64.懇願
「結局、病気はなんだったんですか?」
「不治の病に近かったみたいね。だけど、アルが治療法を知っていたの。なんと『ブック・オブ・アカシック』に選ばれた子なのよ」
「「え……!?」」
パーティが始まりしばらくすると、領主やその奥さんがディアンネス様に話しかけに行くのが見えた。
話の内容はもちろん病気が治った理由となんの病気だったかというものに集約されていた。
病名は不明として治療については俺が『ブック・オブ・アカシック』で調べて治したということにしている。
どこで誰が聞いているか分からないのに大丈夫かって?
まあまあむしろ聞いて欲しいわけだよ俺としては。
これでなにかを企んでいる人間のヘイトは俺に集まる。呪いの本をという異名を持つ人間という肩書きはクセが強く目立ちやすい。
一番警戒すべきヴィクソン家の二人は遠巻きに俺達を見ているが、聞き耳はしっかり立てているようだな。
「アル、食べてる? はい、フルーツの盛り合わせ」
「ありがとう。ってお肉とかじゃないか普通?」
「一緒に食べられるものがいいじゃない♪」
俺がジュースのグラス片手に周囲を観察していると、エリベールがやってきた。
「仲がいいわね。いつからそういう仲なの?」
「えっと、この前イークベルン王の誕生パーティの時ですね。あなたは?」
「私はラビア。ラビア・ビキリよ」
「ビキリ家の長女ですよアル」
ビキリ家は先のフォランベルン家とタメを張る貴族で、確か侯爵の位を持っていたはずだ。
歳は十六、七歳くらいの青い髪をした女の子が俺とエリベールを見比べて嬉しそうに笑っていた。
「初めまして、アル・フォーゲンバーグです」
「あ、礼儀正しいわね! 子供だけどイケメンだし、エリベール様はいい男を掴まえたわねえ」
「ありがとうございます、ラビア様。パーティで出会った時からわたくし、一目ぼれでして」
「それで王女様の命の恩人でしょ? 運命感じちゃうわよねー」
見た目美少女、中身は軽い、と。
夢見る瞳で手を組み、そんなことを言うラビア。
「それにしても『ブック・オブ・アカシック』の持ち主よね。どうなのそこんところ」
「どう、とは?」
「呪いの本かどうかってことよ。エリベール様を不幸にしたら許さないからね?」
「はは……そう、ですね」
「大丈夫です! そこは愛の力で!」
「おい、止めろ、話を大きくするな!?」
演技……これは演技だ……
っと、エドワウとミスミーが動いたか。
エリベールに背中から抱き着かれ、ラビアや周りの大人たちが微笑ましいものを見たという視線を向けてくる。
生暖かい視線を浴びながら俺は二人をきっちりマークしていた。
「快復、おめでとうございますディアンネス様。まさかあのお見舞いからすぐにこんな祝いごとになるとは思いませんでしたよ」
「ありがとうエドワウ。アルがあの後『ブック・オブ・アカシック』で治療法を調べてくれたのよ」
「そうなんですのね。それでアルを婿に?」
「それもあるけど、一番はエリベールが気に入っているからかしらね……あの子、父親と同じでいつ亡くなるか分からないし好きにさせたいから」
「え、ええ……」
青い顔で頷くエドワウは唇が震えていた。その震えはなんに対してのものだろうな? ミスミーも同じく冷や汗をかきながら渋い顔で俯く。
「どこを見てるの? 未来の奥さんをないがしろにしたらダメよー?」
「もっと言ってあげてください!」
そんな調子でラビアのおもちゃにされながらエリベールたちの相手をする。
なにかが起こる……こともなく、パーティは終盤を迎えていた。
「そろそろお開きか……」
「楽しかったですわね」
「それはいいけど、動きが無いのは残念だったな」
「……仕方ありません。まだチャンスはありますよ」
エリベールが寂し気に微笑み、俺も釣られて笑う。
本当は十六歳まで生きられないかもしれないという不安はつきまっているのかもしれない。
『ブック・オブ・アカシック』もいい加減な情報をよこすから無理もないと思うけど。
「皆さま、本日は部屋を用意しています。ごゆっくりとお過ごしください」
結局、事件など起こらずにパーティは幕を閉じた。
国王の時みたいに襲撃があるかと思ったが、そんなことも無かった。
俺は一旦、エリベールと別れて自室へと向かう。
少々、拍子抜けしたが全部が全部思惑通りに行くことの方が珍しいかと切り替えた。
俺というジョーカー、ディアンネス様の全快、エリベールの婚約の三つを知らしめることができただけ良しとしよう。
まあ、ディアンネス様が全快したとは言え、エリベールの【呪い】が解けた訳じゃない。
ヴィクソン家にしても、ツィアル国の宮廷魔術師にしても、それだけで動く理由にはならないのだと考えるべきか。
放っておいても、エリベールは死んでしまうのだから。
「……死なせるわけにはいかないけど。そういえばパーティについて『ブック・オブ・アカシック』が変なことを書いてたな」
‟あの時のパーティを思い出せ”
確かこんな感じだったと思う。
あの時、国王とラッドが狙われたパーティだが――
「あ!?」
<どうしました?>
俺はここでひとつ、閃くものがあった。
「……あの襲撃、実はエリベールを狙っていたのだとしたらどうだ? もちろん直接的じゃなく、あくまでも国王を狙いつつ巻き込んでの殺害する」
<だから自爆、ですか。でもメリットは……>
「メリットは……ある。あの時点でディアンネス様は床に伏せっていた、治る可能性も低い。そこでエリベールが死ねば、イークベルン王国が糾弾される。下手をすれば戦争にも繋がる」
心労でディアンネス様が亡くなる可能性もあるがそれは低いだろう。
むしろ娘を一人で行かせたことの責任をディアンネス様へ糾弾し、失脚させてヴィクソン家が乗っとるつもりだったのかもしれない。
他の家ならどこでもいいとも考えていそうだ。
「なら、どうして『ブック・オブ・アカシック』はハッキリとそれを教えてくれなかったんだ? 黒幕は知っている、目的も知っている、だけど経過は知らない……」
チグハグだ。
どういうことなのか頭を悩ませる俺は『ブック・オブ・アカシック』に聞いてみるかと部屋に近づいて来た瞬間――
「うわ!?」
「……静かにしてくれ。手荒な真似は、したくない」
空いた部屋に引きずり込まれた俺は腕を掴まれていた。そして言葉を発する人物は――
「……エドワウ・ヴィクソン。正体を現したか」
「……」
なんとも言えない表情で俺を見つめるエドワウ。近くにはミスミーが青い顔で俺達を見ていた。
さて、どうするつもりだ? 魔法で逃げ出すことはできるが、少し様子を伺うかと思っていると。
「君が『ブック・オブ・アカシック』を使えるのは本当かい? ……もし本当なら……助けてくれ……」
まさかの救援要請だった。




