本日をもってお前をパーティーから追放する
「……え?」
ヘンドリックは、間の抜けた声を出した。
それは驚いた時の声というより、言葉の意味が耳を素通りして、少し遅れて脳みそに突き刺さったような、そんな反応だった。
その宣告は、おそらく彼にとって予想だにしていなかったのだろう。
まあ、それも無理もない。
ここ、迷宮都市アルダールにあるギルド酒場は、クエストを終えた冒険者たちで賑わい、いつものように活気と喧騒に満ちていた。
だがその一角が、突然のこの一言によって、一瞬、静まり返った。
今の宣告を聞いて、周りの卓の連中は飲みながら耳をそばだてているし、噂好きで情報通な店員は注文を取る手を止めかけて、慌てて再開したし、斜め後ろの席にいるガラの悪い荒くれ連中まで、実に興味深そうにその様子を眺めている。
本日をもってお前をパーティーから追放する。
同じパーティーのリーダーがクエストを終えて、これから打ち上げをするっていうタイミングで、仲間に対してそう言い放ったのだから無理もない。
そして、このパーティーのまだ誰も、注文したエールに手をつけていない。
つまりこれは、酔った勢いでも、クエスト後の不満や軽口でもない。
飲む前に大事な要件を済ませる。リーダーがそう決めて切り出した話だ。
事前に相談されてはいたけど、場所とタイミングはもう少し考慮すべきだ。
共に席に着いていた仲間のマイルズは知らないが、ニーナはそう考えていた。
「え、いや、ちょっと待ってくれ、ジョン!」
「……とりあえず落ち着け、ヘンドリック」
ヘンドリックは今まさに飲もうとしていたジョッキから手を離した。
まだ泡の立っているエールが、わずかに揺れる。
全く予期してなかったのか、その表情には戸惑いと焦燥が浮かんでいた。
「今の、聞き間違いじゃないよな!?」
「聞き間違いならよかったんだけどな」
「マイル、君までリーダーのこの判断に賛成なのか!?」
「ああ、お前には悪いが、俺もリーダーの意見には同意してる」
パーティーの斥候であるマイルズが茶化すように言った。
いつも通り軽口ではある。いつも通りすぎて、逆に助かる。
この場で感情的に振る舞われると、聞いてる方も居心地が悪い。
ヘンドリックがまるで助けを求めるかのようにニーナを見つめる。
まさかニーナも!? 目でそう訴えている感じだ。
思わず視線を逸らしたくなるも、ニーナは口を開いた。
「二人の言い方は悪いけど、でもこっちの言い分もあるから」
「そんな、ニナまで、せめて理由を聞かせてもらってもいいか?」
「……もちろんだ、追放を告げる以上、ちゃんとした理由がある」
前衛を務めるジョナサンが答えた。いつも通りの落ち着いた声だった。
場の空気は読まなかったが、こういう時ほど声を荒げない印象だ。
パーティーのタンク役も引き受けている、頼れる戦士職のリーダーだ。
「ジョン、いったい何で、これまで一緒に苦楽を共にしてきたのに」
ポーター職のヘンドリックは、それとは逆で明らかな焦りが見える。
ただ、分からないことに対して理解したいという顔だった。
あるいは、説明さえ受ければ覆るはずだと、どこかで思っている顔。
たぶん、ちゃんと話をして自分の意見をぶつけて、納得したいんだと思う。
この人はいつもそうだ。自分の正しさこそが指針になっている。
問題は整理できるし、原因は特定できるし、改善案だって出せる。
反論するのではなく、丁寧に説得すればきっと分かってくれる。
おそらく、そう思っている。
私は静かにその様子を見守りながら息を吐いた。始まってしまった。
静かに終わればいいと思っていたけれど、この流れじゃまず無理だろう。
「先に言っておくが……」
リーダーが腕を組む。
ああ、その腕組みを今やると、完全に説教だな、とは思った。
そう思ったけれど、誰も口には出さない。
虚栄心の表れなのか、このリーダーのあまり良くないところだ。
「お前が役に立たなかったから切るわけじゃない」
「……うん」
「そこは勘違いするな、正直いって役には立った、かなりな」
「だったら」
「だから余計に面倒なんだよ!」
「……面倒?」
横から割り込むようにマイルズがテーブルを叩いた。
木製の卓が派手に鳴る。
斜め後ろの荒くれ連中が少し身を乗り出した。
野次馬がすくすくと育っていく音がする。
「何だ何だ、揉め事か?」
「おいおい、追放って聞こえたぞ」
「なんか面白そうな話をしてんなぁ」
「煩ぇな、アンタらには関係ねぇだろ!」
「おお、怖い怖い」
「ギャハハハ、叱られてやんの」
最悪だ。この場で目立ってどうする。
なんでテーブルを叩いたし。威嚇のつもり? 馬鹿なの? バカだったわ。
