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聖女の中身は×××  作者: 藤乃病


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11/11

11.

 一年……。月日が経つのは早いわね。

 最強の聖女リリシア様の身体に少年が入って来て今日で一年。随分と長い月日が経ったものだわ。こうして少年の背後霊のように付いて行くのも悲しいかな慣れてしまったもの。

 そしてもう一つ悲しいことに少年は努力家だったわ。来る日も来る日も訓練に明け暮れ、あの厳しい鬼教官のオーストに歯を食いしばって付いて行き、既に幾らかの戦果を挙げているの。まあこれは聖女の力ありきという面はあるけれど。

 瘴気の森の探検以降、少年は多少なりとも聖女の力を使えるようになった。持っている剣や身に付けている鎧は常に聖女の力で覆われ魔法は一切通じないし、物理的な攻撃も多少は軽減されるみたいよ。例えば石をぶつけられそうになった時に少年に当たる直前で急に減速するらしいわ。聖女の力によって攻撃を阻もうとしている結果らしいわよ、便利ね。

 そんなこんなで少年が魔物を倒したこともあるし騎士たちと力を合わせ瘴気の湧き出る地へ赴き周囲一帯の瘴気を浄化した事もあるわ。今ならオーストと力を合わせれば悪魔の討伐だって可能かもね。

 ……ま、そんな日々もそろそろ終わりだけどね。




 今日はオースト、エコー共々王様に呼び出されたわ。ヴァゲスト様も最近は前より胃痛が収まって来たかしらね。少年が多少は聖女としての力を振るい始めたわけだし、幾つかは問題が片付いた、或いはそれなりに先延ばしに出来るってものでしょう?

(王様だ……、ちょっと緊張するな)

 少年は御前にて隣のオーストに倣い跪いている。王様とはろくに会話もしていないからね、最初に会った時の印象がまだ抜けてないみたい。中々高圧的な態度で子供にはちょっと怖いわよねぇ。

「頭を上げよ」

 その声に三人が顔を上げる。

(……なんだか、前に見た時よりも優しそうに見える……)

 あの時は王様も緊張していたのよ。国の一大時だったからね。今もその事態を脱したとは言い難いけど、まぁ小康状態にはあるんじゃない? それに少年が協力的なのは王様にとってもありがたい事でしょうしね。

「リリシア……、と呼んで良いのだったな」

「……あ、はい。えっと、そういうことになってます」

「そうか。リリシアよ、貴殿による我が国への貢献は計り知れんものだ。悪魔どもの卑劣な策により思いもかけずその身体の主となり、結果その双肩にこの国の命運を背負う身となったにも関わらず……、貴殿は常に我々の為にと、行動してくれた。最近は魔物の討伐や瘴気の浄化に力を尽くしていることも聞いておる」

 ……想像以上に素直に感謝しているのね。少年からは分からない裏では余程色々な事があったのでしょうね。ざっと考えるだけでも民衆の不満や他国との関係、城内でもどんな工作が為されてたか考えるだけでも面倒なぐらいでしょう。

 ま、それだけ最強の聖女リリシア様が影響力を持っているって証拠ね!

「リリシアよ、我々は貴殿の為にどのようにして報いれば良いかな?」

 ほら少年、聞かれてるわよ。

(……ど、どのようにしてむくいればいいかな?)

 ……あ、もしかして言葉の意味が分かって無いの? そういや忘れがちだけどこの子十一歳の子供……、一年経ったから十二かしら? とにかく子供だったわ。

「リリシア様。ヴァゲスト王はあなたにとても感謝していると、もし何かしてほしい事や何か欲しいものがあれば可能な限り用意すると仰っているわ」

「……あ、はい」 

 エコー、あなた気が利くじゃない。王様ったら、それありきであんな難しい言葉使ったんでしょ。子供の前なんだから無理に威厳たっぷりに振舞わなくてもいいのにねぇ。

「どうだ?」

 ほら少年。好きな物頼みなさいよ。私ならそうねぇ、周辺諸国から美味しい物全部持って来させて今持っているドレスもちょっと飽きたから新作をたくさん作らせてそういや部屋一面ベッドにしたら気持ちいいか試してみたいと思ってたところでついでに玉座も三日ぐらい譲ってもらおうかしら。

 うーん、夢が広がるわ。

「……僕は、その……。今でも十分です」

「何?」

「みんなに必要とされるのは嬉しいし、みんながそれで喜んでくれるのが嬉しいです。だから、その、これからもここにいさせてもらえたらな……って」

 ちょっと―、そんな欲の無い……。見て御覧なさいよ王様のあの顔。

(……あ、怒ってる、かも……)

 険しい顔で少年の事睨んでるじゃない。一国の王に恥をかかせるなんて全く、少年の聖女リリシア伝説もここまでみたいねぇ。これからは

「ふっ」

 ……王様が笑った?

