塵捨て場~そのに~
誤字脱字報告、矛盾点の指摘や感想等は不要です。
オンラインゲーム中のチャット会話の文に「w」などが含まれています。
苦手な方は十分にご注意下さい。
皆はこの今私達が生きている世界ってどういうものなんだと思う?
私にはすっごい不思議だ。なんで思考なんてものが存在していたり、感情があったりするのだろうかと。
なんで生き物なんてのがあるんだろう。
私が作られた時は、私の周り、足元にはなにもなかった。
一番最初は私はまん丸の淡い光だった。けれど、しばらくそのまま空中に漂っていたら形が出来てきて、色が変わった。
視界もだんだんクリアになってきた時には、私の周りにも似たような存在がたくさん増えてて、ああ、私も彼らも同じなんだな、と漠然にだけど思ったの。
実際彼らもそう感じていたようで、言葉を話すなんてことはまだ出来なかったけど、なんとなくこれから先で出会うこともあるのだろうなと、それはどんな経緯でかは分からないけど出会うんだという予感がしたんだ。
そうして私が完全に出来上がった時、視界一杯に光が溢れて目を開けていることが出来なくて咄嗟に閉じた。
「ここは」
次に私は私であると気がついたとき、私が存在している世界の言葉に生活習慣等が事細かに理解されていた。でもここがどんなところかは分からなかった。
初めて言葉を話したはずなのに、当たり前かのように全くの自然に出てきた言葉に驚く。
「なんで、話せてるんだろう」
全てが頭に入っていて、でもそれに私は追いつけていない感じ。気持ちが悪い。
私はこの奇妙な感覚が嫌でおかしな顔をしていたのだろう。脇から知らないおばさんが話しかけてきた。
「あんた、どうしたんだい? おや、もしかしてデスティニーストーン所持者かい! なら納得だね。あんた今降り立ったばかりなんだろう」
「です……所持者?」
事情を知っているというようにおばさんがうんうん頷いている。私が知らない私のことを、このおばさんは知っているんだろうか。
「まずはあたしからのクエストを受けておくれ。サニーからの紹介だって言って駐在所に行けば達成できるからね。さあ、お行き」
「え、どういう……て、わっ」
まだ聞きたいことがあったのに、おばさんから話を聞いた私は何故か勝手に歩き出した。私は歩こうなんて考えていないのに。
体の自由がきかない。なんなのこれは。なんとか止まれ! と強く思ってもみたけど止まることはなく、数分歩いたところでやっと止まった。
私の足が止まったところは石造りの建物で、なんでこんなところにと思っていると、またしても私の体は勝手に動いて建物の扉を開けて中へと入っていった。
「やあ、どうしたね。ああ、サニーさんの紹介か。今日は何人目かな。よく来たね、お嬢さん。これからいくつかのクエストを受けてもらう。きちんと達成できたら次のエリアへ行けるよう手続きを取るから頑張ってくれよ」
「ここが駐在所? クエストってなんですか。さっきのおばさんも言っていたけど」
制服を着たおじさんが私ににこやかに話しかけてきて、話を勝手に進めている。そしてまた、おばさんが言っていたクエストとか達成って言葉。その意味は知ってるけど、なんで私がそれをしないといけないのかは分からなかった。
「まずは町の周辺にいるビッグラットを五匹討伐してくれ。証にしっぽを持ってきてくれよ」
「討伐? なんで私が?」
いきなり魔物の討伐を言い渡されて、私は質問をしたのだけれど。おじさんは質問には答えてくれなかった。
私はまた体が動いて駐在所を出ると、今度は待ちの出口へと向かって歩いていた。出入り口の木のアーチが見えたからだ。
「なんなの、わけが分からない!」
つい大声で文句を言うが、すれ違う人々はそんなこと誰も気に留めていなかった。オカシイ。ここはオカシイ。
奇妙な感覚と不安がないまぜになって私は泣きそうになった。でも涙は出なかった。
そしてとうとう町の外へと出た私は、そのまま少し街道をずれて野原へと行く。すると、野原に転々とあった岩の陰にビッグラットがいて、もそもそと草を食んでいた。
「こいつを五匹」
体長四十センチくらいだろうか。赤い目にピンクのしっぽで紺色の体毛に身を包んでいるビッグラットは雑食で、街の畑や食料庫をよく荒らすのだ。
ビッグラットは私の存在に気づいているはずなのに逃げる素振りを見せない。これから私は殺すのか。
そう思っていると、私の右手に剣が現れた。そして徐にビッグラットへと剣を振りかぶり、そのままざしゅっと切り裂いた。
