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どうぶつたちと横浜ランドマークタワー

作者: てぃりつー

 誰もが創造主たりえるのだ


 ただ、夢をみるだけでよい


 ——どうぶつたちを束ねるもの



   *   *   *



 横浜ランドマークタワーという建築物をご存知だろうか。

 ご存知ない方のために、ごく簡単な説明を。



 「横浜ランドマークタワーとは、神奈川県横浜市にある超高層ビルであり、超高層ビルとしては日本で6番目の高さを誇る。そのむかし、『どうぶつたちの時代』につくられたオリジナルをもとにしており、69階の展望フロアでは絶景が楽しめる」



 これは、どうぶつたちの時代につくられた、オリジナル版横浜ランドマークタワーについての物語である。



   *   *   *



 『どうぶつたちの時代』、すべてのどうぶつが、サー・クリエイターによってつくられた、『クレジット』の力によって平和に暮らしていた。




「サー・クリエイター!」

 うさぎが、”サー・クリエイター”なる人物に話しかけている。



「なんだね、うさぎさん」

「以前、おっしゃっていた、横浜ランドマークタワー? の建設計画ですが、誰に担当させましょうか?」

「ニンゲンさんがよろしかろう」

「わかりました! さっそく声をかけてきますね!」



 うさぎはニンゲンに要件を伝えるべく、急いで部屋を出ようとした。

 サー・クリエイターはそれを引き止めた。



「うさぎさん、仕事熱心なのはいいが、話は最後まで聞きたまえ」

「うー、聞きますよぉ」

「……ニンゲンさんには百万クレジットを与えて、それを建設費に当てるように言うんだ」



 うさぎはもう一回部屋を出かけた。しかし、今回は踏みとどまった。



「あと、これも言っておいてくれ。今回の仕事に必要なクリエイターとしての力は与えたはずだ、と」

「これで終わりですか?」


「ああ、これで終いだ」




 うさぎは、ニンゲンの居室に急いだ。途中で亀と出会った。


「おや、亀さん、おはよう」

「おはようございます。うさぎさん」


 うさぎと亀は、どちらもサー・クリエイターに秘書として仕えるどうぶつである。

 うさぎは、先輩の亀より先に出世して、亀には優越感を持っていた。



「亀さん、今日のお仕事はなにかしら?」

「サー・クリエイターの伝言を聞きに行くことじゃよ」

「それなら必要ないわ。これから済ませちゃうから!」



 うさぎは猛ダッシュでニンゲンのもとへ向かった。亀は何かを言おうとしたが、うさぎは無視した。うさぎはサー・クリエイターには敬意を払っていたが、亀には全く払っていなかったのである。




 うさぎはニンゲンの居室にたどり着いた。居室に入る前に一休みしたかったが、亀とのレースの件を思い出し、やめた。



「ニンゲンさん、ニンゲンさん!」

「あっ、うさぎさん。なんの用です?」

「じつは、サー・クリエイター伝言があってぇ」



 サー・クリエイターからの伝言という事実に、ニンゲンは驚いた。

 うさぎから仕事の話を聞いて、ニンゲンはやる気になった。

 うさぎは、手早く要件を伝えた。そして、百万クレジットをニンゲンに支払った。



 こうして、ニンゲンをプロジェクトリーダーとする、横浜ランドマークタワー建設計画が始まったのである。




 ニンゲンは、まず「よこはまらんどまーくたわー」という文字列の理解に努めた。

 このニンゲンは、図書館に行けば答えが得られるかもしれないことに気づくのに半日かかった。



 そして、ふくろうが司書をしている図書館に着いた。ふくろうは本のことは何でも知っている。

 しばらくの会話の後、「よこはま」という言葉の意味に話題がさしかかった。



「で、結局、よこはまってなにでしょう?」

「これは地名だな。普通このような解釈はしないが、隣りにある海岸、とも読めるぞ」

「なるほど、海のそばに建てればよい、ということか」




 そんな調子でニンゲンは、「ランドマーク」「タワー」という言葉の意味を理解し、どのような建物が「横浜ランドマークタワー」か想像できるようになった。お礼に、ニンゲンは、フクロウに気前よく十万クレジットを支払った。



