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虫嫌いの異邦人~虫を消滅させる力を貰ったら、虫に関わる仕事についてしまいました。大嫌いって言ったのに!~

作者:
掲載日:2026/04/12

「カミーユは髪を切ることにした」が現在ランキングに載っております。ありがとうございます。

お客さんが訪れて下さる間に短編をアップします。評判が良ければ連載に変えます。

便乗商法?その通りです。今だったら見てくれる人多いと思うから……涙


春なので虫が増えましたね。ということで虫の話。コメディです。ちなみに私はバッタ素手で触れます。でも自転車に乗っていると目に飛び込んでくる羽虫は大嫌いです。夜中にでてくるアイツもきらいです。

 異世界転移で一つ能力をもらえるとしたら、あなただったら何を願うだろうか。勇者としての力?異性に好かれる能力?それとも現代のものを使える力?

 私?

「虫を消滅させる力をください!」

 これ一択だ。

 小さい頃から私は虫が大嫌いだった。顔の周りをブンブン飛ぶのとか、長い足をゴソゴソ動かすのとか、明かりをつけると急に走り出すやつとか。見かけただけで動けなくなってしまうのだ。

 小学校の学習で虫を捕まえなければいけない時は、仮病を使って学校を休んだ。すぐにバレたけど。それでもまだ都会の学校だったから、虫自体は少なかった。自然教室は最悪だった。半泣きの写真が卒業アルバムに残っている。二度と思い出したくもない。

 そして大人になり、虫との縁が切れたと思ったらこれだ。今まで読んだ異世界転移で、自然が豊かじゃない場所が舞台だったことがない。


 言われた女神様は少し困った顔をしている。

「全ての虫を消滅させてしまうと、生物の循環が崩れてしまいます。」

 そうだった。虫を食べる動物たちが生き残れなくなってしまう。食物連鎖ってやつだね。仕方ないので、私は譲歩することにした。

「分かりました。では、私に近づく虫を消滅させる力をください。」

「追い払うではダメなんですね。」

「だめです。」

 私は断言した。虫は追い払ってもまた寄ってくるのだ。困った顔の女神様はさらに聞いてきた。

「範囲はどのくらいですか?」

「……視野に入らない程度?」

 ちょっと無理を言ったようで、女神様がため息をついてしまった。

「最初の範囲は自分の体の周り30センチ程度にしておきます。そこからどこまで伸ばすのかは、あなたの努力次第といたしましょう。ただし、全世界に広がることはないと思ってください。」

「分かりました。それからなるべく虫の少なめの場所にお願いします。」

 ここまでの問答で女神も予想がついていたのか、普通に頷いた。

「では、王都ジャベロットに転移させます。良い旅を。」


 そして私は、異世界に転移した。

 簡単に自己紹介をしておこう。私は宮下 楓。大学三年生だった。

 大学の飲み会の帰り、泥酔しているおじさんがホームの端をよろよろと歩いているのを見かけて、思わず「危ないですよ。」と引っ張ったのが悪かった。自分も酔っていたのを忘れていたのだ。そのまま自分が線路に落ち、大きな音がしたのは覚えている。

 女神がいうには、誰かが緊急ボタンを押してくれたおかげで、轢かれることはなかったのだが、頭を打って意識不明の重体。というか、意識が体から離れてしまったので、その間異世界を旅してこいということらしい。初めて聞いたよ、その設定。


 女神様が実体もつけてくれたので、幽霊ではない。ちょっと田舎から出てきた村の娘、という感じだ。黒い髪をおさげにしている。鏡がないので顔は分からない。慣れない木靴は痛いが仕方ない。まずは異世界の町を楽しむことにする。

 私がいるのは恐らく大通り。馬車が走れるよう石畳になっている。その両側には看板のついた店とおぼしき建物が並んでいる。扉を開け放し、売り物を道のところまで並べている店もあった。人も多い。季節はどうやら春らしい。色とりどりの花が店の前などに飾られている。花が咲いている、ということは。私は発見してしまった。足元に虫がいる。嫌いなものほどすぐ見つけてしまうのは何故だろう。

「ヒッ。」

 慌てて私は力を使った。私の足元にいた虫がシュバッと消えた。死体すらも消える力に、私は安心した。うん。これなら怖くない。

 中世ヨーロッパのような石造りの街並みは、海外旅行に来たようでなかなか新鮮だ。私は看板を見て、宿屋らしき場所を探した。大通りに面した宿なら安全ではないか。そう思って眺めていると、親子連れが出てくる宿があった。あそこなら、と私はその宿へと向かった。

