1:出会い
どーにもスランプなので気分転換に書き立てホヤホヤを投稿
「やっと着いたか……。つかこの辺ちょっと来ない間に変わりすぎじゃね?もはや迷路なんすけど」
四条 雄介は実に2時間をかけてようやくたどり着くことに成功した目的地を前にそんな愚痴をこぼした。
雄介の目の前にそびえ立つのはこのアルセア大陸でも特に”三大魔法学校”と呼ばれ人々の憧れとなっているものの一つで、名前を”リフテリア学園”といい、今日から3年間雄介がお世話になる場所であった。
校門に立つ警備の人に入学許可証を見せつつ事務の場所を訊ねた雄介は今すぐ寝っ転がりたい衝動に駆られつつも入寮手続きを行った。
「業者からの荷物は既にお部屋に運び込んであります。寮の門限は午後10時となっており、それを過ぎると入るだけで手続きが必要になる他、罰則もありますので注意してください。その他所注意は室内にある”新入生入学案内”をご覧ください。質問等ありましたら内線から事務へどうぞ」
(やれやれ最初は何事も時間かかるな。んでもこれでやあっと部屋に入れるぞ……)
雄介は寮に着くなりまっすぐ割り当てられた自分の部屋へ行き、そそくさと中に入る。
「お、けっこー広いじゃん。風呂トイレにキッチンまであんのか。さすが三大魔法学校の一角。金かかってんなぁ。つかベッドでか」
予想以上に快適そうな部屋を前にややテンション上がり気味の雄介は、あと一回り大きければ堂々とダブルを名乗れるであろう備え付けベッドにダイブした。
「はっは~!寝心地最高!こいつはいいぜ」
地図とにらめっこして磨り減った神経を休めつつ、横目で天井まで積み上げられたダンボールの山を見る。
(どっから片付けるかねぇ……。つかちゃんと箱詰めするときに中身を書いときゃよかった。これじゃどれに何が入ってんのかさっぱりだ)
先週の自分を少々恨みつつも、ダンボールで達磨落としをする勇気もなく結局上から順番に開けていくことにした。
雄介がダラダラと荷解きをすること3時間。男にしては多めだったダンボールはすっかり畳まれた挙句縛られており、室内はすっかり生活感溢れる様相と呈していた。
備え付けのベッドにはシーツとカバーが掛けられ、組み立てられたガラス天板の机には性能重視の大きなパソコンが置かれ、本棚には専門書やら漫画やらがジャンルは様々だが綺麗に整列し、クローゼットは使いやすさ重視で整頓され、空いているスペースには背の低い丸テーブルと、クッションがいくつか、トイレも季節に合わせた小物が置いてあり、風呂には常用のシャンプー類、脱衣所兼洗面所にはマットが敷かれ、キッチンには調理道具一式どころか、お菓子用の道具やらカクテル用の道具やら、果てはパン切り包丁まで完備されていた。ついでに言うなら食器類も無駄に豊富でティーセットまである始末。
「ふぅ~……やっと終わったか。ってもう6時過ぎてんのかよ。確か学園の敷地内に自炊組用にでかいスーパーあったよな?いや今から買い物して作ってとかやってたら食うの9時過ぎちゃうか。しゃーね、今日は外食ですまそ」
リフテリア学園は大陸を代表する学校なだけあり、各地から多くの生徒が入学してくる。つまりそれだけ規模が大きいということで、当然維持費の都合から学費は上がり、そこからさらに施設が充実していくというように、うまい具合に良循環が発生している結果敷地内には大型スーパーはもちろん、ショッピングモールなんかまである始末だ。
当然コンビニの類や飲食店の類も多くあり、自炊が得意でない、またはする気のない生徒は基本的にこれらを利用している。
ちなみに所謂学食、即ち学生食堂というものは存在せず、代わりに学園敷地内の各店舗はいずれも格安で提供されている。
実はそこらのレストランよりも美味い食事を作れるほどの料理スキル、というよりは家事スキルを持つ雄介は初日から自炊する気満々だったのだが、思わぬアクシデント、もとい2時間にわたる迷子になったせいでその時間をすっかり逃してしまったのだ。
「さすが学園内で一番家賃が高い寮なだけはある。コンビニが近いのは便利でいいな」
寮から徒歩10分の距離にあるコンビニでテキトーに一食分の買い物を済ませた雄介は乾燥してきた風を浴びてなかなかにいい機嫌であった。しかしそういうときに限って問題と言うものは発生する。
「は、放してください!いやっ!放して!」
(おいおい……せっかく人がいい気分で居るってのに……せめてもっとこう、オリジナリティが欲しいよな)
雄介がどっかで聞いたような展開が自身に降りかかったことに対して抱いた感情はそんなものだった。しかし幸か不幸か、この手の展開が彼の身に降りかかるのはこれが初めてではない。