しかし当のマイルズは、気にせずにヘンドリックを睨みつける。
「マイルズ、落ち着け」
「だってコイツ、やっぱり何も分かってねぇよ」
こんな時に二人と比べると、やっぱりマイルズはどこか思慮が足りていない。
普段の人懐っこい性格が、ちょっとした事ですぐに不機嫌になる気分屋だ。
元々、三人とも幼馴染であり、ニーナは幼い頃にマイルズから告白されたけど、結局はこの性格が仇となって長続きしなかった経緯がある。
普通に仲間として付き合う分には、信用もできるし、気兼ねなくて楽なのだが、マイルズ自身も、冒険者になってから恋愛沙汰で、ギクシャクした他のパーティーが解散したなんて話も見聞きしてきたので、今では程よい距離を保っている。
そんな話をだいぶ前に、クエストの打ち上げの時に話していた。
要はマイルズは、こう見えて他人との距離感にはかなり敏感なのだ。
「面倒って、どういう意味だよ、マイル?」
「ヘンドリック、お前は正しいんだよ、でもそれが俺たちにとって正しいとは限らないし、それに理詰めで諭されると、めちゃくちゃ腹立つんだよ!」
「は?」
ヘンドリックが目を瞬いた。何言ってんだコイツは? といった表情だ。
正しいのに腹が立つ、という言い方が理解できないのだろう。
分かる。だって言葉だけ並べると明らかに矛盾しているし変だと思う。
「順に言うぞ」
「ああ」
リーダーが静かにマイルズを手で制した。
こういうところは本当にリーダー向きだ。
「まず、戦闘中のことだ」
「戦闘中?」
「お前が前に出て戦えないのは分かってる、アイテム使いのポーター職だ、そこは最初から折り込み済みだ、貴重な空間魔法を使える、それだけで価値がある」
「なら」
「最後まで聞け、後ろから応援を飛ばすのもまあいい、マイルズも張り切るしな、それに事前に回復薬を用意して、敵の情報を伝えてくれるのも、まあ助かる」
それは本当だ。ヘンドリックの補給は早い。事前の準備もいい。
用心深く慎重な性格に対しても、ニーナも最初は感心していた。
仲間が張り切って前に出すぎて、魔物に囲まれた時なんか、ピンチになる前に足止め用の撒菱や煙玉を放ったりして支援するし、ギルドでも評価されている。
だからこそ厄介なのだ。出る杭は叩かれる。
そして出過ぎた杭にはなれない、それがヘンドリックという男なのだ。
「だが、その先にまで踏み込みすぎるな」
リーダーの声が少し硬くなった。
「な、踏み込みすぎるなって、どういう意味だよ、ジョン!?」
「ハァ、コイツさっきから本当に」
「戦闘の流れにまで口を出すな、という意味だ」
「!」
ヘンドリックにも思い当たることがあったようで口を閉ざした。
それを見てリーダーは話を続ける。
「仲間同士の立ち位置、間合い、連携のタイミング、踏み込む角度、撤退の判断、そういうのにまでいちいち指示を飛ばすな」
「……でも、実際に危なかった場面も何度かあっただろ」
「危なかった時もある」
「なら」
「だからって、全部お前が後ろから采配していい理由にはならねえよ、まがりなりにもこのパーティーのリーダーは俺だし、戦闘方針の基本は既に出来てる」
「うぐっ」
ヘンドリックが言い返しかけて、口をつぐんだ。
その様子を眺めながら、ニーナはどこか居心地の悪さを感じていた。
実際、ヘンドリックは後方から俯瞰した視野で、戦闘の流れを読むことに関してだいぶ長けている。その判断力は、ギルドでも高く評価されている。
だが考えて欲しい。戦闘職でもない彼が後方の割と安全な場所から、前線で命を張って戦っている仲間に対して、あれこれ指示を飛ばす構図を。
敵のヘイトでなく仲間のヘイトを稼ぐのは、火を見るよりも明らかだ。
「それに事前調査による詳細なマッピングや、出現する魔物の情報なんかも助かるが、うちの斥候はそもそもマイルズなんだ」
「いや、僕はただ、良かれと思って手伝っていただけで」
「その手伝いで役目を食っているんだよ」
「そうそう、それ! それだよ!」
その話を聞いてマイルズが身を乗り出した。
「マイルズ、お前はちょっと黙ってろ、話が拗れる」
「なんでだよ! 今のは俺の話だろ!」
でも実際、その通りだった。
リーダーは建前から入る。マイルズは本音から飛び込む。
その間を埋めるのが、回復術師であるニーナの役目だ。
もっとも、今のリーダーの言い方は、だいぶ抑えている。
たぶん本音では、戦えないくせに後ろで腕を組んだ師匠面して指図するな、せめて石でも拾って投げろ、くらいは思っているのだろう。
でもそこまで言うと、本当に引き返せないただの口汚い喧嘩になる。
だから言わない。そのへんの理性はある。
「とにかく役割分担ってものを、もう少し気にしてほしいって話だ」