「いらっしゃい。」

 受付にいたのはふくよかなおばちゃんだ。愛想よく笑いかけてくれる。

「あの、しばらく泊まりたいんですけど、部屋は空いてますか?」

「何人だい?」

「私一人……ですけど。」

「一人?」

 おばちゃんは目を丸くした。ひょっとすると女性一人で泊まるのはあまりないなのだろうか。慌てて私は自分の設定を話す。

「その、王都に仕事を探しに来たんです。仕事が見つかるまでここで泊まらせて欲しくて。」

「ああ、そういうことかい。」

 おばちゃんの目が元に戻った。

「泊まりは一日銀貨一枚。食事もつけるなら銅貨5枚をさらにもらうよ。五日以上泊まるなら、もう少し安くするけど、どうするかい?」

 女神様にもらったお金はそれなりにある。おそらく一ヶ月くらいは宿でも暮らせるが、使い切ってしまうのは心配だ。

「とりあえず食事付き五日でお願いします。仕事が見つからなかったら

 もう少し延長させてください。」

「あいよ。じゃあ前金で銀貨5枚。その代わり、シーツを替えるのは自分でやっておくれ。」

 かなり安くしてくれた。私は袋から銀貨を5枚出すとおばちゃんに渡す。

「仕事を探すには、どこに行けばいいですか?」

 おばちゃんは私の体をジロジロ見渡した。

「何ができるのかい?」

「ええと……野菜の皮剥きとか、食事を運んだりとか。あ、計算も得意です。」

 大学に通いながら一時期レストランでバイトをしていたのだ。前の世界で数学の成績は普通だったけど、この世界でならかなり通用するはずだ。

「ふうん。じゃあ、ここで働いてみるかい?ちょうど娘が嫁にいっちまって人が足りなかったんだよ。それにその顔で仕事を探しにうろうろしてたら危ないからね。」

「顔?」

 私は思わず顔を押さえた。そういえば転移してから一度も自分の顔を見ていない。

「おや、自分の顔を見たことがないのかい?なかなか可愛い顔をしているよ。だからてっきり……。」

 おばちゃんはそこまで言った後、言葉を切った。言いたいことはなんとなく分かった。これも縁だ。ひょっとすると女神様の計らいかもしれない。

「もしよければ、お願いします。頑張りますので!あ、私カエデ……いえ、エラブルです。」

 カエデのままではおそらく通じない。フランス語に変えてみる。

「ああ。あたしはマーガレットさ。五日間はお客さんだ。その間に宿の仕事を覚えておくれ。町の様子も見たいだろう?」

「ありがとうございます!」

 私はペコリと頭を下げた。


「なにをやってるんだい?」

 真剣な顔で私が寝台を撫でていたのが少し怖かったらしい。マーガレットさんがおそるおそる聞いてくる。

「ええと、虫除けのおまじないを。」

 おまじないじゃなくて全て消滅させたんだけど。これでダニに悩まされることはない。勝った。マーガレットさんが顔を輝かせる。

「そんなスキルがあるなら、先に言っておくれよ。なんなら宿全体頼めるかい?もちろん別料金を払うから。」

「喜んでやらせていただきます!」

 即答だ。これでこの宿の中で虫とばったり鉢合わせをすることがなくなるのだ。ちなみに廊下は部屋に来るまでに既に消滅させてある。

「ただ、近づかないとできないんです。他のお客さんの部屋はどうしましょう。」

 まだ30センチが限界なのだ。使い続けていたらもう少し範囲が広がりそうだけど、すぐには無理だと思う。

「そうだねえ。掃除を頼まれてる部屋は入れるけど、二部屋ほど入れない部屋があるね。お客さんに相談してみるよ。」

「お願いします。あ、それからトイレは……。」

 もう一つの懸念材料がトイレだった。壺じゃないといいのだけど。

「ああ。こっちだよ。」

 連れて行かれたトイレは思ったより清潔だった。億が負荷くて中が見えないところが怖いけど。虫いないよね?座ってできるようになっている。

「どうなっているんですか?」

「スライムが奥にいてね。分解してくれるのさ。村じゃ違ったのかい?」

 なんて事だ、かなり普及しているらしい。

「その、堆肥にするとかで……。」

「ああ。なるほどね。」

