2、影
2、影
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黒崎影人は起きると同時に荒く呼吸をする。
日常の事だから慣れてしまったといえばそうかもしれないが、影人にしてみれば人生が一度終わった記憶だ。
母親と父親の他界。
今なお鮮明に残る記憶のせいで、影人の髪は真っ白になってしまっている。
毎日夢にうなされたための後遺症だ。
一時期は夢に呼応するように発狂していたこともある。
「・・・今日から学校だった」
呼吸を整え時計を見る。短針は7時を少し過ぎたあたりにあった。
始業まではまだだいぶ時間がある。
ベットを降りると鏡の前に立った。
影人の全身が映る。
15歳となる少年としては、少し痩せているだろうか。
それも当然かもしれない。
影人は小学校、中学校と共に病院で過ごした。過去の記憶に悩まされていたからだ。
運動はしたものの、一般的なものと比べればやはり少ない。
そのかわりにと勉強はしていた。空き時間はだいたい医者の持ってきてくれるテキストを開いた。
おかげで普通の公立には通えるだけの能力はついている。
「母さん・・・父さん・・・」
死んでしまう以前の記憶は薄れ、残るのは瞬間のみ。
振り下ろされる灰皿。
倒れる母親。
目を見開き血を噴出す父親。
「いい記憶なんかないな・・・」
少し自虐的に笑うと部屋を出た。
影人は一人暮らしだ。
親戚は何人かいたものの事件のせいで、皆気味悪がって寄り付こうともしない。
あの家族は呪われている。
子供の髪の色をみてみろ。
ああ恐ろしい、恐ろしい。
多種多様だが、大体は呪われているの一点張りだ。
確かに1人、2人は優しく接してくれた。
それでもどこかに影があった。
たぶん、同情だったのだろう。
影人はすべて断り、1人で生きることを決めた。
それが、自分と家族の思い出をとっておける一番の方法だと思ったからだ。
思い出といっても、もうあの一瞬しかないが。
それでも、後悔はしていない。