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春から始まる季節に、君がいた。小さな心の成長の物語。  作者: リトル
第一章:春と始まり
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01.入学式の日、白線の上で・湊視点

来訪、全力で歓迎します!

拙い物語ですが、ぜひ楽しんでいってください。


どこまでも続いて見える道路の白線。 その上を、踏み外さないように、慎重に歩く。

一歩ずつ。しっかりと。


今日は、新品のブレザーの袖口から指先がちょっと覗いていて、ちょっと不格好だ。

手持ち無沙汰の指で無意識に袖口の布を握り込んで、くしゃっとさせる。

冬場のスタジャンを着ていた時の癖、まだ抜けてない。

お気に入りのニューバランスのスニーカー。

ちょっと汚れて擦り切れてきてるけど、それでもお気に入り。


店先で「これがいい」っていうのも、すごく勇気を振り絞ったんだっけ。

元々医療用品メーカーだから足にいいんだよ、って一生懸命説明したんだよね。

アディダスやナイキとかプーマが欲しいって言ったら、絶対買ってくれなかったと思う。

歩くための靴、これを強調したのがよかった。

これは作戦勝ちってやつだ。


入学式が終わって、オリエンテーションがあって、それから今でしょ?

だからすごく中途半端な時間なんだ。

だからなのか、ちょっといつもより町が静かな気がする。

いつもうるさいお母さんがいないおかげかも。

自分の出番が終わったら、さっさと帰っちゃったし。

ほかの人のお母さんは待っててくれてる人も多いのにね。

寂しくないよ。なんかこれが普通だから。


こうやって、朝は母親と歩いた道を、今度は一人で歩いて帰る。

そういえば、初めて歩く道だなぁ。

迷子になるわけないんだけど。知ってる建物も見えてるし。

同じ方向の人が見つからなかったし、一人で帰る。 だ

から、一人遊びしながら歩く。

白線の上。そこから落ちないように。

落ちたら……アウトだから。

一歩、また一歩。しっかりと確実に踏み出す。


駐車してる車発見。うーん、通れない、これは。

「ターイム!」

思いっきりジャンプした気になって、車の周りを歩きながら……ちらっと車の中を覗き見したりして。

この車、外車だったのか。左ハンドルだ。

よく知らないからわからないや。

ついでに周りの草木も観察。

あ、あんなとこにタンポポ咲いてる。

あ、こっちの木も知ってるやつ。

そうか、この道も、小学校までの道とあんまし変わんないのかな。

ちょっと安心。


さてと、白線の上に復帰。再開だよ。

一歩、また一歩。ここは交差点で切れてるよね。

当然、ターイム!

車が来たら脇に寄らないと轢かれちゃうから、ここもタイム!

慌てて脇に寄る。

クラス分けで一緒になった人たちに、同じ小学校で仲良かった子たちがいなかったから。

なんだか一人になっちゃった気分。

先生待ってるときとか、皆の笑い声に交じれなかったのがちょっと堪えるよね。

初対面同士の子たちに交じれば、僕も誰かとお話しできたと思うんだけど、できなかった。


昔から、考えてから話す癖があるせいか、話すのが遅いってよく言われてた。

先生にまで言われてさ。

頭弱い子って思われてたみたい。

ちゃんと頭の中では考えてるんだよ?

言葉にするのがゆっくりなだけで。

でも、それでもいいって言ってくれる友達は少なくて。

だから、今一人なのかな、僕。

これからも一人、なのかな。


家の前に着いた。

ポケットからカギを取り出して、ガチャリ。

チャイム? 鳴らすと怒られるんだよ?

え? 怒られないの? いいなぁ、君んち。

……あ、これは僕が勝手に話しかけてるだけだから、気にしないで。

お母さん、家事してるみたい。

いちいち出てこないのもうちの「でふぉると」っていうやつらしいよ。

ちらっとこっちはみるけど。


靴を脱いで、揃えて、そっと廊下を歩いて自分の部屋に行った。

姿見は絶対見ない。

見ても子供っぽいちっこいのが、ぶかぶかの制服に着られてる滑稽な姿が映るだけだから。

だから、ポイポイっとスウェットとジーンズに着替えてパーカーを羽織って、野球帽を被ったら、再びお気に入りのニューバランスのスニーカーを履いて出陣だ!

玄関の外に止めてある自転車。

二年前に買ってもらったやつ。

これは結構気に入ってる。


本当は、ローラースケートに乗りたいんだけどね。

去年壊れちゃったから。

自宅から少し離れたところまで走ったら、幹線道路に出るんだよ。

そうすると、僕の時間の、始まり始まり。

小学校の頃にちょっとだけ合唱団で習った腹式呼吸、めいっぱい息を吸って、ペダルを思いっきり漕ぎながらの絶唱!

うん、絶唱ってほどでもないんだけど。

これでもかってくらいに大声で歌うのは気持ちがいいんだ。


運転手さんとたまに目が合うけど、気にしない。

だって、渋滞してる道路じゃ、全力で漕いでるこっちのほうが速いからね。

もちろん、日によっては向こうのほうが速い。

でも同じ速度っていうのは結構ないもので、歌ってても気に留められることもない。

通行人は……さっと通り過ぎられないときは黙るしかないけれど、それでもそういう機会はそれほど多くない。

全力走行で全力歌唱、なんてね、そう長くは続かない。

息が続かなくなって、へばって止まったらその日はおしまい。


でも、それで満足できるんだから不思議だよね。

やっぱり何かを思いっきりやってると気分が晴れるってやつなのかな?


これがローラースケートでできたら最高なんだけど。

あれがまだ元気だったら、きっと毎日やってたと思う。

家でテレビをあまり見せてもらえないから、歌える曲のレパートリーがすごく少ないのが目下の悩み。

授業で習った曲や、親が見てるテレビのCMとかドラマで流れた曲、ねだって何度か見ることができたアニメの主題歌だったり。

友達と観に行った映画の主題歌も頑張って覚えようとはした。

けど、フルコーラスを覚えるとかは無理だった。

仕方ないよね、一回見ただけで覚えたらそれ、すごい才能だよ。


でも僕は、覚えてなくても歌うんだ。

だって、それが僕の時間だから。




楽しんでいただけましたでしょうか。

次回をお楽しみに。


~ 気に入っていただけたら、ぜひブクマ登録よろしくお願いします☆

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