「これは妻の誕生日に贈る花束が豪華になったわい」

 ふくろうの笑い方は、少し気持ち悪かった。





 ここまでくれば、話が早い。ニンゲンにはサー・クリエイターほどではないが、確かなクリエイト能力がある。横浜ランドマークタワーの設計など、朝飯前である。設計図をつくり、作業員を募集し、資材を調達し、さっそく建設に取り掛かった。


 集まった作業員はワニ、狸、狐の三名である。



「あんちゃん、給料の分はきっちり仕事するから、まかせな!」

 アメリカの労働者みたいなことを言うワニ。



「お頭、安全第一で頼みまっせ」

 へこへこしながら言う狸。



「そっすよね、アニキ!」

 見るからに狸の子分な狐。



 どのどうぶつも、建設作業員としてのキャリアがあり、実力は確かである。

 給料は三名で週給十万クレジットとの雇用契約書が交わされた。

 つまり、九週間、約二ヶ月で完成させなければならない。ニンゲンはふくろうへの謝礼を値切らなかったことを後悔した。



 そのようにして、建設が開始された。急ピッチの工程だったが、ワニは黙々と仕事をこなし、狸は見えていない場所から聞こえるように仕事の不満を言い、狐はそれに同調していた。

 態度はともかく、全員とも腕は確かであったため、一ヶ月立つ頃には工程の半分は終了していた。ギリギリの工期だが、ニンゲンが数日の有給を出そうか考えていた頃、異変は起きた。





 作業員の人数が増えているのである。





 見たこともないどうぶつである。四隅に回転する円がついており、それが回転するとともに移動している。前方には引っ張れそうな取っ手がついていて、中には食べ物が陳列してあり、てっぺんには、食べ物を雨から守るための屋根もついている。


 そのシュールな見た目にも関わらず、そのどうぶつはよく働いていて、他の作業員と会話しつつ、資材の運搬をこなしていた。



 ニンゲンは、とりあえずその状況を受け入れた。作業がより早く進むのであれば、願ったり叶ったりだ。

 しかし、その状況があまりにシュールなため、その日は作業を早めに切り上げ、三人の作業員に新人のことについて尋ねた。



「しらねえなあ、今朝きたら居たからあんちゃんの頼んだ補充要員とおもったのだがよお、なんか、移動販売所さん、って言うみたいだぜ」

 と、ワニが言う。


「移動販売所さん、ってどちら様?」

 思わず移動販売所の前で聞いてしまうニンゲン。


「ああ、こいつぁ、知り合いが化けた姿でねえ、食べ物を買ってくれるなら、タダ働きでもかまわねぇ、て言うから連れてきたのよ」



 ニンゲンは心のなかで頭を抱えた。(給料払わないわけにいかないよなあ……)



「さすがお頭! これで工期遵守間違いなし!」

 お気楽な狐。



 ニンゲンはいろいろ嫌になってこの問題を先送りにすることにした。




 一週間後、問題はさらに大きくなった。

 謎の作業員が増えているのである。しかも前より大型の新人である。


 ニンゲンがワニに聞いたところ、「コンビニさん」というらしい。

 ちょうどそのコンビニから狸が出てきたので、ニンゲンは狸をつかまえ、尋ねた。

 その間にもコンビニに足が生え、コンビニが建設作業を再開している。



「なあ、狸さん、こいつ誰?」

「知らないね、お頭。うちの狐がなにか言ってたけどよ」



 ニンゲンは狐に改めて尋ねた。

「あっ、あー、コンビニさんね、コンビニさん。コンビニさんはね、故郷の知り合いの化けた姿なんですよ、そうですよね、アニキ」




 さすがのニンゲンも、この嘘には気付いた。

 現場の監督をしないわけにもいかないので、その日は定時まで現場を監督し、狸と狐の雇用契約違反の証拠をこっそり集め(これは簡単な仕事だった)、帰宅後は狸と狐の解雇書類と新しい作業員募集の書類を準備した。





