59.母と娘のサンドイッチ
「待たせましたね」
「いや……」
着替えたエリベールはこれまたお姫様らしく可愛いドレスに身を包んで俺の手を引いて歩き出す。
<ご機嫌ですね>
うーむ、髪の毛もしっかり整えていて、控えめに言って可愛い。
流石は一国の王女様でもあるというところか。
いやいや、ウチのルーナも大きくなったら可愛くなるから血筋だけが決定的な戦力差ではないはず――
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。それよりどこへ行くんだ?」
「お母様のところよ。挨拶を含めて早い方がいいでしょ!」
そう言いながらウインクをするエリベール。
この子は即断即決を売りとしているのか? 俺をここへ連れて来る時もあんまり悩んでいなかったしな。
そういう度胸があるのは嫌いじゃない。
『ブック・オブ・アカシック』も呪いの本だと分かっていて利用しようとする図太さは国を背負って立つには丁度いいのかもしれないな。
他愛ない話をしながらエリベールについていく。
やがて大きな扉の前に到着し、エリベールがノックをすると中からか細い女性の声が聞こえてきた。
「エリベールかしら……どうぞ」
「はい。お母様」
「失礼します」
挨拶をしながら中へと入ると、ベッドに上半身を起こしてこちらを見ている女性が居た。
エリベールによく似た顔と金髪をしていて、俺を見るなり驚いた顔をしていた。
「おかえりなさいエリベール。無事で良かったわ。そちらの方は?」
「私はイークベルン王国の騎士団長、ゼルガイド・フォーゲンバーグの子、アルと申します」
「これはご丁寧に。こんな格好で申し訳ないわね、エリベールの母でディアンネスです。エリベールとお友達になってくれたのかしら? 私がこんなだから苦労ばかりかけて……」
「私は大丈夫よお母様。辛くなんてないし」
エリベールが寂しげに笑いながら母親に抱き着く。
十二歳で辛くない、なんてことはないはずだ。体の大きさも俺とほとんど変わらないのに。ま、それも今日で終わりに出来るはずだ。
「(リグレット、【再生の左腕】の準備はいいか?)」
<大丈夫です! ちゃちゃっと救ってしまいましょう>
軽いな……
多少不安だが、カーネリア母さんで成功事例はある。
ささっとやってしまおうか。
「エリベール、ディアンネス様の病気を治すよ」
「あ、そうですね! 聞いて下さいお母様、アルがお母様の病気を治療できるそうなんです! それではるばるここまで来てもらったんですよ」
「あら、そうなの? ふふ、大丈夫、私はすぐ良くなるから、ね?」
「違うんです! 本当に治せるんですよ!」
ディアンネス様は子供のお遊びと思っているのか優しい顔でエリベールを窘めて髪を撫でてやっていた。
状態はかなり悪そうで、今も額に汗をかいているのが見える。
俺はエリベールの隣に立ち、ディアンネス様の手を握らせてもらう。
「いいかなエリベール」
「お願いしますわ、アル」
「あらあら、真剣ねふたりとも」
彼女が笑ったその時、俺は胸中で【再生の左腕】を発動させる。
ご都合でもなんでもいい、この母親の病気を治してエリベールに辛い思いをさせないように――
「【再生の左腕】」
「え? ……う、身体が……熱い……」
「ああ、ディアンネス様!?」
「大丈夫……大丈夫だから……!! お願い……アル……」
急に呻きだしたディアンネス様を見てメイド達がざわめくが、エリベールがそれを制す。もしなんかあったらタダじゃすまないかなーと思いながらスキルを使う。
カーネリア母さんの時は無我夢中だったけど、落ち着いて使うと体内のマナが活性化して相手に力を与えているのが分かる。
『再生』の名を冠するので病気には効かない可能性もあったが、リグレット曰く、元々あった体力や衰えた力、マナと言ったものを回復することが『再生』と捉えるのだとか。
なので、この場合『病気になる前』の身体へと再生する、と言ったところか。
やがて段々とスキルを使った感覚が無くなり、ディアンネス様の顔色がどんどん良くなっていく。
「ふう……これで、大丈夫のはず……」
「アル!?」
「ディアンネス様、どうですか? どんな病気だったか分からないんですけど……」
力が抜けてベッドに倒れかかる俺をエリベールが介抱してくれ、それに甘えながら尋ねる。
するとディアンネス様は目をぱちくりしながら掌を見つめ――
「身体が……軽いわ」
「ディアンネス様!?」
「はは、すげぇ……」
ディアンネス様はベッドから起きるとしっかりとした足取りで床に着地する。
すぐにパンチとキックを繰り出し、アクション映画みたいな動きを始めた。
一通り動いた後、メイドに目を向ける。
「私の剣はありますか?」
「あ、は、はい! こちらに」
「……ヒュ!」
ディアンネス様はパジャマ姿で剣を抜く。レイピアのような細身の剣を花瓶に向かって刺し貫く。
すると、剣に花びらがきれいに重ねられていた。
え? この人まさか剣士なの?
そう思った瞬間、さっと抱っこされていた。スキルを使ったせいであんまり力が入らないのでなすがまま。
まつげ、長いなあ……
「凄い……本当に治ったの? どういうことなのかしらアル君」
「うわあ!? な、なんかそういうことができるんですよ、もっと小さいころに死にかけてから!」
「死にかけ……?」
「お母様、アルを離してください!」
俺の言葉に疑問を口にしたところでエリベールが拳を握り頬を膨らませて声を上げていた。
「ああ、ごめんなさいエリベールのこいび――」
「ち、違いますから!」
「早く降ろして!」
なんかとりあえず、わちゃわちゃしたがどうやら完治したらしい。
病状を聞かずにぶっつけ本番だったが、原因はあまり問題ではないみたいだな。
「これは気分がいいわね。ちょっと皆さんに挨拶をしてくるわ。さて、これは大きな借りが出来たわね」
「エリベール……様はとても良い方でご両親を自慢に思っていました。いたく感銘したのでお手伝いさせていただきました」
「そうです! それとお母様、お父様の血筋が短命な理由もアルが突き止めてくれましたよ!」
「なんですって……?」
……さて、本番はむしろこれからだな。
せっかくここまで来たんだ、ヴィクソン家についてもう少し情報が欲しいな。




