届かないお礼 ― 君が隣にいる理由
いらっしゃいませ、全力で歓迎します!
拙い物語ですが、ぜひ楽しんでいってください。
湊が颯太にお礼を言おうとした、その直後だった。
複数の男子が急に颯太の周りに集まってきて、驚いた湊は大きく後ろにのけぞった。
(なに!? 何事!?)
慌てる湊と同様、颯太も想定外だったらしい。
「どうしたんだよ、皆して」
と苦笑する颯太に、男子の一人が言った。
「いや、隣の市から来たっていうからなんでだろうって思って」
(あ、それ僕も思った! ナイス、男子A!)
と心の中で拍手する湊。
「オレは、格闘技をするって聞いたから! かっこいいじゃん」
(ナイス! その話題もグッジョブだよ)
とまたも心の中で拍手する湊。
(て、違うじゃん!)
そう、湊は完全に出遅れてしまったのだった。 もう割り込む隙がないほどに、颯太包囲網はできあがっていた。
(お礼、言えないや……)
肩を落としてお手洗いに向かう湊。
給食の時間。
まだ席を移動して食べるほどには馴染んでいない教室で、皆静かにおしゃべりをしながら給食を食べていた。
湊もまた、一人黙々と食べていた……のだが、
「なぁ」
後ろに振り向いた颯太がパンにかぶりつきながら、湊に聞いた。
「昨日さ」
「え?」(昨日って入学式だよね?)
「う、うん、昨日、入学式、だよね」
(あ、思ったことしゃべっちゃった)
なぜか慌てる湊。
「昨日な、ほら、街道沿い歩いてたらさ、すげー気持ちよさそうに歌いながら自転車乗ってるやつ見たんだけど、あれ、澄野だったりした?」
颯太に言われた途端、赤面して「ゴン!」と音を立てて机に突っ伏す湊。
それを察していたのかなんなのか、颯太がすかさず給食のトレイをずらしたので給食は無事だった。
「……」
頭を抱えたまま、復活しない湊に、
「上手かったぞ、その、歌」
と、そっと給食のトレイを安全な位置に戻して、爆速で自分の給食の処理に戻る颯太。
こうして、湊は給食の時間もお昼休みも颯太にお礼ができないままに、教室から体育館へ移動することになった。
(体育館でやるとか、普通に寒いじゃん、これ。床に直に座るのかぁ)
と思っていたら、同じ文句があちこちから聞こえてきてちょっと嬉しかった湊である。
ボッチはちょっとした共感に嬉しくなることがあるのだ。 この度合いで初級ボッチか上級ボッチかがわかるとかわからないとか。
悲しくなりそうな話題だからやめておこう。
と湊は益体のないことを考えつつ、体育館の隅っこにぽすっと腰を下ろした。
そしてぼーっとすること暫し。
湊がふと気が付くと、隣に人の気配。
ていうかすぐ隣!?
とびっくりして横を見ると、触れそうな距離にいる颯太が湊を見ていた。
「ふぇ!?」(変な声出た!)
びっくりしてまともに声の出ない湊に、
「よっ」
「な、な」
「なんでここに、ってことなら、お前がひとりでここに座ってるのを見つけたから。一緒に聞こうぜ?」
「え? な? ど?」
動揺しすぎの湊に、颯太もさすがに苦笑せざるを得ない。
「どうして、てことなら、なんかさオレ、お前のこと見たことあんだよなぁ、てのが引っかかってさ。思い出すまで一緒に行動していいっしょ?」
「え、そ、む」
「無茶な、てそんな無茶じゃないって」
そして、周りにいた人たちは、なぜそれで会話が通じてるのか? としばらく頭をひねったという。
ブザーが鳴り、アナウンスが入り、部活紹介が開始された。
真面目な部活、おふざけが過ぎる部活、熱血すぎる部活、妙に冷めた部活……と様々ある中で、空手部の部活紹介では型が披露された。
「おー、かっけーな」
(だよねー)
と心の中で同意する湊。
そしてダンス部。
結構自由な部活らしい。妙に心惹かれる湊だったが、これは「ダメ」な気がする。
湊が難しい顔をしていると、颯太がどうしたのかと聞いてきた。
「あ……えっと?」
家庭の事情を話していいものか、悩む湊。
「言いづらいこと?」
「じゃなくて、」
つまり、ダンス部に興味あるけど、こういう部活は母親が嫌いだから多分反対されるかも。だからやめようかなって、と。
ちょっと泣きそうになりながら話す。
「部活動必須でどこかに入らないといけないんだし、とりあえず興味あるなら話だけでも聞きに行こうぜ?」
と湊を奮い立たせると、颯太に声をかける声。
「よかったら、うちの部活紹介、見ていきません? 面白いですよ?」
どう見ても三年生だ、と焦る湊と、
「え、どちらの部活なんですか?」
と落ち着いて返す颯太。
颯太が先輩と話しながら歩きだしてしまって、焦る湊。
転びそうになって視線を一瞬だけ颯太から外し、また元に戻したときには、一団の人だかりが目の前に……。
(これ、デジャブ?)
と肩を落として、この向こうだろうなぁ、と呆然としていると、こちらに向かってくる行列が視界に入り、接触を避けたい一心で人がいないほう、人がいないほうへと移動を始めてしまう。
もう止まってる隙がない。というか、誰かしら近づいてくる。
と焦る湊だが、それも当たり前。部活紹介なのだから、一年生部員を獲得したい上級生たちが獲物である一年生に群がらないわけがない、というわけで。
それに気づかない湊は、ただひたすらに涙目になりながら逃げ続けるのだった。
楽しんでいただけましたでしょうか。
次回をお楽しみに。
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