「どうやら少々事を急ぎ過ぎたようだ。リリシアよ、貴殿がここにいて良いかなど問う必要は無い。寧ろこちらから頼みたいぐらいだ」

「本当ですか!?」

「ああ。もし不便があればエコーかオーストに伝えよ。我々は……、ウィロンド王国は貴殿の力となろう」

「……ありがとうございます!」

 ……えぇ。そんな、馬鹿な。あの王様をも味方にしたというの? 少年、あなた本当に変な求心力を持ってるのね。宗教家にでもなった方が……、いっそウィロンド王国を宗教国家に変えましょうか。

 はぁ……、なんだかタイミング逃しちゃったわね。どうしましょ。

「今日は下がって良い。また貴殿とはぜひ良い関係を続け」

 ドンドンドン!

 ん?

 あ、王様の返事も待たずに扉が開いた。懲罰が怖くないの~?

「王様! 大変です! 外に悪魔の軍勢が!」

「何……?」

「数はどのぐらいだ」

 悪魔の軍勢ねぇ。十とかかしら?

「……数え切れません」

 はぁ? 何それ、今まで一番大きな戦いでも百とかでしょ。大体の数ぐらいわかるでしょ。




 ええ、えぇ、私が悪かったわ。大体の数ぐらいわかるとか言って悪かったわよ。あんなの数える気にもならないわよねぇ。

「真っ黒……」

「あれ全部悪魔や魔物って事?」

「……はい」

 オーストや王様は言葉も失ってる。

 王様との謁見室を出て外の見える窓まで来れば状況はよーくわかったわ。見える景色が一変しているんだもの。遠くに見えた森や山が黒い靄のようなもので全て見えなくなってるのよ。大地や空を覆うそれらが全て悪魔の軍勢ってわけ。ていうかあんなにいたの? あいつらって。

「住民の避難は」

「既に始めています……。どこまで意味があるかはわかりませんが」

「周辺国への報せは」

「それも既に」

「そうか……。なら、良い」

 ……さしもの王様も諦めムードね。まあはっきり言ってあの規模の悪魔や魔物の大軍だなんて世界中の国が一致団結しないとどうにもならない規模よ。というかそれでもどうにか出来るのかしら? まあどちらにせよ、ウィロンド王国は決して小さな国ではないけれど最強の聖女リリシア様を欠いた状態では抗うことも出来ずに滅びるのみでしょうね。

「ヴァゲスト様もお逃げください」

「そうだな。……全軍は我と共に他国への落ち延び、体制を整えた後に悪魔共との決戦に挑む。これが最良だろう」

 流石に冷静ね。この国が滅びるのを黙って見ている事しか出来ないとちゃんとわかっているじゃない。今のあなた達なら国民も何かも見捨ててそうするのが私も最良の策だと思うわ。他国と連携して迎撃の準備さえ整えられれば多少は戦いになるかもしれないでしょ?

(……これからどうなるんだろう)

 少年、不安に思うこともあるでしょうけどあまり心配しなくていいわよ。大丈夫だから。

「行くぞ」

 身を翻して歩き出す王様、その後を皆が付いて行く中でただ一人。

「オースト、どうした?」

 オーストだけがその場に留まっていた。……ちょっと、今はあなたの見せ場じゃないんだけど。

「ヴァゲスト様。申し訳ありません、私はここに残ります」

 ……ちょっと意外。いや、そうでも無いのかしら。

「それは許さん。お前は貴重な戦力だ、付いて来い」

「父は人々を守る為に命を懸けて悪魔に立ち向かいました。私が騎士になったのはそんな父の姿を忘れることが出来なかったからでもあります。守るべき民を見捨てて逃げることは出来ません」

 元々オーストは弱者を助ける為に騎士になった様なものだもの。人々に多少の痛みを耐えることぐらいは強いても犠牲になることまでは許容できないのかもしれないわね。

「状況が違う!」

 とはいえ流石に王様の言うとおりじゃない? 今あなた一人が残って何が出来るのよ。

「理解はしています。ですが……」

「エコー」

 王様の言葉にエコーは黙って魔法を撃つ準備を始める。気絶させてでも連れて行くつもりみたいね。エコーの魔法でオーストを捉えられるかは微妙な所だけど。

 ん?

