30.そして時は過ぎ
「下……! いや、正面か!」
「お、やるな、アル! だが、これならどうだ!」
「足払い!? っと……!」
「その体勢から剣を握った手を狙うのか!? だけど、それは無茶だ!」
「いってぇ!?」
ゼルガイド父さんとのタイマン勝負。
俺はあっさりと読み違えて打ち負けた。無理な体勢でガラ空きになった背中を木剣で叩かれ、庭の地面に転がった。
「うごお!?」
「あははは、見事にやられたねアル!」
庭にある木の長椅子に座っていたカーネリア母さんが豪快に笑う。くそう、笑い過ぎだ。そう思っていると小さな影が近づいてくる。
「アルにいちゃ痛い痛い」
「だいじょーぶー?」
「いてて……ああ、ありがとう二人とも」
「「おー!! にいちゃ強い!」」
「はは、元気だな、お前達」
立ち上がった俺の足元で両手を上げて喜ぶ双子に俺は苦笑する。
――さて、俺が爺ちゃんの孫である告白をしてから三年、俺は早くも九歳となっていた。
結局、手紙を送ったものの返事は無く、簡単にライクベルン王国へ戻ることもできないのでカーネリア母さん達のお世話になったままだ。
どうして連絡をくれないのかが気になるけど、月イチで送っていた手紙は二年目には止めた。自力で戻るしかないと決めて。
で、さっきの双子はというと俺の義理の弟と妹だったりする。
もちろんゼルガイド父さんとカーネリア母さんの子供で、子供ができない身体からまさかの双子を生むことができた。
お盛んな二人の賜物だろう……俺はなにも聞いていないぞ。
弟はルークという名前で、妹はルーナ。
二人ともカーネリア母さんの金髪を受け継いだとても可愛い子達で、いつも俺の後をついてくる2.5歳児である。俺が六歳になった半年後に生まれたからだいたい三歳に近いくらいだ。
そうなると俺の立場も弱くなる……ということは無く、ゼルガイド父さんもカーネリア母さんも分け隔てなく優しくしてくれている。
また、あのベイガン爺さん達も双子は溺愛している。あいつらが産まれてから俺に優しくなった気がする。
カーネリア母さん曰く――
「アルの身の上話を聞いたじゃない? もしルークとルーナがアルと同じ目にあって会えなくなったら凄く辛いと思うのよ。アルバート将軍はアルを心底愛していたみたいだし、感情移入したんじゃないかな」
――ということらしい。
無事にライクベルンに送り届けたいからじゃないかな? と言ったらゼルガイド父さんに拳骨をもらった。
冗談なのに……
そんなこんなで三年。
カーネリア母さんが妊娠していた時期は魔法より剣を鍛えていた。
七歳くらいから身体もちょっと大きくなったのでしっかり動けるかと思ったけど、そんなことは無かった。前世でも別に剣術を習っていたわけではないので、ゼルガイド父さんにはまったく歯が立たない。
魔法もいいけど剣で勝てないのは悔しいため休みのたびに稽古をつけてもらっている。
「いたいの終わり? おうちいこー! おやつー」
「はいはい、ルークはお菓子好きだなあ」
「にいちゃ、抱っこ」
「またかい? カーネリア母さんにしてもらえばいいのに……」
「ははは、二人はアルが大好きだからな」
「それじゃおやつにしようか。とっておきのドーナッツがあるよ」
「「わーい!」」
喜ぶ双子を見てまた苦笑する俺。
ほのぼのとした空気で幸せを感じることができる。
……いつか離れるとしても、恩返しはしたいなと常々思う。それくらい居心地がいい。
<相変わらず可愛い兄妹ですね>
「そうだな」
そうそう、こいつとの付き合いも良好で特に頭を覗いたりしていないのは本当のようだ。
あの【スキル】とやらを使う機会が無いのでたまにぼそりと呟くだけ。
リグレットから話しかけてくるのは稀だけど、一人の時に割と退屈しないのでこれはこれでアリだ。
問題は――
◆ ◇ ◆
「ふう……お風呂も一緒に入りたいとか俺のこと好きすぎだろ」
<今日も本ですか>
「ああ」
――そう、この本だ。
ゴタゴタで忘れていたんだが、記憶を思い起こせば神であるイルネースが『大事にしろ』と言っていた。
正直まったく忘れていたんだが、とあることに気づいてから異質な本であることが判明した。
「やっぱり増えているな」
<剣術の応用編のようなものが増えていますね>
なんとこの本、俺が小さいころに見ていた項目が消えていたり、内容が書き換わっていたりしていた。
俺が覚えたものが消える、という感じがするけど、今みたいにゼルガイド父さんより強くなりたいと思えば剣の項目が書き直されたりするのだ。
「……まるで俺が欲しい情報が浮かんでくるって感じだ」
だけど未来の出来事が分かる、というようなことはない。
あくまでも『今欲している情報』になる。
途中から白紙だったが、その部分が明らかに埋まっているのだ。
「これがなにかを知っているのはあのクソ神だけだからなあ」
<とりあえず便利ですしいいのではないですか? そろそろ学校に入学ですし、知識があるのは良いことかと>
「まあな……」
そう、来月から俺はカーネリア母さんがずっと言っていた学校へ入ることになる。
正直、学校に入るメリットはあまりなさそうなんだよなあ……。
魔法はカーネリア母さんが高名な魔法使いだし、剣技はこの国でもトップクラスの腕を持つゼルガイド父さんが居るからである。
魔法は『ミドル』クラスなら結構使えるようになっているし。
だけどカーネリア母さんは聞かなかった。
ま、友達を作る必要はないし、適当に授業を聞いておけばいいか。




