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ひと夏限りの怪奇劇 ~交差する彼等の物語~  作者: 月詠学園文芸部
第一戦 蜘蛛
21/49

3-11 激闘、七ツノ力

割と真剣に書いた戦闘回です。ただの力押しになってしまわないよう、いつも気を遣っています

 SVTの面子は武器製作。七不思議の頭領は作戦。我々はサボリ。鉄壁の布陣だな。

 現在位置、八号ロッジ。正座して向き合う俺と黎。かわいい。こうも空気が張り詰めているのには理由がある。昨日の夜の事についてだ。


「さて、そろそろ話して貰いますよ。空也さん、私たちの仕事以外に何らかの仕事を受けていますね?」

「ああ……。まぁ、黎に話さずにこの任務を遂行するには無理があるからな」


 ――――俺は、黄泉零奈に持ち掛けられ画策した計画を黎に話した。


「……時間の無駄ですよ。今から連中を剣ごと潰して、『それ』は無視しましょう」

「いや、黎、それは」

「その上で、あの二グループの記憶を消せば万事解決です」


 はぁ……だから黎に話すのは嫌だったんだよな……。黎は人に優しく、無償の働きもするのだが、あまりにもビジネスライクすぎる。一度受けた仕事は、必要最小限の働きで、必要最小限の犠牲で速やかに終わらせる。それが我が妹の考えだ。

 だが、俺は若干違う。必要最小限の働き、そして……犠牲はゼロ。出してはならない。『そいつ』を放置すれば、民間人に多大な迷惑が掛かりかねない。


「なぁ、黎。これは被害をゼロにするためなんだ。それに、彼らの成長にもなる」

「でも――」

「俺たちにとって、この一週間ばかりの戦いは赤子の手を捻るような何でもない一瞬だ。だがな、彼らにとっては重要なんだ。俺たちにとっての一瞬を、彼らは今も全力で生きている。……なら、その一瞬をくれてやってもいいと思わないか?」

「む……」


 立ち上がり、窓に歩み寄る。それに伴い、後ろから黎もちょこちょこと歩いてきた。窓の外では、テントの中でSVTが武器製作に全力を注ぎ、ベンチで四ツ谷君とその他の面子が作戦会議らしき事を続けていた。


「眩しいと思わないか? 今を生きる若者だけが持てる輝きだ」

「空也さん……」


「あなたも同年代ですよね……?」

「そこは突っ込んで欲しくなかった」





 ★☆★☆★☆





 太陽は既に沈み、空には欠けた月が昇り始めている。石畳や灯籠が壊れ、寺の前は戦争の後のように傷だらけになっている。

 そこに胡座をかき、二本の腕を組み、背中から生える四本の腕は脱力して垂れたままになっている。般若のような顔をした、巨人。土蜘蛛は目を閉じ、待っていた。


「フシュウウゥ~……」


 迫る闘いの時への興奮を抑えきれずに、片腕を震わせる。その顔には笑みを浮かべ、森の一方向を睨む。


「来たか……!」


 木の向こうから黒い矢が土蜘蛛に向かって飛んだ。影の矢。それを難なく片腕で弾き、立ち上がる。睨んだ先にはチェレンの姿があった。


「……一人、だと?」

「そんなわけないですにゃー!」


 土蜘蛛の背後で、リカが月を背に影となって飛び上がる。片眼をギョロリと動かし、振り返りながらその姿を殴り付けた。


「……っと!」


 だが、その拳はリカを吹き飛ばすことはなかった。拳による攻撃とは、吹き飛ばされた先での地面……または、体を固め防御した際に発生する。即ち、空中でのリカへの攻撃はほぼ意味を成さなかった。宙を舞う紙にナイフを振り下ろすのが無駄なのと同じこと……とはいえ、迫る巨大な拳を前にして力を抜くというのは至難の技なのだが。

 拳に掴まると腕を足場に走り、猫の爪で腱を狙って切り裂いた。……だが。


「か、硬いですにゃ……」


 腕には僅かな引っ掻き傷がついただけで、むしろダメージを受けたのはリカの爪の方だった。それを見、ニヤリと笑うともう一本の背中から生える腕でリカを叩き潰しにかかる。

 だが、その腕にはワイヤーがぐるぐる巻きにされて動かない。その先は一本の巨木に巻き付けられていて、千切ろうとしても千切ることができなかった。ワイヤーは月に照らされると、黒く光る。