「何のつもりだ」

 あら、少年、危ないわよ。

 オーストとエコーの間に立った少年は両手を広げてまるであの最強の騎士様を守ろうとしているみたいね。

「リリシア様、そこをどいてください」

「……僕は、その……、オーストさんに賛成と言うか……」

「……お前もか」

「悪魔が来て、みんなが死んじゃうかもしれなくて、だとしたら、その、助けたい、です……」

「不可能だ。たとえこの国を見捨ててでも人類全体で抗うべき事態なのだ」

 こればっかりは王様が正しいわよ。少年、あなたが幼くてまだ何も理解できないのは仕方ないけれど、ここは諦めた方が身の為よ?

「リリシア様。外を改めてご覧ください」

 窓の外、遠くの景色を覆う黒い靄。

「あれが全て悪魔です。悪魔の恐ろしさは覚えているでしょう? たとえあなたに魔法が通じずとも、その肉体だけでも恐るべき力を持っています。気が付いた時には囲まれ全身を悪魔の爪が貫いているかもしれません。……いえ、そうなるでしょう」

 うーん、否定できない。エコーの言い分も全くもって正しいわ。正論よ正論。

「リリシア様、命は捨てる為にある物ではありません。恐怖を感じているのならわかるはずです」

 ……少年の足は震えている。そうね、少年だってわかってるわよね。悪魔を間近で見たことがあるんだもの、その恐ろしさも、命を失うかもしれない恐怖も、何だったら死ぬって事を一番知っているのはあなただものねぇ。一度は死んだ身だもの、恐ろしくないはずないわ。

「……僕は」

「さ、リリシア様、こちらへ」

 差し伸べられたエコーの手、少年の手はそれを掴もうとゆっくり持ち上がり。

(……僕は)

 しかしその手を掴みはしない。少年はただ握り拳を作る。

「怖い、のは本当に、怖い、ですけど……」

 彼は歯を食いしばりその恐怖を乗り越える。……少年が皆を惹き付けるのはこういった強さを持っているからなのかもしれないわね。

「僕は、みんながその怖さを感じている、と、思うから、みんなを助けたい」

 ……全く、大したもんだわ。

「……だが、その力を持たずに何を言ったところでただの理想論に過ぎん」

 ええそうね。全くもってその通り。

 だからそろそろ私の出番ってわけ。

「要するに力を持っていれば良いって事でしょう?」

 私の言葉に誰もが驚きを隠せない様子。ま、さっきまでと同じ声なのに明らかに別人だものね。心中お察しするわ。

(え? あれ? 何で、あれ?)

 少年、あなたはちょっと休んでなさい。

(休んでって? ど、どういうこと?)

 説明は後よ。あなたは十分頑張ったから今は休憩って事。

(う、うん……)

「お久しぶりね王様。こんな状況だもの、心中お察しするわ。そしてオースト! エコー! あなた達の私への不愉快な言葉の数々! 私ははっきりと覚えているわよ。……まぁ、その裁きは後にしておいてあげるわ」

 あらみんなして露骨に嫌そうな顔。不思議ねぇ、絶体絶命のピンチに駆け付けた救世主なのに。

「お前は……、本物のリリシアか!」

「そうよっ! 私こそが皆が敬いその美貌を称え奉仕したいと願う、誰もが認める最強の聖女、リリシア様よ!」

 さぁ、ここからは私の時間ね。




 さてさて優雅にお茶の時間よ。

「紅茶はまだかしら?」

 ドンッ。

 あらあら、オーストが乱暴に置くものだからちょっと零れちゃったじゃない。

「俺達は遊んでいる暇は無いのだが」

「あら、危機にあっても冷静に普段通りに動くのが騎士の役目じゃないの?」

「それはこの街の目と鼻の先に悪魔の軍勢が迫っている状況で呑気に紅茶を飲んでも良いと言う意味では無い」

「そうは言ってもねぇ……。私にとっては一年ぶりの食事なのよ? ゆっくりさせて欲しいものだわ」

 オーストの隣では王様が渋い顔をしている。

「リリシアよ。その間にどれだけの民が犠牲になるか……、それともその力で以てしてもこの状況はどうにもならないのか?」

「ヴァゲスト様に置かれましては私の力をお忘れかしらぁ?」

 全く、たった一年の間に随分と記憶が薄れてしまったようね。適当に証明してやってもいいのだけれど……、久しぶりの紅茶やお菓子よりも優先すべきとは思えないわ。

(あ、あの……、僕からも、お願いします)