リーダーは最後にそうまとめた。きれいな着地だとは思う。
本当に伝えたいであろう本音の棘を、伏せてはいそうだけど。
「……分かった」
ヘンドリックは頷いた。頷いたが、納得はしてない顔だ。
それはそうだ、これだけでパーティー追放はどう考えても制裁が過ぎる。
「俺も言いたい事はまだあるぞ」
「ああ、マイルも言いたい事があるなら聞かせてくれ」
マイルズがここぞとばかりに不満を述べる。
「俺が趣味でやっている干し肉の仕込み、革なめし、あと素材の仕分け、あれこれ口を出すのやめてくれ」
「……え?」
「え、じゃねえよ、俺なりに慣れたやり方があんだよ」
「だが、あのやり方だと保存が……」
「知るか! お前の方が正しいのかもしれねえけど、俺はずっとこれでやってきたんだよ! そもそも効率重視でやってる訳じゃねえし、干し肉に至ってはギルドに売るためでもない、俺のおやつと、いざって時の保存食の仕込みだぞ」
酒場の向こうで誰かが「おお!?」と小さく言った。
下世話な視線を向ける連中の見世物じゃない、そう睨んでやりたくなる。
「干し肉の塩の当て方から、血抜きの際の吊るし方、革のなめし液の配合までいちいち、効率がいい、傷みにくい、歩留まりが良いって言うだろ」
「でも、実際そうだから、マイルの干し肉はちょっと塩辛すぎるし」
「余計なお世話だ、それが嫌なんだよ!」
「嫌って……良くなるんだぞ?」
「俺の積み上げに、後ろから赤入れされてるみたいで嫌なんだよ!」
その言い方は、たぶん本人にもぴったり来たのだろう。
マイルズは一度息を吸って、それから少しだけ声を落とした。
「間違ってるなら否定できるんだよ、でもだいたい正しいから腹立つんだ」
「……」
「正しいことを毎回差し込まれると、これまでの自分のやり方が全部、駄目みてえに思えてくるんだよ、分かれとは言わねえけど、あまり口を挟まないでくれ」
ヘンドリックは、今度こそ何も言えなかった。
たぶん彼は、良くなるなら、それは良いことだと本気で思っている。
誰かの積み上げに土足で上がっているつもりなんて、これっぽっちもない。
その辺が理解できないから、今回ここまで不満が積み重なったんだ。
「それなら、私からも伝えたいことがあるよ」
マイルズの発言に乗せられて、ニーナも思わず不満を漏らした。
この際だから便乗して、しっかり自分の意見を言うつもりだ。
普段は大人しいニーナの反論に、ヘンドリックは戸惑いを隠せていない。
たぶん、ニーナなら自分を擁護してくれる、そんな期待をしていたのだろう。
それはそれで心外だろう。
ニーナはそんなに意志の弱い女性ではない。
「事前準備が大切なのは分かる」
「……ああ」
「でも、情報を買いすぎ」
「それは、必要経費だろ」
「全部を必要にしないで」
ニーナは指を一本立てた。
「挑むクエストの概要、ダンジョンの地図、敵の情報にボスの弱点、罠の傾向、群生域の情報、持って行くべきアイテム一覧、必要なこともある、でも毎回毎回そこまでお金を惜しまず注ぎ込んでたら、報酬との差し引きで稼ぎがなくなる」
この迷宮都市で生活するなら、まずは安定した稼ぎを考えないといけない。
パーティーを組んでるなら尚更だ。だからニーナの言っていることは正しい。
だがそれが相手に届くかは別問題だ。
「事前情報があればリスクを未然に防げるし、怪我なく帰れた方がいいだろ?」
「……それはそう、でも、黒字にしなきゃ冒険者は続けられない」
「だから、その為に僕がポーターとして加入したんじゃないか」
「それに、回復ポーションとか魔力回復の予備とか、そういうのをどこまで揃えるかは、本来なら私たちが全員で考えることでもあるの」
「でも、足りなかったら危険だろ?」
「危険にならないように務めるのが、回復術師の役目なんだよ」
「それはアイテム師の僕の仕事でもあるだろ!?」
「そもそもヘンドリックは元々はポーターでしょ?」
「そうだけど、予備があればいざって時に助かるだろ、魔力回復ポーションが途中で尽きたらニナだって魔法が唱えられないし、何も出来なくなるだろ?」
「分かってるよ、でもそういうのを先回りして全部揃えられると、いままでの自分の役割を取られてるみたいで嫌なの」
そこでヘンドリックが、少しだけ言葉に詰まった。
「……僕は、ただ、みんなのためを思ってやったんだ」
ヘンドリックは静かに言った。
怒ってはいない。怒るより先に、本気で説明しようとしている。
「安全な方が良いに決まってる、どんだけ稼いでも死んだらそれまでだし、危険を減らせるなら減らした方がいい、調べられるなら調べるべきだし、改善できるなら改善した方がいい、僕は、三人にちゃんと成功してほしかっただけだ」
