04.部活紹介と逃げる僕 ― お礼チャンスゼロってなに!? ―(後編)
いらっしゃいませ、全力で歓迎します!
拙い物語ですが、ぜひ楽しんでいってください。
「いた! やっと見つけた! 澄野! そこ動くな!」
その言葉とともに、周囲の時間が制止する。そして湊も、びっくり顔で制止する。
「わりぃ、なんかさ、気が付いたらお前いないし、ちょいちょい目に入るんだけど、あっという間に違うところに行っちゃうから、もう探すの本当に大変だったわ……」
颯太は息をつきながら、少し笑って続けた。
「ていうか勝手に先行っちゃって悪かった。もういいかなとか思ったら、お前の泣きそうな顔が目に入ったから、やべぇって……おい? どうした?」
クスクス笑う湊が、
「えへへ。探してくれて、ありがと」
と初めて笑顔を見せた。
「なぁ、ダンス部って意外に人数多いんだな」
とダンスの紹介を聞きながら小声で失礼なことを言う颯太に、湊は小さく笑って、
「そうだね」
と答える。
(むしろ条件、飲んでもらいやすそうかな?)
「質問ある人」
という先輩の声に、おずおずと片手をあげる湊。
指名されると、
「あの、大会とか、人前で何かやるのは無しで、ダンスするためだけに入ってもいいですか?」
と、湊にしては大きな声で、はっきりと質問をした。
そのことに内心驚きながら、心の内で拍手する颯太が横でニコニコ顔なのにも気づかないまま、湊は真剣な様子。
先輩は、なにやら答えようとしたが、後ろにいた体格のいい生徒が割り込んで話し始めた。
「中には、どうしても人前でやるのが怖いとか、そういう人や、何かしら事情があってそういったものに出られない人がいることはわかってます。というか、うちは基本的にそういうのに出場するのは有志だけっていう決まりみたいなのがあってね。暗黙の了解、みたいなやつ。だから、目立ちたくない、でも踊りたいって人でも入ってくれて構わないよ」
そして、集まっている生徒たちを見渡してから、
「ただ、そういう人もいるって前提なので、無断で練習風景を撮影したりはやめてね。昔、それでトラブって活動停止したことあるから。そういうことしてる人見つけたら、即退部してもらうし、学校にも報告するよ」
と長々と説明してくれた。
どうやらこの人が部長っぽい、と思いつつ、
「ありがとうございました」
とお礼の言葉を忘れない。
その後、部費の話とかも一通り説明を聞き終えた湊は、颯太に一言、
「帰ったら、聞いてみる」
と真面目な顔で言った。
「親御さんの了承が得られるといいね」
と楽観的なことを言いつつ、
「金かからんみたいだし大丈夫だろう」
と思う颯太なのだった。
一方颯太はといえば、空手部の説明会でいきなり入部届を提出する、という猛者ぶりを発揮して、引っ込み思案の湊を困惑、驚愕させた。
か、考えないの!? という視線をものともせず、「君に決めた!」とばかりにペンを走らせる様は、まさにどっちが獲物かわからない。 空手部の先輩たちも引き気味の押しの強さだった。
颯太がふと気付くと、湊がじっと見つめている先があることに気付いた。
その視線の先を追うと、パルクール同好会。
そこで湊に視線を戻すと、みごとに目が合った。
「あ、いや。あれもちょっと面白そうだからやってみたいけど、お母さん、絶対許してくれないから。うん、いいんだ。無理なのわかってるから」
と、ちょっとうつむきながら湊は言う。
(それ、大丈夫じゃないやつだよなぁ)
と颯太は思いつつ、他所の家の事情に口出しもできないため、
「そっか」
の一言。それしか言えない。
ただ、パルクール同好会は湊の視線に気づいた様子。
向こうからすごい勢いで突進してくる男子生徒に、驚き、ひるむ湊は、最終的に颯太を盾にすることで難を逃れた。
そして盾にされた颯太は、後ろに隠れた湊に声をかけつつ、
「見てたの、こっちの後ろのやつですよ?」と自分は無関係アピール。
男子生徒もそこはわかってるようで、うんうんと大きく頷きながら、
「うちは同好会だからほかの部活と掛け持ちオッケー。人数増えても部室さえあればいいからってことで同好会のままやらせてもらってるんだよ。なので、もし気が向いたら訪ねてみて。「あ、うちがやってるのここね。チラシ渡しとくから」
と、慌ただしくその場を去っていった。
きょとんとする二人。
そこに後ろから空手部の先輩が声をかけてきた。
「あいつ、パルクール同好会が掛け持ちメンバーばかりでこういう時に人手足りないからって、部費使ってアルバイト募集かけてんだよね。あそこでチラシ配ってるやつが内から買収されて缶コーヒーと引き換えに雑用しに行ったお人好し。あの受付に座ってるやつはダンス部の部員だったはずだよ」
と丁寧にも教えてくれた。
二人が興味を持ったダンス部と空手部、それぞれの関係者がいるということで俄然興味を持った湊は、もらったチラシを見てみると……。
「字、きたなっ」
思わず吐き捨てるように言ってしまった。
これには覗き込んだ颯太も激しく同意せざるを得ない。
「なぜ誰かに代筆を頼まなかったんだ」と。
「そう、それ。あいつが必死に声かけまわってるのって、あいつの字が汚すぎて案内が読めなさすぎるせいだと思うんだよね。そこにさらにその汚い字のチラシ渡されて、渡された人が果たして入るんだろうか、という疑問が尽きないんだよ。面白いやつだろ?」
と空手部の先輩が訳知り顔で言う。
(それ、面白いんじゃなく、ただお馬鹿なだけなのでは?)
と秘かに思った湊は、決して悪くない。
颯太も同じことを考えていたらしく、二人して小さく吹き出してしまった。
楽しんでいただけましたでしょうか。
次回をお楽しみに。
~ 気に入っていただけたら、ぜひブクマ登録よろしくお願いします☆
また、何かしらポチッとするとかしてもらえると嬉しいです