 少年まで私の事を急かすのね……。

 全く、こいつらはどいつもこいつも。

「仕方ないわね。本当ならクッキーの一つも摘んでから行きたい所だったけれど」

 紅茶を一息に飲み干す。うーん、久しぶりに飲んだけどちょっと口に合わないわね。次は別の茶葉を用意するように言っておきましょうか。

「みんながうるさいからあの不躾な悪魔共に挨拶しに行きましょうか」

 この場にはいるのはオーストと王様だけ、ちょっと見物客が少ない気はするけど仕方ないわね。

 少年、聖女の力の使い方を教えてあげるわ。

(……光が部屋中に?)

「むっ」

「何をする気だ!」

「まさかあんな遠くまで歩いて行くつもりじゃないでしょ?」

 光がオーストと王様を包み込み宙に浮かせる。そのまま扉を抜けて外へ……、面倒だし壁を砕いて行けばいいわね。当然私もその後を。

「おっと」

 廊下にはクッキーを持って来たエコーが。

「ナイスタイミングね」

「うわっ!」

 エコーが光に包まれ宙を浮く。そして私の目の前ではオーストと王様が壁に向かって突っ込んだ。

 ドッカーン!

(壁が……)

「あはははははは!」

「ヴァゲスト様、無事ですか!?」

「……また修繕費が」

 クッキーより簡単に砕け散った城壁を抜けて私たちは空を飛ぶ。城下をこんな風に見下ろすのはいつぶりかしら。わざわざ外出たりしないしねぇ。

 おっと。忘れるところだった。

「エコー、それ寄越しなさい」

「……あ、はい」

 これは、アーモンドクッキーね。紅茶を選んだやつより良いセンスだわ。結構好きなのよ。

「……リリシア様、なぜ空を?」

「悪魔にご挨拶よ。折角訪ねて来てくれたんだからお出迎えぐらいしないとね」

「……冗談でしょ」

 何をそんなに不安がってるのかしら。全く、ここにいるのが誰か忘れたのかしらね。




 さーて、ようやく辿り着いたわ、城下の外。

「あらあら、思ったより大勢の観客がいるじゃない!」

 意外や意外、門の前には大勢の騎士がまだ残ってたわ。もしかして悪魔たちと戦う気だったのかしら?