「これぞコンビネーションだぜ!」

「ただのワイヤーじゃないぞ」


 クナシが手に持つのは、SVTの精鋭メカニック製ワイヤーガン。応用はあまり利かないが、ワイヤーを張る速度はこれまでと比べ物にならない。

 さらに、そのワイヤーはチェレンの影でコーティングされ強度が増している。切れ味は若干落ちるが、固定のためには十分だ。


「はっ……! 一本くらいなんだってんだ!」


 残る四本の腕で、腕に張りついたリカを潰そうと視線を戻す。が、そこには既にリカはいなかった。――直後、視界の右端から現れたリカの手の中で何かがキラリと光る。


「ぐ――ぐああぁぁぁあぁっ!!」


 視界が、半分失われた。リカは隙を突いて土蜘蛛の肩まで登り、右目にナイフを突き刺したのだ。これもSVTが作成したもので、威力は軍用のそれに匹敵する。

 ナイフを素早く引き抜くと、痛みで暴れ狂う土蜘蛛の体の上から離脱する。猫は高所から飛び降りても傷つかない――――。

 さらにその隙を突き、死角となった右の腕のうち一本にチェーンソーが近付く。


「第一リミッター、解放――――」


 静かに、だが確かに響くライの声。バイクのようなエンジン音を立て始めたチェーンソーは、土蜘蛛の腕のうち一つに喰らい付き、腕からは鮮血が迸る。


「ぬお!」


 だが土蜘蛛が腕に力を込める。筋肉が締まり、途端にチェーンソーの刃が通らなくなる。だが、SVTの天才たちの作成したチェーンソーはそんな事に負けはしない。

 腕を飛ばしたライ。その本体は両腕がないながらも、それを気にも止めない猟奇的な笑みを浮かべ呟く。


「第二リミッター解放……!」

「う、ぐおおおお!」


 再び刃が回転し始め、さらに巨大な腕を切り進めている。流れ出る血を、残る左目で忌々しげに睨むと、感覚を頼りに他の腕でチェーンソーを振り払った。


「はぁ……はぁ……やる、じゃねぇか……!」


 左腕を一本縛り付けられ、右腕を一本破壊され、土蜘蛛はそれでも笑みを浮かべ続ける。


「ふんっ……ぬんぐ……!」


 左腕に巻き付いたワイヤーを払おうと力を込めるが、ピンと張られた影のワイヤーは千切れない。……だが、それがかえって驚異となる。


「――おおおおああああああ!!」


 大音声を上げ、左腕に全力を込める。すると巻き付いた巨木はメキメキと悲鳴を上げ始め……やがて、地面から離れ宙を舞った。


「ふぁはははははは!」

「オイオイこれやべーぞ!」


 変則フレイル。木を鉄球、ワイヤーを鎖がわりに、土蜘蛛は新たな武器として振り回す。地面に叩き付けると、円を描くようにそれを擦らせながら振るった。


「ナツ!」

「クスッ、面白い玩具ね」


 身を隠しながら七不思議たちに指示を出す戒都。チェレンを庇うようにその目の前に現れたのはナツ。その目の前に猛スピードで巨木が迫ろうと、彼女の笑みは崩れない。


「わたしの玩具とどっちが強い?」


 巨木にぶつけるべく、ナツの手から放たれたのは巨大な嵐。螺旋を描く巨大な風圧は、巨木すらも真っ二つにへし折ってしまった。だがそれは、土蜘蛛の腕が自由になったことにも繋がり、そのままの勢いでナツを殴り付ける。

 しかし拳は空振った。既にナツの体は土蜘蛛の背後にある。


「当てっこ遊びかしら? 楽しそうね」


 土蜘蛛は振り返り、笑う。戦いを楽しみとする彼にとって苦戦とは至高だ。両足を強く踏みしめ、天に向かって咆哮する。その煩さに、思わず全員が耳を塞いだ。





 ★☆★☆★☆





 ふふふ、順調順調。俺、黎、黄泉とフーカという七不思議は、土蜘蛛の隙を突いて寺に向かうべく四ツ谷君と共に移動していた。

 ただの護衛ではなく、四ツ谷君は移動しながら指示を出すことで土蜘蛛から身を隠し、その標的から抜ける目的がある。


「おおおおオオおあアああアアア――――!!」


 うわっ、うるせえなクソ野郎。その喧しさに、七不思議含め移動中メンバーも反射的に耳を塞ぐ。しかしこれは不味いな、四ツ谷少年による指揮が一切不可能になる。それを目的とした咆哮――即ち、これから指揮によって妨害されたくない大技を仕掛けるということだな。

