67.緊迫した状況
「ふっ……!!」
「ギィア!」
俺は即座に悪魔のような姿をした魔物に攻撃を仕掛けた。
いい感じの速さと角度で剣が入った思ったが、その瞬間、魔物の皮膚表面がごわごわした岩に包まれていく。俺の剣は弾かれてしまい、距離を取るため後ろへ飛ぶ。
「石みたいな硬さだな……まさかガーゴイルってやつか?」
ガーゴイルとは石像が人間を襲うという、前の世界ではゲームでお馴染みの魔物だ。石像だから斬撃に強い。
だいたい侵入者を防ぐための罠として設置されていることが多いけど、ここではどうやら使い魔としての役割を果たせるようだ。
<魔法でいきますか?>
「いや、エドワウさん達が巻き込まれる。廊下は広い、騎士を呼んだし、一旦ここから出る」
それによく見ればこいつの身体から紫の煙が大量に放出されていた。それを危険と判断したのもある。
「う、うう……」
「こいつが【呪い】の正体か? とりあえず窓ガラスを割ってから――」
『ミドル』クラスの水魔法であるアイシクルダガーを左手で放ち窓ガラスを割る。
続けてウォーターウィップの魔法をガーゴイルの胴体に巻きつけて一本釣りよろしく一気に引いた。
「どっせぇぇい! ……って重っ!?」
<当たり前ですよ!? 石ですもの!>
リグレットに当たり前のツッコミを受けながら俺はウォーターウィップを消した。
その反動でガーゴイルと共に廊下を転がる。
「グォォアァァァ!」
「よし、標的がこっちに向いた。間違ってなかったぞ、リグレット! たぁりゃぁ!」
チラリと部屋に目を向けると煙は窓から出て霧散していくのが見えた。
エドワウ達も呼吸が安定してきたようなのであっちは問題無さそうだ。
「さあて、こっちだ!」
「グォォ……!」
イークンベル式の剣術の真骨頂は速さ。
俺は伸ばしてくる手を避けながら、右袈裟、薙ぎ払い、上段と一気に攻撃を繰り出す。ちなみにライクベルンは力だったりするけど、今日はそれを見せる必要は無い。
何故なら――
「どうしたアル殿!」
「アル君!」
――騎士達が居るからだ。
俺が出しゃばるところでもないし、味方とはいえ手の内を明かす必要もない。
「アレが息子さんを苦しめていた元凶だよ! お願いします!」
「おう!」
エリベールとシェリシンダ国へ来る時に一緒だった騎士が俺の脇を抜けてガーゴイルへ振り下ろす。
ガギン、と金属と石がぶつかる鈍い音が廊下に響き渡る。
「チッ、硬いな。ヒュードル!」
「あいよ! おらあ!」
「おお!」
もちろんあの騎士だけじゃないので、指示をもらったヒュードルという男が両刃の斧でガーゴイルへ迫る。
「グァァァ!」
「なに言ってるかわからねえっての!」
最初の騎士が離脱し、ガーゴイルの攻撃を避けた。
その隙に体格が他のやつより良いヒュードルが斧を振り下ろす。
ガーゴイルは咄嗟に手で庇おうとするが、左腕が完全に粉砕された。
見た目通りのパワーファイターってところか。
「グギャ!? ……グォォォ!!」
「うおっと!? げっ、ガントレットがひしゃげた!? 頭を殴られたらやべぇぞ!」
「大丈夫だ、腕が無い方から仕掛ける! いいかグシルス」
「おう、引き付けてくれアカザ」
もう一人、廊下から槍を持った騎士が躍り出ると足を狙って突きかかる。
嫌がったガーゴイルが翼で飛ぼうとするが最初に仕掛けた騎士、グシルスが剣で殴るように横から叩きつけた。
「グギャ!? ゴォォ!」
「ぐっ……!」
「そりゃああ!!」
反動で壁に激突するガーゴイル。負けじと蹴りをアカザに繰り出し、彼は大きく後ろに吹き飛ばされた。
だが、その直後、ヒュードルの斧がガーゴイルの脳天を割り、態勢を立て直したアカザの槍が胴体を射抜き壁へ貼り付ける。
「グ……ゲ……」
「くっ……」
「ふう……」
「息苦しいな、こいつの煙のせいか?」
怪しく光っていた目は輝きを失い、その場でバラバラに崩れ去った。
三人とも煙を吸ったせいか足元がふらついているが、あれだけの動きができるのは流石だ。
「煙が消えていく……良かった、倒せたんだ」
「だな。……ふむ、ヴィクソン家は無事。アル殿のおかげで全員無事みたいですな」
「たまたま駆けつけただけだよ」
「いえいえ、先ほどの魔法、十歳とは思えぬ強さ。よく修行されている」
グシルスが剣を収めながら笑い、俺は頭を掻いて肩を竦める。
その足で夫妻と息子を介抱し、到着した医者によると容体は問題ないとのお墨付きをもらった。
……とりあえずの脅威は去ったけど、次はどう動く?
