

 それまでの間に彼らの間で自己紹介があったのは間違いない。

 夜に逃げるときに黎ちゃんが一緒に逃げていたなら、その前に彼らはコンタクトをとっていたことになる。

 バーベキューの時には会ってなかっただろう。

 だとすれば彼らが会ったのは寺で土蜘蛛と戦うときの辺りだ。

 そこには、空也さんもいた。


 だから、可能性はない。

 空也さんは確かに、あの寺にいたんだ。

 そして、他の人間を逃がして自分は留まった。

 なんの理由もなしに留まることはないはず。

 理由は、四ツ谷君たちが逃げていたことから推測すると『逃げるための時間稼ぎ』をしていたと思われる。

 陰陽師がどれだけすごいかは知らないが、一人であの巨大な妖怪を止めれるものか。

 いやそもそも、足止めという行為を考えてみよう。

 足止めは、必死になって仲間が逃げるのを支援するものだろう。

 それなのにあの人は死ぬことはおろか、怪我をした痕すらなかった。

 余裕で足止めした。

 何故、倒さなかったのか。

 一人で余裕な足止めができるなら、倒すのも容易なはず。

 何故やらなかったのか。

 四ツ谷君たちに倒させようとした……?

 空也さんには隠し事がある。

 そしてこれは恐らく、俺らだけではなく四ツ谷君たちにも言っていないこと。

 ……あの人は何かを知っている。

 むしろ、これから起きる何もかもを知っているのか。

「冴崎。恐らく残り五体いるのは事実だ。そんなところに嘘をつく必要なんかないからな。だが彼は何かを隠している、それとなく警戒してくれ」

「そう言うと思った。実は彼からの提案で、本日みんなでスイカ割りをするらしい。その時に色々反応を見て、分析するぞ」

 鎌月はもう何かを知っているだろうか。

 わからないな……。

 だけど取り敢えず、うかうかはしていられないんだな。

「そうそう、それから昼の間の警戒は要らないみたいだ」

「要らない……?」

「どういうことかはわからないけど、小泉空也が言っていたぞ」


 待てよ……?

