84.決意と別れ
「……よし!」
「お、やるなアル。俺も負けていられないな」
「グラディスさんも結構取れましたね!」
魔人の村に来て早三日。
俺達は……特になにもせずぼーっと過ごしていた。
まあ今みたいに釣りをしたり畑仕事を手伝うなどをして過ごしているから暇ではない。
なんせ飯はしっかり食わせてもらえるのだ。助けてもらった上になにもしないのは申し訳ないと俺から申し出た。
するとニーナやディアンドも手伝いだし、今に至るという訳。
「……ふん、人族がうろうろしおって」
ただ、長はあまりいい顔をせず嫌味を言いにわざわざやってくる。
他の魔人ともそれほど交流はせず、グラディスや救出してくれたメンバー以外とはあまり外に出ないようにしている。
「べーだ」
「ハク、やめておけって」
小さいハクは直感で嫌いな感情を読み取るのだろう、長の前ではしかめっ面をするのだ。
そんな三日目の夜。
グラディスが今後のことを夕食時に話し始めた。
「さて、そろそろほとぼりも冷めたころだろう。皆を町まで送り返そうと思う」
「お、そうなの? なにか調べてたのか?」
「ああ――」
さっき釣った焼き魚をかじりながら聞き返す。
すると逃がした『大将』が気がかりで念のため周囲の警戒をしていたらしい。
だが、俺達が救助されたところは町まで半日かからない場所で、『大将』がそこから冒険者を募って復讐するかもと思っていたそうだ。
だけどその必要は無いと判断し、俺達を送ってくれるとのこと。
ケントは喜んだが、残り二人は難色を示す。
「俺とニーナは戻っても身寄りがねえしなあ」
「も、もしよかったらここで暮らしたいかも、です」
「歓迎したいところだが、この村はのどかに見えてツィアル国の人族との最前線の地だ。争いに巻き込みたくはない」
グラディスがはっきりと告げて二人は肩を落とす。
戻ったところで元の生活に戻るだけ。ここで三日過ごした結果、間違いなくごみを漁るよりいい生活ができていたのだから無理もない。
「ふむ……身寄りがない、か」
「なら、私が責任をもつから、私たちの国へ連れて行く? ここは長が居て暮らしにくいけど、町なら人族も居るし」
「まあディアンド達がいいなら」
「お、俺、魔人の国に行きたい! なんでもするよ!」
「私も!」
即答だった。
それほどあの町に居たくないのかと苦笑する俺に、イレイナが目を向けてくる。
「アルとハクはどうするの? ケントは親が居るから帰るみたいだけど」
「ハクは……ニーナちゃんと一緒がいい。パパ、嫌い……」
「マジ!? じゃあ、僕だけ帰るのか……」
ケントが目を見開いて驚いている横で、俺がハクに尋ねてみる。
すると、ハクははっきりと答えた。
「ハクはいいのか? もう会えないかもしれないぞ」
「うん。パパはすぐ叩くし、本当のパパじゃないから。ママが居なくなって、要らない子だっていうもん」
「そっか……」
「ん」
ハクの頭を撫でると、くすぐったそうに目を細める。
ニーナには懐いているし、ディアンドも一緒なら寂しくは無いか。
そこまで聞いてから俺は口を開く。
「……俺は、ツィアル国の王都を目指す。道だけ教えてくれれば後はなんとかするよ」
「なに? なぜ王都へ行く必要がある?」
「そうだな……ここに居るみんなは信用できるから話すけど、ツィアル国の宮廷魔術師をどうにかしたいと考えているんだ」
「ふむ……」
そこで俺の素性、エリベールの【呪い】のことを口にする。
最初は驚いていたがこのままではエリベールが死んでしまうことを告げると、グラディスは目を瞑って腕組みをする。
「過酷だな。子供一人で出来ることではない。戻れるなら戻って戦力を連れて来た方がいいと思うぞ」
「それはその通りなんだけど、このまま戻って俺が無事だと知られて相手が動かなくなったら面倒でもある。ウチの両親はもうこっちに俺を来させないだろうしな」
双子も攫われそうになったし、次はあっちで……となるかもしれない。
なにもできず期限である四年を迎えるのは口惜しい。
後は『ブック・オブ・アカシック』のこともあり、このまま進んでも問題ないことが示唆されていたといのもあるが。
‟魔人と邂逅したならツィアル国を目指せ。そこで仇敵となるクソエルフと決着をつけることになるだろう”
――と。
勝敗については『八割がた勝てる』らしいが、怪しいものだ。
しかし、勝算があるならこのまま目指すべきだろう。
<残りの二割がなんなのか気になりますけど……>
リグレットは不安そうだがイレギュラーが絡んでくるのかもしれない。
不確定要素を加味して勝率が八割なのかもしれない。
「グラディス、あんた一緒に行ってあげたら? 王都まででもいいじゃない」
「顔は割れていないが、魔人とバレれば面倒なことになりかねん。アル一人よりも――」
「ごちゃごちゃ言うない! どう考えてもアル一人の方が危ないよ! どうせ交代の時期なんだ、私がニーナたちを面倒見て、あんたがアルの面倒をみればいいじゃないか!」
「う、うむ……」
背中をバンバン叩かれてグラディスはせき込んでいた。
なるほど、恋人同士で尻に敷かれているってところだな。まあ、美男美女でお似合いではある。背、高いしな二人とも。
「分かった。アルには俺がついて行く」
「アル君、大丈夫……?」
「ああ。ニーナ達とはここまでだけど、元気でな。もう会うことはないと思う」
「うん……ありがとう、守ってくれて」
寂しげな顔で笑うニーナの頭を撫でてやる。
ひとまずこれで今後の方針が決まった形だ。
出発はこの前線へ交代が来るという二日後で、ケントはガブロフが町へ返し、ニーナ達はイレイナが魔人の国へ連れて行くことが決定。
そして――
「じゃあな、ディアンド、ニーナ、ハク、ケント。短い間だったけど楽しかった」
「ああ……アル兄、死なないでくれよ。本当にありがとうな」
「いつか、大きくなったら魔人の国に来てね? きっとおもてなしする!」
「アルにいちゃんのお嫁さんになるー」
「ははは、ハクはおませさんだな。ケント、両親と仲良くな」
「……うん、友達になれたのに……残念だよ」
ケントは結構寂しそうだな。
泣き虫が治ればいいのになと思いながらくしゃりと頭を撫でると、涙が零れた。
やがてニーナ達も出発して俺とグラディスだけが残された。
腰にマチェットを装備し、イレイナに作ってもらった顔を隠すフードを纏ってから村の入口へ向かう。
「気を付けてな」
「ああ、恐らく宮廷魔術師を倒せば魔人の誘拐事件も解決するかもしれない。娘さんの名前は?」
「ロラだ。……無理はするな」
「うん」
誘拐されたというヒデドンの娘さんの名前を聞いて、ただ一人見送ってくれた彼に手を上げて挨拶をする。
「行こうか、グラディス」
「ああ」
さて、『ブック・オブ・アカシック』よ、頼むぜホント――