 見ると、脚の筋肉に足元めがけて順々に力が伝達されているのが解る。跳ぶ気だな――今のタイミングで跳ばれ、ボディプレスされたらあの場にいる四人は直のダメージや瓦礫の激突によるダメージ――――統合して、全員への大損壊は免れない。……ナツというあいつは別としてな。


「四ツ谷君!」

「…………」

「四ツ谷君!!」


 チッ、ダメだな。耳を塞ぎ、かつあまりの騒音に全ての音が遮断されている。さて、どうするか。骨伝導で伝えてやってもいいんだが、ナイフで骨まで貫いたら痛いよな。

 と、黎は意を決して手を耳から離し、四ツ谷少年に向かって走った。言葉が伝わらないため、何とかボディランゲージで伝えようとする。が、いまいち伝わっていないようだ。

 今度は自分の額を指差し、手招きする。意図は解っていないようだが、四ツ谷君は屈んで黎に顔を近付ける。すると四ツ谷少年の額に手を触れ、そこから僅かに青白い光が漏れた。


 テレパシーの類いだろうか。それを伝え終わったのか、黎は再び手を離して耳を塞いだ。

 今度は四ツ谷君が耳から手を離し、紋章が浮かび上がった右手を前に突き出す。その手は、チェーンソーを持つライに向いていた。

 それで恐らく指示が出せたのだろう。今まさに地を蹴ろうとしていた土蜘蛛のアキレス腱を、飛んできたチェーンソーが一閃した。


「がぁっ……!」


 ようやくやかましい咆哮が止み、同時に土蜘蛛がバランスを崩す。アキレス腱を完全に切ったとは言えないが、まさに跳ぼうとした瞬間への攻撃。倒すには十分だな。


「あぁ……み、耳いたい~……」

「ありがとう、黎ちゃん。助かったよ」

「はい……ど、どういたし、まして……」


 黎はかわいいなぁ……。徐々に、四ツ谷少年に対しては心を開いているんだろうか。照れながらも、ワンピースのポケットから札を取り出す。


「わ、私も追撃を……!」


「……あれっ? く、空也さん! これ退魔札じゃないですか!」

「え? なんか違うの?」

「陰陽道に使う札じゃないです~! どうしよう、道具もないし……!」


 まずった、これは故意じゃなくマジな方の失敗だ。黎は陰陽道が苦手。故にそれを使えば、ちょうどいい手加減になると思ったのだが。


「まぁまぁ、札なんかみんな一緒だよ。試しに使ってみ」

「……あなたは、家に虫が入ってきたらその虫に虫除けを張り付けるんですか? そういう事ですよ、あなたが言ってるのは」


 ああ、つまり虫除けスプレーと殺虫スプレーの違いなのか。そりゃだいぶ違うな。


「……二人とものんきだね~」

「慣れてるからな、要は経験だよハッハッハ」

「と……とりあえず、みんな今のうちに寺に行っててください」


 俺を先頭に、四人で寺まで移動する。あとはこのフーカの力で隔離部屋に入り、黎の力でモニタリングして楽しむとしよう。

 と、最後尾を走っていた黎は、何かに気づいて振り返った。寺の入り口辺りから土蜘蛛の頭上辺りに何かを飛ばす。

 それは空中で弾けて辺りに銀の雨となって降り注ぐ。……鏡、か?


「御武運、を」


 四ツ谷君に向かってそう言い残し、黎は寺の中へ。戦闘中の土蜘蛛には気付かれずに済んだようだ。寺の中の扉を隔離部屋と連結させ、俺たち三人はその中に入った。

 ここに入るのは二回目だな。何もない、実に殺風景な部屋だ。


「急にしーんとしちゃったねぇ」

「フッ、そんなお客様のためにご用意しましたこちら! 黎、アレを」

「…………」


 黎は黄泉を警戒しているのか、また人見知りモードに入ってしまった。四ツ谷君にはちょっと慣れてきているのに……何だろう、人の良さの違いかな。

 黎が魔法を使用すると、壁にプロジェクターのように映像が投影された。土蜘蛛と七不思議の戦闘の様子だ。常時ベストなカメラアングルに自動的に変更される優れもの。


「おお~! 凄いね黎ちゃん!」

「い、いえ……」

「でもこれ、絶対陰陽道関係ないよね」

「そこは言っちゃ駄目な部分だ」


 ブルロロロロ……


 ん? エンジン音? あのチェーンソーとはまた別……車か?

 ……ほぉ。新たな戦力の登場か。面白い、戦況はどう転ぶかな。今週号でも読みながら見守るとしようか!


フジーフミャー


豆知識 私と永久院さんは挿絵をもらえないのに、蒼峰さんだけ立派な挿絵を貰っていて妬みの的となっています

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