「もしかして見せ場奪っちゃったかしら?」

「ヴァゲスト王、オースト隊長も! これは一体?」

「……察しろ」

 何でオーストは疲れてるのかしらね。まあ仮に私のせいだったとしてもそれはあなたがこの最強の聖女リリシア様に数々の暴言を吐いたせいだという事を忘れない方がいいわ。

「リリシアよ。こんな前線に来てどうするつもりだ?」

「王様ったらもう少し落ち着いたらどうかしら? 美味しいクッキーもあるわよ」

「……我々は未だ危機的状況にある、違うか? 悪魔はもうすぐそこに迫っている」

「それは……、半分はその通りね」

 黒い稲妻が空の半分を覆った。続けて空高くで幾つもの爆発が起こる。

「……何だあれは?」

 その光景は騎士たちを困惑させるに足るものだったようね。まあ私もあんな光景は初めて見るわ。

 稲妻も、爆発も、他の何もかもも、まるで空中に見えない壁があるかのようにそこを超えられない。

「……リリシア、あれは?」

「悪魔共がすぐそこまで来てるってのは間違ってないわ。でもね、あなた達はまだ危機が続いていると思っているみたいだけど、それって勘違いよ」

 悪魔が次々と姿を現し、そして見えない壁にぶつかったと思うとその触れた部分が消滅していく。

「危機なんてもう終わってるのよ」

 さぁて、と。虐殺を始めましょうか。




「何だ、何が起こった?」

「わからん。魔法は弾かれたし先を行く連中が消えたぞ」

「どうなってる? 聖女はいないのだろう?」

「リリシアの肉体は生きていて徐々に聖女の力を使えるようになっているとあっただろう」

「だがあんな力は無いはずだ」

「ええい! とにかく撃て! 仮に聖女の力だとしてもこちらは一万の軍勢だ! 必ず勝てる、悪魔王様たちが我々にくれたチャンスを無駄にする気か! 撃て、撃てぇ!」




 ふうん、結構悪魔って賑やかなのね。

「今の声は?」

「悪魔の声よ。そういうのがあった方が臨場感が出て良いでしょう?」

 そんな私の言葉を掻き消すように放たれた魔法が私の作った結界にぶつかって大音量を奏でる。

「ちょっとうるさいわね」

 壁に聖女の力を一つまみ、と。……うん、漏れる音がだいぶ減ったわ。このぐらいならあんまり気にならないし雰囲気出て良いわね。

「……つまり、お前は出て来た瞬間には既に街の周囲に結界を張っていたという事か?」

「オースト、それは合ってるけどあなたこの最強の聖女リリシア様に対してお前ってどういう事かしら? もっと適切な呼び方があるんじゃない?」

「よくわからないがこの一年ずっと俺達の話を聞いていたんだろう? なら今更だ」

 この野郎、絶対後で泣かせてやるわ。

「リリシア様、あの程の魔法を受けても大丈夫なのでしょうか? 正直私たちが使えるような魔法とは威力が違い過ぎて冷や汗が止まらないほどなのですが……」

「エコーあなたは中々分かってるじゃない。そうやって相手を敬う気持ちが大事よね」

「はぁ」

「でも私の力を甘く見過ぎよ」

(そうなんですか?)

 そうなのよ。

 全く、どいつもこいつも私の事を舐めているわ。

「忘れたのかしら。私は最強の聖女リリシア様よ?」




「駄目だ、全然通じてないぞ」

「全員、力を貸せ。私がやる」

 全ての悪魔がその言葉を聞き無言で力をその一体の悪魔に送る。

「天を覆う暗雲よ、忌み嫌われし荒天よ、黒き魂と共にその恨み晴らさん」

 その身体中から漂う瘴気は見るだけで人々に恐怖をもたらすだろう。その力を全て魔法へと変えていく。

「街ごと消し飛べ!」

 黒い閃光、と呼ぶにはあまりにも大きな光が視界を覆う。




 一際巨大な黒い光が空の半分を覆う。連中が協力して放った魔法なんだけど、ま、期待外れね。それが覆ったのは空の半分、要するに私の結界を超えることは出来なかったんだから。ちょっとぐらいピンチを演出して見たかったんだけどねぇ。

「そろそろ飽きて来たし終わりにしましょうか」

 ……うん、誰も異論は無いみたいね。終わらせましょう。

「なんか光ったぞ」

「さあ、悪魔共、畏れ慄き私を敬え」

 光の壁が徐々に動き始める。逃げ出そうとしてももう遅い。というかとっくにあれらの全方位を囲ってるんだけどね。

「なんだこれは!」

「光の壁が迫って来るぞ!」

「どけ、くそ!」

「あ、あっちからも」

「上だ! 上から」

「駄目だ! こっちも囲まれてる!」

 うーん、中々悲痛な叫びが聞こえて来るじゃない。

 さーて、そろそろ。

「ひっ、あ、ああああぁ!」

「ま、待て、来るなああああぁ!」

 うんうん。良い悲鳴ね。

「おい、あの声を消せ」

「なぜかしら? 悪魔の断末魔なんて面白いじゃない」

「不愉快だ」

「私に意見できる立場とでも思ってる?」

(……あの)

 ……ちっ。

 静かになった空間にオーストが驚きと困惑の視線を向けて来る。

「……素直だな」

「言っとくけどあなたの為なんかじゃ無いわよ!」

 つまらないわね、さっさと終わらせましょう。

 総勢いくらいたのか知らないけど光の壁が止まることは無く悪魔どもはそのほとんどが消滅してしまいましたとさ。

 というわけでほぼほぼ何もいない道を私たちは行く、ってね。

「き、貴様は!」

「あーら、しぶといゴキブリが一匹残っちゃったわねぇ」

 道端に落ちてるその頭を踏みつける。いやぁ、良い気分! 今までは部屋の中から適当に悪魔を消し飛ばしてたけど直接来てみるのも悪くないじゃない!