 苦し紛れの言い訳をマーガレットさんは信じてくれた。万が一を考えてそっと力を使ってみたけれど、スライムは消滅しなかった。良かった。

 宿中で力を使い続けていたら、さすがに疲れてきた。調理場にはイカついおじさんがいた。マーガレットさんの連れ合いだという。

「よろしくお願いします。」

 といったらむっつりした顔で頷かれた。

「可愛い娘を見て、あの人照れちゃってるのよう。」

 マーガレットさんにはそう言われたけど、怒っているようにしか見えなかった。夫婦って凄い。


 最後に食堂で力を使って今日はおしまいだ。

「今日はありがとうよ。これ、代金ね。」

 渡されたのは銀貨1枚。かなりの高収入だ。

「いいんですか?」

「もちろんさ。さあ、うちの自慢の料理を食べてゆっくり休んでおくれ。」

 出てきたのは鶏肉の香草焼きと、野菜のソテーだ。スープも付いている。ご飯はないようで、黒パンがついている。

 パンは固めだったけど、鶏肉と一緒に食べると肉汁がパンに沁みて何とも美味しい。スープも干し肉が入っているのか、肉の旨味がしっかりついていて、ほっとする味だ。一緒に入っているじゃがいもがホロホロと口の中でほどけていく。私は夢中で食べた。

「美味しいですう。」

「そうかい。それは良かった。」

 マーガレットさんが私の顔をみてにっこり笑った。うん。いい宿だ。これなら異世界での暮らしも楽しめそう。


 ぐっすり寝た次の日。部屋から出て食堂へ行くと、マーガレットさんが泊まり客に捕まっていた。凄い勢いでお礼を言われている。

「ありがとう!昨日は身体が痒くならなくてぐっすり眠れたよ!何をしたんだ?」

「いやいや。虫除けのおまじないをね……。」

 私の名前を出さずにマーガレットさんが言うと、泊まり客はぱっと顔を輝かせた。

「なるほどね!あの痒さは虫のせいだったのか。そのおまじないって何でもやってくれるのかい?」

 野宿用の毛布とかがあるのかもしれない。それで寝ると痒くなるのか……。私は想像しただけでぶるっと震えが来た。

「い、今は試験中でね。色々と決まったら皆にも知らせようと思ってるよ。」

 マーガレットさんは私をチラリと見て答えた。

「そうか!楽しみにしているよ。」

 泊まり客はさっぱりとした顔をして、宿を後にした。他のお客さんからも、大絶賛だった。ダニに刺されると痒いものね。



「エラブル。宿で働く話はなしだ。」

 改まった顔でマーガレットさんに言われて私は蒼白になった。嫌われるようなことを何かしてしまったのか?

「なんでですか?私何かしましたか?」

 前のめりで聞くわたしをマーガレットさんはまあまあとなだめる。

「いやいや。エラブルはここを拠点にして、虫除けを仕事にした方が儲かるんじゃないかと思ってね。もちろんうちの宿でも継続して頼みたい。」

「虫除けの仕事……。」

 良く考えればかなり需要がありそうだ。そしてこの仕事をすればするほど虫が減る。私も気持ちよく過ごせる。仕事にしなくても当然するつもりだったけど、仕事ならお金も貰えて一石二鳥だ。でも今のうちに事実は伝えておいた方がいい。

「マーガレットさん。実は私がしているのは、虫除けじゃなくて、虫の駆除なんです。なので毎日やらなくても大丈夫ですよ。」

 一応卵まで消滅させてるから、しばらくは出ないはずだ。それを聞いてマーガレットさんは更に喜んだ。

「エラブルちゃん、あんた凄いねえ!絶対お客さんがつくよ。早速今日商業ギルドに登録に行かないかい?ついていくよ。」

「ありがとうございます!」

 そしてこの後、私の仕事は王都で評判を呼ぶ。しかし、私はうっかりしていた。虫を消滅させるということは、虫のいる場所に私が行かなければならないということを!


 数年後。

「エラブル嬢、頼んだぞ。」

 草原の向こう、空を黒く染めるほどの虫の大群に、私は涙目になっていた。あれを消滅?私が全部?虫から逃げたかっただけなのに!でもあれが近づくのはもっと嫌だ。私は大声で叫んだ。

「だから、虫なんで大っ嫌いなのよ〜!」


読んでくださり、ありがとうございます。

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