「……だから、それが重いんだよ、お前は」
リーダーがみんなの意見をまとめるようにそう言った。
「全部みんなのため、みたいな顔で来るから俺たちも否定しづらいんだよ」
「だからって、そんな善意を責められたら」
「別に責めてねえよ、気持ちが重くてしんどいって言ってんだ!」
ニーナもリーダーとマイルズのその言葉に続く。
「別にヘンドリックのことを責めたい訳じゃないんだけどさ」
「僕はただ、良かれと思って色々と僕なりに努力してただけだ」
「それは分かってるさ、ただ、最初からどこか噛み合わなかったんだ」
ヘンドリックは仲間たちを順に見た。
確かに全員、どこか疲れたようなしんどい顔をしていたと思う。
「それにしたって、そんな理由で追放処分なんて、あんまりじゃないか」
「……っ」
三人ともその言葉にはさすがに罪悪感を感じたのか、目を逸らした。
しかしヘンドリックの方はこの隙を逃さなかった。
まだ諦めていない目だった。ここから整理して、噛み砕いて、手順を踏めば三人と分かり合えると、どこかで思っている様子だ。
「だったら直すから!」
そして彼はそう告げた。
「戦闘中の口出しは減らす、クエストのことも聞かれた時だけにする、情報だって必要最低限に絞るように考える、だから」
「いや、そういう問題でもないんだよ」
リーダーが言った。
その声は低く、あまりにもはっきりしていて、酒場の騒めきまで一瞬薄れた。
「助かってるのは本当だ」
「……ああ」
「それこそお前がいたから、この前のエリアボスでも、道中を楽できたし、事前に用意してくれた情報と、バフアイテムのお陰で勝てたとも言える」
「なら」
「でも、それと仲間としてやっていけるかは別だ」
ヘンドリックの顔から、少しずつ血の気が引いていくのが見えた。
「……そんなに、そんなに僕は駄目だったのか」
側から見てるとこの構図はかなり酷い。
三対一だ。本人の前で、本人の善意を切り分けて、役に立った部分まで認めたうえで、それでも無理だと言って切り捨てようとしている。
言ってしまえば、袋叩きに近い。観る人によっては、わざとこんな目立つ舞台を用意したのかと誤解もするだろう。でも、だからといってここで誰か一人でも折れたら今回のやりとりが結局はなあなあになる。
追放する側も、本来はちゃんと責任を持って双方が納得する形にする。
それが同じパーティーの仲間に対する最低限の礼儀なのだから。
しかし結局のところ、追放される側は、それで納得するとは限らない。
ずっと仲間だと慕っていたなら尚のことだ。
と言ってもニーナ達の場合、それとも少し違うのだが。
「結局」
ヘンドリックが、ぽつりと言った。
「……結局、あれだろ」
その様子を見て、ああ、これはまずいな、と思った。
人が本当にきつくなってきた時の声だった。
低くて、変に静かで、聞きたくない方へ転がるやつだ。
「前回のクエストで、収納カバンを手に入れたからだろ?」
それを聞いたリーダーの眉が動く。
マイルズが露骨に視線を反らす。
そしてニーナも分かりやすく固まった。
「だから僕は、お払い箱なんだろう?」
ヘンドリックの目がみるみる潤んだ。
「念願だったもんな、あれ、大容量の空間収納カバン、荷物持ちがいなくても回せる夢の品だ、やっと手に入ったんだから、そりゃそうか、ポーターなんてもう必要ないよな、そうだよな、分かってるさ、分かってるけど……っ」
ヘンドリックの目元から、ぶわ、と来た。
早い。瞳に涙が溜まる速度がとても早い。
「いや、違っ」
「ち、ちげーよ」
「じゃあ何でなんだよぉぉぉ……!」
そしてヘンドリックは思ったよりも大きい声で泣いた。
ギルド酒場の視線が一斉にこっちへ向く。
最悪だ。いい大人が子供のように泣きじゃくるなんて。
これはいよいよ、私の出番だろうか。
「収納カバンを拾った途端に仲間を切るとか、お前ら酷いことするじゃねえか」
「いやあ、流石にねえわ」
「信じらんねえ、それでも仲間かよ」
しかし、そこで口を挟んできたのは、最初からこのやり取りを聞いていた、いかにも世紀末を生きてるならず者です、みたいな革鎧に棘付き肩当てみたいなものを本気で着こなしている、あの荒くれ集団だった。
しかもこの連中、見た目はその辺のゴロツキと大差ないが、実際にはAランクに片足を突っ込んでいるベテラン冒険者たちなので、絡まれると面倒くさい。
確かラグナロク・レッカーズという名称の、中堅クランの構成員だったはず。
「おいおい、便利屋を使い潰してポイかぁ?」
「ひでえ話もあったもんだ」
「いや、そういう訳じゃ」
「泣かすほど責め立てたのはお前らだろうが」
周囲の卓からも、失笑混じりのヒソヒソ声が聞こえてきた。