 翌朝、ニンゲンは狸と狐に解雇を告げるために現場に向かった。

 クビは告げる方にとっても一大事である。後々トラブルにならないような言い回しを考えていたとき、異変に気づいた。



 大きな地鳴りが聞こえた。そして体が振動した。恐る恐るその方向を見ると、巨大な商業施設に足が生え、建設現場に向かっていた。ふと、ニンゲンの頭に「ショッピングモール」なる言葉が浮かんだ。意味はわからなかったが、あれがショッピングモールなのだ、と。



「あれなら大丈夫だ、問題ない」

力強いワニの声がした。

「大丈夫って、なんで?」

ニンゲンが聞き返す。

「現場に来たときからあの調子だが、なにも起こらん。放っておけばいい。誰かさんのせいで、今日は仕事する気にならないしな」





 ちょうどその頃。

 亀はクレジットを運ぶために、全力で歩いていた。これでも亀の全力である。

 なんでも、サー・クリエイターが予算を一桁間違えていたそうで、九百万クレジットを運ぶ必要があったからだ。本来はうさぎが命じられた仕事だが、うさぎが亀に仕事を押し付けた結果である。


「しかし重いのお」

「最悪の上司をもったものじゃ」

「なんとサーに報告したものか」


 愚痴とうさぎに対する不満で頭がいっぱいになったが、なんとかサー・クリエイターに報告できれば年下の上司に処分が下るかもしれない、と頭を切り替え、全力で運んでいた。





 建設現場では、ワニがニンゲンの不正を疑っていた。

 給料に偽クレジットが混ざっているというのである。



「なあ、あんちゃん。肉体労働しかできないからって、偽のクレジットで給料を払うのは馬鹿にしていると思わないのか? 誇りを持って仕事をしているのにあんまりだと思わないか?」


 このときのワニはすごく恐ろしく見えた。しかしニンゲンは勇気を出し、


「これは、サー・クリエイターが与えた崇高な事業である。現に給料は受け取った予算を混ぜものをせずに渡している。」




 ワニは大きなため息をついた。急に落ち着いた声のトーンになり、ニンゲンに語った。


「本当は気付いてはいたんだ。あんちゃんは何も悪くない。その解雇通知の紙を見たときにすぐに分かった。」

「どういうことなのか?」

「ああ、多分予算のクレジットの貯めてある場所を狸か狐が嗅ぎつけたのだろうな。そしてこっそり盗んで、バレないように偽クレジットを混ぜておいた、とか言ったとこだろう。それだけならまだ良かったが、サー・クリエイターの真似事がしたくなってあんな悪趣味ないたずらをした、と踏んでいる。」



 ニンゲンは今の状況が腑に落ちた。クリエイト能力は確かにクレジットを使って発動できる。しかしあんなに悪趣味などうぶつを作り出すために使うとは……恐怖を感じた。





 このとき、亀が間に合って、九百万クレジットがあればこの世界は保たれたに違いない。

 しかし、そうはならなかった。

 亀はまだ工事現場から半日ほどの場所にいたのだ。





「というわけだ。未払の給料も溜まっているから、あれを壊してクレジットを回収させてもらうぜ。」

 とだけ言うと、ワニは颯爽とスパナとハンマーを手にショッピングモールを破壊しだした。最初は巨大だったショッピングモールも、ワニの攻撃とともにあっという間に小さくなり、そして消滅した。あとには、大量のクレジットが残された。

 ニンゲンは、止めようとしたが、ワニに蹴り飛ばされて、吹っ飛んでいった。






 思い出してほしい。この世界は『クレジット』のちからによってどうぶつたちが平和に暮らしていたことを。錬成されたクレジットが再び世界に放たれたときの反動でサー・クリエイターによって緻密に計算された世界のクレジットの総量が狂い、世界の崩壊が始まった。


 空が落ちてきて、地面が溶け、水、土、空気、炎が混ざり合い、世界が均一になった。

 のこった生命のうち、どうぶつは動物に、ニンゲンは人間へと変化し、今の世界が形成された。



 このときの建築物は、一九九◯年一月一日に設計図が発掘され、それをもとに一九九三年七月十六日に横浜ランドマークタワーとして復元されたのである。

読んでいただき、ありがとうございます。

これは、てぃりつーが二〇二四年八月一一日の朝方に見た夢を脚色したものです。

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