雄介は慣れたもので声のした方に歩を進めると、一人の少女を取り囲んでいるいかにもな青年達の間を見事にすり抜け、彼らと少女の間に立ちはだかった。
「あ?んだてめぇ……?」
「通りすがりの一般ピーポーBだよ」
雄介が小ばかにしたように言うと相手の不良青年は誰が見ても分かるようなイラッとした反応をみせる。周囲の不良たちは雄介をいぶかしんで見ているものの、「なんだこいつ?」くらいにしか思っていない。雄介の目の前の青年が特別キレやすいたちなのだろう。
「オーケーオーケー。てめぇがヒーロー気取りのクソ野郎ってのはよぉく分かった。とっとと失せやがれぇ!」
そう言って青年はその手に炎を纏うと雄介に殴りかかった。拳速も早く、ましてや炎によるその派手な見た目は受け手に多大な恐怖と痛みをもたらす
はずだったのだが、
拳が雄介に当たる寸前、拳と雄介の間に不可視の壁が立ちはだかり、青年が今日まで信を置いてきたその一撃必倒の拳は、いとも容易く進行を防がれ青年の望む結果をもたらすことはなかった。
対する雄介はといえば青年の拳に臆した様子など微塵もなく、それどころかコンビニの袋を手首に引っ掛け、両手ともポケットに突っ込んだままという青年からみれば実になめた態度で淡々とそこに突っ立っていた。
「なっ……!?」
「どーした?まさかその程度防がれたくれぇで驚いてんじゃねぇよな?それとも何か?”オレの拳は最強だぜ”ってか?」
「てめぇ……雑魚がちょづいてんじゃねぇぞ!!」
軽いバックステップで雄介と一度距離を置いた青年は、拳を腰だめに構えると、怒り心頭の言動とは裏腹に先刻よりも明確な攻撃意思と冷静さを持って雄介に相対する。
構えたのもつかの間、鋭い踏み込みと共に生まれた爆発的なエネルギーを天性の才能でもって見事に余すことなく乗せたストレートを青年は雄介へと叩き込む。
先の一撃とは比べ物にならない必殺の拳。
対する雄介は依然としてさっきと変わらず両手に手を突っ込んだまま突っ立っている。しかし今度も直撃の寸前に不可視の壁が出現する。
だが、青年はもとよりそれを予想していた。故に必殺の拳が不可視の壁に衝突した瞬間、今度は接触面にて爆発が発生、青年はその爆発に指向性を持たせ、そのエネルギーの全てを雄介に向けた。
「はぁ……はぁ……どうだヒーローさんよぉ……」
立ち込める煙で視界が悪いものの、青年はこんどこそ自分に盾ついたいけ好かない男が屈していると確信していた。なぜならそれは青年がだせる最高の一撃であり、同時にいまだかつてこれを受けて無事でいたものなど誰一人としていなかったのだから。
(そうさ、あの野郎を潰したこの一撃で倒れねぇやつなんざいねぇ。オレが最強だ。最強なんだ……!!)
しかし煙が晴れた先にある現実が目に飛び込んできたとき、青年は愕然とした、否、思考が停止した。
そこにはあいも変わらず淡々と突っ立ている雄介が居たのだから。当然青年が思っていたように倒れていたわけでもなく、それどころか砂埃すら着いていなかった。
「へ~、年のわりにいい一撃を繰り出すじゃねーか。ま、あんたの年なんてしらねーけど。……んで?」
「あ、あぁぁ……あぁあぁあぁあっ!!!」
自身の最高の一撃に対して一言で済ませた挙句に次はないのかと言わんばかりの雄介の態度に青年は恐怖を感じた。それと同時に恐慌状態のまま雄介に襲い掛かった。
否、襲いかかろうとした。
「おいおい、急にどうしたんだ?」
今日青年とであったばかりの雄介は当然知らない。自らが青年のトラウマを知らずに抉っていたことを。それ故に青年が恐慌状態に陥ったことも。
「はぁ……しゃーない」
突然狂ったように冷静さを欠いて襲い掛かってきた青年に対し、雄介はため息をついた後、スッっと目を細めて青年を見据えた。
それだけ、たったそれだけの動作で青年は車に撥ね飛ばされたかのような勢いで雄介とは反対方向にすっ飛び、壁に叩きつけられて地面に倒れた。
青年はそのまま起き上がることもなく傍から見ても気絶していることが伺えた。それを確認した雄介は静かにいまだ周辺にのこる青年の取り巻き達を見た。
雄介の視線を受けた取り巻き達は慌ててその場を離れ、気絶した青年を回収すると見事なまでの早さでその場を立ち去っていった。
あとには取り巻き達の手際のよさに思わず感心してしまった雄介と、事の発端となったにも関わらずすっかり状況に置いてきぼりにされてポカンとした表情を浮かべた少女が残されていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字・脱字等ありましたらお教えください。