「そう言えばこの前やたらと羽振りが良いパーティーが居たって言ってたな」
「ああ、ローテーション組んでる仲間が奢ってもらったって言ってたあれか?」
「あ、あれってお前たちのことだったのか?」
「ああ、そうだよ、おかげであの日は赤字だった」
リーダーが苦々しい顔をして口を開く。
「しかも収納カバンを手に入れた事までバレたから速攻でギルドに登録したわ」
「おう、そりゃ良い心がけだ」
「まあ周囲に言いふらすと狙われるからな」
「主にお前らみたいのを警戒してたからだよ」
「おいおい、そいつはずいぶんと人聞きが悪いぜ」
「その見た目だと説得力が無いんだよ」
「安心しろ、お前らのような若い芽を摘んだりしねぇよ」
「確かパーティー名はクロウレコーズだったか?」
「堅実な立ち回りのチームだとは聞いているぜ」
「そうそう、それにお前らCランクに上がったばかりだしなぁ」
「おい、俺たちの情報が筒抜けじゃねえか、どうなってんだ!?」
「そりゃ、この店には噂好きな情報通の店員さんが居るからなぁ」
それを聞いて、三人の視線が一点に集まる。
「ヒャッハー、店員さん、酒のおかわりくれ」
「あ、はーい、只今」
噂の元凶はその場の空気を正確に読み取り、速攻で退散した。
あまりの手際の良さに、その場が一瞬静まり返る。
「ううぅうぅぅぅ、ぐすん、ぐすん」
そのせいで、ヘンドリックの啜り泣く声が余計に店内に響いた。
流石にいたたまれない気持ちになったのか周囲の連中が声をかける。
「いや、泣き止めって、いい歳したおっさんなんだからよ」
「俺たちとあまり歳も変わんねえだろ?」
「そもそも何であんな若い三人と組んでんだよ」
「何か深い理由があってのことだろ」
「別に歳は関係ねえだろ? 爺さん魔導士が現役で活躍してる世界だぜ」
「いや、だから違うって言ってんだろ」
マイルズが苛立ちを隠さずに返す。
こういう時に売り言葉を買うから、ある意味で扱いやすい。
「何が違うってんだ?」
「そもそも俺たち、こいつとまだ一週間しか組んでねえんだよ!」
そのセリフで酒場が、再び一拍止まった。
「……は?」
さっきまで茶々を入れていた荒くれの男が、間抜けな声を出した。
分かる。たぶん今この酒場にいる半分くらいが、同じ顔をしている。
「一週間?」
泣きかけたまま、ヘンドリックまで復唱した。
いやお前が忘れるな。
「正式加入してからな」
リーダーが低く言った。
「え、そうなの?」
荒くれ連中の一人が素で聞き返した。
「だってかなり気安く、愛称で呼んでたじゃねえか」
「お前ら、苦楽を共にした仲間じゃなかったのか?」
「違う、俺たち三人は幼馴染だが、ヘンドリックは最近加入した」
「最近って言っても、一週間でそこまで拗れるか普通?」
「……派遣で組んでた時は、こんなじゃなかったんだよ」
マイルズが吐き捨てるみたいに言った。
「こんなって?」
「必要な時だけ口を出して、ちゃんと一歩引いてた、運び屋としてちゃんと有能で仕事もできたし、だからリーダーが正式にパーティーに誘ったんだ、ヘンドリック自身もギルドの派遣登録の更新期間が間近って言ってたからさ」
「え、じゃあ加入して何が変わったんだ?」
「だから仲間になった途端だよ」
今度はリーダーが答えた。
「急に距離が近くなったんだ、いきなり翌日から略称呼びになったし、こっちの段取りや役割分担にも、踏み込み方に遠慮がなくなった」
「ああ、悪気がないのは分かってたけど、だから余計に扱いに困ったんだよ」
「ふーむ、なるほど、雇われの線は守れてたのに、仲間の線は見誤ったわけか」
荒くれの一人が眉を上げる。
すると泣いていたヘンドリックが、否定するように口を挟んだ。
「ちょっと待ってくれよ、友情に時間なんて関係ないだろ!?」
「いや、あるだろ」
「どうなんだ? 状況にもよるか?」
「うーん、俺たちも傭兵団してた頃は友情やらなんやら言ってられなかったしな、同じ釜の飯を食えば、取り敢えずは仲間だろ?」
「その仲間に背中から刺されそうになった事もあるけどな」
「なんだそれ、物騒な話だな」
「アンタら、傭兵崩れだったのか?」
マイルズとリーダーがその話を聞いて聞き返した。
「ああ、敗戦したから頭領の誘いに乗って、この迷宮都市に流れてきたんだ」
「だいぶ人数も減ったけどなぁ」
「大体同じようなものか、俺たちも故郷から流れてきた感じだし」
「まあ伝えなきゃ、その辺は分からないからな」
「話し合いか、確かに俺たちにはそれが足りてなかったのかもな」
「そ、そうだよ、ジョン、それにマイルにニナも、俺たちももっとちゃんと話し合えばきっと理解し合える――」
「そもそも俺はジョンじゃない!」
「……え?」
