表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
第二戦 骨
24/49

4-1 疑惑ヲ生厶正義

「眼精疲労を解消するには、目を休めたり遠いところを見つめたり、それ用の目薬をさしたりすることが重要です。それでも疲労が消えない場合は、しばらく眠りましょう。それでも疲労が消えない場合は、しばらく眠りましょう。それでも疲労が消えない場合は、しばらく眠りましょう。それでも疲労が消えな」


 闘いは終わり、俺達は山を下りてきていた。辺りの野犬はSVTに追い払われたことで人間への恐怖心を抱いたらしく、もう寄ってきはしないようだ。

 気絶するように眠っている四ツ谷君の運搬は俺の仕事だ。砂袋を運ぶのとそう大差ない、肩に担いで両手で支えながら山道を進む。


「そういえば、二人って陰陽師なんだよねー?」

「ああ」

「……はい」


 声を掛けてきたのは紫乃坂茜。ライの器となった少女だが、こうも性格が変わるものなのか……。一体何故彼女を器に選んだのか甚だ疑問だ。


「陰陽師って普段何してるの?」

「そうだな……基本は占いによって誰かの災いを退けるのが陰陽師の仕事だ。だが、稀にこうした怪奇現象の対処に当たることもある」


 ちなみに全て口から出任せだ。俺は軍人やら警察やらホストやら探偵やら色々と仕事をしたことはあるが、陰陽師をやったことは一度もないからな。17歳のハローワーク。


「黎ちゃんって今いくつ?」

「えっ……あ……じゅ、10歳です」

「すごいねぇー、その年でもう働いてるんだ」

「黎は一族の中でも優秀だからな」


 とりあえずそういうことにしておけばあまり不自然さは感じないだろう。今回、活躍をちゃんと見られているのは俺ではなく黎の方だからな。


「それにしても、あの土蜘蛛を封印してしまうとはな。君らには感服するよ」

「封印を解除しておまけにお荷物な誰かさんとは大違いよね」

「ハッハッ、俺が撤退補助しなければ今頃全滅しとるわ小娘」

「…………」

「…………」


 歩きながら静かに睨み合う。和やかだった雰囲気は一気に氷点下まで凍りつき、険悪な空気に誰もが口を閉ざしてしまう。


「ふ、二人とも……けんかしないでください……」

「ああ、ごめんごめん」

「…………」


 だが絶好のタイミングで黎が止めに入った。黎が願うならば速やかに臨戦態勢を解除しよう。……そして、多々乃愛沙もすぐに目を背けたが、一瞬見えた。あれは俺と同じ目をしている 黎を、愛でる者の目を ! ……正確には、愛でたい者の目を。

 予想外の場所で同志を見つけたものだ。あとで写メでも送ってやるとしよう。





 ★☆★☆★☆





 両グループのリーダーが仲良くダウンしているそんな中、俺は討伐作戦参加者全員を湖の前のある一ヶ所に集めていた。


「さて、まずは皆さんにお礼を言いたい。あんた方の活躍により、無事土蜘蛛は封印された。それで、一応言っておくと今回の怪奇はあいつだけではないんだ」


 ある程度予想が出来ていたものとそうでないもののリアクションが大幅にずれる。


「あと……五体。別な怪異があの寺に出現する。その事は肝に命じておいてほしい とまぁ、前置きはここまでだ!