完全に殺しきれていなく、まだぴくぴくと痙攣しているビッグラット目掛けてもう一度私は剣を、今度は横になぎ払う。すると、きいいとビッグラットの断末魔が響いて息絶えた。
血や内臓が飛び散ってグロかったが、息絶えると何故かピンクのしっぽだけが残って後は霞のように消えてしまう。
消えてしまい死体の処理をしないで済むのは有り難かったが、これは明らかに不自然で。私の知識にはこんなことは入っていなかった。でも、生き物を殺すことへの嫌悪感はなかった。
私の体は落ちているしっぽを拾う。すると、確かに拾ったのに次の瞬間手の中から消えたのだ。
「消えた……なんで」
私の疑問に答えてくれるものはなく、その後もビッグラットを発見しては次々と倒して全部で五匹分のしっぽを手にしたのだった。でも、やはり手にした途端しっぽは消えてしまったのだが。
「これで五体」
やっと、勝手に動いてビッグラットを倒す作業をただ見ているだけの時間が終わった。しかも、途中目を瞑っていても問題なかった。けれどすぐにまた私は歩き出す。方向からして街へと戻り達成の報告でもしに行くのだろうなと勝手に動く体に大分慣れてきた私は思った。
「やあ、ごくろうさん。これは報酬の三〇〇ゼンだ。次は道具屋のアンナから聞いてくれ」
案の定、駐在所へと戻りビッグラットのしっぽを渡すと、おじさんが三〇〇ゼンを渡しながらそう言ってきた。それを聞いた私は受け取ってまた歩く。お金はいつの間にか消えていた。
もしかしたら、私のこの体は人から何かを言われると勝手に言うとおりにしてしまう呪いでもかかっているのか。自分の意思で体を動かすことができないなんて。
私の年齢は一五才だけど、今日までの記憶はない。だから、それまでどうやって生活していたかとか、どういう家族や友人に知り合いがいるのかも知らない。でも記憶喪失などではないと分かる。今日出来たばかりの私にはもともとそんなものはないのだし。
どうして私は作られたのだろうか。ただのまん丸の淡い光だった私。あそこには私以外にも同じものがいた。彼らは私のようにここへ来ているのだろうか。
考えながらたどり着いた先は道具屋で、中へと入ると恰幅のいいおばさんが居た。
「いらっしゃい。何か入用かい?」
「駐在所のおじさんからここへ行けって言われたんですが」
「低級HPポーションは一本一〇ゼンだよ。MPはここにはないから次のエリアで買っておくれよ」
「あの、ですから駐在所のおじさんに」
「低級HPポーション一〇本だね。一〇〇ゼンだ」
「え、私買うなんて言ってないです!」
道具屋のアンナとの話がかみ合わない。これでは押し売りだ。抗議したけど、何故か私の手に一〇〇ゼンが現れて低級HPポーション一〇本と引き換えに一〇〇ゼンを渡してしまう。
これも体が勝手に動いてのことだが、それにしてもおかし過ぎる。私はこれまで誰とも会話が出来ていないのだ。話が勝手に進んでいくし、買い物まで勝手にしている。
まるで、誰かが私の意志に反して私の体を動かし、私の聞こえない声で他の人と会話して話を進めているようだ。でも、そう考えたらまったくその通りで。じゃあ、私は一体なんなのだろうか。
受け取った低級HPポーションは、手に持った時にまた消えた。ビッグラットや報酬の時と同じだ。
その後も、道具屋のおばさんと私に聞こえない私を操っているのであろう誰かは会話をしているようで、次のクエストを依頼された。それも終わり、今度は鍛冶師。その次は街の領主。
もはや考えることを放棄した私は、そのまま流れに身を任すことしかできないしただ見ているだけだった。
そして、領主から次のエリアに行けると言われた時にパーティを組むといいよと勧められた。
領主の館から出ると、私と似たような格好をした人達が庭に居て、私はその人達に近づいていく。そして何故かそこにいた内の二人と共に街をでるのだった。
一人は男の狼の獣人で大剣を担いでいた。もう一人は橙色のカエル男で杖を持っている。
街道を歩いていると時折戦闘になり、私達三人は駆逐しながら進んでいく。その間とくに会話もない。私だけがひじょうに気まずい思いをしながら、相変わらず勝手に戦う私。
やっと次のエリアに着くと、そのまま三人でそのエリアの領主のところへと向かった。
「よく来たな。ゴードンから手紙で知らせが来た。お前達がデスティニーストーン所持者か。私からも頼みたいことがあるのだが聞いてくれ」