「もしかして、あの男……」

 彼は七不思議でもなんでもなく陰陽師、人間だと思っていた。

 だが、土蜘蛛の動きを一人でとめ、妖怪の残りの数を言い、妖怪への警戒は要らないと言い、その余裕でスイカ割りまで提案する。

 そんなことするのには〝敵と友好関係にある〟必要がある。

 心配性、考えすぎなのかもしれない。

 だが、安心性、考えないよりはましだろう。

 何があるかわからないが、何があってもおかしくはない。

 小泉空也には隠し事がある。


 ところで……。

 なんで戦ってるとき、四ツ谷君は姿も全く変化してなかったのか。

 それも気になる。

 隠し事ばっかじゃ困るねー。


「よっこらせ……っと」

 体を起こしてのびをする。

「赤木お前……体動かせるのか」

「脳震盪で気絶して、全身も軽い打撲だ。動けるよ」

 うたた寝してる場合じゃないしな。

「さて、仕事だ!」







 肺一杯に突き刺さる冷えきった空気を吸った後、外に散乱していた武器をまとめる専用のテントを設置し、SVT隊員を集めた。

 昼飯である飯盒で炊いた炊きたてご飯のおにぎりを支給しながら、話を始める。

「全員、ここまでご苦労だった。一人の死傷者も、重体の人間もいない。素晴らしい。まずはそれを労おう」

 本来、存在しないとされるような非科学的な相手、土蜘蛛と殺しあいをした。

 人類レベルで貴重なことをしたと言えるだろう。

 半分怪奇の味方と手を組んで妖怪を封印した。

「だが、今回の戦闘については民間への情報の流出は避けようと思っている。名誉に誇れる戦いでも、公に示すことは避けるぞ」

 理由は主に二つ。

 一つ目は、オカルトであるために信憑性が薄いものの、戦いの痕跡が残ってしまっているというもの。

 巨大な妖怪の存在が公に打ち明けられれば、世論は混乱を招く。

 俺たちも土蜘蛛と戦った身として、脳波試験やらなんやらで研究機関にひっぱりだこにされてしまう。

 もう一つ、俺たちが研究機関につれてかれるよりも大変な事がある。

 俺らが国家に『巨大な妖怪がいる』と言ったらどうなるだろうか。

 恐らく国家はそれを信じ、そして手にいれるだろう。

 封印された妖怪を解き放つくらい、四ツ谷君などのその手の人間を拷問すればすぐにできる。

 国家は新しい戦力、妖怪を手にいれる。

 敵も味方も無差別に殺す大量破壊兵器。

 そんなことになれば、世界は終わってしまう。

「みんな、このボランティアが終わったら忘れよう」

 俺たちSVTは、平穏を守るためにいるんだ。

 名誉よりも何よりも、平和がいい。

 名誉を切り捨てる無報酬。

 誰かのために行う利他性。

 自分達から動いた自主性。

 これはボランティアだ。

「あと、俺たちの任務はまだ終わらない。これからあと五体の妖怪が現れるらしい。それに加えて、まだまだキャンプ場には仕事がある。気を引き締めていくぞ」

「「了解!」」

 妖怪が相手なら秘密のために治安部隊の要請はできない。

 俺たちにしか、できないんだ……。

「よーうっ。みなさんお揃いのようで嬉しいね! 面倒ごとが省けた!」

 この声を聞いたのは一度だけだが、わかる。

 小泉空也……。

「空也さんですか、どうかしたんですか?」

「あんたら俺と同学年だ。敬語はいらん」

 こっちはあんたのこと疑ってんだよ。

「そんじゃ、何しにここへ?」

「簡潔に言おう。スイカが冷えたよ! みんなで割ろう!」

 この人、ホントに陰陽師なのだろうか。

 絶対違うだろなんかラフだし。






 何はともあれ、今俺たちの目の前にはスイカがある。

「いやー。湧き水出ててよかったなー。結構冷たく冷えてると思うぞ」

 悲しいことにこれから砕くスイカは友護を冷やしたのと同じ水だったりするらしい。

 スイカ割り……。

 スイカの数は結構大玉で3個。

「そんじゃ……誰から割りにいく? 黎やっとく? 黎やっとく? 黎やっとく?」

「わ、わたしはやら――」

「よーしそんじゃ目隠しをつけてやろう!!」

「空也さ――」

 瞬く間に目隠しをつけられ木刀を握らされた黎ちゃんがそこにいた。

 何故だか知らないがこの兄妹は変だ。

 何かが変だ。

「よし、黎の歩幅ならそこから12歩前進。左に二歩移動だ!」

「な、何故歩幅を!?」

 黎ちゃんは驚きの声をあげる。

 ……いや、SVTにも相手の歩幅から特定距離にたどり着くまでの時間を言い当てる先輩もいるけどさ。

 陰陽師とは関係ないよね!?

 せいぜい占いしたり式神を召喚したりするだけでしょ!? 歩幅なんて調べないよね!?

「うう……仕方ありません……」

 黎ちゃんもここまで来たらやるようで、歩き始める。

 まず最初に二歩左へ。

 真っ直ぐ12歩前へ。

 俺の脳内で数えられた歩数は止まり、黎ちゃんは木刀を振り上げ――。

「えいっ!」

 ポスンッ。

「割れてないな……」

 誰かが呟く。

 そう、確かに空也さんの案内は適切だった。

 だが、黎ちゃんの力はスイカを割るには至らなかった。

「わ、力一杯振ったのにスイカ一つ割ることできない虚弱な黎かわ――」

 ポスンポスンポスンッ!