 君らに集まって貰ったのは、頑張ってくれたそれぞれのリーダーにちょっとした労いをしようと思っての事だ」

「労い?」

「リーダーだけじゃなく、君らもだな。四六時中気を張っていては肉体も精神も辛かろう。……てなわけで、明日の昼にスイカ割りやります」


 スイカは猿の手で出せるからな。棒なんかそこら中に転がってる木材を使えば何とでもなる。夏らしいし、この集団のリラックスにもなるだろう。


「とにかくまずは各員、体を休めてくれ。見張り云々は俺が行うから問題はない」

「問題はない……?」

「ああ問題ない」


 鎌月、というあの少女を強引に説き伏せる。正直見張りとかやる必要全く無いしな。あの杭が打たれている限りは結界に阻まれ、妖怪は外に出られない。

 伝えることは伝え終わった。俺自身に色々と怪しく思うところはあるようだが、何から聞くか整理しきれないのか誰も疑念を口には出せない様子だ。



「それでは皆さん、またお会いしましょう!」





 ★☆★☆★☆





 携帯のマナーモードのバイブ音で目が覚めた。……眠い。だがまぁ、時刻は深夜の二時半。ちょうどいいタイミングだな……。

 携帯を開き、アラームを止める。思わず溜め息を吐いた。作業とはいえ、やはり真夜中に起こされるのは頂けない。隣に寝ている黎を起こさないように音を殺してロッジを出る。

 夜といえど若干蒸し暑い。そんな中、森に入り進んでいく。やはり行きも帰りも野犬は出ないようだ。まぁ、今なら見たって構わんのだがな。


 あっという間に寺まで到着する。侘びさびのある庭の景観は、戦争でもあったように石畳は割れ灯籠は倒れて砕け散り、地面の形も崩れ、割れた倒木が散らばっている。やれやれ、情趣の欠片もない暴れ方をしてくれたな。美しくないよ。

 それにしても、ここの神主はいったいどこに行ったんだ? 倶利伽羅剣の安置を任されておきながら、セキュリティもそこそこに寺を放って消えるとは。……気になるな。ここの神主については、後で洗うとしようか。


 今はやるべき作業がある。広間に放置したまま下山した倶利伽羅剣……。その鞘を抜く。


 …………。出ろ。


 刀身が光を放つ。再び辺りに重低音が鳴り響き、剣から巨大なものが射出された。

 現れたのは巨大な……骸骨。所謂がしゃどくろという奴だろうか。巨大化した人間骨格。動きやすいためだろうか、蜥蜴のような四足歩行をしながら辺りを見回している。

 胸椎の奥側、心臓よりも中央寄りのあたりに、溢れ出るような紫色の濃霧がかかっている。だが外に出ていくことはなく、霧は肋骨から出るとすぐ空気に紛れて消えていく。つまりただの自然発生、現象的な意味の霧ではないと解る。……ちょっと視るか。


 ……なるほど、瘴気の霧か。常人が吸えばたちまち動けなくなるほどに濃い瘴気。俺ですらあまり吸いたくはない。半分怪奇である七不思議でも、吸ったら危険なほどだ。

 だが裏を返せば、そうまでして守らなければならないものがそこにあるというわけだ。


「ガアアアアァァァッ!」


 がしゃどくろが全身でこちらを振り返る。おっと、土蜘蛛撤退戦みたいな面倒な真似はお断りだぞ。速やかに消えるとしようか。

 跳ぶ。がしゃどくろの頭蓋上に乗ると、背骨を伝って走っていく。腰椎の辺りで再び跳び、木の枝に掴まってその上に乗る。がしゃどくろはようやく気付いて振り返り、咆哮した。……追ってきたか。今は下まで下りられたら厄介だな。仕方あるまい……。

 木の上から、頭蓋骨の上に飛び降りる。直ぐ様左腕で叩かれそうになるが、眉間を蹴って離脱し真正面に構える。


「貴様ハ……何ダ……?」

「……陰陽師だが」


 ポケットの短剣を取り出し、右手を貫く。……手から血が滴り、床に血がボタボタと落ちた。だが落ちた血は直ぐ様俺の左手へと移動し、やがて大きな一つの水滴となった。

 blood(血液) summons(操作)。神域流闘術は空気抵抗、及び風を操る。だがこういった重く、硬そうな輩には接近しないと効果が得られず、また接近すれば瘴気の霧を吸いかねない。そこで、これだ。水滴は槍状に形を変え、液体から固体となった。さて……


 四つん這いのがしゃどくろくんの右手首に槍を投げた。槍は手首を貫通し、背後の右足首をも破壊する。痛みや感覚を感じさせるよりも早く手元に血液を戻し、再び槍にして今度は左の関節を両方とも破壊した。


「ギャアアアアアア!?」


 再び血液を手元に戻し、倒れたがしゃどくろから逃走する。長い階段を一気に飛び降り、山を滑るように降りて、結界の外へと逃げ出した。


「まったく……」


 出血大サービスしてしまった。我ながら不必要なことを。だがどうもバトルフリークの血が騒いでしょうがない……ああ、土蜘蛛ともちゃんと闘いたかったなぁ……。

 いやいや、今は我慢だ。魚が釣れたらその時こそ……だな。


「いいわよ、そういうプレイね。(遺言)


豆知識:いつまでも あると思うな 豆知識」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