幕間 ③
「ああああああああん! うわあああああああん! アルにいちゃぁぁぁぁ!」
「にいちゃぁぁん!」
「ほら、ママが抱っこしてあげるからおいで」
「「うわああああん! ままぁ!」」
双子を両腕で抱えて背中を撫でてあげるが一向に泣き止む気配が無い。
少し前に泣きながら屋敷に戻って来たルーナに事情を聞いて現場に行くと、倒れたルークを発見した。慌てて助け起こしたのだけど怪我はなくホッとした。
近くには潰れたケーキの箱と、アルが買ったであろうプレゼントが散らばっていた。だけど肝心のアルの姿はどこにも見えなかった。
あたしはすぐに町の人に情報提供を求め屋敷のメイドへ城に居るゼルへ伝令を依頼した。
ルーナとルークにアルを探しに行くと言い、一緒に町中を奔走したんだけど――
「カーネリア!!」
「ゼル! アルが変な連中に連れて行かれたって!」
「今、兵士達も出ている、どれくらい前の話だ?」
「ルーナがあたしのところへ帰って来たのが三十分くらい前だったはずだよ」
「……急ごう、町から出られたら終わりだ」
ゼルは二か所ある町の出口のうち、ツィアル国へ続く橋がある出口を抑えに行くとすぐに出て行った。あたしは再び町中を駆け巡ることにする。
「カーネリアさん、こっちには居ないぜ」
「裏路地も見たけどダメだ……」
「あん? 子供を抱えた奴? いやあ、みてねえな」
「随分急いでいた冒険者四人組が居たけど、子供は見なかったな」
だけどその甲斐も空しく、日が暮れた後も見つけることは出来なかった。
あたしとゼルが屋敷に戻るとお義父さんとお義母さんがルーナ達と共に出迎えてくれ、リビングへと集まる。
「アルが……!?」
「一体誰がそんなことをしたというのだ! ゼルガイド、犯人はわからんのか?」
お義父さんが激昂してゼルに尋ねるも首を振って答える。
珍しくゼルが肩を落としている。その姿は痛々しい。
「事件後に門を出て行こうとした人間は調査しましたが、見つかりませんでした。子供とはいえ、アルを連れて行くのは目立つと思うんですが……」
「手がかりか目撃者は?」
あたしの方はまったくだったけど、ゼルはなにか聞いているかもしれないと尋ねてみる。
「特に無かった。だが、ちょうど俺達に話が回って来た時間帯に、商人の護衛をする冒険者の一団が出て行ったらしい。そいつらが怪しいんじゃないかと」
「追手は?」
「もちろん出している。だが、計画的な犯行だ、すでにまかれている可能性は高い」
「そんな……ああ、本当の孫だと思って接していたのに……」
お義母さんが泣き崩れたのであたしは背中をさする。
膝に座るルーナとルークは泣き疲れてしまったのか酷く大人しい。
するとルーナがあたしに抱き着いて見上げてくる。
「アルにいちゃ連れて行かれちゃったの?」
「……そうね。どこへ行ったか分からないわ……」
「まじんに連れていかれちゃったんだ……ぼく達がわがままを言うから連れて行こうとしたけど、にいちゃが助けてくれたんだ……」
「ルーク、そうじゃない。お前達はいい子だ。アルもな」
「ぼく、にいちゃを助けたいよう……うえええん……」
ルークがそんなことを言い出し、ルーナも泣き出してしまう。
今は追撃の騎士達から報告を待つしかないと、あたしは双子の頭に手を乗せて頬を擦り寄せる。
「……大丈夫、アルは帰って来るよ。そんな顔してたらアルが悲しんじゃうから、ご飯を食べてゆっくり寝よう? ね?」
「あう……」
「ごはん……食べる。ルーナ、アルにいちゃを助けに行く……」
ルーナが泣きながら食卓につき、あたしは用意したパーティーの料理を振舞うため準備を進め始める。
するとそこでメイドが食堂へ入って来た。
「あの……ラッド王子とライラ姫様、それとイワン様が見えられましたが、如何いたしますか?」
「ああ、来てくれたのか……アルが誘拐されたからパーティは無しになると言っておいたんだけど……。折角きてくれたんだ、通してくれ」
「かしこまりました」
ゼルが苦笑しながらそう言い、すぐに三人が食卓へやってきた。
特にラッド王子の落胆ぶりは目に見えて分かりやすく、双子と同じくらい酷い顔をしていた。
「あの、アルはやっぱり……?」
「うん、見つからないみたいだ。あたしも探しに行きたいけどこの子達を置いて行けないからね」
「俺は飯を食ったら隣町まで行ってくる。部下たちに任せてくれと言われたが、ウチの息子だ。指をくわえて待っているわけにもいくまい」
ゼルは静かにそう言うと窓の外に目を向けた。
本当はもっと早く出たいと思っているんだけど、罠かもしれないと待機を命じられたらしいのよね。
そんな中、あたしは料理を温め直してテーブルに広げていく。
沈んだ表情の双子を並べて座らせ、全員が着席。
あたしが主導を取って、二人の後ろで声を出した。
「それじゃ、ケーキは潰れちゃったけど、ルークとルーナ、お誕生日おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
「おめでとう、ルーク、ルーナ」
来てくれた三人と義両親が手を叩き、パーティが始まる。
「あいあとー」
「ありがとー」
元気がないものの祝ってくれているのは分かるようで、きちんと頭を下げてお礼を口にする双子が可愛い。
「このお洋服、ルーナちゃんに似合うと思って♪」
「僕からはペンダントを。魔物に襲われたり……誘拐されそうになったりした時にこれをぶつけたら目くらましになるんだ」
「俺は大したものじゃないけど、帽子な。アルとお揃いだったんだけど……」
「ふぐ……」
「イワン!」
「あ、す、すみません王子……」
「大丈夫、大丈夫だからね」
アルの名を出して泣きそうになったルーナをあたしが慰める。
落ち着きを取り戻した後、食事を楽しむ……とはいかないまでも、双子は少しだけ笑うくらいには回復できていた。
城へ連れて行ったことがここで功を奏するとは思わなかったけど、この際なんでもいい。
その後ゼルは出発し、王子達も馬車で帰っていくと屋敷は一気に静かになった。
義両親は心配だからと泊っていくことにしてくれたが、静かになるとアルが居ないことを痛感する。
「……にいちゃ……」
「アルにいちゃ……ルーナが助けに……いく……むにゃ……」
「どんな夢を見ているのやら……」
それにしても、まさかアルが攫われるとは思わなかった。
義理とはいえ騎士団長の息子。
それにその事実を知る者はごく少数なので、言うことを聞かせるなら双子の方が使い道はあると思う。
あのテロ事件とシェリシンダ国の騒動からしばらく何も無かっただけに油断したとも言えるかしら……エリベール様やラッド王子ではなく、どうしてアルなのか……
考えても分からない疑問が浮かんでは、消えていく。
どうか無事で……この子がこれ以上、不幸に見舞われないよう……神様……お願いです――