「え、この人達もですなんとか所持者なの」
「じつはだな」
そう言って領主は私の言葉は無視して頼みごとを話し出した。なんだかもう、話を聞く気がしない。どうせ勝手に話は進んでいくし動くしで、私の意志など関係ないのだから。カエル男がこちらを見ていたけど私は気づかなかった。
投げやりになっていた私は、領主の話を右から左へ聞き流して首が動かせないので目だけで部屋の中を見回して時間を潰すことにした。
長い領主の話が終わったのか、私達三人は館を出てどこかへと歩いて行く。
途中で狼の獣人が脇に居たのに急に消えた。けれどもう一人のカエル男は気にも留めないでそのまま歩いていく。
二人になった私たちは相変わらず無言で大きな宿屋へと入った。カウンターで主人に宿代を渡し、部屋へと入る。
私は体の疲れは特に感じていなかったのだが、ここで休むらしい。
カエル男がこちらを振り向くと、いきなり手を振ってきたので驚いた。その後急にぴたりと動きが止まり、ベッド脇で直立不動になった。
一体なんなのだろうか。これがカエル男の種族の宿での休み方なのだろうか。いくらなんでもそれはないだろうと思ったが、このわけの分からない世界ではありえるのかも。と思ったら何故か私も手を振り返した。なんなんだ。
ちなみに、私も自分の意思で動くことが出来たためしはない。目の前のカエル男と同じで直立不動状態だ。
私を動かしている誰かが次に私を動かすのはいつになるか分からないが、それまではずっとこのままのようだ。
「もうやだ。どうして私こんなことしてるの」
思わず泣き言が出たけど、どうせ私の言葉など誰も聞いてはいないし、この際だから次に動くまで文句言いまくってやると私は決めた。
「ありゃ、やっぱりあんたもしゃべれたんだケロ」
「なんで……え、今のってカエル男さん?」
「おおお! おいらと会話できるんだなケロ!」
目の前のカエル男がいきなり話し出した。しかも私とちゃんと会話できている!
「なんで今まで黙ってたんです? それとこの世界の人達って皆話がかみ合わなくなかったですか? 私、何度話そうとしても全然駄目で。体も勝手に動くしでもうどうしたらいいのか分からなかったんです! なにか知っていませんか?」
「ちょっと待てケロ。嬉しいのは分かるケロが質問が多すぎるんだケロ」
「あっごめんなさい。初めて意思疎通できたから嬉しくってつい」
お互い直立不動のままだったが、声色で私の感動は伝わっているらしい。私にもカエル男の困った感じが伝わってきた。
「黙ってたって言うケロが、あんたもずっと黙ってたケロ。領主のところでは空耳かと思ってたんだケロ。この世界の住人は……おいらも今の今まで会話がかみ合わなかったもんで話すの諦めてたんだケロ」
「やっぱりかみ合わないんですね」
「そうだケロ。勝手に歩いて勝手に戦って、大変だったケロよ」
「私もです! もうなにがなんだかわけが分からなくて! この状況はなんなんでしょう」
ようやく会話できる相手が見つかったとお互い一気に意気投合した私達。カエル男も私と同じようにまん丸の淡い光だったらしい。そして気がついたら最初の街にいたんだとか。
お互いの見解を照らし合わせてみたけど、やっぱりどうしてこんなことになっているのか分からなかった。
「そういえばカエル男さんは名前あるんですか?」
「ないケロ。あんたの名前はあるケロ?」
「ないですね……道具屋のおばさんとかはありましたけど」
そうだった。今まで気づかなかったけど私の名前はなんだろうか。年は分かるのに。あと私の種族だけど、これはヒュム族だと思う。獣人やエルフなどの特徴はないし。そして剣を使っていることからして私は剣士とかなのだろうか。
「じゃあ、名前決めませんか。私のことは剣士みたいですし、ケリーで」
「安直ケロな。おいらは杖持ってるし魔法で攻撃してたケロから魔道士のマージでいいケロ」
「そっちだって安直じゃないですか。まあとにかく、私がケリーでカエル男さんがマージさんですね」
「改めてよろしくケロ」
名前があるとやはり会話しやすかった。
「そういえば、途中まで一緒にいた狼の獣人さんも私達と同じなんでしょうかね」
「きっとそうケロ」
「またどこかで会えるといいな。マージさんみたく会話したいです。なにか知ってるかもしれないし」
私は突然消えた狼の獣人のことを思い浮かべる。でもなんで急に消えたのだろうか、まさか死んだとか?