「……首だけ残った悪魔、だな」

「……あれが持ってる力は首だけになっても私なんかじゃ比較にならないんだけど」

 オーストとエコーは顔面蒼白って感じでこのゴキブリを見つめてる。

「あなた達こんなのに怯えてるの? 全く、やっぱり私がいないと駄目ねぇ」

 ま、確かにさっきのを生き残ってる辺り悪魔の中では力があったんでしょうね。いやぁ適当に一匹残らず消し去るつもりだったわけだけど、残ってくれて良かったわ。

「サッカー知ってる? あれやりましょうよ」

「……おふざけはそこまでにしてくれ」

 何よ、ノリ悪いわね。

「ふざけるな!」

 おっと、足の下から声がしたわ。

「ふざけて無いわよ? 何か扱いに不満でもあるの?」

「なぜ貴様がここにいる! 悪魔王様たちの呪いが掛かっているはずだ!」

「悪魔王? ああ、そいつらが私を封印しやがったってわけね。全く、一年も出て来れないなんて思わなかったわ。中々やるじゃない」

「な、ふ、ふざけるな! 悪魔王様が皆一致団結し命まで懸けた呪いが解けるはずは無い!」

「へぇ~、命懸けだったのね。まあ確かに私に呪いをかけようだなんて言うんだからそのぐらいはして当然かしら?」

「オースト、つまり何? あれよりも強いのが何体かいたってことよね?」

「……命を懸けたと言うならリリシアへの呪いと引き換えにもう死んだのかもしれんがな」

「それもそうね。悪魔王様ったら死んじゃったなんてかわいそうに。でもぉ、残念でしたぁ」

 ああ、楽しいわね。

「私は最強の聖女リリシア様よ? 命を懸けた程度で勝てるだなんて甘い見積もりだったわねぇ」

「……そんな……、悪魔王様の意思を継ぎ、この一年、ずっと力を蓄えて来たのだ……。人間を滅ぼす為に魔界と繋がる大穴を開けて……、悪魔王様たちが懸けた命は……、我々の一年は、何だったのだ?」

 恐怖と無力感で表情を歪める悪魔、いやぁ、快感だわ。対面、ありね。今度から悪魔を消す時は是非とも近くで会ってからね、絶対その方が楽しいわ。

「さあて、私はお優しいの。そろそろあなたも終わりにしてあげようかしら」

「……くっ」

「折角だからあなたは魔界に帰してあげるわ。ほら、私の優しさに泣いていいわよ?」

 掴み上げて聞いてみたけれど、……返事なし。

「あっそう」

 光が悪魔の頭を包み込む。そしてそこから一筋の光が走った。

「あの光は?」

「悪魔が辿って来た道ね。さっき言ってたでしょ? こいつらは魔界との間に大穴を開けたって、そこに繋がってるはずよ。……ところで悪魔王には墓はあるのかしら?」

「……っ! 貴様、まさか!」

「是非ともそれを吹き飛ばしてくれることを祈っておくわ」

 軽く投げ上げると光の筋を辿って頭が加速し一瞬で見えないほど遠くへと消えて行く。

「……あれはどうなるんだ?」

 宙に映像を映し出す。そこに映るは悪魔の頭が猛スピードで走る様。

「申し訳ありません、悪魔王様、私は……、私は」

 それは境界を越えて魔界へ。そして周囲の瘴気に反応し光が強く輝く。

「どっかーん、ってね」

 激しい閃光と共に映像は途切れた。




 戦いは終わり悪魔は滅びた。魔界がどうなったかは知らないけどしばらくはこっちにちょっかい出す暇も無いでしょうね。

「……要は、魔界に爆弾を投げ込んだ、みたいなことですか?」

「概ねその理解でいいわよ」

「……やはり本物は屑だな」

「オーストぉ? あなたやっぱり私に喧嘩売ってるわよねぇ。今の状況わかってるかしら? 私はこの国を、世界を救った救世主よぉ? そんな私に悪態をつくなんてしていいと思ってるわけぇ?」

「リリシアよ。オーストの非礼は詫びよう。今はそれよりもどうだ、パーティでも開こうと思っているのだが。最強の聖女リリシア復活祭と題して盛大な祝祭を開こうではないか」

「あらあらあら、流石はヴァゲスト様。いやぁ、一国の王ともなると流石によくおわかりですわ。オースト、あなたも見習ったらどう?」

「……ちっ」

「この野郎……」

「まあ落ち着いて。オースト、失礼だ。この国の救世主に対する態度ではないな」

「ヴァゲスト様、リリシア様、とりあえず一旦城に戻りましょうか! 是非ともリリシア様に労いの食事会を開きたいと思いますし」

「ふんっ、そうね。オーストには犬の餌でも渡しておいてちょうだい」

「ええ是非ともそうします!」

 全く、この私が大人な対応を見せてなかったらこんなもんじゃ済まなかったわよ。

(あ、あの……、オーストさんとリリシア様って仲悪いんですか?)