『ブック・オブ・アカシック』は役に立たないし、慎重にいかないとな――
◆ ◇ ◆
「アルにいちゃ……」
「かえってこない」
「はいはい、落ち込んでないでご飯食べてね二人とも。アルももう少ししたら帰ってくるから」
「ほんと……?」
「うんうん、ママからも言っておくから」
「はぁい……」
「ルーナ、いい子いい子」
目に見えて元気が無くなったルーナの頭をルークが撫でてくれた。あたしも困った顔でルーナを見る。
アルが旅立って二日ほど経ち、ルーナは泣かなくなった変わりに元気が無くなった。いつもニコニコしていた子が沈んでいるとさすがに心配になる。
まあ、もう少し歳を取れば分別がつくようになると思うから今の内だけかねえ……
どっちにしてもあの子は待つしかないと思っていたんだけど――
◆ ◇ ◆
「ルーナ、アルにいちゃを探しに行く!」
「危ないよお? お外に行ったらダメってパパとママが」
「でもアルにいちゃは外に行くし、帰ってこないもん……。ルークも行く?」
「んー。うん、ぼくもにいちゃと遊びたいかな」
朝食後、二人は部屋でそんな話をしていた。
そして――
「んしょ……」
「ママに言わなくていい?」
「ママおこるもん」
――二人で玄関を開け、ルークとルーナは外へ出てしまった。
「どっちかなあ」
「こっち」
「ほんとう?」
「うん」
ルーナは自信満々でルークと手を繋いで歩きはじめる。
実は全然見当違いの方向なのだが、なんとなく進んだ。居ても立っても居られないという状態になっていたからだ。
しかし、子供の足でそれも三歳になるくらいの子ではたかが知れている。
パーティへ行った際も馬車で行き、町を歩いたことが無い二人。
すぐにルークは不安になった。
「ふえ……」
「泣いたらダメ。アルにいちゃのとこ行くの。ふぐ……」
「ルーナも泣きそう……」
「泣かないもん……」
二人は頑張った。
しかしアルの居る城がどこか分からないので、闇雲に歩いた二人は歩き疲れてきた。
「あら、カーネリアさんところの双子じゃない? どうしたのこんなところで!?」
「あう……」
「こ、こんにちは」
びっくりするルーナに、きちんと挨拶をするルーク。
傍にあるケーキ屋の店主である女性が気になって声をかけてきたのだ。
「ママは?」
「……」
首を振る二人に、口をへの字にする。
もしかしたら迷子なのかもしれないと思い、女性は屈んで目線を合わせると質問を続ける。
「どこに行くの?」
「アルにいちゃのところ……お城……」
「知ってる?」
「うーん、知っているけどママかパパと一緒じゃないといけないかな」
「「!?」」
その言葉に『ガーン』となった二人の顔。
そこで苦笑しながら女性は二人を抱っこして店へ入る。
「あはは、お兄ちゃんを探しに来たのね。可愛い。でもママが心配するから帰ろう、ね?」
「いや……アルにいちゃに会いたい……」
「あらま強情。一緒に帰ってくれたらケーキをあげようかなぁ?」
目線をイチゴの乗ったケーキに合わせると、ルーナとルークは涎を少し垂らしながら女性の袖をぎゅっと掴む。
「どう? ママも今なら怒らないかもよ? おばさんが一緒に謝ってあげる」
「……かえる」
「ぼくも……」
「うんうん、それじゃケーキを包んでいこうね~。あなた、ちょっと店をお願い」
そして二人は屋敷へ連行された。見つからない兄よりもケーキを選んだのだ。
カーネリアは少しだけ怒ったが、目を離した責任があるとすぐに二人を抱きしめてケーキを食べさせるのだった。
「うーん、少しずつアル離れをさせないと急には無理かもねえ……」




