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春から始まる季節に、君がいた。小さな心の成長の物語。  作者: リトル
第一章:春と始まり
2/10

02.一年A組、最初のピンチ

いらっしゃいませ、全力で歓迎します!

拙い物語ですが、ぜひ楽しんでいってください。


朝。 目覚ましが鳴る前に湊は目が覚めた。

外はまだ薄暗く、カーテンの隙間から差し込む光が肌寒さを感じさせる。

まだ、もう少し。 布団の中でじっとしながら生活音を探す。

案の定、両親はもう起きているらしい。


ちょっと冷える空気の中、ベッドから起き上がった湊は、パジャマを脱いで制服に着替えた。

やはりしっくりこない。

ちょっと、いや、だいぶ大きな制服は、余裕のあるサイズであるが故の無駄な布地が動きをかえって阻害する。

眉間にしわが寄る。


ネクタイは……あ、と伸ばしかけていた手を止めた。

確か、入学式とか式典の時だけでいい、と書いてあったな、と湊は生徒手帳を見直した。

あった、やっぱりそうだ、とネクタイをハンガーに戻した。

今日は自己紹介、だっけ? いろんな説明があって、それから給食。

今日の予定を確認していたら、母親に呼ばれた。

湊はずいぶんと時間を無駄にしてしまったらしい。


彼は慌ててバッグの中身をチェックすると、リビングに急いだ。

湊は、靴が自由でよかった、と改めて思いながらお気に入りのニューバランスのスニーカーを履いた。

やっぱりこれだよね、と満足げな彼は、重い気分を振り切るように、扉を開いた。

一瞬まぶしさに目を細めるも、すぐに「行ってきます」と家を出る。


音を立てずに歩く。

わざとそうしているわけではなく、ついそういう歩き方になってしまうのだ。

湊にとってそれはもう癖といって差し支えなかった。

昨日、大声で走り抜けた街道を信号にたどり着いた。

今日は歩きだし、通勤通学の人たちがたくさんいるし、さすがに湊も歌ったりはしない。

学校が近づくにつれ、できるだけ目線を下げて歩く。

十メートル、いや、五メートル先の地面を見ながら。


校門が見えてきた。 人の声がたくさん聞こえる。

心臓が高鳴る。

新しい中学。 未知の校舎。 知らない生徒たち。

知らない先生たち。

知らない人たち。

知らない空気。

頑張って歩く。

昨日、出てきたばかりの昇降口を目指して。


で、湊は早速困っていた。

盛大に困っていた。

校門をくぐるのはこれで二回目。

いや、昨日往復でくぐってるから正確には三回目。

そして、下駄箱は昨日、教えてもらったんだけど、どこだろう?

湊は冷や汗をかいていた。

足元の、樹脂製のすのこばかり記憶にある。


やばいな、ちゃんと見てなかったんだよね、たぶん…と冷静に分析してみる。

それでも状況は変わらない。

助けを求めるように右に左にと視線を巡らしていた。

すると、

「一年生はこの先だよ。何組?」

救いの手が差し伸べられた! と大げさに言いたくなるほど、湊は感激していた。

「え、A組、で、す」

と湊がどもりながら答えても、その先輩は、

「それなら、その一番左だよ」

と丁寧に教えてくれたのだった。

なお、その後湊は、教えてくれた先輩に盛大に頭を下げて、急いで教えられた下駄箱へ向かった。


あわや遅刻か、というほどでもないけれど、なんとか記憶を頼りに一年A組のプレートを見つけて、慌ただしく皆が教室に駆け込むように入るのに乗じて教室に入ったものの、またもや湊はピンチに陥っていた。

自分の座席を、とんと思い出せないらしい。

ほとんど涙目である。

そこで、クラスの皆が黒板を見に行っては席に着く作業を繰り返していることに気付いた。

(あ、座席表)

湊は慌てて黒板にマグネットで固定された座席表で自分の席を確認すると、目的の席に急いだ。


机に荷物を置いて、ストン、と椅子に座りようやく人心地ついたところで、湊は視線を感じて前の席を見た。

(誰?)