「おいら達の他にもまだまだ同じ状況のはいると思うケロ。似たような行動してるの見つけたら話しかけてみた方がいいかもケロ」
「そうですね、そうしましょう!」
やはり二人で考えると今後のどうしたらいいか決めるのもすぐだった。あとはなんとかして体の自由を得て、こうなった理由が知りたい。私とマージさんはこの二つを目的とすることにした。その中で味方が増えれば言うことなしだ。
「じゃあ、もうちょっと具体的な話をすすめえましょうかって、マージさん?」
「うーん、だめだケロ。勝手にまた動き始めたケロ。次にいつ会うか分からないけど達者でケロ。おいらも色々調べてみるケロよ」
「あああマージさん行かないでっ」
「無理だケロ~」
「あああ」
まだまだ話したいことがあったのに、マージさんは直立不動のままの私から遠のきながらそう言うとどこかへ行ってしまった。
せっかく仲間が出来たのになんてことだ。あああと私はしゃがみこんで頭を抱えたかったけどそれも出来ないので声だけで落胆した。本当に不便。私達が自由になれる日はくるのだろか。
それで、私はなぜかずっと直立不動で二日もいることになった。どうしてなの! とおもったら意識が途絶えた。
「あ、わりい俺飯呼ばれたんで落ちます」
「おつー」
「おつー、また遊んでね~ノシ」
私が今日プレイし始めたばかりのオンラインゲーム。サービスが始まってから三年は経つこのゲームは新規のユーザーはほとんどいない。
前々から評判もそれほどでもなかったけれど、グラフィックだけは良いため一度だけでもいいからプレイしてみようと思っていたのよね。
で、学校が三日連休だったからこの際に始めてみようと思ってログインしたんだけど、始めに作ったキャラクターが降り立つ街はやっぱり過疎ってた。
仕方ないからチュートリアルをさっさと済ませて次のエリアに向かおうとしてたら、丁度そこへいく為に必要なクエストを出す領主に会うために数人の新規プレーヤーがいたの。
領主からはパーティを勧められたから、たぶんそうしたほうがいいのかもしれないと思ったのか数人のキャラが領主の庭にいたんだけど。
周囲チャットでパーティ組みませんかって誘ったら、返事がきたのは二人だけで後は放置でもしていたのかも。
だから、狼の獣人の†神獣王セトラ†さんと、ゲーロ族の魔法使いカエる☆さんと私、暇潰しって名前のキャラなんだけどパーティを組んで次エリアに向かうことにしたんだ。
で、街道進みながらたまに戦闘しつつで着いたら、ちょうど†神獣王セトラ†さんがご飯呼ばれたみたいでその場で落ちちゃった。
そういえばもう夕飯時だなあと、モニターごしで時計を見ながら思っていたらカエる☆さんが、とりあえず宿でキャラ回復させたいって言うから私も着いていったの。
「へー暇潰しさんは、まんま暇潰しなんだねw オレは知人に誘われて始めたんだ」
「そうなんですか~知人さんは長いんですか?」
「んーあいつはβからやってるから古参だね。廃人だし」
「廃人ですかw」
「そそww」
キャラの回復は一瞬で終わったけど、せっかく新規同士パーティ組んだんだしでしばらくチャットすることに。途中挨拶のモーションを試したりもした。
そんなで色々このゲームについた話してたんだけど。
「あ、ごめん。知人に呼ばれたから行くね」
「わかりました。私はこのまま放置してご飯食べるので~」
「そか、じゃあまた機会があったらptよろ」
「はい~ではではノシ」
「ノシ」
話題に出ていた廃人さんに呼ばれたカエる☆さんは行ってしまった。ちょうどいいから私もこのまま放置でご飯食べよう。
今日の夕ご飯はハンバーグだった。和風おろしで食べるハンバーグはさっぱりしてて美味しい。
あ、そういえば動画でみたい実況あるんだった。部屋のゲームはあのまま放置で居間のPCで動画見よう。
ご飯を食べ終えた後、私は居間で実況動画を見始めたんだけど、パート一から最終回まで面白くて見続けちゃって、二徹もしちゃってた。
居間だったからご飯もすぐ食べれたしでトイレも一階だし、二階の自分の部屋に戻ってゲーム落ちるの忘れてたわ。
「とりあえずもう寝よう」
さすがに二徹は疲れた。最後の休みは寝貯めしよう。そう決めて私はゲームを落ちてPCの電源を切ってベッドへ入った。
ちょっとしかプレイしてなかったけど元々暇潰しだったしいっか。私はそれ以降そのゲームにインすることはなかった。でも別にいいよね。他に良さそうなのないか後で探そうっと。
ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。