 元々そりは合わなかったけどね、今や前以上だわ。全くろくに口の利き方もなってないやつなんだから。大体少年はねぇ、あなたはあいつに、あの馬鹿に甘やかされていたから気付いて無いのかもしれないけれどあの馬鹿はろくな奴じゃ無いわよ。

(そんなことは……)

 いーや、分かって無いわ。昔っから気に食わないのよ、ちょっと周りより強いからって偉そうに、大体強さだったら私の方が圧倒的に強いっての。その辺ちゃんと考えてもらわないとね。

「で、でも優しいですよ」

 あなたが子供だから優しくしてんのよ。もしかしたら私の身体を狙ってるんじゃない? 私の美しさはそりゃあ男女問わず魅了するほどのものだけどね。あ! そうよ、少年が鍛えてばっかだったせいで変に筋肉が付いてこの最強の聖女リリシア様の美しさが損なわれてるのよ! どうしてくれるの!

「え、ええと……」

 ああ、今からちょっとずつ筋肉を落として行かないと……。はぁ、憂鬱だわ。

 ……いやちょっと待って!

 周りを見れば全員が私を……、いや、少年の方を見ている。

「……お前、は、リリシア……。つまり偽物? の方か?」

「え? あ、あれ?」

 え、え? 何で?

 私と少年がまた入れ替わってる!

「えっと、どうなって?」

 どうなって、ってこっちの台詞よ! そんな、呪いは聖女の力で内側から破壊したはず……、いや、違う、まだ呪いの力を感じる?

 ま、まさか……。

「これは想像なんだけど、呪いを破って出て来たは良いけれど、力を消耗したら呪いの力の方が上回って再び封印された、みたいな感じじゃない?」

 そんな、そんな馬鹿な! この最強の聖女リリシア様の力がたかが悪魔共に負けると言うの?

「リリシア様はどうです? 何か感じますか?」

「そ、それが……。さっきからその、頭の中で声が聞こえてて」

 私の声が聞こえるの?

「はい」

「はい?」

「あ、今のは頭の中の声に返事を」

 ……ああ、そう。ってことは前よりもこの呪いの力は弱まってるって感じなのね。ならその内普通に出て来れるようになるはずだわ。

「その、呪いが弱まってるからその内出て来られるみたいなことを言ってます」

「危機が去った今、出て来ない方が都合が良いな」

 オーストぉ!!!

「……あの、すごい怒ってます」

「ははは、愉快だな。どれだけ怒っても手出し出来ない気分はどうだ?」

 次出た時に身体中の骨圧し折ってやるわよ! 覚えてなさい!

「オーストさん、その頭ががんがんするから、あまり怒らせないで……」

「そうか、すまない」

「王様、どうします?」

「……祝祭は執り行う。ひとまずは危機が去ったのだ、国民皆で祝おう。それからの事はまた考えよう」

「また忙しい日々になりそうですね」

 ちょっと! それって主役不在じゃないの! 私がいい思い出来ないのにそんなことをするんじゃねぇわよ!

 あー、もう、どうしてこんなことになるのよぉ!




 後年、歴史家はウィロンド王国にいた聖女に関して幾つもの書物を紐解いて頭を抱えることになる。戴いた最強の二文字とそれに相応しい戦果。横暴で傲慢で自身を絶対の存在と信じてやまない自信家。怪我や病気を患った記述がどこにも見つからないにも関わらず表舞台に一切現れない謎の空白期間。優しく慈悲深い天から遣わされた存在だと支持する謎の集団。

 書物を紐解けば紐解くほどまるで一人の人間とは思えない程の印象の振れ幅にどのような人だったのかをいまいち定義できずにいるのだ。

 そして彼らは語るだろう。

「最強の聖女リリシア、彼女の中身は―――」




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