「俺もマイルじゃなくてマイルズだ!」
「ニーナもニナじゃなくてニーナなの」
それを聞いたヘンドリックが、ぴたりと止まった。
「いや、ジョンじゃないって、でも」
「その名で呼ぶなって言ってんだよ、前にもそう言っただろ」
リーダーが、落ち着いた口調で話を続ける。
「俺はジョナサンだ、ジョンって愛称で呼ばれるのが嫌だから、仲間はリーダーて呼んでくれてるんだよ、それも頼んでないのに二人とも気遣ってくれてな」
「いや、でも、仲間なんだから親しみを込めて」
「込めるのが早いんだよ! しかも前にも一度はっきり嫌だって言ったよな?」
「そうだよ、だから理由を聞いたんじゃないか」
「いや、深く聞くなよ、察しろ、思い出したくない顔が浮かぶんだよ、その呼び方されると、それなのに何度も何度も」
「だからその理由を知らなきゃ納得できないって言ったじゃないか、ジョン!」
「お前、今までのそれ、当てつけのつもりだったのか!?」
「そうだよ、僕だけ除け者にしたから、聞き出したくて呼んでたんだよ!」
「はあ!? ふざけんなお前!」
これには普段温和なリーダーも思わず激昂した。
「うわぁ、それは流石にちょっと引くわぁ」
「あれ、なんかどっちが正しいか分かんなくなってきたな」
「俺、あの三人の気持ちも分かるわ」
「人には誰しも触れられたくない過去ってもんがあるからな」
「流石に加入して一週間の仲間には云いたくないだろ」
「はい、追加の盛り合わせとエールでーす」
「お、きたきた、ヒャッハー」
どこまでも自由な荒くれどもだが、言ってる事は正しい気がする。
それに賛同して、マイルズも当然のように噛みついた。
「いや、加入して一週間だぞ、なんでそこまで距離を縮めてんだよ!」
「そうだよ、流石に距離感がバグってるのよ、ヘンドリックは」
ニーナも思わずそれに続いた。
「え、でも、仲良くなる努力は必要だろ」
「努力の方向性が違うの!」
ニーナは思わずそう叫ぶ。
ヘンドリックがびくっと肩を揺らす。
「親しくなりたいなら、まず相手の呼ばれたい名前を覚えてよ」
「……」
「勝手な解釈で分かった気にならないで」
「……ご、ごめん」
リーダーのジョナサンは何も言わない。あれだけジョン呼びを拒んだって事は、おそらく故郷で、とても嫌な経験でもしたのだろう。
なんとなくは察しもつくけど、それこそ踏み込むのは無粋というものだ。
それを、加入して一週間の男が土足で踏み込んだ。
「ジョ……ジョナサン、そんなに嫌だったのか……」
ヘンドリックが、ほんの少しだけかすれた声で言う。
「嫌だったよ」
「そ、そんな」
「ずっと、なんかコイツ距離が近いなって思ってた」
「でも僕は、仲間として」
「そういうとこだ」
ジョナサンが吐き捨てた。
「お前は段階を飛ばす、役割も、距離も、たぶん全部だ」
「段階?」
「俺たちはなーー」
ジョナサンは、そこでほんの少しだけ言葉を探した。
珍しい。リーダーが言葉に迷うのは、本当に譲れないところだ。
「田舎が退屈で嫌気がさして、故郷を捨てて冒険者になったんだ」
「……」
「生まれた時に既に敷かれてたレールなんかじゃなく、何があるか分からない道を進みたかった、この迷宮都市で冒険者になって、クエストやダンジョンに挑んで、見たことない強い魔物と対峙して、時には罠にも引っ掛かって、それを現場でどうにかして、知らない奴等と出会って、人間関係を構築して、周囲から認められる、そういうのをひっくるめて冒険だと思っていた、未知や危険に自ら進んで挑むのが本来の冒険者だろ?」
「いや、それは危険だ、夜道をカンテラ無しで歩くようなものだし自殺行為だ」
「お前、そこは正論で返すなよ」
「??」
「ニーナたちだって、別に魔物の餌になりたい訳じゃないの」
「???」
「危険が好きなんじゃねえよ、でも、最初からお前が用意した攻略本を知っている状態で、安全に効率重視で最短距離に進めって言われたら……それはもう、俺たちが求めている冒険じゃないんだよ」
静かだった。
酒場なのに、妙に静かだった。
マイルズが続ける。
「それに俺は斥候だ、迷宮の匂いとか、床のきしみとか、魔物の癖とか、そういうのを現場で読むのが仕事だし、好きなんだよ」
「……それで、事前情報でその趣向を勝手に塗りつぶすなと?」
「そうだよ、俺の仕事も楽しみも、入口で先に食うな」
ニーナもそれに続く。
「もちろん準備も必要だよ」
「……ああ」
「でも、全ての危険を先んじて情報で潰して、全部の答えを先に揃えてから挑むなら、それはもう探索じゃなくて作業なの」
「いや、事前準備をした方が安全だろ、いざって時にアイテムが足りなくて危険な目に遭ったらどうするんだよ」
「それは分かってる」
