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3.サイクル─1

 濁った霧に包まれた森を風がうなり、カミソリのように鋭く冷たい風を運んできた。水の流れる音、動物や鳥たちの声が、生きたサウンドトラックを奏でていた。

 風の力で折れる枝の乾いた音が、その場に不穏な緊張感をもたらしていた。

 枯れ葉が一人の少女の足元で踊る。

 鋼が空を切る音は木々の間に響き渡り、濃い霧で視界が完全に遮られるほどの距離からでも聞き取れた。

 彼女は正確なリズムで、確かな、鍛え上げられた一撃を繰り出していた。

 彼女に名は与えられていない。ただ「十八(じゅうはち)」と呼ばれているだけだった。

 長く暗い髪、桃色の肌。頬と鼻の先がほんのりと赤らんでいる。赤みがかった唇は、柔らかく繊細だ。彼女の顔には、その過酷な日々の名残である、目立たない小さな傷跡がいくつかあった。明るい色の瞳は、その両手にかかる重荷からくる悲しみと苦悩に満ちた、不穏な深みを隠していた。

 束の間の休息のために立ち止まると、彼女の視線は何か遠くのものを探すかのように地平線へとさまよった。

 赤ん坊の頃に両親と引き離され、彼女は世界から隔離された。自らの運命に従うべく訓練され、鍛え上げられた十八は、この世界しか知らなかった。

 決して素顔を見せないフードを被った女司祭たちの庇護の下で育てられ、水たまりや割れた鏡の破片に映る自分自身の顔以外、他人の顔を見たことがなかった。でも、もう一つの例外があった。

 記憶を探ると、聖域の壁のひび割れから覗き見していたある日のことを思い出した。その日、彼女は一人の男の横顔を垣間見た。それが彼女が接した唯一の他人だった。

 たとえ一瞬のことだったとしても、忘れることはできなかった。その出来事は、彼女の体に残るどの傷跡よりも深く、彼女の心に刻み込まれた。

 少女の右手のひらには、月光の下で目に見える印があった。それは彼女を「血痕(ラッドステイン)」へと繋ぐ証。その聖剣は、魔王に対する抵抗の最大の象徴であった。この聖痕(スティグマ)を刻まれた者は、戦い、死に、そして他者の記憶の中で永遠に生き続けるためだけに生きるという、定められた運命を背負っていた。

 血痕(ラッドステイン)は単なる武器ではなく、一つの存在(エンティティ)だった。悪魔を殺すだけでなく、彼らを喰らうのだ。その魂を吸収することで彼らを浄化し、その罪に対する正当な罰をもたらした。

 また、持ち主を闇の汚染や魂の吸収から守り、地獄の谷の神秘的な結界を通過するための唯一知られた鍵でもあった。

 剣がどのようにしてその持ち主を選ぶのかは謎だった。

 一人の英雄が死ぬと、血痕(ラッドステイン) は石の祭壇の一つに再び現れた。その輝きがきらめき、次に選ばれた者は自分が何をすべきかを悟るのだった。その呼びかけを拒否する方法はなかった。なぜなら、その者の命は血痕(ラッドステイン)と直接結びついているからだ。

 印から放たれる輝きと灼熱感が、サイクルの再開を示していた。

 だからこそ、今日は特別な日となるはずだった。長年の隔離生活を経て、修道院の鉄の門が開かれるのだ。込み上げてくる期待と不安の感情は、もはや抑えることができなかった。

 女司祭たちはすべてを準備した。彼女に儀式用の服を着せ、食料の入った袋を手渡した。さらに、ありふれた剣と地図も与えられた。

 そして彼女の人生で初めて、その大きな門が目の前で開かれた。十八は敷居をまたぎ、まるで二度目の誕生を迎えたかのように感じた。

 馬に乗り、彼女は旅立った。最後に一度だけ振り返ると、生涯にわたって彼女の世話をし、読み書きを教えてくれた女司祭の一人が見えた。十八は、そのふくよかな体型と毅然とした立ち姿で、それが誰であるか分かった。

