20.イークベルンの城下町へ
「つ、ついた……!」
「ふふ、頑張ったねアル。ここがイークベルン王国の城下町だよ、今日からここで過ごすんだ」
「あ、本当だお城がある!」
カーネリア母さんの家から出発し、一日は歩き詰めだった。
抱っこをしてくれたりして足に負担はかかっていないけどな。
で、一日だけキャンプをし、次の日の昼を過ぎた今、俺達の立つ崖の下に大きな城塞都市が目に入った。
上から見ると魔物に襲われないための高い壁に、メインとなる正門から一番遠い場所に城を構えているようだった。典型的な物語の街並みという印象を受けた。
個人的には城の背後に壁があり、それが近すぎるのはいただけない。攻城された際、壁と城が近いと結構簡単に侵入ができるからだ。
やや中央に城を寄せておいた方が背後の壁を攻略された時に対応しやすいと思う。
……例えば反社会的な事務所や屋敷はビルとビルの間は近すぎない、周囲は広く視野が取れるというような場所を選んでいたという経験があるからだ。親父さん、元気かなあ。
まあ、戦闘力に自信があるならこういう造りでも問題ないと思うけど。
「でも家って高いんじゃないの? 借りる?」
「あはは、心配性だねアルは。家は元々住んでいたのがあるんだよ、持ち家だから盗賊でも入ってなければ荒らされても居ないはずだよ」
「それなら安心だね。早く行こう!」
「ふふ、急に元気が出て来たね。はいはい、こけるんじゃないよ」
俺はカーネリア母さんの手を引いて眼下の町を捉えたまま歩いていく。
相変わらず俺は黒い剣士に対する恨みと復讐の火は消えていない。だが、今はまだ我慢の時だ。
両親と妹が殺されたあの時と同じく、ゆっくり、確実に仕留めるため、申し訳ないがカーネリア母さんを利用させてもらうとする。
「すぅ……はぁ……。……うん」
「どうしたのアル?」
「ううん、なんでもないよ。空気が美味しいなって」
一度、深呼吸をして気持ちを切り替える。
『やるべきことを忘れない』こと。
それさえ守れば生活を楽しんでも構わないと考えている。
常に身体と精神を狂気の中に置いておくと、いざという時に冷静な判断ができない。悔しいが五歳の身ではある程度、状況に流される方が正解に近い。
そんな前世の心構えを再認識しながら崖を迂回して緩やかな丘をゆっくりと下っていく。町の正門を目指して進み、視界が町に対して水平になってきたその時、正門が開くのが見えた。
「いいタイミングで開いたなあ。あれ? なんか人がいっぱい出てくる……」
「騎士団だね、討伐依頼でも出たかしら」
「騎士団……爺ちゃん……」
キレイに整列され、立派な鎧を着た騎士達が近づいた俺達には見向きもせず進んでいく。先頭の隊長だと思われる人だけ青い鎧を着ていて中々かっこいい。
「いいなあ」
「アルは魔法使いになるんじゃないのかい?」
「剣も覚えたいよ? おじいちゃんは強かったんだ。将軍でランク九十二までいっていたし」
「九十二……!? そんな人間いるんだねえ……その人の血を受け継いでいるならアルは剣も上手そうだ」
「わ!?」
カーネリア母さんが後ろから俺を抱っこしてくれ、騎士達が移動するのを静かに見送る。そして最後に色の違う鎧を着た騎士が現れ、カーネリア母さんはその騎士に向かって手を振る。
「……!?」
「あれ?」
あの赤い鎧の騎士、二度見しなかったか?
なんかカーネリア母さんもしてやったって顔をしているけど、知り合いかな? フルフェイスの兜を被っているので表情までは伺えなかった。
「よし、それじゃ町へ入ろうか!」
「うん!」
門へ近づくと、門番が立ち塞がり声をかけてきた。ま、そう簡単に入れてはくれないよな。
「旅人か? 身分を証明できるものを――」
「いや、待て! ……おお、あなたはカーネリア様ではありませんか!」
「ええ、その通りよ。はい、身分証」
「はは、確かに。どうぞ」
「ありがとう。さ、このまま家に行こうか」
ウインクしながら抱っこしている俺に目を向けてきて俺は頷く。
元々住んでいたなら顔パスで通ったこと自体には驚かないが、門番の一人が『様』とつけていたことに興味を引いた。
そんな背後では――
「あの女性は何者ですか……?」
「お前は知らないか、あの人はこの町でトップクラスの魔法使いなんだ。離婚されてから町に近寄っていなかったんだが……二年か三年ぶりにお姿を見た」
「普通の主婦に見えるのに……お子さんもまだ小さいじゃないですか」
「それは俺にも分からない。あの方に子供はできな……いや、居なかったはず――」
――そんな話が繰り広げられていた。カーネリア母さんも聞こえていると思うが、涼しい顔で鼻唄交じりに進んでいく。評判はいいみたいだ。
さっきの騎士の反応といい、住みやすそうなのになんで森の中で住んでいたんだろうな……?