「なら」
「そんなのヘンドリックに言われなくても自分たちで用意してる」
「だが、予備があればいざって時に」
「ヘンドリックの考え方は、ニーナ達にとっては楽しくないの」
「……楽しく、ない?」
「うん、何が出るか分からないから、面白いところもあるでしょ」
「いや、それはおかしいって、情報がないと危険だろ!?」
「危険を楽しみたいわけじゃないよ、でも、入口に立つ前から答え合わせが済んでるのは違うの」
ヘンドリックは完全に困った顔をした。
本当に意味が分からないって感じの顔だ。
ああ、やっぱり結局はここなのだと思う。
何に対しても価値観の違いというものは、往々にして騒動の種になる。
「ニーナたちは、そこにお金だけじゃないものを払ってる」
「……分からない」
「きっと慎重派なヘンドリックには一生分からないと思う」
それが今回、こんな追放劇にまで発展したんだ。
そしてニーナは思いの丈を素直に伝えた。
「たぶん、そこが一番、ニーナたちとは合わなかったの」
ヘンドリックはそれを聞いて俯いた。
既に泣き止んではいる。でも、立ち直ってはいない。
自分が役に立たなかったわけじゃない。
むしろ役に立っていた。それでも駄目だった。
その理由が、効率でも生還率でもなく、冒険の手触りの話だと言われている。
きっと彼にはいちばん理解しにくい種類の拒絶だろう。
「……今までも」
しばらくしてから、ヘンドリックが言った。
「今までも、似たようなことはあった」
誰も遮らなかった。
「便利だとか、助かるとか、そういうのは言われる、ギルドもよく仕事を回してくれて、だから役には立ってるんだと思う、でも、長く組むとだいたい……重いとか、細かいとか、距離が近いとか、そう言われる」
「……」
「だから、普段はソロで活動して、それでも仲間とパーティーを組むのが好きだから、誰かの役に立ちたかったから、ギルドの派遣に登録して、必要とされた時だけ期間限定で加入していたんだ」
なるほど、とは思った。
いや、なるほどじゃないけれど。
ギルド紹介で短期のポーター仕事をこなしてきたからこそ信頼はある。
でも長期で組むと齟齬が出る。いかにもありそうな話だ。
実際に他者とそりが合わずに、ソロで活動してる冒険者は何人か知っている。
「そしたら今回は、正式に入れてくれるって言われたから」
ヘンドリックが続ける。
「今度こそ、ちゃんと仲間になれると思ったんだ」
自身の過去をニーナたちに語ったヘンドリック。
そのセリフは、追放を決めた三人に、棘のように刺さった。
最初に仲間に引き入れたのは、確かにリーダーの決断だ。
その真っ直ぐな言葉に対して、マイルズまで黙ったくらいだ。
みんなには言わなかったけど、その事は以前に噂程度では把握はしていた。
実際、正式に仲間になってからのヘンドリックは、妙に遠慮がなくなった。
相談に乗るというより先回りして抱え込み、手伝うというより当然みたいな顔で踏み込んでくる。呼び方ひとつ取ってもそうだ。
まだそこまで近くないはずの場所に、本人だけがためらいなく入ってくる。
きっと本人に悪気はないのだと思う。仲間になったのだから、それが当然なものだと思って接している、仲間とはそういうものなのだと。
でも、そういうところがニーナ達にとって余計にしんどかったんだと思う。
「おーいおいおい」
その沈黙をぶち壊したのは、やっぱり荒くれ集団だった。
何だそのわざとらしい泣いたふりは。どこまでもふざけた連中だ。
「なんだよ、泣ける話じゃねえか」
「どっちの言い分も聞いてて重てえなぁ」
「でも分かりやすいっちゃ分かりやすいな」
「ああ、分かりやすく言うと、あれだろ」
棘肩パットのモヒカン男が、顎をさすりながら言う。
「こいつは正しい、だが、お前ら向きじゃねえ」
「なんか雑だな」
「雑で十分だろ、こいつは未知を切り刻んでから安全にクエストを食うタイプだ、お前らは、味を知らずに未知ごとクエストを丸かじりしたいタイプだ」
「例えが美味いじゃねえか」
「俺たちもどっちかと言えば丸ごと食うタイプだよな」
「そうか? 親分は寧ろ罠張りまくって落とすやり方だろ」
「ああ、確かに情報は武器だっていつも言ってるな」
「いや、アンタら何が言いたいんだよ!」
でも、言い分は分かる。言っていることは合っている。
かなり雑だけど。
「そうだな、だったら俺たちが引き取ってもいいぜ」
「……は?」
別の荒くれが、にやりと笑った。
「俺たちみたいなのには、きっちりした奴が必要だからな」
「ああ、流石に正式加入には親分の承諾は要るが」
「空間魔法を使えるポーターなら歓迎だろ」
「補給と危機管理ができるやつとか、普通に欲しいしな」