 その女性は、別れの挨拶に手を振ることもなく、身じろぎ一つしなかった。

 顔を前に向け、彼女は目的地へと進んだ。

 旅は七日間続いた。寒さ、雨、風。静寂が、誰もいない道を支配していた。まるで自然そのものが、選ばれし者のために道を舗装しているかのようだった。

 静寂を破るのは、馬の足音やいななき、そして時折姿を現す野生動物の音だけだった。少なくとも、食料や水の不足を心配する必要はなかった。

 旅の毎日、地図に記された井戸を見つけることができた。

 彼女はこの旅行を利用して、寺への道だけでなく、その場所をどのように探索するかについてもできるだけ多く学びました。

 そしてついに、森の奥深くに隠されたその神殿に到着した。実際には、それは湿っぽく、何の変哲もない洞窟に近かった。

 黄金の柱もなければ、天上の聖歌もない。ただ、冷たく静かな岩があるだけだった。

 ここが本当に正しい場所なのだろうか?それとも運命が、またしても自分の期待をもてあそんでいるのだろうか?

 地図の目印を絶えず確認したが、ここがその場所であることに疑いはなかった。

 がっかりしながらも、彼女はランプに火を灯し、中へと入った。

 この限られた空間では、一歩ごとに足音が遠くまで響き渡った。それはわびしい感覚だった。

 装備の金属が揺れる音や、遠くで水滴が落ちる音が聞こえた。

 数歩進んだ、その時だった…

 カツ、カツ

 自分のものではない足音が聞こえた。

「誰がいるの?」

 十八は幅広の剣を抜き、構えながら尋ねた。

「それはこっちが聞きたいことだ……こんな場所に一人で入ってくるなんて、誰だね、おチビちゃん?」

 しわがれた、間延びした声が答えた。

 不気味なシルエットが、闇に隠れながら岩陰をうごめいていた。姿を現さぬまま、それは大きくなり、こちらを観察し、近づいてくる。

「あんたがそうなのかい?ヒヒヒ… ご主人様は、そう長くはかからないと言っていたが。たったの5回目の春かい?早いもんだ… あんたを殺したら、俺は一体何がもらえるんだろうねぇ!?」

 焼け焦げた枝のように黒く、骨と皮ばかりの痩せこけた手が、彼女に向かって伸びてきた。

 反射的に、少女は攻撃した。

 あまり効果はなかった。彼女の剣はかすり傷一つ負わせられなかった。

 狭い場所は動きやすさも妨げていた。

 それまで風が運んできていた寒気は、今や体の内側から湧き上がってきた。一瞬、膝ががくつき、胸はあえぎ、剣がこれほど重く感じたことはなかった。

 彼女はその感情の名前を知らなかったが、ただ、今すぐにそこから逃げ出したいということだけは理解できた。しかし、彼女はそうしなかった。

「実に美味だ……おまえの感情は……なんて幸運だ。これは楽しくなりそうだ」

 このような状況下でも、希望はまだ、か弱くも頑固に輝いていた。

 彼女は逃げるつもりはなかった。

 彼女の運命はすぐそこで待っている……ここで諦めるわけにはいかなかった。

 ためらうことなく、彼女は剣を納め、洞窟の奥へと走り出した。

 十八は怪物をまくつもりだった。彼女は迷宮全体とそこにあるものをすべて記憶していたため、その知識を利用して血痕(ラッドステイン)までたどり着くことができるはずだ。もし聖剣を手にすることができれば、勝機はあるかもしれない。おそらく、それが唯一のチャンスだろう。

 迷宮は複雑であるだけでなく、罠だらけだった。それは略奪者や怪物を遠ざけるためのものだ。

 地図によってもたらされる知識があって初めて、誰かが無傷で脱出し、その部屋にたどり着くことができるのだ。

 振り返ることも休むこともなく道を進み、足がもう耐えられなくなるまで走り続けた。

 分岐点に差し掛かったところで、若く経験の浅い少女は立ち止まり、後をつけられていないか確認した。怪物の気配はなかった。

 それでも、嫌な予感はまだ彼女の周りに漂っていた。

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