 三連撃が入ってもスイカには傷一つない。

 あるのは空也さんの声をかき消す軽やかな音だけだ。

「はあ……はあ……」

 黎ちゃんは諦めて木刀を振るのをやめた。

「スイカは三つあるから、それぞれ割ってくれ!」

 空也さんの声で、それぞれメンバーは散る。

 俺の目の前には机の上にタオルをしき、その上にスイカが乗っている光景がある。

「赤木さん、指示しますよ?」

「杉原さんか。よろしく頼もうかな」

 杉原さんは料理対決を挑んできたりよくわからない。

 だが、申し出は断らない。楽しめそうだからな。

「どうぞ」

「どうも」

 目隠しを受け取り、装着する。

 見えない。

 当たり前だがな。

「前方7メートル先です」

 指示が飛ばされたので動く。

 7メートル俺なら少し大股で9歩くらいか。

「……!」

 シュイン!

 俺はそのままの動きで腰に手を伸ばし、友護を抜き放った。

「はじめての居合い切りだ……」

 ポケットからティッシュを取り出して果汁を拭き取り、友護を鞘に納める。

 果汁がついていたと言うことは、切れたと言うこと。

「ちゃんと切れてるみたいだな。杉原さんの案内がよかったみたいだ」

 目隠しを外して見てみれば、スイカは水平居合い切りの切った後でスイカの中央に切った線が入っていて、二つを半分に切り裂いたことがわかる。

 一度でいいから日本刀でスイカ割りしてみたかったんだよな。

「赤木さんなら案内なしでも切れてましたよ。あれだけ刀をうまく扱えるのですから」

 ん……?

 俺が刀を使うところは杉原さんには見せてなかったが……。

「一番近くで見させてもらいましたからね」

 よくわからないことを呟きながら杉原さんはどこかへ行ってしまった。

 一番近くで……刀の扱いをみていた……?

 まさか、猫の女の子か?

 あのあざとい感じの……。

 いや、わかんないもんだね。

 ブルロロロロロロロロロロ……。

 突如背後からエンジン音が聞こえて振り返る。

「エンジン無事点火確認!」

「前方8メートル先です」

「よおおーし! いっくよーー!!」

 紫乃坂(しのさか)(あかね)

 確か、無鉄砲。無邪気。取り敢えず突撃。

「たあああああああああああああ!!」

 ブルルルォオオオオオオオン!!

「……!」

 チェーンソー振り下ろしながら突撃してくる少女がいる。

 葉城と鎌月にチェーンソーを渡されたのか。

「って!」

 そんなこと考えている場合じゃねえ!

 走ってくる紫乃坂さんを避けるように横に飛び退く。

「あははは! あはははははは!」

 目隠しをしながらも的確にスイカに刃を降り下ろした紫乃坂さんは飛び散る赤い汁を浴びながらも高笑いをする

 その姿には狂気の色が写っている。

 昨日、土蜘蛛に挑む前に見たモニターに似たの映ってなかったか……?

 チェーンソーもって笑ってるやつ。

「あー、楽しかった!」

 紫乃坂さんの狂気のチェーンソーアタックは止まり、スイカを見る。

「……なんてこった」

 昨日の粗大ごみから作った机ごと切られていた。

 赤い汁が周辺の地面に散り、殺人現場を彷彿させる。

「く、食えるのか……これ?」

 紫乃坂さんが目隠しを外してつまみを捻ってエンジンが止まるのを見てから、スイカに近づく。

「……断面だけ切り落とせば食えるな」

 俺はポケットからナイフを取り出して、削り作業に入る。


 スイカ割りじゃねえよこれ……。


永久院です

いかがでしたか?

スイカ割りを書いたんですが、割ってないんですね。はい

今回はSVT以外のキャラもたくさん喋ってもらう事になっていたので、色々と苦労しました

なにぶん、他人の通った道を通ろうとしない、あぜ道爆走世迷い男なものでして

他人の文章を真似して書こうとしても、自分の個性が色濃く現れるんですね

大丈夫だったかなぁ……


さて、蒼峰さんにバトンパス

ちなみにこのあとがきを書いている時に、僕は蒼峰さんへの誕生日プレゼントであるナイフを作っているのですが、なんか難しくて苦労してます


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