「マッピングしてくれるだけで助かるぜ」
「情報も好きなだけ集めろ、それで命が助かるなら安いもんだ」
あまりにも正直で率直で、少し笑いそうになった。
ひどい集団だ。でも、たぶん彼とは相性は良い気がする。
雑な前衛集団に、細かく整える指示も飛ばせる後衛。
歯車としては噛み合う。
「……いいのか?」
ヘンドリックが顔を上げた。
涙の跡がまだ残っている。
「ただしいくつかの条件はある」
「……条件?」
「まず、口出しする前に一拍置け」
「勝手な判断で仲間を危機に陥れるな」
「裏切りは重罪だ、心に刻め」
「そして自身の行動に責任を持て」
「それができるなら歓迎だ」
ヘンドリックは、目をぱちぱちさせた。
それから、少しだけ、ほんの少しだけ救われた顔をした。
「こんな僕なんかでも良いのか?」
「ああ、それに腕は確かなんだろ?」
「それは保証する、ただコイツ酒癖がかなり悪いぞ」
「え!?」
ジョナサンが言う。
「すごく助かった、経費でパーティ資金が溶けるところだった」
「なに!?」
ニーナも言った。
「アンタらいい奴等だったんだな、これで後腐れなく別れられるぜ」
「いやいや!?」
マイルズも言い放った。
「おい、ちょっと待て、そんなに酷い評価だったのか!?」
「大丈夫、うちには合わなかったってだけだから」
「いや、なんか色々と不穏な情報が飛び交ってたぞ!?」
ヘンドリックが黙る。
少し考えて、それから袖で目を拭った。
「……分かった、世話になる」
「あれ、今の話の流れを聞いてない!?」
ヘンドリックは泣き顔を潜め、しっかりとゴロツキ達を見据える。
その表情には、どこか期待を含んでいる様子だ。
「まあ、俺たちは来るもの拒まず、去る者は追わずがモットーだ」
「確かにそうだな、どんな奴でも脛に傷くらい持ってるもんだ」
ゴロツキの代表と思われる男が立ち上がった。
そしてヘンドリックに手を差し出し握手を求めた。
「俺はこの第二班をまとめる分隊長のガルムンドだ、宜しくな!」
「分かった、ガル、よろしく頼む!」
「おい、略すな!?」
「僕の事は、出来たらヘンリーと呼んでくれ!」
「いや、早いって!」
「だから早えよ!」
「お前、それが原因で追放されたんだろうが!」
「コイツ、何も分かってなさそうで怖えよ!?」
「いや、だってもう仲間だろ?」
「お前はまず、そのバグった距離感を直せ!!」
ギルド酒場がどっと笑った。
本人だけが本気できょとんとしているのも含めて、完璧だった。
「という訳で、お前らもコイツを追放するんなら、貰っても構わねえよな?」
「ああ、引き取ってくれるなら助かる」
「のし付けてくれてやるよ」
「良かったねヘンドリック、元気でね」
「ジョン、マイル、ニナまで、そんな!?」
「だから、その名前で呼ぶなって言ってんだろ!」
ジョナサンが深く息を吐いた。
マイルズは頭を抱えた。
そしてニーナも肩をすくめた。
でも、まあ、たぶん、なんとかなるのだろう。
誰も得をしていない気もするし、全員ちょっとずつ救われた気もする。
そんな少し騒がしい出来事だった。
それに本来は追放劇なんてものは大抵もっと後を引く。
本人らが考えている以上に後腐れを残すし、冒険者なら尚のこと、悪評判としてギルドにも認知される、全く良いことのないものである。
冒険者界隈では割とよくあることのように見えて、実はそうでもないし。
何処ぞのパーティーなんて、派手に追放して、復讐されただの、ざまぁ展開になっただの、追放した方が落ちぶれただの、大抵ろくな話は聞かない。
それを考えたら、今回の追放劇は、全然ましな部類だったのかもしれない。
泣いたし、怒鳴ったし、野次馬は最後まで好き放題だったけど、ヘンドリックの次の行き先もその場で決まり、最後は全員が笑って終えられたんだから。
まあ当人たちからしたら、なんとか肩の荷が降りたって感じだとは思うけど。
荒くれ共の空いたジョッキを盆に乗せながら、三人の席に振り向いた。
注文を受けて、置かれていた酒は、結局ぬるくなったが仕方ない。
「ニーナ、事情は聞いてたけど、思ったよりも荒れたね」
「もう、本当ですよ、みんな感情的になりすぎです」
「ちょっと店員さん、勝手に俺らの情報を話したって本当かよ!?」
「なんのことですか? 私はただ世間話をしてただけですよ」
「アンタの世間話は、不確かな情報の塊なんだから自重してくれ」
「はいはい、でも私の妥協案とか必要なかったね、お疲れ様」
「何だそれ? もしかして何か仕込んでたのか、リーダー?」
「いや、俺も何も聞いてないんだけど!? ニーナ?」
「……内緒です」
私が労うように声をかけると、ニーナはようやく口元を緩めた。
了