焦る湊に対し、前の席の少年は至って冷静に、

「オレ、杜山颯太、よろしく」

とニカっと笑う颯太。

「ぼ、僕は、澄野湊。こ、こちらこそ、よろしく」

と、どもりつつ答える湊。

颯太は湊をじっと見て、首をかしげて、また逆に首をかしげてから、

「ところで」

と湊に問う。

「え、なに?」

と湊。

「オレら、どっかであったことない?」

と真面目な顔で言う颯太。

(ナンパか、こいつは)

と周りの皆が思ったという。

「え?」

と一人混乱して慌てている湊以外は。


その直後、教室内に大人の男性の大きな声が響く。

「ほら、席について、もうチャイムなってます」

どうやら、担任の先生が来たらしい。

「昨日自己紹介はしましたが、改めて、担任の坂下です。

漢字はこう書きます。」

黒板に「坂下」と書く。

くすっと笑いが起きる教室内。

なぜなら、坂下の文字が大きいからだ。

しかし、坂下は至って真面目に話を始めた。


「さて、席順は昨日くじ引きで決めたわけですが。

一応もう一度聞きますが、黒板の文字が見えない人いますか? 

黒板の隅の、あそこですね、日付が小さくて読めないという人いたら今のうちに言ってください」

と坂下が指示したのは、なるほど、黒板の向かって右端に書いてある本日の日付と曜日、日直当番の欄。

数人の生徒が手を挙げ、何人か席を交換したようだ。

ようだ、というのは、その間、湊はずっと机を見たまま冷や汗を流しながら固まっていたから。


「では、次は皆の自己紹介の時間です。

私がこのクラスの担任になります。

一年間皆さんに社会科を教えることになります。

よろしくお願いします。

まだ先生になって三年目ですが年が近い分、皆とうまくやれたらと思っています」

坂下は周囲を見渡しながら、

「それでは……廊下側の列、先頭から順に自己紹介をしてください。

名前、出身校、趣味、言いたいことがあれば付け加えても構いません。

それでは、相沢さんですね、よろしくお願いします」

坂下は椅子を引っ張ってきて座った。


「えっと、あ、立ったほうがいいですか? 私は相沢奈津美です。

うーん、小学校は本町小学校出身、趣味は陸上、かな。以上、よろしくお願いします、でいいです?」

と席に着いた。

「あー、おれ、相田修一、南小学校出身。趣味はバスケ。以上、よろしく」

と相田も席に着いた。

(やばい。何言えばいいの?)

湊の頭は真っ白になっていた。


「オレは杜山颯太。隣町の東町小学校から来たんだけど、多分オレだけだよな、

ここから来てるやつ。中学からこっちの市に引っ越してきたんだ。家の都合ってやつ。

で、趣味、趣味は色々あるけど中学生になったことだし格闘技やってみたいと思ってる。

なので、今後格闘技が趣味になる予定。よろしく」

と大きな声で言った後に、ぺこりと軽く頭を下げて颯太は着席した。

シーン。 静まり返る室内。

「ん? 次は誰ですか?」

と坂下。


「おい、澄野、お前の番」

と後ろを振り返った颯太に言われて、ハッとする湊。

「あ、は、はい。え、えっと。あの、その」

とパニクる湊に、

「自己紹介、名前と、小学校名と、趣味とか言えばいいんだって」

と助け舟を出す颯太。

「えっと。澄野湊、です。

本町小学校です。えっと。しゅ、趣味は……自転車で走ったりとか、です。

よ、よろしくお願いします」

と言い終えたとたんに、力が抜けたようにストンと座った。

(お、終わった……)

がっくりと肩を落として座る湊に、前の席の颯太がグッドサインをしてきて、

(あれのどこがグーッだよぉー)

と、へらっと返すのが精いっぱいの湊だった。





楽しんでいただけましたでしょうか。

次回をお楽しみに。


~ 気に入っていただけたら、ぜひブクマ登録よろしくお願いします☆

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